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海外情報 野菜情報 2021年5月号

中国産野菜の生産と消費および輸出の動向(第5回:さといも)

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調査情報部

【要約】

 中国産さといもは、日本国内で流通する輸入生鮮および冷凍さといもの99%以上を占め、価格の優位性の他、大きさや形の均一性などから、業務用を中心に広く利用されている。中国産は輸出量の約半分が日本へ仕向けられ、近年は人件費や地代の上昇によるコスト高が課題となっているが、近年の価格は安定的に推移している。

1 はじめに

 中国は、日本の輸入生鮮野菜の66%(令和2年、数量ベース)を占める最大の輸入先国であり、同国の動向は、わが国の野菜需給にも大きく影響を与えるものである。本誌では令和2年9月号から6回にわたり、生産者から流通関係業者、消費者まで広く関心が高い品目を対象に、同国における野菜生産と消費および輸出の最新の動向について報告している。
今回はその第5弾として、主に秋から冬にかけて煮物などに用いられるさといもを取り上げる。さといもは主に生鮮または冷凍野菜として輸入されているが、他の主な輸入野菜に比べ特に中国への依存度が高く、中国産が輸入数量の99%以上を占めている(図1)。本稿では中国の代表的な生産地である山東(さんとう)省での聞き取りを中心とした調査結果について、統計データと併せて報告する。
 なお、本稿中の為替レートは、1中国元=17円(2021年3月末日TTS相場:1中国元=17.14円)を使用した。

2 日本における中国産さといもの位置付け

 日本における令和元年産のさといも作付面積は1万1100ヘクタール(前年比3.5%減)、収穫量は14万400トン(同3.0%減)となっており、近年は生産者の高齢化や家庭における食の変化(時短調理ニーズや食の簡便化など)などの要因により、おおむね減少傾向となっている(図2)。



 前述のとおり、さといもは主に生鮮又は冷凍で輸入され、そのほとんどが中国産である。さといもの輸入量は平成23年以降減少傾向を辿り、26年以降はおおむね3万トン台半ばで推移し、日本の収穫量の3割弱にあたる(図3)。


 
  月別の輸入量を見ると、季節料理として用いられることの多いさといもの需要期である秋冬期に多く輸入されている(図4)。



 輸入単価は、近年、生鮮で東京都中央卸売市場における国内産の平均卸売単価の約3割、冷凍は6割弱の価格でおおむね推移しており、冷凍は皮むきやカット、冷凍工程などの調製に係る加工費が付加される分、価格に反映されているものとみられる。近年、国産価格は若干増加しているものの、輸入単価はほぼ横ばいで安定している(図5)。


 

3 生産動向

(1)中国における主産地と生産概況
 現地の関連機関への聞き取りによると、さといもは中国全土で約10万ヘクタールの作付けがなされており、主産地として山東省、広東(かんとん)省、広西(こうせい)省、湖南(こなん)省、(ふっ)(けん)省、江蘇(こうそ)省、(せっ)(こう)省などが挙げられる(図6、写真1)。


 そのうち山東省の作付面積(令和2年産)は約1万2900ヘクタールと全国の1割強を占め、近年はおおむね1万3000ヘクタール前後で推移しており、大きくは変化していない(図7)。さといも生産者は取引価格にあまり左右されず、毎年一定の作付を行う傾向にあり、単収は1ヘクタール当たり30トン前後で推移している。同省における生産は膠東(こうとう)半島に集中しており、煙台(えんたい)市、青島(ちんたお)市が代表的な産地となっている。特に煙台市は山東省におけるさといもの最大産地とされ、栽培の歴史が最も長い地域とされている。気候が比較的温暖で、日照も多く、腐植に富んだ土壌が広がっていることから、栽培に適した環境となっており、皮が薄く、でん粉および糖分の多いさといもが収穫できると高く評価されている。


(2)主産地の栽培スケジュールおよび栽培品種
 山東省における作型はすべて露地栽培となっている。煙台市は4月上中旬に植え付けを行う一方、やや南に位置する青島市は1カ月早く、3月上中旬には植え付けが行われるのが一般的となっている(表1)。



  山東省で栽培される主な品種は「8520」「白廟(バイ・ミョウ)」「科王(カ・ワン)1号」などが挙げられる(表2)。日本向け専用品種として「石川早生」や「えび芋」なども作付けされている。




(3)栽培コスト
 さといも生産における主要な栽培コストとして、人件費および地代で約8割を占めており、次いで肥料費、種苗費と続く(表3)。
 平成29年産から令和2年産の3年間のコスト増加分は、人件費が480元(8160円、平成29年比22%増)、地代が750元(1万2750円、同比38%増)、肥料費が66元(1122円、同比10%増)、農薬費が7元(119円、同比8%増)となっている。


 このように近年のさといも生産を取り巻く状況として、他の品目と同様に人件費および地代などの主要コストの増加が顕著であり、栽培コストの長期的増加が課題となっている。
 煙台市の生産者によると近年、上昇が続く人件費の低減策として、さといも生産の機械化が進められており、植え付け作業はほとんどが機械化されているものの、収穫作業の機械化は難航しているとのことである(写真2~4)。収穫作業の機械化の障害要因は大きく二つあり、一つ目は栽培方式が多様であり、複雑となる収穫作業への対応が難しいこと、二つ目は、他の作物と同様に収穫時の損傷による歩留まり低下の改善が難しい点が挙げられる。




(4)調製コスト(注)
 冷凍さといもの調製コストのうち、最も多いのは人件費であり、全体の約6割を占めている(表4)。3年間の増減をみると、増加しているのは人件費と管理費であり、その他のコストはほとんど変動していない。人件費は、調製工場の従業員の給与が毎年5~10%ほど上昇している一方、段ボールなどの包装資材費や輸送費では長期契約を締結していることが多く、単価上昇の抑制が図られている。


 さといもの輸出に向けた加工、調製形態は大きく分けて、球形、六角形、未加工(カット加工していない自然形のもの)の3パターンであり、さまざまな用途に対応できる(写真5、6)。輸出割合は球形が多く、全輸出量の7~8割を占める。
注:ここでは、収穫後に輸出向けに整える工程である、冷凍さといもの調製コストについて取り上げる。

 

4 国内販売動向

 近年の山東省で収穫されたさといもの販売先の内訳を見ると、約85%が国内向けとなっており、南方での消費が多く、特に上海市や浙江省へ仕向けられることが多い(図8)。残りの約15%が輸出に仕向けられ、約12%が冷凍さといも、約3%が生鮮さといもとして出荷される。



 さといもは中国国内では主食としてよく消費されるいも類の一つであり、蒸して食べることもあれば、炒め物や揚げ物、煮物などにして食べることもある。伝統的にもなじみのある食品であるため、今後も大きく需要が変化する可能性は低いものと想定される。
 山東省の代表的なさといも産地の一つである青島市にある卸売市場の山東青島東庄頭野菜卸売市場の卸売価格を見ると、近年は2~6.5元(34~111円)で推移しており、最高値は最安値の3倍強となっている(図9、写真7)。山東省のさといもは8月下旬~9月末にかけて収穫期を迎えるため、同時期に価格が低下し、供給量の低下や冬期の輸送コストや保管経費などの増加により、翌年の7月まで緩やかに上昇していく傾向にある。他の作物に比べ、作付規模が安定していることから、年ごとの価格変動も大きくなく、安定している。令和2年前半においては新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、輸出量が減少したことから価格はやや低水準で推移した。



 

5 輸出動向

 中国の税関統計によると、平成23年から令和2年の中国産さといもの年間輸出量は5万~7万トン台で推移し、最大の輸出先として日本が首位を維持している。令和2年の輸出量のうち日本向けは全輸出量の約半分を占め、そのほかベトナムやUAE、サウジアラビアなど東南アジアや中東地域に輸出されている(図10)。輸出企業からの聞き取りによると、主要輸出先国である日本、ベトナム、UAEからの需要は比較的安定しており、長期的な契約が多いため、今後も数年は同様の需要が見込まれている。特に日本は契約数量が多いだけでなく、他国よりも輸出単価が高いため、利益率も高く重要な市場となっている。なお日本の主な取引先である商社との契約は年間契約が主流となっており、1年ごとに単価改定がなされるものの、前述のとおり近年の輸入平均単価は、安定的に推移する状況となっている(図5)。しかしながら、輸出企業においても、前述のとおり調製時の人件費の上昇に加え、栽培に係る主要コストである人件費や地代の上昇傾向は、単価の上昇要因として、大きな課題となっている。



 また、中国には独自のGAP制度として中国良好農業規範 (CHINAGAP)が存在する。山東省莱陽市では大小合わせて300社以上のさといも輸出企業が存在するが、大手企業の数社は毎年必ず1回GAP認証を受け、その他約10社が取引先の要望に応じ不定期で認証取得しているものの、残りの大半の企業は認証を受けておらず、対応余力のある企業との格差が生じている状況にある。

 

6 おわりに

 中国産さといもは日本の生鮮および冷凍さといもの輸入量のほとんど全量を占めており、さといもの輸入先として、中国は他の野菜品目以上に重要な貿易相手国となっている。中国側から見ても、さといもの輸出先の約半分が日本であり、両国は日本のさといも需給においても、相互に補完し合う共存的な存在であると言えよう。
 しかしながら、日本国内のさといも生産は生産者の高齢化などにより、作付規模が減少している。一方、中国産は比較的安価で大きさや形が規格化された商品の調達が可能なため、今後も業務用を中心に安定した需要が見込まれるが、調製時の人件費の上昇を中心とした生産コストの上昇が進んでいる。このように、日中双方とも内容は異なるが不安定要素を抱えており、輸入側から見れば1国への依存度が極めて高い現状には将来的な不安が付きまとう。
 令和2年はCOVID-19の影響により、物流の混乱や輸出企業操業への悪影響や、業務筋を中心とした需要の低下により中国産輸出量が減少するなどの変化が生じており、今後も両国における生産状況に加え、取引単価や生産コストなどの動向、日本の業務筋を中心とした需要の変化など、需給バランスに影響を与える諸事象に対し、引き続き注視が必要な状況にある。