野菜 野菜分野の各種業務の情報、情報誌「野菜情報」の記事、統計資料など

ホーム > 野菜 > 野菜の情報 > ニュージーランドおよび豪州のたまねぎ生産と輸出の動向

海外情報 野菜情報 2022年4月号

ニュージーランドおよび豪州のたまねぎ生産と輸出の動向

印刷ページ
調査情報部 廣田 李花子

【要約】

 ニュージーランドおよび豪州のたまねぎ生産は、生鮮野菜の輸出額で上位に位置する重要な品目となっている。両国は、南半球に位置していることから、日本のたまねぎの国内供給が減少する端境期に向けた輸出が可能となっており、日本向け輸出の伸びに合わせて生産量も増加してきた。一方で、現在の日本の輸入たまねぎの約9割は、安価な中国産が占め、他の追随を許さない状況にある。このため、両国では、日本以外の新たな輸出先の開拓を進め、近年、東南アジア諸国向けの輸出に力を入れている。

1 はじめに

 ニュージーランド(以下「NZ」という)のたまねぎ生産量は、近年、年間18万~24万トンと安定的に推移しており、野菜の収穫面積では、ばれいしょ、かぼちゃに次ぐ第3位である。また、2000年の生鮮野菜の輸出額では第1位であり、同輸出額の約5割を占めている(注1)。このように、たまねぎはNZにとって主要な生鮮野菜と位置付けられている。
 豪州のたまねぎ生産量は、気象条件などから年間25万~35万トンと大きな変動幅で推移しているが、直近の生鮮野菜の輸出額で見ると、にんじん、ばれいしょに次ぐ第3位であり、全体の約1割を占めている。
 本稿では、日本とは逆の季節を生かして、日本産の端境期に当たる春先の輸入が多くなるNZおよび豪州のたまねぎについて、委託調査を基に両国の生産および輸出動向を報告する。
 なお、本稿中の為替レートは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2022年2月末TTS相場である1NZドル=79.27円、1豪ドル=84.95円を使用した。
 
(注1)2019/20年(7月から翌6月)の生鮮野菜の輸出額(FOB価格)は3億80万NZドル(238億4442万円)であり、うち、たまねぎの輸出量は前年比13.3%減の1億4760万NZドル(117億25万円)である。

2 生産動向

(1)主産地の地理と気候の特徴
ア NZ
 
南半球に位置するNZは、北島と南島に分けられるが、いずれも温暖で日照時間が長く、農業は基幹産業となっている。

◯ 北島
 冬期(6~8月)の降水量が多く、この時期、同国最大の都市であるオークランドでは1カ月当たり110ミリ以上の降雨量となる。また、冬期の最低平均気温は氷点下を下回ることが無く、年間の平均気温は15度と温暖な気候である。北島は粘土質な土壌が多く、たまねぎなど園芸作物のほか、主要輸出品目であるキウイフルーツやりんご、アボカドなどさまざまな果樹も栽培されている。
◯ 南島
 年間を通して降雨量は北島よりも少なく、年間の平均気温は約10度と北島同様、比較的温暖な気候である。南島は砂質の土壌が多いため、農用地などの利用には灌漑(かんがい)施設が必要となっている。
 同国のたまねぎ生産(2020年)は、主に北島のオークランド、ワイカト、ホークベイ地域および南島のカンタベリー地域を中心に行われており、これら4つの地域の生産量は国内生産量の8割以上を占めている(図1)。

図1 たまねぎの地域別主要産地(NZ)

イ 豪州
 広大な国土面積を有する豪州は、多様な気候特性を持ち、降水量や灌漑(かんがい)用水の利用状況などに応じて、それぞれの土地に適した農業が営まれており、大きく分けて以下のように分類できる。
◯ 南東部(南オーストラリア州、ビクトリア州、ニューサウスウェールズ州、クイーンズランド州南部、タスマニア州)
 これら州の沿岸部は比較的雨が多く人口密度も高い地域であり、酪農や野菜、果樹栽培などの近郊農業が盛んである。また、内陸部の年間降水量500ミリ前後の地域では、牧畜と小麦栽培を組み合わせた混合農業も展開されている。ビクトリア州とニューサウスウェールズ州境を流れるマレー川流域は、主要な穀倉地帯であり、灌漑(かんがい)を利用した酪農や農業も行われている。
 たまねぎの生育には日照時間が重要となるが、これらの州は生育期に比較的日照時間が長いため、たまねぎの生産地域となっている。特に、南オーストラリア州のアデレード・プレインズ地域やクイーンズランド州のロッキャー・バレー地域は生産が盛んであり、このほかタスマニア州北部も代表的なたまねぎ主産地として挙げられる(図2)。
 ◯ 各州の内陸部
乾燥または半乾燥地域であり、自然の牧草などを利用した広大な牧場で肉牛や羊の放牧が行われている。

(2)生産概況
ア NZ
(ア)作付面積と生産量
 
天候がおおむね安定しているNZでは、たまねぎの作付面積に極端な変化は見られず、生産量もほぼ横ばいで推移している。近年では2015/16年度(7月から翌6月)以降は増加傾向にあり、19/20年度のたまねぎの作付面積は5296ヘクタールとなった。
 一方で生産量もおおむね増加基調にあり、14/15年度は17万4183トンとなった以降、17/18年度の19万1639トンを除いて20万トン台を維持している。19/20年度は23万5175トン(前年度比10.6%増)となった(図3)。
 

図3 たまねぎの作付面積と生産量の推移(NZ)

(イ)生産者戸数
 NZの生産者戸数は、10/11年度の105戸から19/20年度には85戸まで減少している(図4)。うち、企業経営は61戸と多く、また、80戸の生産者がたまねぎ以外の品目を生産している。これは、企業化が進む中で一定の従業員を雇用するため、収穫などの時期が異なる複数品目を栽培し作業を平準化するとともに、安定した売り上げの確保を図るためと推測される。なお、作付面積で単純算出すると、1戸当たりの平均作付面積は10/11年度の約49ヘクタールから19/20年度には約62ヘクタールとなり、近年、作付面積に大きな変化が見られない中で規模の拡大が進んでいる。また、生産量の増加傾向から、単収も向上している。
 

図4 たまねぎ生産者戸数の推移(NZ)
 

(ウ)栽培歴と流通
 
NZのたまねぎの栽培歴は図5の通りである。NZでは、一般的に冬期(6~8月)の間に播種はしゅが開始され、9月中旬までには全ての地域で終了する(写真1)。なお、品種にもよるが、北島では早ければ5月から播種が開始される。
 

 

図5 たまねぎの栽培歴(NZ) 写真1 たまねぎ播種の様子

 また、栽培方法は、日本では定植が一般的であるが、同国では育苗の手間や定植の作業効率性の観点から、直播きが一般的となっている。
 播種から収穫までには7~9カ月を要する。NZのたまねぎ生産者団体Onions New Zealandによると、栽培に際して生産者は総合的病害虫管理(IPM(注2))を採用し、病害虫の兆候がないかなど頻繁に検査を行い、病害虫の脅威などの影響を最小限に抑えるような管理を行っている。
 収穫は11月から始まり翌4月中旬頃には完了する(写真2、3)。収穫後は、自然硬化を継続させるために最低10日間コンテナに保管される。硬化後、たまねぎは選果機に運ばれ、販売先に合わせた規格やサイズに選別されるが、同時に外皮も取り除かれ、傷の有無などが確認される。

写真2 たまねぎ収穫の様子 写真3 たまねぎの輸送の様子

 選果後は、常温で換気された場所に保管される。冷蔵庫は基本的に使用せず、輸出のピークシーズン後に出荷するために鮮度維持を目的として使用するのみである。その後、乾燥期間を経て輸出に向けて準備が行われる。
 
(注2)総合的病害虫管理(IPM:Integrated Pest Management)  病害虫の予防および害虫発生に対する課題の解決、加えて治療方法などの対応策の共有を目的に国際的に提唱されている概念。Onions New Zealandでは、具体的に下記項目の実践による栽培を推奨している。
・効果的な害虫駆除の実施
・市場基準を満たす作物の生産
・栽培技術に関する検査の徹底
・農薬使用の削減と、作物中の残留農薬の最小限化
・殺虫剤などの化合物の選択的な利用
・環境負荷の極小化


(エ)たまねぎの品種
 NZで栽培されている主な品種は、黄たまねぎのPLK(Pukekohe Long Keeper)とELK(Early Long Keeper)であり、この2種類で国内生産量の約9割を占めている。PLKは丸くて均一な鱗茎が特徴であり、高収量で貯蔵性に優れているほか、食味も良いと評価されている。ELKは、PLKの早生品種である。このほか、黄たまねぎのキウイゴールドや赤たまねぎのレッドエンペラーなども栽培されている。

(オ)収穫後の流通構造
 
NZは日本の市場取引のような形態は見られず、生産者から直接、卸売業者または輸出業者を経由し、小売に販売されるのが一般的である(図6)。また、大規模なたまねぎ生産を行う農家(企業)では、卸売業者を介さず、直接小売業に販売される場合もある。
 生産者は、輸出業者または卸売業者からの注文に応じ、たまねぎを各販売先に適した形に梱包し、出荷の準備を行う。このように梱包は基本的に生産者が行うが、輸出業者や卸業者が行うこともある。


図6 たまねぎの流通経路(NZ)

 輸出向けのたまねぎに使用される梱包形態としては、輸出先の需要に応じて異なるが、風袋で見ると、主に20キログラム詰と1.3トン詰の2種類が多用される。20キログラム詰はネットで梱包され、パレットに積み重ねられる。また、1.3トン詰のものは、大型の袋に詰められ、それぞれパレットに載せられる(写真4)。

写真4  輸出向けに梱包されたたまねぎ

イ 豪州
(ア)作付面積と生産量

 豪州のたまねぎ主産地の多くでは、灌漑(かんがい)を利用した生産が行われている。このため、干ばつなどにより利用できる水の量が限られると作付面積が減少し、結果として生産量も減少する。近年の生産量は11/12年度、14/15年度に増加したが、その後は作付面積の減少からおおむね横ばいで推移している(図7)。

図7 たまねぎの作付面積と生産量の推移(豪州)

 直近の19/20年度を見ると、年間を通じて降水量が少なく、特に1~9月の豪州全体の降水量は1965年以来の低水準を記録した。その後、夏場の11月~翌2月にかけて猛暑が続いたことで、豪州全域に干ばつが広がった。しかし、たまねぎの主産地である南オーストラリア州、タスマニア州などでは干ばつの影響が限られたことから、結果的には同年度の生産量は28万1165トン(前年度比3.2%減)と比較的軽微な減少に留まった。
 
(イ)生産者戸数
 生産者戸数(注3)を見ると、10/11年度の425戸から19/20年度には252戸まで減少している(図8)。豪州でも日本と同様に生産者の高齢化や若者の新規就農の減少が進み、たまねぎのみならず、農業全体の生産者数は減少傾向にあるとされる。

図8 たまねぎ生産者戸数の推移(豪州)

 一方で、生産者の規模は拡大傾向にあり、19/20年度の1戸当たり作付面積は約20ヘクタールと、この10年で1.4倍の規模となっている。

(注3)豪州統計局が作付面積と生産量を基に指定した商品価値が4万豪ドル(339万8000円)以上の生産者戸数。

(ウ)栽培歴
 豪州のたまねぎの栽培は、品種によって時期が異なるものの、作付け、収穫、乾燥・貯蔵の大きく三つの工程に分けられる。
作付け
 
播種はNZと同じく直播きが一般的で、とう立ち(花芽をつけた茎である「とう」が伸びてくることで、根菜や葉物では本来の商品として出荷が難しくなる。)や小粒化を回避するため、品種や栽培地域に合った的確なタイミングでの作付けが重要とされている。
収穫
 たまねぎは6~8カ月で収穫でき、品種により異なるものの、1月から2月に収穫のピークを迎える。収穫は収穫機が主流となっている一方、主産地以外では依然として手作業で行われる地域もある。
乾燥・貯蔵
 収穫したたまねぎは乾燥させたのちに貯蔵される。豪州の乾燥方法として、風通しの良い屋外で行う場合と屋内で乾燥機を利用する場合があり、気候条件と栽培地域によって異なる。屋外での乾燥はタスマニア州やビクトリア州で行われているが、この方法はたまねぎが日焼けするリスクがあるため、最近は屋内での乾燥を選ぶ生産者が増えている。

 (エ)品種別の生育期間
 たまねぎの生育は日照時間に大きく左右されることから、栽培地域の気候に適合したものとして主に三つの品種が栽培されており、収穫期の分散化や長期平準化などが図られている(図9)。


図9 たまねぎの種類別の栽培歴(豪州)

 品種の特徴として、短日種は、中日種や長日種に比べて播種から収穫までの期間は短いが、長期貯蔵には向かない。一方、長日種は、短日種よりも成熟に時間を要するが、短日種に比べて長期貯蔵が可能であることが挙げられる。
短日種
 他の品種と比べ短い日照時間で生育し、生育期間中は1日当たり10~12時間の日照時間で済むのが特長である。一般的にクイーンズランド州南部、ニューサウスウエールズ州で栽培されている。おおむね2~5月にかけて播種が行われ、収穫は9月から開始する。代表的なものとして白たまねぎのグラダタンホワイトがある。
中日種
 短日種よりも日照時間を要するものの、長日種ほどの日照時間は要さない中間的な品種であり、生育期間中、同13~14時間の日照時間を要する。主に豪州南部で生産されている。おおよそ5~8月にかけて播種が行われ、11月~翌3月にかけて収穫される。代表的なものとして黄たまねぎのクリームゴールド、赤たまねぎのレッドシャインなどがある。
長日種
 緯度45度以上で栽培される春播きの品種であり、生育期間中、同15時間以上の日照時間を要する。そのため、成長期に日照時間の長くなる南オーストラリア州で主に栽培されている。おおよそ6~7月にかけて播種が行われ、3~4月にかけて収穫される。代表的なものとして黄たまねぎのムレーブラウン、白たまねぎのホワイトスパニッシュなどがある。
 
(参考)
 豪州で生産されているたまねぎは、黄たまねぎが79%、赤たまねぎが19%、白たまねぎが1%(残り1%はエシャロット)となっている(写真5)。

写真5  豪州で販売されている黄たまねぎ、赤たまねぎ、白たまねぎ。 「Grown in Australia」と産地が明示されている。

(オ)収穫後の流通構造
 
豪州では、収穫されたたまねぎは、そのままパッカーと呼ばれる卸売業者に輸送され、パッカーの加工施設で葉と根の処理がなされた後、選果・等級づけを経て梱包され、卸売市場や小売店・飲食店・加工事業者などに販売されることが多い(図10)。生産者の中には、自身で卸売事業を行う者もいるが、多くは販売リスクを減らすためにパッカーとの間で契約生産を行っている。
 

図10 たまねぎの流通構造(豪州)

 政府機関である豪州施設園芸研究所(Horticulture Innovation Australia)によると、収穫されたたまねぎの9割近くを豪州国内で消費しており、輸出量はわずか1割強である(表1)。なお、同国の輸入を見ると、供給量に占める割合は軽微であるものの、中国産が輸入量の7~8割を占めている。


表1 たまねぎの流通構造(豪州)

 

 

【コラム】 NZと豪州で親しまれているたまねぎ料理

1 ソーセージシズル(Sausage Sizzle)
 ソーセージシズルは、グリルしたソーセージと炒めたたまねぎを食パンに挟み、ソース(バーベキューソースやケチャップとマスタード)をかけたもの。ソーセージを焼く時の「ジュージュー(Sizzle)」感が語源ともいわれるが、ソーセージの肉汁とたまねぎの甘さを食パンが包み込み、NZと豪州では“国民食”といわれるほど親しまれている。ソーセージシズルは、慈善団体、学校、スポーツ・クラブなどのための資金調達のイベントの際提供されることが多い。また、豪州では選挙の投票日に、投票会場にソーセージシズルのテントが設置され、グリルしたソーセージとたまねぎの香りにそそられる投票者で行列が出来るという。この投票日に提供されるソーセージシズルは「デモクラシーソーセージ」と呼ばれ、2016年にはワード・オブ・ザ・イヤーに選ばれるなど生活に溶け込んでいる。

コラム写真1 ソーセージシズル

2 シェパーズパイ(Shepherd's Pie)
シェパーズパイはNZや豪州の家庭料理として親しまれているが、英国料理が起源で、
英国の統治下にあった時代に広まったとされている。シェパーズパイは、牛肉やラムの
ひき肉と刻んだたまねぎを炒め、香草、塩こしょうなどを加えてスープストックで煮込
んだものを耐熱容器に詰めて上からマッシュポテトを乗せてオーブンで焼いたもの。
「シェパード(sheperd)」とは、羊飼いという意味で、シェパーズパイは、羊を多く
飼養していた地域で羊肉を使って作られていたことが由来とされている。また、本来、
牛肉を使って作られたものは「コテージパイ」とされてきたが、現在は、牛肉を使った
ものも「シェパーズパイ」と呼称されている。

コラム写真2 シェパーズパイ
 

3 輸出動向

 世界の生鮮たまねぎの輸出規模はおおむね1000万トン強で推移しており、インドやオランダ、中国からの輸出量がそのうちの半分近くを占めている。NZと豪州の輸出量はそれぞれ15万~20万トン、5万トン程度であり、世界の輸出規模から見ればその割合はわずかである。

(1)NZ
 NZは、たまねぎの生産量に対して国内の市場規模が小さいことから、その大部分は輸出に向けられている。主な輸出先はオランダやドイツ、英国などの欧州向けのほか、インドネシアとなっている。2020年のたまねぎの輸出量は20万9900トンとなり、輸出額は年によってばらつきがあるものの、おおむね増加傾向にある(図11)。

図11 たまねぎの輸出量と輸出額の推移(NZ)

 Onions New Zealandによると、NZのたまねぎ輸出は1960年代に始まり、70年代半ばに日本向け輸出を開始するまで、年間の輸出量は最大1万5000トン程度であった。その後、日本向けは84年に5万トンの輸出を記録するなどNZにとって非常に重要な輸出先であったが、80年代半ばに、日本の生産増から輸出が減少したことで、NZの生産者は新たな市場を開拓する必要に迫られた。その後、欧州に焦点を当て、従来の輸出市場であった英国以外にもドイツやオランダなどの市場を開拓し、NZはこれらの市場で主要たまねぎ供給国の一つとなった。さらに、近年の傾向として、インドネシアとマレーシアなどのアジア諸国向けの輸出割合が伸びている。

(2)豪州
 豪州産のたまねぎは、近年、タイ向けの輸出量および輸出金額が増加傾向にある。一方、主要な輸出先の一つであった日本向けの輸出量は12年をピークに減少傾向にある。5年対比(16-20年対比)で見ると、20年の輸出量はタイ向けが6600トンと、16年から約2.6倍の大幅な増加となっている一方で、日本向けは16年の4200トンから20年の1000トンと減少傾向で推移している(図12)。

図12 たまねぎの輸出量と輸出額の推移(豪州)

 豪州は、05年にタイとFTAを締結し、20年に豪州産たまねぎの輸入関税が撤廃されていることから、今後もタイ向けの輸出は堅調に推移するとみられる。そのほか、アジアや中東諸国向けにも一定量を輸出している。

(3)日本のたまねぎの輸入状況
 日本のたまねぎの輸入量は年間30万トン程度で推移しているが、このうち9割程度は中国産で、近年、NZや豪州産は1割にも満たない状況となっている(図13)。20年の輸入量は、21万9960万トン(前年同月比22.5%減)と大幅な減少となった。これは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生により、主要な輸入先国である中国で生産やサプライチェーンが停滞したことで、たまねぎを始めさまざまな野菜の輸入量が減少したことなどが背景にある。

図13 日本のたまねぎの主要な輸入先国

 また、NZと豪州は、日本の冬から春にかけて収穫時期を迎えるという南半球の特性を生かし、1月から9月にかけて日本向けに輸出しており、米国産(9月から翌3月)とのすみ分けがなされている。
 価格面で見ると、20年の輸入単価は、中国産が1キログラム当たり34~66円であるのに対し、NZ産は同53~81円、豪州産は同71~112円、米国産は59~132円となった。中国産は、年により異なるがNZや米国産より1キログラム当たり数円から数十円ほど安い価格で輸入されることが多く、輸入たまねぎの価格を見渡すと、日本産たまねぎのおよそ3割から9割程度で推移している状況にある(図14)。

図14  日本におけるたまねぎの輸入価格と国内卸売価格の推移(2020年)

4 おわりに

 南半球に位置するメリットを生かし、NZと豪州はこれまで北半球、特に日本と欧州向けにたまねぎの輸出を行ってきた。日本や台湾向けには大玉、欧州向けには小玉といった形で、各市場のニーズに合ったたまねぎを生産している。また、輸送技術の向上などにより、たまねぎは生鮮野菜の中で主要な輸出品目となっている。特に日本向けについては、NZがたまねぎ輸出を本格化した1970年代から、長きにわたり主要な輸出先として位置付けられてきた。
 しかし、近年は、NZはインドネシアや欧州向け、豪州はタイ向けなどアジア市場を中心に輸出拡大を図っている。2020/21年度はCOVID-19の影響に伴う世界的なサプライチェーンの混乱などから両国のたまねぎ輸出量は前年度に比べて大幅に減少したとみられるが、一方で、現地報道によれば、在宅機会が増えたことで両国の国内消費が増加したとも報じられている。
 今後は、サプライチェーンの混乱が解消に向かう中で、輸出先の経済活動も回復基調にあることから、今後のたまねぎの輸出拡大が見込まれている。両国の生産者もこうした動きを好意的に捉えており、日本向けにも一定数の輸出が継続されるとみられるが、大幅な増加は見込みがたいと推察される。特に両国では、すでに輸出先の多様化が進みつつあり、最近の為替相場や上昇する輸送コストなどを考慮すると、日本向けの優先順位は決して高くないとみられる。
 一方で、日本を主体に考えると、中国産に集中する日本の輸入状況は、異常気象の常態化に加え、COVID-19をはじめとしたさまざまな想定外の事態の発生など、リスクヘッジの観点からも検討が求められる状況にあると言えよう。国内のたまねぎ生産のさらなる強化はもちろんであるが、輸入先の多様化として、NZや豪州といった輸入実績を有する国々からの輸入について、改めて見つめ直す時期に来ているとも考えられる。