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海外情報 野菜情報 2021年7月号

オランダのトマトの生産、消費および輸出動向

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調査情報部

【要約】

 オランダは世界有数の施設園芸先進国として知られており、EU第2位の生鮮トマト生産国でもある。オランダの生鮮トマト生産量は、優良品種の育種や多収技術の普及などもあり増加傾向となっている。同国で生産されるトマトは近隣諸国を中心に輸出されており、日本向けにも輸出されている。オランダ産トマトは、日本国内では、国産の端境期に輸入され、コンビニエンスストアなどで販売されているものの、輸入価格は高い。また、日本国内では国産トマトへの需要が高いため、オランダ産トマトは今後もスポット買いによる輸入が続くと考えられる。

1 はじめに

 トマトは、β-カロテンをはじめ、ビタミンE、ビタミンCなどが豊富に含まれていることから「トマトが赤くなると医者が青くなる」という言い伝えがあるなど、栄養豊富な野菜として知られている。
 2019年の日本のトマトの収穫量は、72万600トンであり、生鮮トマトに関しては需要のほとんどを国産品で賄っている。一方で、近年、加工・業務用需要の増加もあり、生鮮トマトの輸入量は、増加傾向で推移している(図1)。

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 生鮮トマトの輸入量のうち、オランダからの輸入量は2012年に輸入が開始されて以来、増加傾向で推移しており、日本にとっては、第6位(2020年)の輸入先である。
 オランダの国土は4万2000平方キロメートルと九州とほぼ同じ大きさであるが、その約半分は農用地が占めている。また、ライン川下流の低湿地帯に位置し、国土の4分の1は海面より低いが、ポルダーと呼ばれる干拓地を造成することにより国土を広げてきたため、平坦な土地が広がっている。こうした点もオランダの農業の発展を支えており、限られた土地を生かした生産性の高い農産物を作ることが重要視されることから、世界有数の施設園芸先進国となっている。
 なお、オランダは、EU第2位(2019年)の生鮮トマト生産国となっている(表1)。一方で、国内の供給が需要を上回るため、ドイツや英国など大消費国への輸出が盛んとなっている。

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 今回は、生鮮トマトの栽培に特化し、施設園芸により高収量を実現しているオランダのトマトの生産、消費および輸出動向などについて報告する。なお、本稿中の為替レートについては、1ユーロ=135円(2021年5月末TTS相場135.24円)、1ドル=111円(2021年5月末TTS相場110.76円)を使用した。

2 生産動向

(1)生産量、作付面積、農家戸数
 オランダ中央統計局(CBS)によると、2010~19年の生産量は、増加傾向で推移している一方で、単収は2016年をピークに減少傾向となっている(図2)。2019年の単収は、前年比0.7%減の1ヘクタール当たり506トンとなったものの、生産量は前年並みの91万トンとなった。なお、2019年の単収は、日本の単収(1ヘクタール当たり62トン)の約8倍となる。

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 作付面積は1650~1800ヘクタールと安定しており、2019年は、同0.7%増の1800ヘクタールとなった(図3)。なお、2013年については、前年にパプリカが不作となり、生産者がトマトの栽培に切り替えたため、作付面積は増加した。

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 また、CBSによれば、作付面積の約50%は、ヴァイントマトが占めており、残り半分はチェリートマト(約27%)、ラウンドトマト(約20%)が栽培されている(表2)。


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 主な生産州は、南ホラント州および北ブラバント州となり、両州で全体の75%の作付面積を占めている(図4、5)。また、南ホラント州にはロッテルダム港があり、同港の近くにはグリーンポートと呼ばれる施設園芸に関連する生産・物流が集中する地域が存在している。なお、オランダ国内には、グリーンポートが6カ所あり、施設園芸に特化した生産企業が行政、研究機関および大学などと提携し最先端の技術開発を行うイノベーションのハブとしての役割を担っている。

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 生産者戸数は減少傾向にあり、2018年は249戸と2010年比で約27%減少している(表3)。減少の理由としては、スペインやイタリアなどの安価なトマトに対する競争力や生産性を高めるとともに、小売業からの数量や品質面での安定供給の要求に対応するため、生産者が統合を続けたことなどが挙げられる。なお、1戸当たりの作付面積は、2010年の4.9ヘクタールから2018年の7.2ヘクタールと増加していることから1戸当たりの規模は拡大している。

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 なお、ワーヘニンゲン大学によると、オランダの青果物は生産者組合による生産の割合が多く、青果物の95%は生産者組合によって出荷されているという。しかし、トマト生産は、小規模家族経営から始まり、現在では複数の生産者と契約し自社ブランドのトマトを生産している大手企業も存在している。
 
(2)生産コスト
 ワーヘニンゲン大学によると、2012~14年の生鮮トマトの平均生産コストは1キログラム当たり0.69~0.75ユーロ(93~101円)である(表4)。主な費用は施設・機械設備を含む管理費、燃料費、人件費などである。人口の少ないオランダでは、農場での労働力は、東ヨーロッパなどからの季節労働者に頼っており、トマト生産においても、主にポーランドから季節労働者を雇用してきたが、同国の経済発展もあり働き手を見つけることが難しくなっている。また、施設園芸栽培のため、燃料費のコストが高くなっているものの、施設内で発電している生産者も多いことから、売電により実際の燃料費は比較的低く抑えられている。

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(3)栽培方法、栽培品種、病害虫など
ア 栽培方法および生育期間
 オランダでは、フェンロー型と呼ばれるガラス温室でロックウール(固形培地耕)を使用した養液栽培が一般的である。近年は、軒高の高い温室が増えてきており、当初は3.2メートル程度の高さだったが、現在では4~6メートルの高さの温室もある。温室内の気温、湿度および二酸化炭素などの調節はコンピュータで管理されており、トマトの成長に最適な環境を整えることによって高収量生産を達成している。
 トマトの種類別作型は図6の通りである。定植は12月~翌1月にかけて行われ、収穫は3~11月が通常であるが、近年は日照時間が少ない冬の時期でも補光を利用し周年で収穫を行う生産者もいる。

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 定植する苗は専門業者から購入しており、植付け株数は1平方メートル当たり2.5株程度である。現地のトマトのデモ栽培や栽培トレーニングを実施している企業によると、ラウンドトマトは1平方メートルにつき2.5株、チェリートマトは同3.75株を植付けている。また、受光性の良さや密植および収穫のしやすさを理由に、ハイワイヤーシステムが導入されており、トマトの茎はワイヤーによって誘引され、天井に向かって高く成長する。受粉にはマルハナバチが用いられ、受粉後約8週間程度で実をつける。葉かきは、葉の成長度合いなどに合わせて定期的に行われる。灌漑(かんがい)は、コンピュータ制御によって自動化されており、栽培ベッドの裏側に取り付けられているパイプから灌水チューブによって苗毎に水および養液が届くようになっている。
 なお、オランダの生産者は農業コンサルタントによるサービスを利用し栽培についてアドバイスを受けることが珍しくない。栽培品種の選択や、施設内の環境制御システムに関するアドバイス、栽培指導、GAP認証などについて専門の農業コンサルタントを雇用し、ともに定期的に話し合いや生育チェックなどを行う。
 
イ 栽培品種
 オランダで栽培されているトマトの種類は、前述のとおり、ヴァイントマト、チェリートマト、ラウンドトマトが主流である。また、各種類において、大手生産者、組合、企業が自社ブランドの品種を生産しているため、多様な品種が栽培されている。かつて生鮮トマトは、大量生産を目的に高収量品種の開発と栽培に注力されてきたが、食味が良くなくヨーロッパでは水爆弾とも呼ばれていた。しかし、生産企業などが単収向上だけではなく、農薬使用量の低減や甘みのあるトマト生産を目的に研究開発を続けた結果、現在では高収量で病害虫に強く、糖度の高い品種が多く存在している。
 なお、大手生産企業のProminent社およびRedStar社の自社品種は表5および表6の通りであり、RedStar社のRedStar Vanityは日本のコンビニエンスストアなどでも販売されている。

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ウ 病害虫対策
 オランダのトマト生産において問題となる病害虫は、主に灰色かび病とコナジラミ類である。ワーヘニンゲン大学によると、冬の時期に施設内の気温や二酸化炭素濃度を一定に保つため、窓を開けて外気を取り込むなどの換気が定期的に行なわれず、施設内の湿度が上昇し灰色かび病の発生を招いてしまうことが多いという。同病への対策は、施設内の湿度管理や、摘葉、落葉の除去および発病した部分の除去、殺菌剤の散布などが行われる。また、コナジラミ類の対策は、粘着シートの設置が一般的であるが、天敵であるカメムシの一種が生物農薬として使用されることもある。
 
(4)収穫方法
 生鮮トマトの流通ルートは図7の通りである。

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 収穫は手作業によって行われ、収穫されたトマトはけん引車や自動走行機(工場や大型倉庫などで使用されるような無人の搬送機)によって、生産農場から選果施設まで運搬される。
 包装は生産農場併設の包装施設で行われ、集荷されたトマトは選別や品質検査を経て梱包・出荷される。大規模施設を所有する生産者は生産農場に包装施設を併設している場合があるが、生産者によっては所属組合が出資している包装施設を利用することもある。大手生産者組合は、包装業者や物流業者に出資または子会社化している場合もある。
 
(5)契約方法
 オランダでは、生産者組合に所属する生産者が大半を占めるため、生産者組合と実需者で契約締結することが一般的であり、量販店などの大手実需者とは生産者組合が直接契約によってトマトを出荷していると思われる。かつて、卸売市場は青果物の売買において重要な役割を果たしていたが、量販店の台頭と他国産との競争もあり、同国の小規模生産者は生産者組合の設立と統合を繰り返しながら、大手実需者の需要に対応できるよう変化してきた。なお、米国農務省によると、同国の食品小売産業は、大企業による占有率が高く、市場の約7割は大手4社によって独占されているとのことである。出荷販売契約は、週単位、月単位、年単位とあるが、大手トマト生産者組合や企業と大手量販店間では、安定供給を目的に年単位で契約を結んでいると考えられる。
 
(6)生産者価格
 トマトの2010~19年の平均月別生産者価格は、生産量が減少する12月~翌2月にかけて高値で推移し、収穫が本格的に始まる3~8月は逆に価格が低くなる傾向がある(図8)。なお、種類別に見ると、チェリートマトは、ラウンドトマトやヴァイントマトに比べて価格は高く推移している。  

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 種類別の生産者価格の推移をみると、2016年の冬から2017年の春にかけては、悪天候の影響により南欧のトマト生産が不振であったことが影響し、生産者価格が上昇したと考えられる(図9)。

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(7)今後の生産見通し
 オランダのトマト生産量は緩やかながらも増加傾向で推移しており、2017年以降は90万トンを超えて推移している。ヨーロッパでは健康志向の消費者の増加から、健康に配慮した食品への需要が高まっている。そのため、現代の消費者のライフスタイルに合ったヘタなしミニトマトに代表される利便性の良い商品が売り上げを伸ばしている。また、消費者はさまざまな種類の商品を好む傾向があることから、今後も生産者は多様な品種のトマトを栽培し高付加価値化を進めていくと考えられる。業界内では、より大規模な作付け、ICT(情報通信技術)、最新技術を利用した施設、機器およびシステムへの投資や持続可能な農業への転換が進む見込みであり、こうした膨大な設備投資や国際競争におけるポジションの強化のため今後も生産者間や企業間で統合が進んでいくと考えられる。

【コラム】 施設栽培における気候変動への取り組み

 オランダでは1990年代から施設内の環境を複合的にコントロールするシステムの導入が広まった。トマトの生育環境を人工的にコンピュータでコントロールすることにより、収穫量の増加および周年生産を達成している。人工的な環境制御は、生産性の向上のみならず、投入資源の利用率の効率化やコスト削減の点でも重要な役割を果たしており、農業用水の使用率や廃液の再利用においてもコンピュータによる管理が進んでいる。現在のトマト栽培では、循環型養液栽培が普及しているため廃液は回収され、雨水とともに殺菌後、再利用される(コラム-図1)。オランダの施設園芸向け環境制御システムを製造するメーカーなどによれば、廃液を再利用することにより、農業用水の安定供給や肥料コストの低減につながるという。廃液と雨水の混合および肥料成分の濃度などは数値化されコンピュータによる環境制御システムの一つとして取り込まれている。

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 ワーヘニンゲン大学は施設栽培における廃液の排水量を更に減らす取り組みを行っており、生産者向けに2016年より施設内の廃液排水量を分析するオンラインサービスを提供している(コラム-図2)。同サービスに登録すると、生産者は施設内の農業用水や肥料の使用量、排水タンク、フィルター設備、天気、雨量などに関するデータを入力することが出来る。入力したデータは自動的にコンピュータによって計算され、週毎の廃液の排水量や排水理由などについて分析データを得ることが出来る。同サービスを利用することにより、生産者は自社の施設や環境にあわせてより効率的に農業用水を使用することができ、将来的な排水規制に備えられるとしている。オランダでは2018年より施設園芸栽培から排出される廃水の規制が厳しくなり、廃水に含まれる農薬の95%が除去されなければ排出できない。

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 また、気候変動への対策や産業の持続可能性に関心が高いオランダでは、農業が生み出す環境負荷の低減も追及されている。施設栽培においては、栽培工程で排出される二酸化炭素が温室効果ガスを生み出すとの非難もあり、施設内における二酸化炭素の最大利用、排出量の削減および持続可能エネルギーを使用した発電などが行われている。
 通常、施設内には発電機が設置され、天然ガスを利用し施設内の照明や冷暖房などに必要な電気を賄っている。余剰分は売電され、発電によって排出された二酸化炭素はトマトの成長を促進するため施設内で利用される。ワーヘニンゲン大学は、2010~15年における施設園芸栽培の二酸化炭素排出量は8.1メガトン(注)から5.7メガトンと3割減少したと発表している。同期間で天然ガスに代わり持続可能エネルギーを使用した発電が増え、その中でも地熱発電の利用が48%増加している。大手生産企業の生産者の中には、地熱で暖められた地下水を利用し施設内の暖房を行っているところもある。その他の持続可能性エネルギーには、太陽光やバイオ燃料の利用などがある。
 
注:1メガトンは100万トン。

3 消費動向

(1)国内消費
 オランダは、自国で生産される農産物の多くを近隣諸国の大消費地に輸出しており、トマトも例外ではない。国内で生産されるトマトは主にドイツと英国に輸出されるため、国内外の消費者の嗜好に合わせたトマトを生産・出荷している。ドイツの農業調査会社によると、オランダの1世帯当たりの生鮮トマト消費量は2013年以降約8キログラムと安定しており、ドイツにおいては11~12キログラム、英国においては約10キログラムで推移している(図10)。また、1世帯当たりの生鮮トマトの購入額は、オランダで約22ユーロ(2970円)~28ユーロ(3780円)、ドイツで約33ユーロ(4455円)~36ユーロ(4860円)と増加している一方で、英国は横ばいで推移しており、33ユーロ(4455円)程度である(図11)。このことから、オランダおよびドイツの消費者は、トマトの購入量に変化はないものの、比較的価格の高い生鮮トマトを購入する傾向があることが伺える。

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 オランダを始めとするヨーロッパにおける消費者のトマトの嗜好は共通点が多く、2013年にオランダ、フランスおよびイタリアで実施された調査によると、消費者は好みのトマトを選ぶ際、甘味、酸味、味の濃さおよび食感の四つの要素を重視している。その一方で、甘みと酸味のバランスや食感などは消費者によって好みが分かれるため、さまざまな味や固さの品種を提供することが重要だとしている。また、健康意識の高まりや利便性を求める消費者が増えていることから、ヘタなしミニトマトが人気を得ている。ヘタなしミニトマトはオランダを始めドイツや英国でも需要が高まっており、小腹が空いた時のスナックや子供のランチ用など現代の多忙なライフスタイルを送る消費者のニーズに合っていることが人気の理由の一つである。2018年には、オランダの小売店におけるヘタなしミニトマトの販売額は生鮮トマトの約35%を占めた。ヘタなしミニトマト市場の拡大により、大手生産企業のProminent社は2018年よりヘタなしミニトマトの生産を開始している。
 
(2)販売形態
 オランダの量販店で販売されているトマトは、一般的にプラスチック容器入りのものが多いが、大玉のラウンドトマトはパック詰めされずに量り売りされている場合もある。チェリートマトやヘタなしミニトマトは、消費者の利便性を考慮し蓋の付いたカップ型または小型のバケツタイプでも販売されている。ヴァイントマトは、プラスチック容器または厚紙タイプの容器に詰められプラスチックフィルムで梱包されているタイプも見かけられる。販売容量は約200グラムから大きいもので1キログラム入りのものまで販売されている。近年では、プラスチック廃棄による環境汚染が懸念されていることから、生産組合や企業の中にはネット袋や紙パックの容器を使用し環境に対する配慮をアピールするところもある。

4 輸出入動向

(1)輸出動向
 ヨーロッパには世界有数のトマト生産国が存在し、イタリアやスペインなどのトマト生産量(加工用を含む)はオランダの5~6倍に上る。生産大国が同じヨーロッパ圏内に存在する中で、オランダは生鮮トマトの生産に特化し自国のトマト生産に付加価値をつけることで市場を確立している。前述の通り、同国は、国内の供給が需要を上回るため、生産された生鮮トマトの約6~7割はドイツや英国などの隣国に輸出されている。2010~18年における生鮮トマトの輸出量は2011年以降、100万トンを超えて推移している(図12)。同期間の輸出額は約17億米ドル(1887億円)~20億米ドル(2220億円)の間で推移している。なお、輸出量が生産量よりも多い背景には、自国の生産が落ち込む冬の時期にスペインやモロッコなどから生鮮トマトを輸入し、ヨーロッパ域内に再輸出しているためである。
 輸出先別でみると、輸出量の大半はドイツ(40%)と英国(18%)向けとなっている。その他の輸出先はスウェーデンやイタリア、ポーランド、フランスなどヨーロッパ域内への輸出が大半を占める。

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(2)輸入動向
 2010~18年において、オランダの生鮮トマトの輸入量は18万トン~25万トン、輸入額は約3億米ドル(333億円)~4億米ドル(444億円)である(図13)。2011~13年の間は、輸入量が25万トンまで増加したものの、その後は約23万トン台で推移している。主要輸入先はスペインであり、同国は2018年の全体輸入量の約4割を占めた。また、2013年以降は、モロッコからの輸入が伸びており、2010年に2%であった同国からの輸入量は、2018年には全体の12%を占めている。なお、スペイン産とモロッコ産の生鮮トマトは栽培時期が異なり、冬に出荷されるため、オランダ産トマトと競合せず住み分けができているという。

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(3)輸出企業リスト
 オランダのトマト生産者組合では、販売、物流およびマーケティングなどは組合傘下の事業団体毎に行われている。例えば、生鮮トマトの大手ブランドであるProminentは、Door Cooperativeのブランドであり、組合生産者によって栽培されたProminentブランドのトマトの販売およびマーケティングはDOOR Partners社が行っている。現地の主な大手生産者組合および企業は表7の通りである。

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(4)生産者・生産者組合および輸出業者協会などの情報と役割
 オランダにはトマト生産者協会はないが、農業、畜産、施設園芸生産者を代表するLand-enTuibouwOrganisatie(LTO)や、大手生産者組合によって立ち上げられたFederatie Vruchtgroente Organisaties(FVO)やTomatoworldが存在する。LTOの施設園芸を代表する組織はGlastuinbow Nederlandであり、同組織のメンバー全体でオランダの施設園芸面積の7割を占める。施設園芸に関するロビー活動や、栽培技術におけるイノベーションの促進と普及、業界関係者間の知識共有の場などを提供する役割を担っている。また、FVOは、五つの大手生産者組合によって2015年に設立された団体であり、共同でGLAS4.0というプロジェクトを実施している。同プロジェクトは、最新テクノロジーを施設園芸栽培に導入する取り組みであり、ICT開発企業などと提携し、単収の予測や、気候、収穫などに関する技術の試験導入を行い施設栽培における更なるハイテク化を目指している。TomatoworldはGreencoおよびThe Greeneryが主導となり設立されたトマトの情報・教育センターである。同センターは、南ホラント州にあり、1500平方メートルの敷地でオランダの最新施設園芸技術を利用し80品種のトマトの栽培を行っている(写真1~3)。将来的な世界の食糧問題の解決策としてオランダの最先端のトマト生産技術を紹介する施設内ツアーを実施し、気候変動に適応できる品種の開発や高収量栽培技術、水資源・エネルギーの効率化などについて学ぶことができ、同センターには、世界各国から生産者や政府関係者、民間企業が訪れている。

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(5)政府、関係団体による政策的支援、輸出戦略など
 2011年、オランダ政府はグローバル社会における国内産業の更なる強化を目指し、トップセクターとして九つの分野を特定し研究開発によるイノベーションの創出を支援すると発表した。特定された九つの分野は、農業、食品、水資源、ライフサイエンス・ヘルス、化学、ハイテク、エネルギー、物流、クリエイティブ産業であり、施設園芸も農業分野のトップセクターの一つとなっている。トップセクターの選出に合わせて、産学官でTKI (Top Sector Alliance for Knowledge and Innovation) が立ち上げられ、トップセクターにおけるイノベーションの促進と最新技術の普及を推進している。なお、オランダ政府は表8の事業などを実施しトップセクターを支援している。

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(6)今後の輸出量の見通し
 オランダ国内の生産量は緩やかに増加しているが、1世帯当たりの消費量は増えていないため、今後もドイツや英国を中心とした輸出が伸びると考えられる。しかし、英EUの通商・協力については、2020年12月末の合意において、原産地規則を満たすことを要件に全品目で関税を課さず、関税割当も設けないこととなったものの、新たな輸入検査などが導入されることとなっている。英国はトマトを含めたオランダ産農産物の主要輸出先であり、生鮮トマトにおいては輸出量シェアの18%を占めるため、オランダのトマト生産者の間では非関税障壁による輸出の停滞・減少が懸念されている。
 その一方、ワーヘニンゲン大学によると、英国のEU離脱がオランダ産生鮮トマトの輸出に与える影響は限定的だとしている。同大学が行った調査では、英EU間で合意通りにFTAが発効した場合は農産物の輸出への影響はほとんどないとしているものの、英国国内の生産増加や米国などとの貿易協定の締結を考慮していないため、長期的な輸出への影響は不透明だと思われる。

5 対日輸出動向

(1)日本向けトマト輸出
 オランダ産トマトの日本向け輸出は、生鮮トマトのみとなり、加工トマトは輸出されていない。オランダ産生鮮トマトは2012年から輸出が開始され、同年は約145トンが輸出された(図14)。2012年以降、オランダ産生鮮トマトのシェア(重量ベース)は全体の2%から7%まで伸びており、2019年には最も多い673トンに達した。しかし、輸入業者によると、700トンは他の青果物の輸入量と比較しても微量であり、オランダ産トマトの需要が伸びているというよりは、スポット買いによる輸入であると話している。また、2015年に輸入量が減少した背景には、2015年に害虫であるトマトキバガに対する輸入検疫措置が見直されたことに加え、オランダでトマトキバガの発生が確認されたことなどが考えられる。

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 日本のオランダ産生鮮トマトの輸入量を月別で比較すると、輸入量は7月から増加し9~10月にピークとなる傾向がある(図15)。輸入業者によると、9~10月は国内のトマト生産の端境期にあたり国産トマトの価格が比較的高くなるため、輸入単価の高いオランダ産を仕入れても販売できるとしている。

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(2)輸出の流れ
 オランダで収穫されたトマトは、梱包、配送、空輸による輸出を経て4日後には日本の通関手続きを完了することが出来、早い場合は収穫から5~6日後には、日本国内の小売店の店頭に並んでいる。しかし、トマトは保存期間が葉野菜などと比較して長いため、冬期であれば出荷から2~3週間後に店頭販売されるケースもある。輸入業者によると、仲介業者を挟まず直接量販店に卸している場合や仲卸を通して小売店に販売する場合があるという。
 
(3)主な輸出企業
 日本に輸出しているオランダの大手企業は前述したRedStar社やGreenco生産組合などが挙げられる。RedStar社は、ヴァイントマトとヘタなしミニトマトを中心に生産しており、国内販売と日本向けのほか、ドイツとスウェーデンにも輸出している。Greenco生産者組合はスナック野菜を中心に生産しており、主要ブランドはヘタなしミニトマトのTommiesである。
 
(4)日本国内での利用形態
 オランダ産トマトは、ヘタなしミニトマトの他にも中玉タイプも日本国内で流通している。ヘタなしミニトマトはコンビニエンスストアでも販売されており、プラスチックカップに半円形型の蓋をかぶせて、持ち運びやすい形態になっている。ヘタなしミニトマトは、1口サイズ、ヘタなしなどその利便性の良さが消費者に選ばれる理由となっている(写真4)。

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 日本産トマトは、甘みのあるトマトの需要が高まったことから品種改良が進み、現在では、フルーツトマトに代表される高糖度、濃厚な味わいのトマトが多く流通している。また、近年は国産トマトが海外産とも競合できる価格で出荷されているため、日本国内の量販店は海外産よりも国産トマトを販売する傾向が強い。一方、韓国産やニュージーランド産などの輸入トマトは主に外食産業向けや、コンビニエンスストアのサンドイッチ、サラダパックに使用されている。また、オランダ産のヘタなしミニトマトにおいては、コンビニエンスストアで、1カップ8~10玉程度が入っている容器で販売されている(写真5)。

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(5)今後の対日輸出の見通し
 現在、国内には高品質で海外産生鮮トマトとも競合できる価格の国産トマトが多く流通しているため、海外産の需要は外食産業向けなどに限られている。オランダ産生鮮トマトは輸入価格も高く、国産の生産が少なくなりトマトの価格が上昇する端境期に輸入されているため、オランダ産への需要は限定的だと言える。また、オランダの生産企業も輸出量の1%以下である日本市場に対する興味は低く、今後の輸出が大きく伸びることは予測されにくい。しかし、天候の影響などにより国産トマトの生産量が減少し、輸入品への需要が増加した場合には、オランダからの輸入量も増える可能性があると考えられる。

6 おわりに

 オランダ産生鮮トマトの生産は優良品種の育種や多収技術の普及、コンピュータによる統合環境制御に代表されるスマート農業の拡充もあり増加傾向となっている。輸出においては、英国のEU離脱による影響が懸念材料ではあるが、短期的な影響は限定的だといえる。業界内では、ICTやロボット技術の活用、オートメーション化が促進されると考えられ、栽培においても代替エネルギーの利用や水資源利用の効率化が進みより持続可能な農業へ転換していく見込みである。
 日本国内では国産トマトへの需要が高く、オランダ産トマトの需要は高くないことから、オランダ産トマトは今後もスポット買いによる輸入が続くと考えられる。