本項では、米国産野菜の中で単一品目としては最も輸出量の多いばれいしょの動向を紹介する。なお、日本へのばれいしょの生の塊茎の輸入には厳格な植物検疫上の要件が課せられているため、試験研究などの目的を除き経済的には現実的ではなく、日本の輸入品はほぼ全てが加工品となっている。
(1)暑熱と干ばつにより生産量が減少
USDAの11月の作物生産報告によると、2021年の米国のばれいしょは、調査対象14州で前年同期比2%減と4年連続での減少となった(表5)。干ばつと夏季の猛暑が相まって、主要生産州の単収が低下し、全米平均の単収は、過去最高だった2020年を5%下回る1ヘクタール当たり49.09トンであった。ばれいしょ生産上位2州(アイダホ州:前年比7%減、ワシントン州:同9%減)での単収低下は、米国の供給と価格に対する影響が大きい。アイダホ州とワシントン州は、合計で全米の生産量の55%を占めている。
世界の野菜の需要がCOVID-19のパンデミックから回復を続ける中、米国のばれいしょは、2年連続で過去5年平均を6%下回る不作となったことから、増産への期待が高まり、2021年春の作付面積は前年比4%増となった。冷凍フライドポテトなどの主要加工品の国内外での需要がパンデミック前の水準に向かっていたため、作付増加分の大半は加工用に仕向けられる予定であった。2017年農業センサスによると、現在、全米の推計プログラムから除外されている州が、生産統計上の収穫面積に9%を上乗せする面積を有しており、このうち約3分の2が加工用とされポテトチップ工場が主な出荷先となっている。統計除外分の単収が推計値に近いものと仮定すると、さらに181万~227万トンのばれいしょがさまざまな地域の市場にあり、残り約3分の1が生食用となっている。
(2)2021年度の価格は上昇の見込み(表6)
2020年度(9月~翌8月)米国産ばれいしょの平均価格は、前年度比6%安の100ポンド当たり9.30米ドル(1キログラム当たり24円)であったが、2021年度については、価格上昇の要素が揃っている。それは、生産量の低下、北米の強い加工需要、国際需要の急増による米国産の輸出需要の増加などが挙げられる。この結果、米国内でばれいしょの供給がひっ迫し、加工業者が生鮮市場向けのばれいしょを優先的に買い入れてしまうため、2021年度のばれいしょの平均価格は、史上初の同10米ドル(同26円)を超え、過去最高値となると予想される。
2021年度の生食用のばれいしょの価格は、2019年の高値(13.60米ドル:同35円)を上回り、記録的に高値であった2008年の平均価格である同14.44米ドル(同37円)に近づくかそれを上回る可能性があると予想される。2021年9月のばれいしょの価格(生鮮・加工用)は、前年同期比17%高の同14.00米ドル(同36円)となっている。このような高値が緩和する要因となるのは、記録的な生産量となったカナダからの輸入増である。
加工用ばれいしょの価格は長い間、緩やかで安定した伸びを示し、生産者にばれいしょの需要と価格設定のための強力な基盤を提供してきた。しかし、加工用ばれいしょの価格は、その多くが契約によって決定されるという性質上、生鮮品とはかなり異なる価格変動を示すことが多い。
2021年度のように加工用ばれいしょの生産量が不足すると、加工業者は加工に適した品種を中心に一般市場から生鮮ばれいしょを調達して必要量を確保することがある。これが行われると生食用ばれいしょの価格が上昇する可能性がある。需要に悪影響を与えるパンデミック対策による規制がないと仮定した場合、2021年度はこの状況になると予想される。
(3)2022年度産の作付面積は増加の見込み
2021年度のばれいしょ価格が高めに予想されると、2022年春に作付けされる面積の増加要因となる。同年が平年並みの天候となり、かんがい用水の供給が順調であれば、単収はこれまでの傾向に沿って過去最高の1ヘクタール当たり51.67トンに近づくであろう。高い単収、競合畑作物の価格低下、作付面積の増加が現実となれば、2022年度は生産量の増加と生食用ばれいしょ価格の低下が見込まれる。
加工業者と契約農家の価格交渉はすでに始まっており、それは2022年産ばれいしょの作付け増加要因となると見込まれている。2022年度産の契約価格を上げる3つの要素は、前年度の原料生産減による製品の期首在庫の低下、国内・国際需要の強さ、農業投入財価格の高騰である。エネルギー系投入資材(燃料、肥料、農薬など)、労働力、その他ほとんどの投入資材の大幅な価格上昇と、これらの増減による単収への影響を考慮し、生産者は加工用ばれいしょの契約価格の大幅な値上げを求めている。
(4)輸出入額は過去最高に
2020年度の米国産のばれいしょおよびばれいしょ製品(でん粉を含みデキストリンを除く)の輸出額は、前年度比9%増の18億9000万米ドル(2192億4000万円)となった。輸出量は、乾燥ばれいしょを除く各品目で増加した(表7)。冷凍ばれいしょ需要の急増により、2020年度にはメキシコが日本に代わって米国産ばれいしょ製品の最大の輸出先国となった(輸出額の21%)。同年度のメキシコ向け冷凍ばれいしょ製品の輸出量は前年度から倍増し、輸出額では前年度比89%増の2億6300万米ドル(305億800万円)となった。2020年度のばれいしょ輸出先上位国は、日本(同19%)、カナダ(同17%)、韓国(同7%)、フィリピン(同5%)であった。
(5)2020年度産ばれいしょの仕向け先(表8)
2020年度産のばれいしょの出荷量は、生産量が少なかったため前年度比1%減、直近数年間の平均を5%下回る1778万トンとなった。
パンデミックによる家庭料理用需要や政府調達により、数十年にわたって低下傾向にあった生食用ばれいしょの出荷量は、前年度比3%増の459万トンとなった。
2020年度の加工利用に関する主な動向は以下のとおりとなっている。
・冷凍フライドポテト向けは同4%減となったが、国内外での外食向け販売の減少にもかかわらず、加工ばれいしょの56%を占めた。
・パンデミックによって保存性の高い製品が買いだめされたことや在宅勤務によるポテトチップス需要の増加(多くのポテトチップスは脱水ばれいしょを還元して製造)が要因となって、脱水工程用の仕向け量が同8%増となった。
・缶詰製造用の仕向け量は、数十年にわたり低下傾向にあったが、スープやシチューの需要が高まったことで店舗や流通在庫が払底し、同50%増の大幅な伸びを記録した。
・2021年度産は、すでに約30万トンが飼料用として出荷されており、品質に問題が生じている可能性がある。