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海外情報 野菜情報 2022年10月号

タイのスイートコーンの生産および輸出動向

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調査情報部

【要約】

 日本は、タイから多くの調製もしくは冷凍スイートコーンを輸入しており、主要輸入先の一つとなっている。同国では、温暖で適度な降雨のある環境を生かして、スイートコーンの栽培を盛んに行っている。近年では、競合作物である飼料用トウモロコシの需要増のほか、加工企業の新型コロナウイルス感染症対策に関する費用や人件費、缶詰原料費などの高騰による逆風も吹いている。しかし、価格、品質、地理的優位性などから同国産の競争力は依然として大きく、今後も引き続き重要な輸入先と予測される。

1 はじめに

 2020年の日本のスイートコーン収穫量は23万4700トンであり、近年、おおむね横ばいで推移している。
 一方で輸入状況を見ると、21年は調製スイートコーンが5万6845トン、冷凍スイートコーンが4万8672トンとなっており、両品目合計では日本の収穫量(20年)の4割強に相当する。
 輸入先別では、タイ産は調製スイートコーンでは7割弱と首位、冷凍スイートコーンでは2割と米国に次いで第2位を占めており、主要輸入先の一つとなっている(21年数量ベース、図1、2)。同国産スイートコーンは、業務用はもちろんのこと、家庭用製品としても缶詰などの商品が広く流通し、一般消費者に浸透している。

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 本稿では、主要な輸入先となっている同国のスイートコーンの生産および輸出動向について紹介する。
 なお、本稿中の為替レートは、1バーツ=3.88円(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均為替相場」の2022年8月末日TTS相場)を使用した。

2 タイのスイートコーン生産概要

(1)主産地および作付面積
 タイは、その温暖な気候と適度な降雨に恵まれた環境からスイートコーン栽培に適しており、二期作が中心であるが三期作も可能である。
 主な生産地域はチェンマイ県、チェンライ県などの適度に温暖な地域である北部であり、当地域での作付面積は全国の半分以上を占める。次いで、中央部、東北部、南部の順となっており、南部の作付面積は全国の1割に満たない(図3、表1)。

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 タイ農業・協同組合省農業経済局などによると、スイートコーンの作付面積は2012年以降、おおむね増加傾向にあったものの、19~21年は干ばつおよび他の作物との競合の影響により減少している(図4、表2)。22年に入ってからは、肥料代や人件費など生産コストの増加も加わって、同規模もしくは前年を下回る生産規模となることが予測されている。

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 競合する作物としては、タイの主食であり、重要な作物の一つである米のほか、飼料用トウモロコシなどが該当する。生産者は所有する圃場(ほじょう)の条件(水利条件など)や買取条件、農作業の手間などのさまざまな条件を勘案し、作付けする作物を決定する。一般に、飼料用トウモロコシはスイートコーンと比較して生産に必要な農業用水が少なく、かんがい設備のない圃場でも栽培が可能であることから、スイートコーンとの競合は部分的であり、主産地とされる地域もあまり重複しない。しかしながら、一部では、かんがい設備のある圃場でも飼料用トウモロコシを作付けしており、近年需要が高まっている飼料用トウモロコシの価格高騰により転作を進める生産者の数は増加しているという(図5)。

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 スイートコーンの生産者販売価格は、18年上期は1キログラム当たり7.5バーツ(29円)に達していたが、19年以降はおおむね同4~6.5バーツ(16~25円)の間を推移している。

(2)栽培スケジュールおよび栽培管理
 タイのスイートコーンの栽培期間は約75日(時期や品種によって異なる)とされ(表3、写真1~3)、二期作が主流となっている。中でも、雨季作の米の収穫後である11月~翌年2月には種し、1月~5月に収穫する乾季の作型が最も一般的とされる(図6)。この作型はタイの乾季(11月~翌年2月)に作付けすることになるため、かんがい設備が必要となる。二期作目を行う場合は雨季の初めである5月~7月には種し、7月中旬~10月中旬にかけて収穫を行うことが多い。
 主な栽培管理作業は、耕うん、は種、施肥、水やり、除草などである(表4)。

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(3)栽培コスト
 主産地のチェンマイ県の生産者によると、スイートコーンの栽培コストは1ライ当たり1万1850バーツ(1ヘクタール当たり28万7363円)とされ、内訳として肥料代が3割強と最も大きな割合を占めている(表5)。

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 2021年後半以降、肥料価格は急激な高騰により従来の2倍、一部では3倍にまで高騰しているとみられ、人件費や燃料費の高騰とも併せて栽培コストはより増加すると予測されている。
 また、農薬に関する費用も栽培コストの大きな割合を占めている。スイートコーンの栽培上で問題となる主な病害虫は、葉に淡緑色の条斑が現れ、わい化することもあるべと病、葉に大きな病斑を形成するトウモロコシすす紋病、日本でも2019年に初めて発見され、問題となっているツマジロクサヨトウとされている。県などの行政機関の畑作研究所では、病害虫に対する抵抗性の強化が今後の育種の課題の一つとして挙げられている。

3 市場流通および国内販売状況

(1)市場流通
 スイートコーンは、加工工場を持つ企業による契約栽培と契約に基づかない生産者独自の栽培が存在する(図7)。

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 前者は企業との契約により設定された条件下での栽培を行い、設定された買取価格で売買される。企業の工場に納品されたスイートコーンは冷凍加工、もしくは缶詰などの調製品に加工され、大部分は海外への輸出へ仕向けられる。
 後者は仲介業者を介してバンコクなどの大都市の卸売市場へ持ち込まれ、国内の地方市場や小売店に流れ、消費者の手元に届く。
 企業との契約栽培と生産者独自の栽培の割合については明らかではないが、関係者の多くは契約栽培の割合の方が大きいのではないかと推測している。
 タイ農業・協同組合省農業普及局によると、タイ国内で生産されるスイートコーンの仕向け先は国内が2~4割、海外が6~8割と推計されている。

(2)国内販売状況
 バンコク郊外の大規模な卸売市場「タラートタイ市場」では、チェンマイ県、カンチャナブリー県産のスイートコーンの販売が確認されたほか、卸売業者によると、パトゥムターニー県、ナコーンラーチャシーマー県産も入荷されているという。スイートコーンの輸送時の影響もあるとみられ、バンコクに近い産地であるカンチャナブリー県産は鮮度の良好なものが多いとされる(写真4、5)。

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 また、バンコクにあるスーパーマーケットなどの小売店では、生鮮および冷凍スイートコーンのほか、加熱調理された後に包装された調製スイートコーンの販売も確認された。いずれも手頃な価格帯であり、品揃えも豊富で、タイの消費者にとっても一般的な食材として流通していることがうかがえる(写真6)。

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 従来、消費者は生鮮もしくは冷凍スイートコーンを購入し、家庭で調理することが多かったが、近年では都市部を中心に簡便性が求められるようになり、包装された調製スイートコーンの消費量が増える傾向にあるとされている。

4 加工および輸出入状況

(1)生産者と加工企業との契約形態
 スイートコーンの加工企業の原料調達ルートは大きく二つに区分される(図8)。一つ目は生産者と加工企業が直接契約を締結している形式であり、二つ目は生産者と加工企業との間に仲介業者が存在する形式である。

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 生産者と加工企業の直接契約の場合、加工企業はマーケットのニーズに適したスイートコーン品種の選定を行い、適合品種の種子を生産者へ支給するとともに、生産指導員の配置、使用可能な農薬のポジティブリストの通知などを行う。種子代は生産者負担となるものの、収穫物の納品時に販売代金から差し引かれる形式で精算が行われるため、生産者は初期投資を抑えることが可能である。また、一部の加工企業では生産に必要な肥料の支給も同様の形式で実施しているという。さらに、生産指導員はスイートコーンの生産指導のほか、生育状況の把握および加工企業の工場への納入スケジュール管理を行い、生産者に収穫日の指示をすることで、生産者と企業との間の調整役を担っている。
 生産者と加工企業の間に仲介業者が存在する場合は、加工企業の売買条件に基づき、仲介業者が加工企業の生産指導員の代理としての役割を果たし、種子や農薬等の手配・管理は、生産者自らが行うことが多いとされるが、仲介業者により業務範囲はさまざまであるという(写真7)。

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(2)加工企業の処理工程
 生産者から納品されたスイートコーンは、まず納品時の検査を受ける(写真8、9、10)。検査項目はサイズや熟度などの規格に関する項目のほか、異物の有無、残留農薬などの項目も該当する。納品時の検査により加工企業の定める基準を満たしていない場合は基本的に買取価格が引き下げられ、残留農薬に関する基準が満たされていない場合は受け入れ自体が拒否される。

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 納品時の検査を終えたスイートコーンは加工工程に移行する。基本的な加工工程は、はく皮、ボイル、缶などの容器への充填、熱殺菌、梱包である(写真11)。

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(3)加工企業の動向~新型コロナウイルス感染症の影響など~
 2020年4月以降、タイでは新型コロナウイルスの感染者数が大幅に増加し、各産業の工場労働者の間でも感染が増加したことで、一部工場で操業を一時停止せざるを得ない状況になるなどの問題が発生していた。スイートコーンは果実の呼吸により品質の劣化が進行しやすい特徴があるため、製品の品質維持の観点から収穫後の早急な加工が求められる。そのため、加工工場の操業停止によるスイートコーンの受入れ遅延は生産者に多大な損害を発生させてしまう可能性が高く、絶対に避けなければならない事態であった。加工企業の多くは政府の推奨しているバブルアンドシール(注1)を導入し、感染予防および拡大対策を実施しており、操業停止という最悪の事態は防ぐことができている。
 また、加工企業の多くは、労働力の大部分を外国人労働者に依存しているという特徴がある。農畜産業に従事する外国人労働者はタイと国境を接するミャンマー、カンボジア、ラオス出身者が多いとされ、あるスイートコーン加工企業では工場労働者の約6割をミャンマー出身の外国人労働者が占めている。しかしながら、21年の新型コロナウイルス感染症(COVID‒19)の拡大に伴うタイ政府による入国規制のため、外国人労働者の手配が困難となり(注2)、労働者不足となるとともに、労働力確保に関するコストや人件費が増加する傾向にあった。
 そのほか、COVID‒19に関する衛生管理コスト(抗原抗体検査の定期的な実施やバブルアンドシールのための従業員宿泊所の設置など)や缶詰原料費(注3)なども高騰傾向にあるため、加工原価は増加傾向にあり、今後の製品価格に波及する可能性は高いとされる。

注1;新型コロナウイルス状況管理センターが21年8月1日から主に全国の工場や建設作業現場を管理する企業に対して実施した感染防止対策の一つ。工場内に従業員の宿泊施設を設置して工場内で従業員を宿泊させ(シール方式)、従業員が工場外から出勤する場合は独自のバスなどで工場まで送迎する(バブル方式)こと。
注2:22年5月以降はワクチン接種完了者に対し、入国時のPCR検査および検査結果が確認されるまでの隔離措置の免除など、7月以降は医療保険の加入に関する規制も免除などの規制緩和が実施され、外国人労働者が再入国しやすい環境が整えられてきている。しかしながら、一部では、復帰した外国人労働者に対する再教育が必要なため、食品関連企業などの生産体制が完全復帰するまでには時間が必要との意見もある。
注3:原料となる鉄の価格が高騰しており、ここ1年で4~5割ほど缶詰原料費が高騰しているという。

 
(4)輸出の動向
 タイは冷蔵、冷凍もしくは調製品の形態でスイートコーンを輸出しており、最も輸出量が大きい輸出形態は調製品である。これらを合わせた2021年の総輸出量は23万4966トンとなっており、COVID
‒19の影響による世界的な需要の減少などを背景に18年をピークに減少傾向にある。
 そのような状況下で、コンテナ不足や海上運賃高騰の影響が大きな問題となっている。特に米国および欧州向けの海上運賃は10倍弱にまで上昇しているとされており、影響は非常に大きい。日本向けは米欧州向けほどではないものの、同じく約2倍に上昇している(図9)。

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 輸出量を商品別に見ると、調製スイートコーンは01年以降、増加傾向にあったが、18年をピークに近年は頭打ちとなっている。主な輸出先は韓国、日本、台湾、米国である(図10)。特に韓国向けの増加が著しく、21年には最大の輸出先となっている。日本向けは08年以降増え始め、日本の輸入先で見るとタイは、2000年代で最大の割合を占めていた米国を追い抜き、現在では最大となっている。

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 冷凍スイートコーンも、調製スイートコーンと同様に01年以降増加傾向にあったものの、近年は頭打ちとなっている。主な輸出先は日本、中国、イラン、台湾となっている(図11)。日本向けは04年以降増え始め、日本の輸入先で見るとタイは米国に次ぐ第2位の地位を占めている。

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 なお、冷蔵スイートコーンの輸出は19年をピークに近年減少傾向にある。主な輸出先は台湾であり、21年は9割以上を占めている。
 上述の通り、近年の日本のマーケットにおいて、タイ産のスイートコーンは主要な競合相手に対してその競争力を示しており、その背景には地理的優位性や品質の向上、日本・タイ経済連携協定による関税引き下げなどの要因があるとされている(表6)。

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 07年に締結された日本・タイ経済連携協定により、タイから日本へのスイートコーン製品の輸入関税は段階的に引き下げられ、冷凍スイートコーンおよび無加糖スイートコーン調製品は14年に関税が撤廃、加糖スイートコーン調製品も17年に関税が撤廃された。このため、タイ産は米国産などの競合相手よりもスイートコーン製品に対する輸入関税が低く、タイ産スイートコーン製品が日本のマーケットで大きな競争力を有する一つの要因となっている。
 しかしながら、近年、米国などの競合相手の関税率を取り巻く状況にも変化がみられる。18年には「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(C PTPP)」の発効によりニュージーランド産、20年には日米貿易協定により米国産の輸入関税が大幅に引き下げられ、21年には「地域的な包括的経済連携協定(RCEP協定)」の発効により中国産の輸入関税の段階的引き下げが予定されている。したがって、07年の日本・タイ経済連携協定締結以降、タイ産が得ていた関税面での優位性は少なくなると予測される。
 タイの加工食品業者協会によると、今後の日本向け輸出に際し、これらの関税面での優位性縮小の影響は一部あるとしながらも、関税が加算される以前の商品価格のほか、地理的優位性などタイ産は十分な競争力を持っており、今後の日本向け輸出に大きな影響はないと考えているとのことである。

(5)輸入の動向
 タイでは、輸出に比較して少量ながらスイートコーン製品を輸入している。主に冷凍もしくは調製品の形態で輸入され、2021年の輸入量は冷凍スイートコーンが395トン、調製スイートコーンが211トンとなっている(図12)。

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 主要輸入先は冷凍、調製スイートコーンともに中国であり、輸入量の9割以上を同国産が占めている。しかしながら、タイ国内で中国産よりも安価な製品が製造されているため、今後、輸入量が大幅に伸びる可能性は低いとされる。なお、バンコク都内のスーパーマーケットでは中国産の冷凍スイートコーンの販売が確認できている(写真12)。

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5 まとめ

 タイは、その温暖で適度な降雨に恵まれた環境によりスイートコーン生産に適しており、価格や品質、地理的優位性を武器に生産および輸出規模を拡大してきた。
 しかしながら、近年、栽培面では、飼料用とうもろこしなど他作物との競合のほか、人件費および資材費高騰により生産コストが増加している。
 また、加工面では、COVID‒19対策のための衛生管理強化や缶詰原料費高騰など加工コストが増加するなど厳しい側面もあり、スイートコーンの産業規模は頭打ちとなっている。
 さらに、輸出面については、輸出競合相手がCPTPPやRCEP協定などの地域経済連携協定を活用し、競争力を増していくことが予測され、価格面でのタイ産の優位性縮小が懸念されている。
 以上のように、タイのスイートコーン産業にはいくつかの厳しい側面が見込まれるものの、タイ産はさまざまな面での優位性から、十分な競争力の維持が期待され、日本にとっては、引き続き重要なスイートコーンの輸入先となると予測される。