(1)生産量、作付面積、農家戸数
オランダ中央統計局(CBS)によると、2010~19年の生産量は、増加傾向で推移している一方で、単収は2016年をピークに減少傾向となっている(図2)。2019年の単収は、前年比0.7%減の1ヘクタール当たり506トンとなったものの、生産量は前年並みの91万トンとなった。なお、2019年の単収は、日本の単収(1ヘクタール当たり62トン)の約8倍となる。
作付面積は1650~1800ヘクタールと安定しており、2019年は、同0.7%増の1800ヘクタールとなった(図3)。なお、2013年については、前年にパプリカが不作となり、生産者がトマトの栽培に切り替えたため、作付面積は増加した。
また、CBSによれば、作付面積の約50%は、ヴァイントマトが占めており、残り半分はチェリートマト(約27%)、ラウンドトマト(約20%)が栽培されている(表2)。
主な生産州は、南ホラント州および北ブラバント州となり、両州で全体の75%の作付面積を占めている(図4、5)。また、南ホラント州にはロッテルダム港があり、同港の近くにはグリーンポートと呼ばれる施設園芸に関連する生産・物流が集中する地域が存在している。なお、オランダ国内には、グリーンポートが6カ所あり、施設園芸に特化した生産企業が行政、研究機関および大学などと提携し最先端の技術開発を行うイノベーションのハブとしての役割を担っている。
生産者戸数は減少傾向にあり、2018年は249戸と2010年比で約27%減少している(表3)。減少の理由としては、スペインやイタリアなどの安価なトマトに対する競争力や生産性を高めるとともに、小売業からの数量や品質面での安定供給の要求に対応するため、生産者が統合を続けたことなどが挙げられる。なお、1戸当たりの作付面積は、2010年の4.9ヘクタールから2018年の7.2ヘクタールと増加していることから1戸当たりの規模は拡大している。
なお、ワーヘニンゲン大学によると、オランダの青果物は生産者組合による生産の割合が多く、青果物の95%は生産者組合によって出荷されているという。しかし、トマト生産は、小規模家族経営から始まり、現在では複数の生産者と契約し自社ブランドのトマトを生産している大手企業も存在している。
(2)生産コスト
ワーヘニンゲン大学によると、2012~14年の生鮮トマトの平均生産コストは1キログラム当たり0.69~0.75ユーロ(93~101円)である(表4)。主な費用は施設・機械設備を含む管理費、燃料費、人件費などである。人口の少ないオランダでは、農場での労働力は、東ヨーロッパなどからの季節労働者に頼っており、トマト生産においても、主にポーランドから季節労働者を雇用してきたが、同国の経済発展もあり働き手を見つけることが難しくなっている。また、施設園芸栽培のため、燃料費のコストが高くなっているものの、施設内で発電している生産者も多いことから、売電により実際の燃料費は比較的低く抑えられている。
(3)栽培方法、栽培品種、病害虫など
ア 栽培方法および生育期間
オランダでは、フェンロー型と呼ばれるガラス温室でロックウール(固形培地耕)を使用した養液栽培が一般的である。近年は、軒高の高い温室が増えてきており、当初は3.2メートル程度の高さだったが、現在では4~6メートルの高さの温室もある。温室内の気温、湿度および二酸化炭素などの調節はコンピュータで管理されており、トマトの成長に最適な環境を整えることによって高収量生産を達成している。
トマトの種類別作型は図6の通りである。定植は12月~翌1月にかけて行われ、収穫は3~11月が通常であるが、近年は日照時間が少ない冬の時期でも補光を利用し周年で収穫を行う生産者もいる。
定植する苗は専門業者から購入しており、植付け株数は1平方メートル当たり2.5株程度である。現地のトマトのデモ栽培や栽培トレーニングを実施している企業によると、ラウンドトマトは1平方メートルにつき2.5株、チェリートマトは同3.75株を植付けている。また、受光性の良さや密植および収穫のしやすさを理由に、ハイワイヤーシステムが導入されており、トマトの茎はワイヤーによって誘引され、天井に向かって高く成長する。受粉にはマルハナバチが用いられ、受粉後約8週間程度で実をつける。葉かきは、葉の成長度合いなどに合わせて定期的に行われる。
灌漑は、コンピュータ制御によって自動化されており、栽培ベッドの裏側に取り付けられているパイプから灌水チューブによって苗毎に水および養液が届くようになっている。
なお、オランダの生産者は農業コンサルタントによるサービスを利用し栽培についてアドバイスを受けることが珍しくない。栽培品種の選択や、施設内の環境制御システムに関するアドバイス、栽培指導、GAP認証などについて専門の農業コンサルタントを雇用し、ともに定期的に話し合いや生育チェックなどを行う。
イ 栽培品種
オランダで栽培されているトマトの種類は、前述のとおり、ヴァイントマト、チェリートマト、ラウンドトマトが主流である。また、各種類において、大手生産者、組合、企業が自社ブランドの品種を生産しているため、多様な品種が栽培されている。かつて生鮮トマトは、大量生産を目的に高収量品種の開発と栽培に注力されてきたが、食味が良くなくヨーロッパでは水爆弾とも呼ばれていた。しかし、生産企業などが単収向上だけではなく、農薬使用量の低減や甘みのあるトマト生産を目的に研究開発を続けた結果、現在では高収量で病害虫に強く、糖度の高い品種が多く存在している。
なお、大手生産企業のProminent社およびRedStar社の自社品種は表5および表6の通りであり、RedStar社のRedStar Vanityは日本のコンビニエンスストアなどでも販売されている。
ウ 病害虫対策
オランダのトマト生産において問題となる病害虫は、主に灰色かび病とコナジラミ類である。ワーヘニンゲン大学によると、冬の時期に施設内の気温や二酸化炭素濃度を一定に保つため、窓を開けて外気を取り込むなどの換気が定期的に行なわれず、施設内の湿度が上昇し灰色かび病の発生を招いてしまうことが多いという。同病への対策は、施設内の湿度管理や、摘葉、落葉の除去および発病した部分の除去、殺菌剤の散布などが行われる。また、コナジラミ類の対策は、粘着シートの設置が一般的であるが、天敵であるカメムシの一種が生物農薬として使用されることもある。
(4)収穫方法
生鮮トマトの流通ルートは図7の通りである。
収穫は手作業によって行われ、収穫されたトマトはけん引車や自動走行機(工場や大型倉庫などで使用されるような無人の搬送機)によって、生産農場から選果施設まで運搬される。
包装は生産農場併設の包装施設で行われ、集荷されたトマトは選別や品質検査を経て梱包・出荷される。大規模施設を所有する生産者は生産農場に包装施設を併設している場合があるが、生産者によっては所属組合が出資している包装施設を利用することもある。大手生産者組合は、包装業者や物流業者に出資または子会社化している場合もある。
(5)契約方法
オランダでは、生産者組合に所属する生産者が大半を占めるため、生産者組合と実需者で契約締結することが一般的であり、量販店などの大手実需者とは生産者組合が直接契約によってトマトを出荷していると思われる。かつて、卸売市場は青果物の売買において重要な役割を果たしていたが、量販店の台頭と他国産との競争もあり、同国の小規模生産者は生産者組合の設立と統合を繰り返しながら、大手実需者の需要に対応できるよう変化してきた。なお、米国農務省によると、同国の食品小売産業は、大企業による占有率が高く、市場の約7割は大手4社によって独占されているとのことである。出荷販売契約は、週単位、月単位、年単位とあるが、大手トマト生産者組合や企業と大手量販店間では、安定供給を目的に年単位で契約を結んでいると考えられる。
(6)生産者価格
トマトの2010~19年の平均月別生産者価格は、生産量が減少する12月~翌2月にかけて高値で推移し、収穫が本格的に始まる3~8月は逆に価格が低くなる傾向がある(図8)。なお、種類別に見ると、チェリートマトは、ラウンドトマトやヴァイントマトに比べて価格は高く推移している。
種類別の生産者価格の推移をみると、2016年の冬から2017年の春にかけては、悪天候の影響により南欧のトマト生産が不振であったことが影響し、生産者価格が上昇したと考えられる(図9)。
(7)今後の生産見通し
オランダのトマト生産量は緩やかながらも増加傾向で推移しており、2017年以降は90万トンを超えて推移している。ヨーロッパでは健康志向の消費者の増加から、健康に配慮した食品への需要が高まっている。そのため、現代の消費者のライフスタイルに合ったヘタなしミニトマトに代表される利便性の良い商品が売り上げを伸ばしている。また、消費者はさまざまな種類の商品を好む傾向があることから、今後も生産者は多様な品種のトマトを栽培し高付加価値化を進めていくと考えられる。業界内では、より大規模な作付け、ICT(情報通信技術)、最新技術を利用した施設、機器およびシステムへの投資や持続可能な農業への転換が進む見込みであり、こうした膨大な設備投資や国際競争におけるポジションの強化のため今後も生産者間や企業間で統合が進んでいくと考えられる。