(1)概要
ペルーでは南米原産の豆類が古くから栽培され、スペイン人がアメリカ大陸に上陸する以前から食料として利用されてきた。外来種のえんどう豆(
Pisum sativum L.)は、現在、豆類の中でインゲンマメ(
Phaseolus vulgaris)、ソラマメ(
Vicia faba)に次いで多く栽培されている。
えんどう豆は完熟豆(
硬莢種)と未熟豆(
軟莢種)があり、前者は乾燥した状態で収穫されるのに対して、後者は 未熟なうちに、または乾燥する前に収穫される。ペルーではその両方を生産しており、その生産地はほぼ重なっている。一般的には飼料や缶詰などに用いられる完熟豆は乾燥の状態で機械により収穫される。そのため、豆が小さく、多収の品種が好まれる。他方、未熟豆の場合は生食やさや付きで食されることが多く、形が良く、豆が大きい品種が好まれる。
本稿では、断りのない限り、えんどうは未熟豆のことを表すこととする。
(2)農家戸数、作付面積、生産量
2012年農業センサスによると、えんどう(完熟豆を含む)を栽培していた農家戸数は6万195戸である。経営規模別では、1ヘクタール未満の生産者が全体の32.9%、1~3ヘクタール未満を合わせると全体の72.0%を占めており小規模経営が多い(表1)。
2018年のえんどうの作付面積は3万4425ヘクタール、生産量は13万5912トンであった。2013年以降は、作付面積、生産量とも大きな変化は見られないが、2010年と比較すると作付面積は13.7%、生産量は32.9%といずれも増加している(図2)。
(3)主な生産地
前述の通り、ペルーのえんどうは、主に山岳地域および沿岸地域で栽培されている(図3)。品種にもよるが、栽培の最適気温は摂氏10~12度(最高28度)程度とされ、海抜1500~2500メートルの比較的冷涼な高地で栽培されることが多い。また、水はけのよい土壌が好まれ、pH6~7の中性土壌が最も適している。
播種は、主に沿岸地域では気温が下がる2~4月、山岳地域では気温が上がる9~11月にかけて行われ、収穫はそれぞれ7~9月、3~6月に行われる(地域や標高により異なる)。降水量も生育に重要な要件であり、年間降水量は1500~2000ミリメートルが必要とされ、干ばつに弱いという特徴がある。
えんどうは露地栽培がほとんどであり、沿岸地域では支柱立てでの栽培が増え、単収向上に大きく役立っている。また、えんどうは連作障害を起こすため、通常は大麦、小麦、トウモロコシ、ばれいしょとの輪作が推奨されている。なお、未熟豆を収穫する生産者の場合、3~4期の連作後、土地を休耕するという動きも見られる。他方で、豆科であるため根粒菌による窒素固定が行われ、土壌にとって有益である。
州別生産量(2018年)を見てみると、山岳地域中部のフニン州が2万9402トンと最も多く、ワヌコ州、ワンカベリカ州、カハマルカ州と続く。近年の傾向を見ると、フニン州は横ばいで推移しているのに対し、主要な生産地である山岳地域北部のカハマルカ州は減少傾向で推移している。一方、山岳地域中部に位置するワンカベリカ州、ワヌコ州および山岳・沿岸地域北部のラ・リベルタ州では2010年から2018年の間に生産量が倍増している。その他山岳地域と沿岸地域を有するアンカシュ州でも生産量が大きく増加している(表2)。
なお、日本に輸出されるえんどうの種類はスナップえんどう(sugar snap pea)とさやえんどう(snow pea)であり、主要な生産は沿岸地域のアンカシュ州のHuaral、リマ州のChancay、Santa Rosa、Chillonなどである。
(4)単収
えんどうの単収は、2011年から2018年の間に1ヘクタール当たり3697キログラムから同3948キログラムへと6.8%増加した。これは、改良品種の導入、かんがい施設の整備、農業技術(
条播、支柱立てなど)の向上などによるものである。
州別で見ると、リマ州が最も多く同1万908キログラム(2018年)と突出している。同州では、国内市場向けのほか輸出向けも栽培しており、輸出拡大に呼応し近代的かつ効率的な生産体制が整備されたためとみられる。一方、作付面積が最大のカハマルカ州では、同1770キログラムと全国平均の半分以下である。同州では古くからえんどうが栽培されているが小規模生産者が多く、生産体制の近代化が進んでいないためとみられる(図4)。
(5)品種
ペルーで栽培されるえんどうの品種は地域、標高および気候などにより異なる(表3、写真)。主な品種のうちAlderman種およびRondon種は米国からの外来種の商業品種である。また、Usui種とRemate種はペルーの国立農業研究所(ⅠNⅠA)が開発した品種である。
なお、輸出向けに栽培されているえんどう(スナップえんどうとさやえんどう)の主な品種はDwarf Grey Sugar、Mammoth Melting Sugar、Oregon Sugar Pod II、Snowflakeである。
(6)生産サイクル
ペルーでは、えんどうは露地栽培での
直播が主流であり、伝統的に
散播(バラ播き)による播種が行われているが、近代的な農業法を取り入れている生産者や大規模農家では条播または
点播を行っている。
えんどうの播種時期は、地形や気候などにより差があるが、主に9月に始まり3月頃まで行われ、地域によっては6月まで行われる。一方、収穫は3月から11月に行われ、収穫が最も集中するのは冬の終わりから春に当たる7~9月頃となる(図5)。通常、播種は雨季の時期に行われるが、かんがい施設が整備されている場所であればいつでも行うことができる。なお、2012年農業センサスによると、何らかのかんがい施設を有している農家は全体の4割あり、作付面積ベースでは全体の半分に相当する(そのほとんどは重力かんがい)。
スナップえんどうなどの場合、さやおよび中の豆が熟す前に収穫しなければならないため、手作業による収穫が行われている。これは、スナップえんどうがさやごと食されることから、商品価値に大きな影響を及ぼす外観に細心の注意を払う必要があるためである。収穫は実の生長を見ながら通常2回に分けて行われ、1回目は全体の7割程度、2回目はその15~20日後に残りの3割を収穫する。収穫作業は、
花梗(または
花柄)部分を切断する細かい手作業を伴い、女性が従事することが多い。寒冷な気候が続くとさやが黄色く変色し、変形することもあり、商品価値が下がる。また、収穫後のさやは乾燥しやすいため、風通しの良い日陰に置かれる。
(7)主な病害虫およびその対策
INIAによると、えんどうの生長に大きな被害を与える病害には土壌病害を引き起こすフザリウム菌(
fusarium)、リゾクトニア菌(
Rhizoctonia solani)およびピシウム菌(
Phytium)がある。INIAでは、根腐病の発生を予防するため、輪作、水はけの良い土壌の整備そして品質の良い種苗の使用を推奨している。
また、主な害虫としては、ホコリダニ(
Polyphagotarsonemus latus)、フェルチア属(
Feltia spp.)およびアグロチス属(
Agrotis spp.)などの虫、モモアカアブラムシ(
Myzus persicae)、マメクロアブラムシ(
Aphis fabae)などがあり、現状では、農薬による防除対策がとられている。