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海外情報 野菜情報 2022年2月号

メキシコにおけるかぼちゃの生産・流通および輸出動向

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調査情報部

【要約】

 国産かぼちゃの端境期を補うために輸入されているかぼちゃは、ニュージーランドとメキシコが2大供給国となっている。世界のかぼちゃ輸出量第2位のメキシコでは、1980年代に日本からかぼちゃの種が導入され、米国との国境に位置するソノラ州を中心に生産は順調に拡大してきた。メキシコにとってかぼちゃは、日本向けの主要輸出産品の一つであり、同国の日本向けかぼちゃの輸出量は増加していたが、日本国内のかぼちゃ需要が減少傾向にあることから、ここ数年においては、同国産かぼちゃの輸入量は減少しており、他国向け輸出の動きも模索されている。

1 はじめに

 国連食糧農業機関(FAO)によると、2019年の世界のウリ科カボチャ属(Cucurbita属、英語名Pumpkins、Squash and gourds)(注1)の生産量は、2290万1000トンとなり、そのうち、メキシコの生産量は、67万9000トンと全体の3%となっている(表1)。一方、国際貿易センター(ITC)によると、同年の世界のかぼちゃ類輸出量は、172万7000トンとなり、そのうち、メキシコの輸出量は全体の13.8%に相当する23万8000トンとなった(表2)。世界のかぼちゃ類の生産に占めるメキシコの割合は低いものの、輸出面では同国が、スペインに次ぐ高い割合を占めている。

表1  ウリ科カボチャ属の国別生産割合 (2019年)

表2  ウリ科カボチャ属の国別輸出割合 (2019年)
 
(注1)ウリ科カボチャ属には、Pumpkins(パンプキン)、 squash(かぼちゃ)、gourds(うり、ひょうたん)が含まれる。北米では一般的に、果皮がオレンジ色の種類をpumpkin、その他のかぼちゃ類をsquashと呼ぶ。日本で食されている種類のかぼちゃはButtercup squashと呼ばれ、別名Kabocha squashやJapanese squash/pumpkin等と呼ばれている。
 
 メキシコでは次の5種のウリ科カボチャ属(Cucurbita)が商業栽培されている。
 ・ズッキーニやハロウィンで使用される種類のかぼちゃを含むペポカボチャ(Cucurbita pepo)
 ・長細い形をしたバターナッツかぼちゃを含むニホンカボチャ(Cucurbita moschata)
 ・種子を中心に食されるピピアナカボチャと呼ばれるニホンパイカボチャ(Cucurbita argyrosperma)
 ・実が柔らかい間は野菜として、硬くなると製菓用や家畜の飼料に用いられるチラカヨテと呼ばれるクロダネカボチャ(Cucurbita ficifolia)
 ・日本で一般的な栗かぼちゃ類を含むセイヨウカボチャ(Cucurbitamaxima)
 メキシコ農畜水産農村開発食料省(SAGARPA)の統計では、セイヨウカボチャ種と、ニホンカボチャ種、その他の種が混在して「カラバサ(Calabaza)」として分類されている。本稿では、メキシコでの「カラバサ(Calabaza)」に含まれる種類を「かぼちゃ類」とし、そのうちメキシコで「カラバサ・カボチャ(Calabaza kabochaあるいはkabocha、cahocha)」または「カラバサ・ハポネサ(Calabaza japonesa)」と呼ばれ、日本の市場で多く流通するかぼちゃを「かぼちゃ」と表記する(写真1)。

写真1  卸売市場やスーパーで販売されるさまざまな種類のかぼちゃ類 (メキシコ・シティ)

2 生産状況

 「かぼちゃ類」の生産はメキシコ全土で広く行われる一方で、「かぼちゃ」の生産はメキシコ北西部から中西部で行われている(図1)。中でも米国と国境を接するソノラ州では、かぼちゃ作付面積および生産量はいずれもメキシコ全土の約83%(2019年)という圧倒的な割合を占め、最大の生産州となっている(表3)。

図1 かぼちゃの生産州

表3 メキシコ全土におけるかぼちゃ生産地区(2019年)

 メキシコでのかぼちゃ生産の始まりは、1980年代に日本のかぼちゃ輸入業者が、ソノラ州の南に位置するシナロア州クリアカン地区の農家に生産を依頼したことだといわれている。その後、栽培により適した気候条件や土壌をもつソノラ州エルモシージョ地区などに主要産地が移った。2019年のかぼちゃ生産は、ソノラ州が最大となり、その約10分の1の規模でシナロア州、チワワ州が続き、さらに、その約10分の1の規模でナヤリット州およびハリスコ州で行われている(表3)。
 
(1)作付面積
 メキシコのかぼちゃの作付面積は、この10年間で38.5%増加し、2019年には3657ヘクタールとなった。2010年から2019年までの10年間のかぼちゃの平均作付面積は約3234ヘクタールであり、2012年と2016年には4000ヘクタールを超えた。作付面積の増減は主に海外市場からの需要の増減と連動している(表4)。

表4 州(地区)別かぼちゃ作付面積の推移

 かぼちゃの作付面積を生産地区別に見ると、ソノラ州の中でも中央部に位置する州都のエルモシージョ地区での栽培が際立っており、同地区の栽培面積はこの10年でおよそ2000~4000ヘクタールで推移している。また、同地区から南に100キロメートル程に位置するグアイマス地区の栽培面積は、同500~1200ヘクタールの間で推移しており、2019年はソノラ州のこの2地区で全国の8割の栽培面積を有している(図2、写真2)。

図2 ソノラ州エルモシージョおよびグアイマス地区

写真2  ソノラ州におけるかぼちゃ畑と栽培されているかぼちゃ
 
(2)生産量
 2019年のかぼちゃ類生産量は13万1292トンであり、そのうち、かぼちゃの生産量は5万4001トンであった。直近10年間の推移を見ると、ソノラ州、シナロア州、ハリスコ州ではこの3年ほど比較的安定した生産量で推移しているが、その他州では生産量にばらつきが見られる(表5)。

表5 州(地区)別かぼちゃ生産量の推移およびかぼちゃ類の生産量

 また、かぼちゃ類作付面積に対するかぼちゃ作付面積の割合を見ると、ソノラ州ではこの10年間でおおむね30~70%前後とばらつきが目立つのに対し、シナロア州では2016年以降、その比率はほぼ倍増し、2019年に100%となった。また、チワワ州も約92%と高い割合となっている。このため、ソノラ州の作付面積の動向が同割合を大きく左右する形となっている(表6)。

表6 かぼちゃ類作付面積に対するかぼちゃ作付面積の州別シェア推移

 かぼちゃの最大の生産州であるソノラ州の最大手の生産者(企業)からの聞き取りによると、同社では、同州で生産されるかぼちゃは、ほぼ全量が輸出向けであり、国内向けの生産は行っていないとのことである。また、2018年には輸出需要に対応したオーガニックかぼちゃの生産も開始している。ソノラ州では、複数の大手企業が米国農務省(USDA)のオーガニック認証を取得しており、輸出市場拡大への可能性を高める動きとして注目されている(注2)
 ソノラ州政府の発表によれば、2016/17農業年度(10月~翌9月)に同州では5種類のかぼちゃ類が生産されており、メキシコから輸出されるかぼちゃ生産量の93.9%は同州産としている。
 
(注2)日本のJAS認証を取得している企業もある。
 
(3)品種および栽培暦
 日本では1960年代以降、ほくほくした粉質系のセイヨウカボチャが市場に出回り、1980年前後より国内の青果物専門商社や卸売業者が、種苗メーカーとともに海外の産地開発に乗り出した。現在、メキシコで栽培されている主な品種としては、「味平」「味皇(あじおう)」「こふき」「えびす」「みやこ」「くりゆたか7」などであり、生産される品種は日本市場に合わせて採用されている。
 かぼちゃの栽培時期は、メキシコ北西部では春~夏、もしくは、夏~秋の間にかけて行われる。ただし、主な輸出先である日本市場のかぼちゃ需要が冬至に合わせて年末に高まることから、その生産と収穫は夏から秋にかけて行われることが多い。また、この時期は日本のかぼちゃ市場で他国産品との競争が比較的少ないことが、2000年代以降、メキシコの大手企業が輸出産品であるかぼちゃの生産を強化した背景となる。
 
(4)播種から収穫までの流れ
 ソノラ州の主要生産地であるエルモシージョ地区の場合、年に2回栽培が行われる。春栽培の場合、土壌温度が比較的低いため、ハウスで苗床による育苗が行われた後、手作業で移植が行われる。また、植物を寒風から守るためカバーシートもつけられ、栽培期間は100~110日程度となる。一方、日本向けの輸出が多い夏栽培の場合、土壌温度が適温であることから手作業での直播(じかまき)が行われ、栽培期間も90~95日と短い。これらの収穫は、いずれも手作業で行われる。
 なお、ソノラ州は農業が盛んな州であり、乾燥した気候でもあるため、農場の95%はかんがいが整備されており、現在では点滴かんがいが主流である。

3 流通状況

(1)流通経路
 かぼちゃは保存性に優れており、適切な保管状況であれば数カ月は品質が保持できる。また、衝撃に強く、収穫・運搬時の管理も比較的容易であるため、長距離輸送にも対応しやすい。日本向け輸出の場合、メキシコ国内の太平洋岸の港から積み出されるほか、陸路で米国ロングビーチ港などに運ばれた後、船便で輸送されるものもある。輸送先は神戸が5割強と最も多く、横浜が2割、これに名古屋、川崎、東京と続く。メキシコでのかぼちゃの収穫後、日本の倉庫に到着するまでには、約1カ月を要する(写真3)。

写真3 「 ビン(bin)」と呼ばれる木製箱に 入った日本向けに輸出されるかぼちゃ

 米国向けかぼちゃと日本向けかぼちゃとでは、輸送方法が異なる。日本向けのかぼちゃは600キログラムの木製箱に入れられてからコンテナに搬入される。日本国内でかぼちゃを小分け、またはカット加工されるため、容量が大きい。一方、米国向けのかぼちゃは段ボール箱に入れて発送される(表7)。米国ではかぼちゃをまるごと販売することが多いため、小売店に直接発送できる梱包が行われている。サイズについても、日本向けのサイズはLまたMが主流であるが、米国向けはSが多い(表8)。それは、段ボールの大きさと関係しており、Sサイズの方がより多いかぼちゃの個数を入れることが可能となるためである。

表7  商品規格の一例(段ボール箱 約 10kg入)

表8 かぼちゃのサイズ規格
 
(2)生産者販売価格
 かぼちゃの生産者価格は、2010年の1キログラム当たり3.8メキシコペソ(25円:1メキシコペソ=6.6円(注3))から上昇を続け、2018年には11.2メキシコペソ(74円)を記録し、2019年は9.9メキシコペソ(65円)となっている。同価格は、国内生産量のほか、高まりをみせている輸出需要にも影響して推移している(表9)。

表9 州(地区)別かぼちゃ生産者販売価格の推移
 
(注3)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「月末・月中平均の為替相場」の2021年12月末TTS相場。
 
(3)企業栽培の状況
 メキシコのかぼちゃ生産は、大手4社による寡占状態となっており、新たな企業の参入は起こりにくい。かぼちゃ生産は、大規模なかんがい設備を活用した形態で行われている。ソノラ州に拠点を置くAgrocir社では、点滴かんがいを活用し、「味平」を始めとした品種のかぼちゃを栽培している。また、日系企業が現地に子会社を設立し、かぼちゃを含むさまざまな野菜の種を生産し、現地の農作物に関連する企業に販売している事例もある。

4 輸出動向

(1)輸出動向
 図3は、メキシコ産生鮮かぼちゃ類の輸出先別数量の推移である。メキシコ産生鮮かぼちゃ類の輸出量は2013年から2019年にかけて量にして44.5%、金額にして17.4%増加している(注4)

図3 メキシコ産生鮮かぼちゃ類の国別輸出数量の推移

 2019年の輸出割合を見ると、数量、金額ともに米国向けが95%を占め、第2位の日本向けは5%となった。主要生産地と米国との距離的な近さや、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)による関税面での利点が理由と考えられる。また、日本はかぼちゃの主要な消費国であり、米国経由で輸出されていることも、米国向け輸出が多い一因とみられる。
 
(注4)メキシコ政府は貿易統計を公表していない。国際貿易センター(ITC)のデータでは、米国経由で日本に入るメキシコ産かぼちゃは米国への輸出、そして米国からの輸入として集計されるため、米国経由であってもメキシコからの輸入として集計される日本の財務省貿易統計とは合致しない。
 
(2)対日輸出動向
 メキシコは、日本のかぼちゃ輸入先国の中でもニュージーランド(NZ)に次ぐ輸入量、金額である(2020年)。輸入量について、2010年からの動きを見ると、2012年と2016年は同国からの輸入が増えており、日本の需要増に対応する形で、メキシコのかぼちゃ生産量も増加している。2017年以降、メキシコから日本への輸出量が減少しているため、メキシコでの生産量も減少傾向にある(図4)。

図4 メキシコおよびニュージーランドから日本へのかぼちゃ輸入量の推移

 図5は、メキシコとNZからのかぼちゃの輸入金額の推移である。NZが輸入量では常にメキシコを上回っている状況にあるが、2012年から2019年まではメキシコがNZを上回っている。この変化の要因を説明するデータはないが、メキシコ国内の生産コストの上昇が一因であると考えられる。なお、2020年はメキシコからの輸入量が減少したために金額も減少している。

図5 メキシコおよびニュージーランドから日本へのかぼちゃ輸入金額の推移

 基本的に輸入かぼちゃの位置付けは、冬~春を中心とした国産品の端境期に輸入されるもので、周年の安定供給に役立っている。このため、輸入数量は、国産品、特に北海道産の収穫状況や品質、季節性などによって左右される。図6は、東京都中央卸売市場におけるかぼちゃの月別入荷実績(2020年)である。メキシコから生鮮かぼちゃが輸入される季節は、国産かぼちゃの端境期に当たる冬場の輸入が多く、またメキシコで収穫が行われる春にも輸入されている。

図6  2020年 かぼちゃの月別入荷実績(東京都中央卸売市場計)

 2005年に日本・メキシコ経済連携協定(日墨EPA)が発効され、かぼちゃの輸入関税は3%から無税となった。こうした要因がかぼちゃの対日輸出を後押ししたとみられ、輸入額は2004年の18億2719万9000円から2011年には33億463万3000円とおよそ2倍に増加した。その後2015年には55億9724万7000円にまで達し、この10年間で3倍もの成長を遂げたが、それ以降は減少傾向で現在に至っている。
メキシコからかぼちゃを輸入している企業の多くは、国産を主体にメキシコ産、NZ産も取り扱うことで周年供給ができる体制を整えている。

5 おわりに

 日本の端境期向けとして栽培が開始されたかぼちゃは、栽培に適した気候や輸出環境などから米国に近いソノラ州で集中的に栽培され、日本市場に合わせた品種の栽培や収穫時期が考慮されている。また、メキシコのかぼちゃ生産は、企業によるかんがいを導入した集約的な栽培により単収が高いとされ、日本産かぼちゃの端境期を埋める重要な供給元としての地位を築いている。一方、生産されるかぼちゃの多くが日本向けであることから考えると、日本市場の動向が現地の生産動向に大きな影響を与えることとなる。近年の日本におけるかぼちゃの消費量が減少傾向のため、供給量が減少しており、このことが主要生産地であるソノラ州の栽培面積や生産量に影響がでていると考えられる。メキシコ政府は、農産物輸出市場の拡大に力を入れているが、近年ではアジア諸国、特に韓国への進出を喚起しており、かぼちゃもこの強化項目の中に含まれている。現在、メキシコ産かぼちゃは日本において量、金額ともに上位を占めているが、今後、日本国内の需要減に反応して、これら周辺国の市場に流れていく可能性も強まっている。