マクロデータの分析のみでは、中国国民の野菜消費の地位と現状を全面的に映し出すことは不可能であることを考慮し、本章では、ミクロ的視点に基づくデータを採用して野菜購入の特徴、消費の行方、消費構造などの情報についてさらに踏み込んだ分析を行っていきたい。前章からわかったのは、中国国民は、生活水準の向上につれて野菜消費をより重視するようになるということである。ここからは、生活水準が比較的高く、野菜消費をより重視する都市居住者を例に挙げて分析を行っていく。中でもより代表的なのは北京市である。首都である北京市は、一般家庭の所得が全国トップクラスで、さらに野菜などの食品の栄養価値を理解し、消費に対してより理性的な傾向を持つ。北京市の都市居住者をサンプルとして研究を行い、ミクロ的視点から一定の代表的意味を研究していく。以上を踏まえて、本章では2019年に行った北京市都市一般家庭野菜消費調査アンケートのデータを利用する。アンケート調査では合計280世帯、地域としては北京市東城区、西城区、昌平区、朝陽区、房山区、豊台区、海淀区、石景山区の計8エリアにわたる家庭を対象としている。一部、記入が無効であったアンケートを除き、最終的に262世帯分のサンプルを得た。アンケートの有効回答率は87.3%である。
(1)北京市民の外食
表2の通り、北京市民の1週間の外食回数は1~2回に集中し、全体の55.6%を占めている。3回以上外食する家庭の16.8%を含めると、合計72.4%に達している。また、1週間に一度も外食しない家庭は全体の27.6%であった。外食は既に市民の日常生活の一部となっている。さらに、外食によって野菜消費量が減少した家庭は全体の53.4%、増加した家庭は全体の10.1%、影響しない家庭は36.5%で、外食が相当程度の家庭の野菜消費量を減少させていることが分かる。一方、外食が野菜の消費品目に影響していない家庭は64.6%に達し、品目から見ると、外食が日常的な野菜消費構造を変えることはないようだ。
(2)消費されている野菜の品目
図6の通り、消費品種から見ると、家庭消費では葉菜類を主とする消費者が最も多く、サンプル全体の37.8%を占めた。次が果菜類で35.5%、両方を合わせると73.3%に達している。ここから、北京市民は消費選択の際にこの2つの野菜品目をより重視する傾向にあり、野菜消費の中心的位置にあることが分かる。過去と比較すると、野菜の消費品目が変化した市民の人数は139人で、サンプル全体の49.2%を占め、その変化は消費品目の増加を主体としている。マクロ的な視点から見ると、こうした変化が出現した原因としては、市場で流通する品目の数が過去と比べて明らかに多くなり、市民の日常的な消費の選択肢が豊富になったことが挙げられるが、市民の所得水準が上がり、野菜の品質や栄養価値を重視し始めたことも彼らが消費品目を増やしている要因といえる。
昔は、野菜生産の季節性が国民の野菜消費の季節性に直結していた。すなわち、冬が来れば貯蔵に耐え得る白菜やだいこん、じゃがいもなどの消費を主としていた。ところが、農業技術が向上し、農業の周年供給が実現したこと、同時に、全国規模で地域を越えた供給流通網が著しい発展を遂げているなど、冬でも南部の野菜を北部に輸送することが可能となり、北方住民の野菜消費ニーズが保証されるようになった。さらに、中国人の消費方式も欧米食の影響を受けるようになった。まとめると、消費野菜品目の変化は、以上の要因、すなわち、国民の野菜消費の一貫性、野菜消費品種の多様化、消費方式の差異化が総合的に作用した結果といえる。
(3)購買ルートと頻度から見た野菜消費方式
生産地から末端消費者までのルートを考えたとき、野菜が向かう先は、主にスーパーなどの小売、飲食、食堂、加工であり、市民の野菜購買方式は小売市場を主とする。さまざまな種類の野菜の購買ルートを選択するとき、市民は、その収入レベル、価格水準、買物の利便性などの影響を受けることになるが、主な購買ルートとしては、社区(地域)の市場を選択する市民の割合が最も高く、58.0%を占めている。続いてスーパーマーケットが40.5%で、ECルートを選択する北京市民はわずか1.5%に留まった(表3)。以上から、ECルートでの野菜購入は徐々に普及しているとはいえ、調査を実施した2019年は、まだ、野菜購買ルートの主流には至っていないことが分かる。
生活必需品として、新鮮で安全な野菜の入手を保証するため、野菜の購入回数は必然的に多くなる。週1回と週2回の購入頻度は、それぞれ6.1%と40.8%、合計で46.9%であった。これは、野菜の消費・確保として多くの家庭が「保存式」を第一の選択としていることを示している。この頻度を選択した野菜購入者は、主に子育て中の比較的若い夫婦であり、グループ全体の42.1%を占める。理由は、大多数の若いグループには野菜を購入する時間が無いことが挙げられる。また、週に4回以上野菜を購入する消費者はサンプル全体の24.8%を占めたが、これは主に高齢者グループである。彼らには比較的多くの時間があるため、毎日1回、野菜市場や大型スーパーに行き、新鮮でお得な商品を選択すると同時に、野菜の購入を生活上の楽しみにもしている。
北京市の一般家庭の現在の野菜購買ルートに対する満足度は比較的高く、「満足」と答えた家庭は83.9%に上る。市民が最も重視する理由のトップ3は、「買物が便利」「価格が安い」「野菜が新鮮」である。反対に、「不満」と答えた家庭は16.1%であった。不満とする理由のトップ3は、「価格」「鮮度」「距離と品質」である。ここから分かるのは、北京市の一般家庭は現在の野菜購買ルートにおおむね満足しており、また、野菜産業が提供する販売方式も市民の消費需要に合致しているなど、従来の販売ルートが充分に成熟しているということである。
なお、北京市の一般家庭が野菜購入に対してより重視する要素は、「買物が便利」「野菜の価格」「鮮度」であった。
(4)品質安全型野菜の需要
今、中国で言われている品質安全型野菜(以下「安全野菜」という)とは、主として有機野菜とエコロジー野菜認証
(注3)の基準に達している野菜を指す。安全野菜の消費は、所得、製品価格、入手可能性などの要素の影響を受けると思われる。市民が選択する野菜は一般的な野菜が主で、サンプル全体の80.5%に上るが、安全野菜を選択する割合は少なめで、さらに、より基準が上がるほど購入人数は減少する。これは、市民の安全野菜に対するニーズがまだ十分ではないことを示している。市民の野菜消費の選択に影響を与えているのは、安全野菜と価格に対する関心度だ。
(注3)政府の指定した市場認証機構が認証するもので、全国一律のエコロジー野菜認証リスト、認証基準、認証ルールおよび認証マークが定められている。認証に当たり市場認証機構は、認証材料の審査、現場での野菜検査などを行う。エコロジー野菜認証の有効期間は1年間となる。
過去の研究結果によると、市民の安全野菜への関心度は高まっており、徐々に安全野菜を購入する方向に傾いている。一方で、市民の価格への関心が高まるほど安全野菜を購入しなくなる傾向も見られ、両者の安全野菜の消費行為に対する傾向は逆向きの関係にある。今回の研究では、価格への関心度が高まるほど安全野菜への関心は下降傾向にある。図7の通り、安全野菜に「全く関心が無い」と「あまり関心が無い」グループは全体の51.5%、「少し関心がある」と「非常に関心がある」グループは全体の25.9%を占めている。一方、価格に関心を持つグループでは、「全く関心がない」と「あまり関心がない」グループは22.5%、「少し関心がある」と「非常に関心がある」グループは53.1%を占めている。