(1)中国野菜消費の総合分析
国連食糧農業機関(FAO)の統計に基づき、野菜の供給と需要を見ると、表1に示す通り、2017年の中国の野菜の国内生産量は65億3411万トンに達し、国内総需要量は64億1432万トンであった。これらのデータから算出した野菜自給率は101.9%となり、国内の野菜生産で消費需要を満たすことが可能となっている。また、野菜輸入量は1923万トンで、輸出量1億3885万トンの13.9%に留まっている。輸入量は国内の野菜生産量と比べると微々たるものであり、国内の野菜消費需要は担保されていることを強く裏付けている。
国内の野菜需要から分かるのは、野菜の主要な消費ニーズは直接的な食用であり、国内の野菜総需要量の85.4%を占めている。需要側から見れば、中国の国民の飲食習慣における野菜の地位付けがよく分かる。生鮮農産物である野菜には、貯蔵が難しく、傷みやすいという特性がある。2017年の野菜の損耗は総需要量の項目の中で第2位となる5億4442万トンに達し、総需要量の8.5%、国内生産量の8.2%を占め、輸出量の4倍近くに達する。以上から、損耗量の削減は、国民の野菜需要を満たすのみならず、野菜産業の発展にも有効であると考えられる。
生産者から消費者への野菜流通ルートには、主に次の四つがある。一つ目は、生産者から仲介業者による買取りを経て卸売市場、さらに近隣の自由市場やスーパーマーケットなどの小売を経由し、最終的に消費者の手元に届くルート。二つ目は、生産者から卸売市場、小売を経由し、最終的に消費者の手元に届くルート。三つ目は、生産者からの産地直送でスーパーマーケットを経由し、消費者の手元に届くルート。最後は、生産者がECプラットフォームやEC会社(京東、毎日優鮮、盒馬鮮生など)を介して消費者に販売するというECルートになる。特に2020年のCOVID-19感染拡大以降、ECルートでの野菜流通量が顕著に増加している。
図3は、中国の主要野菜の平均小売価格
(注1)であるが、2009年から2018年までの期間、全体として上昇傾向にあったことが分かる。これは、中国経済の発展に伴い国民所得が増加し、栽培コストも上昇したため、小売価格もそれに合わせて上昇したことを示している。
(注1)野菜の平均価格は、トマト、きゅうり、なす、ピーマン、ブロッコリー、にんじん、いんげん、キャベツ、はくさい、ばれいしょなどの野菜の価格の平均である。
(2)中国の野菜消費需要の変動動向
消費構造の変化を把握するため、さらに2008~2017年の約10年間の変化について比較、分析し、そこから野菜消費需要構造の変動動向をつかんでいきたい。表1から、中国の2008年と2017年それぞれの野菜消費需要の構成と対比していくこととする。
2017年、中国の国内総消費需要量は64億1432万トンであり、2008年から21.7%増加し、大きな成長を遂げている。2017年の1人当たり年間平均野菜消費需要量は377.2キログラムで、2008年と比べて20.8%も伸びている。この約10年間、総消費需要量の伸び幅は大きく、1人当たりの年間平均消費需要量も同じ変化を示している。2017年、野菜自給率は101.9%に達しているが、2008年からは横ばいであり、当時から中国は国内の消費需要を安定的に満たしていることが分かる。2017年、国内生産量は65億3411万トンとなり、2008年から27.6%増加した。野菜産業は、この約10年間で急速に発展し、生産量も顕著な伸びを示している。
2017年、中国の野菜損耗量は5億4442万トンで、2008年からの増加率は30.1%に達し、国内生産量の増加率を上回っている。一方、2017年の飼料需要は3億9118万トンで、2008年からの増加率は23.2%であった。主な原因として、国民所得が増加するにつれて一般家庭の肉類消費量が上昇した結果、肉類製品に対してより高い品質を求めるようになったことが挙げられる。こうした質と量の両面における消費者ニーズの向上が、供給側である飼育農家に、飼料に野菜を使用したり多様化した飼育方式を採用したりするなど、供給量の保証と同時に肉類製品の品質も向上しなければならないという状況を作っている。また、経済の発展に伴って中国の野菜消費需要の構造にも変化が生じ、家庭での消費以外に外食、加工などの用途の消費需要量が大幅に増加するなど、食品消費における野菜の地位も大きく向上することとなった。以前は、外食といえばレストランや食堂が主であったが、ここ数年はデリバリーなどによる消費需要が年々増加している。野菜加工においては、多くが葉菜類のカット加工を主としているが、それ以外に、この数年はマクドナルドやケンタッキー・フライドチキン、吉野家といったファストフード店に提供する野菜加工も増加している。
(3)日本と比較した中国野菜消費需要の特徴
日本は東アジアの中で経済的に最も発展した国家で、野菜産業とその消費を重視している。1981年の日本の厚生省(当時)の栄養に関する通達では、具体的な栄養成分に基づいて食物を六つのカテゴリーに大別しているが、必要不可欠な食物カテゴリー中に野菜を入れて、その栄養価値を是認している
[3]。日本の野菜消費需要構造を比較対象として分析することで、現在の中国野菜消費需要構造の長所と短所が分り、今後の改善点を洗い出すことができるだろう。
表1から全体を眺めると、中国の野菜自給率は101.9%であり、日本の80.4%に比べてはるかに高いことが分る。また、1人当たり年間平均野菜消費需要量は、日本が91.1キログラムであるのに対し、中国は377.2キログラムと多い。中国の野菜消費需要量が日本より多い原因の一つとして考えられるのは、消費習慣の差異であろう。中国料理には、「野菜の炒め物」が欠かせないため、そこで多くの野菜が使用される。家庭料理で日常的に利用されている野菜の種類は、一般的な家庭でも10種類以上に上る。首都の北京を例に挙げると、トマト、きゅうり、なす、ピーマンなどの果菜のほか、はくさい、ほうれんそうなどの葉菜、そして、だいこん、ばれいしょなどの根菜類まで、多種多様な野菜が日常生活で消費、利用されている。