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海外情報 野菜情報 2022年1月号

中国の野菜消費需要の変動と構造(後編)

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中国農業大学 経済管理学院 教授 穆月英(Mu Yueying)、 博士課程2年 董愷(Dong Kai)

【要約】

 野菜は、中国国民の食生活に欠かすことのできない食料品であり、経済発展と農業生産技術の進歩、また、流通網の整備などによって、供給される野菜の種類は多岐にわたっている。近年は、畜産物需要の高まりなどから野菜消費は減少傾向にあるものの、1人当たり消費量では日本に比べ高い水準にある。コロナ禍を契機に、eコマース(EC)ルートによる野菜の購入が少しずつ伸びるなど変化が表れてきた。

 なお、本稿は、次の七つの項目で構成されているが、紙面の関係上、前月(12月号)の1~4に続き、1月号では5~7を掲載する。

 

1.はじめに

2.中国の野菜消費の段階的区分

3.マクロ的視点からの野菜消費需要の構造

4.一般家庭から見た野菜消費の特徴

5.野菜消費需要のアンケート調査分析

6.新型コロナウイルス感染拡大が国民の野菜消費に及ぼす影響

7.まとめ

5 野菜消費需要のアンケート調査分析

 マクロデータの分析のみでは、中国国民の野菜消費の地位と現状を全面的に映し出すことは不可能であることを考慮し、本章では、ミクロ的視点に基づくデータを採用して野菜購入の特徴、消費の行方、消費構造などの情報についてさらに踏み込んだ分析を行っていきたい。前章からわかったのは、中国国民は、生活水準の向上につれて野菜消費をより重視するようになるということである。ここからは、生活水準が比較的高く、野菜消費をより重視する都市居住者を例に挙げて分析を行っていく。中でもより代表的なのは北京市である。首都である北京市は、一般家庭の所得が全国トップクラスで、さらに野菜などの食品の栄養価値を理解し、消費に対してより理性的な傾向を持つ。北京市の都市居住者をサンプルとして研究を行い、ミクロ的視点から一定の代表的意味を研究していく。以上を踏まえて、本章では2019年に行った北京市都市一般家庭野菜消費調査アンケートのデータを利用する。アンケート調査では合計280世帯、地域としては北京市東城区、西城区、昌平区、朝陽区、房山区、豊台区、海淀区、石景山区の計8エリアにわたる家庭を対象としている。一部、記入が無効であったアンケートを除き、最終的に262世帯分のサンプルを得た。アンケートの有効回答率は87.3%である。
 
(1)北京市民の外食
 表2の通り、北京市民の1週間の外食回数は1~2回に集中し、全体の55.6%を占めている。3回以上外食する家庭の16.8%を含めると、合計72.4%に達している。また、1週間に一度も外食しない家庭は全体の27.6%であった。外食は既に市民の日常生活の一部となっている。さらに、外食によって野菜消費量が減少した家庭は全体の53.4%、増加した家庭は全体の10.1%、影響しない家庭は36.5%で、外食が相当程度の家庭の野菜消費量を減少させていることが分かる。一方、外食が野菜の消費品目に影響していない家庭は64.6%に達し、品目から見ると、外食が日常的な野菜消費構造を変えることはないようだ。

表2 北京市の一般家庭の外食による野菜消費状況
 
(2)消費されている野菜の品目
 図6の通り、消費品種から見ると、家庭消費では葉菜類を主とする消費者が最も多く、サンプル全体の37.8%を占めた。次が果菜類で35.5%、両方を合わせると73.3%に達している。ここから、北京市民は消費選択の際にこの2つの野菜品目をより重視する傾向にあり、野菜消費の中心的位置にあることが分かる。過去と比較すると、野菜の消費品目が変化した市民の人数は139人で、サンプル全体の49.2%を占め、その変化は消費品目の増加を主体としている。マクロ的な視点から見ると、こうした変化が出現した原因としては、市場で流通する品目の数が過去と比べて明らかに多くなり、市民の日常的な消費の選択肢が豊富になったことが挙げられるが、市民の所得水準が上がり、野菜の品質や栄養価値を重視し始めたことも彼らが消費品目を増やしている要因といえる。
 昔は、野菜生産の季節性が国民の野菜消費の季節性に直結していた。すなわち、冬が来れば貯蔵に耐え得る白菜やだいこん、じゃがいもなどの消費を主としていた。ところが、農業技術が向上し、農業の周年供給が実現したこと、同時に、全国規模で地域を越えた供給流通網が著しい発展を遂げているなど、冬でも南部の野菜を北部に輸送することが可能となり、北方住民の野菜消費ニーズが保証されるようになった。さらに、中国人の消費方式も欧米食の影響を受けるようになった。まとめると、消費野菜品目の変化は、以上の要因、すなわち、国民の野菜消費の一貫性、野菜消費品種の多様化、消費方式の差異化が総合的に作用した結果といえる。

図6 北京市一般家庭の野菜消費種類

 
(3)購買ルートと頻度から見た野菜消費方式
 生産地から末端消費者までのルートを考えたとき、野菜が向かう先は、主にスーパーなどの小売、飲食、食堂、加工であり、市民の野菜購買方式は小売市場を主とする。さまざまな種類の野菜の購買ルートを選択するとき、市民は、その収入レベル、価格水準、買物の利便性などの影響を受けることになるが、主な購買ルートとしては、社区(地域)の市場を選択する市民の割合が最も高く、58.0%を占めている。続いてスーパーマーケットが40.5%で、ECルートを選択する北京市民はわずか1.5%に留まった(表3)。以上から、ECルートでの野菜購入は徐々に普及しているとはいえ、調査を実施した2019年は、まだ、野菜購買ルートの主流には至っていないことが分かる。
表3 野菜購買ルート

 生活必需品として、新鮮で安全な野菜の入手を保証するため、野菜の購入回数は必然的に多くなる。週1回と週2回の購入頻度は、それぞれ6.1%と40.8%、合計で46.9%であった。これは、野菜の消費・確保として多くの家庭が「保存式」を第一の選択としていることを示している。この頻度を選択した野菜購入者は、主に子育て中の比較的若い夫婦であり、グループ全体の42.1%を占める。理由は、大多数の若いグループには野菜を購入する時間が無いことが挙げられる。また、週に4回以上野菜を購入する消費者はサンプル全体の24.8%を占めたが、これは主に高齢者グループである。彼らには比較的多くの時間があるため、毎日1回、野菜市場や大型スーパーに行き、新鮮でお得な商品を選択すると同時に、野菜の購入を生活上の楽しみにもしている。
 北京市の一般家庭の現在の野菜購買ルートに対する満足度は比較的高く、「満足」と答えた家庭は83.9%に上る。市民が最も重視する理由のトップ3は、「買物が便利」「価格が安い」「野菜が新鮮」である。反対に、「不満」と答えた家庭は16.1%であった。不満とする理由のトップ3は、「価格」「鮮度」「距離と品質」である。ここから分かるのは、北京市の一般家庭は現在の野菜購買ルートにおおむね満足しており、また、野菜産業が提供する販売方式も市民の消費需要に合致しているなど、従来の販売ルートが充分に成熟しているということである。
 なお、北京市の一般家庭が野菜購入に対してより重視する要素は、「買物が便利」「野菜の価格」「鮮度」であった。
 
(4)品質安全型野菜の需要
 今、中国で言われている品質安全型野菜(以下「安全野菜」という)とは、主として有機野菜とエコロジー野菜認証(注3)の基準に達している野菜を指す。安全野菜の消費は、所得、製品価格、入手可能性などの要素の影響を受けると思われる。市民が選択する野菜は一般的な野菜が主で、サンプル全体の80.5%に上るが、安全野菜を選択する割合は少なめで、さらに、より基準が上がるほど購入人数は減少する。これは、市民の安全野菜に対するニーズがまだ十分ではないことを示している。市民の野菜消費の選択に影響を与えているのは、安全野菜と価格に対する関心度だ。
 
(注3)政府の指定した市場認証機構が認証するもので、全国一律のエコロジー野菜認証リスト、認証基準、認証ルールおよび認証マークが定められている。認証に当たり市場認証機構は、認証材料の審査、現場での野菜検査などを行う。エコロジー野菜認証の有効期間は1年間となる。
 
 過去の研究結果によると、市民の安全野菜への関心度は高まっており、徐々に安全野菜を購入する方向に傾いている。一方で、市民の価格への関心が高まるほど安全野菜を購入しなくなる傾向も見られ、両者の安全野菜の消費行為に対する傾向は逆向きの関係にある。今回の研究では、価格への関心度が高まるほど安全野菜への関心は下降傾向にある。図7の通り、安全野菜に「全く関心が無い」と「あまり関心が無い」グループは全体の51.5%、「少し関心がある」と「非常に関心がある」グループは全体の25.9%を占めている。一方、価格に関心を持つグループでは、「全く関心がない」と「あまり関心がない」グループは22.5%、「少し関心がある」と「非常に関心がある」グループは53.1%を占めている。

図7 エコロジー野菜認証(安全野菜)と野菜価格への関心の度合い

6 新型コロナウイルス感染拡大が国民の野菜消費に及ぼす影響

 2020年に発生したCOVID-19の世界的流行を受け、中国政府は厳格な管理措置の敢行を決定し、感染拡大の回避に努めた。一般家庭の野菜消費に対するCOVID-19の影響について分析を行った結果、野菜消費の変化をつかむことができた。本章では、2020年2月に中国全土の一般家庭281世帯を対象に行った野菜消費アンケート調査のデータを利用して、コロナ禍にさらされた一般家庭の野菜消費の変化を分析した。調査範囲は広域にわたり、全国24省、200以上の区県をカバーしている。なお、調査研究当時から調査研究後に至る感染拡大状況の影響は刻々と変化しており、そのため、本研究はあくまで2020年初め、COVID-19発生時における中国国民の野菜消費への影響のみを反映していることを指摘しておく。
 
(1)野菜の消費量と価格
 COVID-19の感染防止対策が国民の野菜消費量に与えた影響は、それほど大きくない。表4から、全家庭総数の44.8%がCOVID-19感染拡大防止対策期間中も野菜の消費量は「変わらない」としており、半数近くの家庭はコロナ禍の影響を受けていないことが分かる。これは、野菜供給市場における、例えば、交通部門で行われた輸送過程での予防・抑制、消毒など各種対策下での農産物の輸送、財政部門の救済資金拠出による貯蔵施設の建設サポート、野菜販売場所の定時消毒支援といった、一連の積極的な対応措置の成果だといえる。しかし、国民が外出制限を受け、一部の近郊の自由市場が閉鎖されるなどの措置の影響で、29.2%の一般家庭では、この期間、野菜消費が減少しており、こうした状況下でも野菜消費量が増えたという国民はわずか4分の1程度に留まっている。

表4 COVID-19感染拡大防止対策期間の家庭野菜消費量の変化

 コロナ禍の期間は、野菜供給、市場流通などの要素の影響で、国民が購入する野菜の価格は軒並み上昇した。75.1%の国民が、野菜価格が普段と比べて一定程度上昇したため必然的に野菜の消費支出も増えたと述べている。考えられる原因としては、COVID-19発生後、一部の消費者が心理的パニックに陥り、外出による野菜購入回数を減らして買いだめに走ったことで、野菜消費価格が軒並み上昇したことが想定される。調査を行った24省のうち、すべての省の住民が、自身が購入する野菜価格の上昇を感じており、今回のコロナ禍が全国規模で野菜価格の底上げをもたらしたことが分かる。
 
(2)野菜の購入頻度
 野菜の多くは保存がきかず、また日常的に食する生活必需品であることから、新鮮かつ安全な野菜を確保するため、野菜の購入回数と頻度の保証は必須である。コロナ禍の影響を受け、国民の外出による野菜購入が制限された結果、国民は、新鮮な食用野菜の確保と、外出回数および外出時間の最大限の削減という選択を迫られることになった。COVID-19の感染拡大期間において、1回の購入量で一家全員が野菜を消費できる日数を3日とした世帯が最も多く、33.1%を占めた。次が5日で19.2%を占め、両者を合計すると全家庭の半数以上に達する。これは、この期間、多くの家庭でまとめ買いによる野菜消費が第一選択肢になっていることを示している。3日または5日であれば野菜の鮮度を維持することができ、外出回数を相応に減らすことも可能となる。
 
(3)野菜購買ルートの変化
 平常時、国民が野菜の購買ルートを選択する場合は、収入レベル、価格水準、買物の利便性などいくつかの要素が総合的に作用して行う。しかし、今回のCOVID-19の感染防止対策期間では、野菜価格の上昇、野菜供給物流網の障害、野菜購入場所の閉鎖などの要素の影響を受け、国民は新たな変化に対応することを余儀なくされた。図8から分かる通り、COVID-19の発生後、国民のスーパーマーケットやECルートにおける野菜購入支出の割合が増加する傾向が見られるようになった。増加分は、近隣近郊の市場における野菜購入支出の減少分がそのままスライドしたものである。このうち、スーパーマーケットでの野菜購入支出の割合は61.2%で、12.8%の増加、ECルートでの支出割合は元の6.0%から9.7%まで伸びている。一方、近隣近郊の市場での野菜購入支出が占める割合は16.6%減少した。

図8 コロナ禍前後の野菜購入ルートにおける消費支出割合の変化

 COVID-19の発生時、スーパーマーケット、特にGMSと呼ばれる総合スーパー(多種多様な衣食住全般の商品を一括して取り扱う大規模小売店)の優位性は、ただ野菜の品質や種類に対する信頼だけでなく、ほかの生活用品も購入できることにあった。さらに、スーパーマーケットの入口には基本的に体温測定器が設けられているため、比較的安全と見られ、近隣近郊の市場に行かなくなった消費者の大部分がスーパーに流入したと考えられる。また、COVID-19による外出制限はECルートを通じた野菜消費を刺激することになった。ECルートの優位性は、配送サービスによる外出回数の削減だが、それが消費者の一部でECルートでの野菜購入を促し、野菜購入支出の割合の増加につながったものと考えられる。アンケートの結果、コロナ発生以前はECルートで野菜を購入したことがなかった196世帯のうち、37世帯が利用を開始し、さらに、その消費支出の割合が野菜消費支出全体の半分以上を占める家庭は32.4%に上った。また、コロナが発生する前からECルートで買物をしていた家庭は85世帯だったが、そのうち32.9%でECルート上の支出割合が拡大している。これは、野菜関連のECルートの発展にとってよい傾向といえよう。

7 まとめ

 本稿では、まず中国の野菜消費の歴史的変遷と構成について分析を行い、中日両国の野菜消費の特徴を比較することで、中国野菜の特性を把握した。そして、これを基準に都市居住者を代表とする、現在の一般家庭における野菜の地位と現状を分析し、一般家庭の野菜消費の特徴を把握した。最後に、新型コロナウイルス感染拡大と結び付けて、一般家庭の野菜消費に与えた影響について分析を行った。結論の要点は、以下の通りである。

 

(1)中国の野菜生産は消費需要を安定的に満たすことができ、大部分を占める食用需要のみならず、その他用途の消費量の増加率も大きい。野菜の損耗量をさらに削減すれば、野菜産業の発展にも有効である。経済の発展に伴い、中国の野菜消費需要の構造に変化が発生し、家庭消費以外にも、外食、加工、飼料などの用途の消費量も大きく伸び、野菜消費の地位を大幅に向上させている。

 

(2)中国の野菜消費自給率は日本を遥かに凌ぐ。同時に、中国の野菜消費は多様で、1人当たりの平均年間野菜消費量も多い。2017年の中国の野菜自給率は101.9%で、日本の同80.4%を21.5%も上回っている。また、中国人の1人当たりの平均年間野菜消費量は377.2キログラムであり、日本の同91.1キログラムを大きく上回る。なお、2017年の野菜損耗量は総消費需要の8.5%に達し、これは日本(同8.9%)と同程度である。

 

(3)購買ルートと購入頻度から住民の野菜消費方式を見た。購買ルートは主に近隣近郊の市場とスーパーマーケットであり、ECルートと農場による直販なども着実な伸びを見せている。一般家庭の野菜消費の動機付けは、利便性重視型、経済性重視型、品質(鮮度)および栄養面重視型の3種類に区分される。利便性重視型の一般家庭の野菜消費では、野菜の購入が便利か否かをより重視している。野菜市場はおおむね「買い手市場」で、住民の野菜購入価格への感度は高めである。経済性重視型の一般家庭では、野菜の経済実用性がより重視されている。住民の選択として、葉菜と果菜類に片寄る傾向があり、これらは住民の野菜消費の中心となっている。また、安全な野菜に対する住民の需要はまだ熟しておらず、価格への関心度が高くなるにつれ、安全な野菜への関心が下降する傾向にある。

 

(4)COVID-19の感染防止対策が国民の野菜消費量に与えた影響もさほど大きくないものの、対策期間中は野菜供給や市場流通などに一定の制約があったことで、国民が購入する野菜の価格が軒並み上昇した。さらに、外出制限から野菜の購入量が限られたため、1回当たりの野菜購入量は増加傾向にあった。これら増加分はスーパーマーケットやECルートでの購入によるものであり、その一方で、近隣近郊の市場での購入は減少している。