(1)中国における主産地と生産概況
現地の関連機関への聞き取りによると、さといもは中国全土で約10万ヘクタールの作付けがなされており、主産地として山東省、
広東省、
広西省、
湖南省、
福建省、
江蘇省、
浙江省などが挙げられる(図6、写真1)。
そのうち山東省の作付面積(令和2年産)は約1万2900ヘクタールと全国の1割強を占め、近年はおおむね1万3000ヘクタール前後で推移しており、大きくは変化していない(図7)。さといも生産者は取引価格にあまり左右されず、毎年一定の作付を行う傾向にあり、単収は1ヘクタール当たり30トン前後で推移している。同省における生産は
膠東半島に集中しており、
煙台市、
青島市が代表的な産地となっている。特に煙台市は山東省におけるさといもの最大産地とされ、栽培の歴史が最も長い地域とされている。気候が比較的温暖で、日照も多く、腐植に富んだ土壌が広がっていることから、栽培に適した環境となっており、皮が薄く、でん粉および糖分の多いさといもが収穫できると高く評価されている。
(2)主産地の栽培スケジュールおよび栽培品種
山東省における作型はすべて露地栽培となっている。煙台市は4月上中旬に植え付けを行う一方、やや南に位置する青島市は1カ月早く、3月上中旬には植え付けが行われるのが一般的となっている(表1)。
山東省で栽培される主な品種は「8520」「白廟(バイ・ミョウ)」「科王(カ・ワン)1号」などが挙げられる(表2)。日本向け専用品種として「石川早生」や「えび芋」なども作付けされている。
(3)栽培コスト
さといも生産における主要な栽培コストとして、人件費および地代で約8割を占めており、次いで肥料費、種苗費と続く(表3)。
平成29年産から令和2年産の3年間のコスト増加分は、人件費が480元(8160円、平成29年比22%増)、地代が750元(1万2750円、同比38%増)、肥料費が66元(1122円、同比10%増)、農薬費が7元(119円、同比8%増)となっている。
このように近年のさといも生産を取り巻く状況として、他の品目と同様に人件費および地代などの主要コストの増加が顕著であり、栽培コストの長期的増加が課題となっている。
煙台市の生産者によると近年、上昇が続く人件費の低減策として、さといも生産の機械化が進められており、植え付け作業はほとんどが機械化されているものの、収穫作業の機械化は難航しているとのことである(写真2~4)。収穫作業の機械化の障害要因は大きく二つあり、一つ目は栽培方式が多様であり、複雑となる収穫作業への対応が難しいこと、二つ目は、他の作物と同様に収穫時の損傷による歩留まり低下の改善が難しい点が挙げられる。
(4)調製コスト(注)
冷凍さといもの調製コストのうち、最も多いのは人件費であり、全体の約6割を占めている(表4)。3年間の増減をみると、増加しているのは人件費と管理費であり、その他のコストはほとんど変動していない。人件費は、調製工場の従業員の給与が毎年5~10%ほど上昇している一方、段ボールなどの包装資材費や輸送費では長期契約を締結していることが多く、単価上昇の抑制が図られている。
さといもの輸出に向けた加工、調製形態は大きく分けて、球形、六角形、未加工(カット加工していない自然形のもの)の3パターンであり、さまざまな用途に対応できる(写真5、6)。輸出割合は球形が多く、全輸出量の7~8割を占める。
注:ここでは、収穫後に輸出向けに整える工程である、冷凍さといもの調製コストについて取り上げる。