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海外情報(野菜情報 2021年2月号)


カナダにおけるばれいしょの生産および輸出動向

調査情報部


 カナダは世界有数のばれいしょ輸出国である。しかし、輸出量の9割程度を米国向けが占めている現状から、輸出先の多様化が課題となっており、アジア諸国などへの輸出に対する関心も高い。近年は世界中で底堅いばれいしょ需要を背景に、カナダ国内のばれいしょ加工業者が相次いで規模拡大を進めており、ばれいしょ輸出拡大への期待が高まっている。

1 はじめに

カナダはばれいしょの主要生産国の一つであり、FAOSTATによると、2019年の同国のばれいしょ生産量は541万トンと世界全体で第12位となっている(表1)。また、カナダはばれいしょの主要輸出国でもあり、生鮮ばれいしょは第9位、冷凍ばれいしょは第4位と高い輸出力を誇る(表2)。特に、日本において、カナダ産冷凍ばれいしょは外食の業務用などとして一定程度の需要がある。

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今回は、世界および日本のばれいしょ需給において一定の地位を占めるカナダのばれいしょ生産および輸出動向などについて報告する。なお、本稿中の為替レートについては、1カナダドル=82円(2020年12月末のTTS相場)を使用した。

2 生産動向

(1)生産概要

比較的冷涼な気候のカナダでは、ばれいしょ生産が盛んとなっている。同国では、ばれいしょは一般的に春(4月下旬~5月)に植付けが行われ、晩夏から秋(8月~10月下旬)に収穫される。また、貯蔵後、次の収穫期までの7カ月間以上の期間をかけて在庫を消化していくことで、年間を通じて、貯蔵・包装施設から生鮮市場や加工業者への出荷を継続的に行っている。

(2)農家戸数、生産量

カナダ統計局が5年毎に実施する農業センサスによると、2016年のばれいしょ生産農家戸数は、生産者の高齢化による廃業や、小規模で収益性が低い生産者の撤退などにより、前回(2011年)比で318戸減少し、1005戸と引き続き減少傾向で推移している(図1)。

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農家戸数が減少する中、生産量や収穫面積は、天候による影響などを受けて増減を繰り返しながらもおおむね横ばいで推移していることから、ばれいしょ生産の集約化が進展しているとみられる(表3)。

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主なばれいしょ生産州は、東部のプリンス・エドワード・アイランド州およびニューランズウィック州、西部のアルバータ州およびマニトバ州などが挙げられ、2019年はこの上位4州で全体の8割弱のばれいしょが生産されている(図2)。

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最大生産州であるプリンス・エドワード・アイランド州を含む大西洋岸諸州は、多くが低地で構成され、森林資源や海洋資源に恵まれていることから、林業や漁業などが発展している。一方、農地面積が限定されることから、作物生産は他の地域と比べて少なくなっている。しかし、プリンス・エドワード・アイランド州は、赤土の島とも呼ばれており、肥沃な土壌があることや、18世紀に入植したイギリス系移民によって混合農業が行われていたことから、現在も農業が盛んな州となっている。

次いで生産量の多いアルバータ州、マニトバ州は、他の州と比べてばれいしょの単収が高いことが特徴であり、2019年のカナダ全土の平均単収が1ヘクタール当たり34.9トンであるのに対して、それぞれ同42.8トン、同38.7トンと、ともに平均単収を大きく上回っている。これは、ばれいしょ栽培でかんがいが広く利用されていることや、栽培地域の土壌、気候が比較的良好であることなどが要因とみられる写真1

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(3)品種

カナダでは、約150種類のばれいしょの品種が登録されている。このうち最も主要な品種は、米国と同様、ラセットバーバンク種である。同品種の特徴は、比較的多収で長期の貯蔵に向いており、用途としては、ベイクドポテトなどの焼き料理やフライドポテトに最も適しており、マッシュポテトなどの茹で料理にも向いている(表4)。

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(4)生産者価格

ばれいしょの生産者価格は、近年上昇傾向で推移している(図3)。なお、プリンス・エドワード・アイランド州やアルバータ州などの主産地の価格は、カナダ全体より1割程度低い水準となっている。

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(5)ばれいしょ生産をめぐる情勢

ア ドローンを活用したばれいしょ栽培

近年は、ばれいしょ栽培においてドローンの活用が進んでいる(写真2)。事例として、プリンス・エドワード・アイランド州の一部生産者では、可視光線以外にも複数の波長帯を撮影できるマルチスペクトルカメラをドローンに搭載して飛行させ、ばれいしょの作柄を上空から監視している。撮影した画像を用いたリモートセンシング技術では、植物の葉緑素を認識し、葉の色から植物の健康状態を判断する。カナダで利用されているリモートセンシング技術は、ドローンが上空120メートルから撮影したデータからでも、植物の葉の状態を把握することができる。カナダのばれいしょ農家のじょうは広大なため、ドローンの活用により広範囲な栽培管理が可能となり、効率化が図られている。

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イ プリンス・エドワード・アイランド州での農業用水に対する規制

プリンス・エドワード・アイランド州政府は、2002年以降、水資源の持続可能性を確保することを目的に、かんがいに利用するための大容量の農業用井戸の使用を禁止している。この影響により、同州のばれいしょ生産は夏季の降水量が少ない時期の水の供給量が十分ではないことが多く、アルバータ州マニトバ州などと比べて単収が低い傾向にある。こうした状況が今後も続けば、同州のばれいしょ生産は縮小していく可能性が高いとみられている。

ウ 主な病害虫

カナダのばれいしょ生産において問題となる病害虫は、主にジャガイモがんしゅ病菌、ジャガイモシストセンチュウ、ジャガイモシロシストセンチュウなどが挙げられる(表5)。品種によって収量などへの影響の程度が異なる。例えば、ラセットノーコータ種は、ジャガイモがんしゅ病菌の影響を受けやすく、アトランティック種は、ジャガイモシストセンチュウに耐性があるとされている。

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特にジャガイモシストセンチュウ、ジャガイモシロシストセンチュウの発生によるばれいしょ生産への影響は深刻であり、殺線虫剤、宿主作物以外との輪作、抵抗性品種、対抗植物(捕獲植物)などをうまく活用することに加え、ほかの圃場からの土壌の持ち込み、圃場内作業用資材の共有などを最小限に控えるといった徹底した予防措置を執ることが重要とされる。

エ 規模拡大するばれいしょ加工業者

カナダでは、国内外の好調なばれいしょ需要などを背景に、近年相次いで、大手各社が冷凍ばれいしょ加工工場の生産能力の拡張などを進めており、加工用の仕向け割合は増加傾向で推移している(図4)。

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冷凍食品大手のマッケインフーズ社は2017年、6500万カナダドル(53億3000万円)を投資し、ニューブランズウィック州にある工場の生産ラインを3300平方メートル拡張した。また、同年にアルバータ州にあるフライドポテト製造工場の生産能力も15%拡大している。米国に本社を置くシンプロットフーズ社は2019年、4億6000万カナダドル(377億2000万円)を投資し、マニトバ州にある工場の生産ラインを28万平方メートル拡張し、フライドポテトの生産能力を2倍に引き上げた。キャベンディッシュ・ファームズ社は2019年、4億3000万カナダドル(352億6000万円)を投じてアルバータ州に工場を新設し、同社の生産能力を3倍に引き上げた。

なお、増産体制を整える動きが多い一方、マッケインフーズ社は2014年、プリンス・エドワード・アイランド州のばれいしょ生産量の減少傾向に伴う工場の稼働率低下により、同州にあったフライドポテト製造工場を閉鎖している。

3 輸出動向

(1)輸出概況

カナダは、ばれいしょの純輸出国であり、生鮮、冷凍だけでなく、種いもについても世界有数の輸出国である。

カナダのばれいしょ輸出は、海外の底堅い需要を背景に、一定のシェアを維持し、おおむね横ばいで推移している。なお、本稿では、カナダ統計局の整理上、ばれいしょの輸出形態を生鮮、種いも、冷凍、加工の4種類に分類しているが、いずれも米国向けが大半を占めている。

(2)輸出形態別輸出動向

ア 生鮮ばれいしょ

カナダの生鮮ばれいしょ(種いもを除く)の輸出量は、年によって増減はあるものの、40万トン前後で推移している(図5)。2019/20年度は43万8000トンとなり、米国向けが93%を占めた。他には、タイやトリニダード・トバゴなどにも輸出している。

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州別輸出量を見ると、図2の生産量と比べて、種いもやフライドポテトなどの生産が盛んなアルバータ州の割合が少ないものの、比較的偏りがなく、主要生産地から出荷されている(図6)。

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イ 種いも

カナダの種いもの輸出は7~8万トン前後で推移している(図7)。2019/20年度は7万3000トンとなり、米国向けが96%を占めた。他には、タイやウルグアイなどにも輸出している。

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州別輸出量を見ると、アルバータ州の割合が過半を超えており、図2で「その他」に含まれるサスカチュワン州やブリティッシュ・コロンビア州の割合がそれぞれ7%、4%を占めた(図)。

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ウ 冷凍ばれいしょ

カナダの冷凍ばれいしょ(調理済みを含む)輸出量は100万トン前後で推移している(図9)。201920年度は99万8000トンとなり、米国向けが88%を占めた。他には、メキシコ、日本、韓国、台湾などにも輸出している。

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州別輸出量を見ると、マッケインフーズ社などのばれいしょ製品製造工場が多いマニトバ州の割合が大きく、全体の39%を占めた(図10)。

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エ 加工ばれいしょ

加工ばれいしょ(注)の輸出量は6万トン前後で推移している(図11)。2019/20年度は6万2000トンとなり、米国向けが97%を占めた。他には、アルゼンチン、ベルギーなどにも輸出している。

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州別輸出量を見ると、上位2州となったオンタリオ州、ニューブランズウィック州がそれぞれ38%、25%を占めた(図12)。

注:ポテトチップス、ばれいしょでん粉、乾燥ばれいしょなどが含まれる。

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(3)対日輸出動向

日本が輸入するカナダ産ばれいしょのほとんどは冷凍ばれいしょであり、近年継続的に輸入実績があった主なばれいしょ製品は、表6のとおりである。なお、その内の大半はファストフード店や外食産業向けの冷凍フライドポテトだと考えられる。また、日本は表6の2品目について、CPTPP(TPP11)、日EUEPA、日米貿易協定の発効に伴い、カナダを含む主要な対日輸出国に対して同率の関税を課している。協定発効後、段階的に関税率は引き下げられており、2020年12月現在では2.1~4.5%となっている。

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なお、日本は植物防疫法でジャガイモシストセンチュウなどの病害虫が発生している国からの生鮮ばれいしょの輸入を原則として禁じており、カナダからの生鮮ばれいしょおよび種いもの輸入はない。

日本のフライドポテトなどの輸入量は、ファストフード店などの好調な外食需要などを背景に、増加傾向で推移しており、2019年は27万4000トン(前年比2.7%増)となった(図13)。国別に見ると、米国が全体の74%を占め、ベルギー、オランダはともに9%、カナダは5%を占めた。

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味付けされた冷凍ばれいしょは、比較的加工度の高い製品が多いため、日本国内の人手不足や簡便性志向の高まりなども相まって、2年連続で輸入量が増加しており、2019年は9万3000トン(同9.6%増)となった(図14)。国別に見ると、米国が全体の80%を占め、カナダが9%、オランダが6%、ベルギーが3%を占めた。

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なお、輸入価格(CIF)を国別で見ると、カナダ産はその他の主要国産と比べて、価格面での優位性は見られない(図15、16)。

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(4)今後の輸出の見通し

カナダのばれいしょは、輸出量の9割程度を米国向けが占めている現状から、輸出先の多様化が課題となっており、アジア諸国などへの輸出に対する関心も高い。

こうした状況の中、2015年1月に発効したカナダ・韓国FTA、2017年9月に発効したCETA(カナダ・EU包括的貿易投資協定)、2019年1月に発効したCPTPPにより、カナダ産ばれいしょ製品への関税率が撤廃または段階的に引下げられている。世界中での底堅いばれいしょ需要を背景に、カナダ国内のばれいしょ加工業者が規模拡大を進めている中、貿易協定の発効が追い風となり、ばれいしょの輸出拡大への期待が高まっている。

4 消費動向

ばれいしょは、フライドポテトは当然ながら、その他の料理にも広く使われているため、カナダでは食料安全保障に寄与する重要な農産物として位置付けられている。2017年のばれいしょの1人当たりの年間消費量は、カナダが64.6キログラム、米国が56.2キログラムとなっており、米国と比べても1割以上多い水準となっている(図17)。

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カナダでは加工済みばれいしょの80%が外食産業用に仕向けられていると推計されており、いわゆる巣ごもり需要では代替が困難であることから、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が加工済みばれいしょの消費に与える影響は甚大となっている。

5 おわりに

カナダや輸出先の米国において、COVID-19のパンデミックの影響による外食産業の営業停止などを受け、カナダのばれいしょ生産者は大きな影響を受けている。2019年に収穫されたばれいしょが余剰となったことから、2020年の生産量は、今夏の干ばつと相まって減少すると見込まれている。一時は規制を緩和する動きにより、営業が再開されるなどして需給は改善の兆しを見せたものの、感染再拡大などで状況は変化し続けている。

COVID-19の拡大に伴う各種規制により外食産業からの需要が激減したことで、プリンス・エドワード・アイランド州ではばれいしょの在庫が積み上がっていることから、同州政府は2020年4月ばれいしょ生産者や加工業者が負担する輸送費と保管費を補助する目的で470万カナダドル(3億9000万円)を支出する意向を表明している。

一方、COVID-19に伴う規制により、外国からの季節労働者の確保が困難になっている。ばれいしょなど農産物の生産においても季節労働者が果たす役割は大きい。カナダ政府はパンデミックが始まって以降、季節労働者の健康、安全面や農場での感染防止対策の強化のために多額の支出を行っている

このように、過去の動向だけでなく、コロナ禍で一変した世界の経済状況が今後の動向にどのような影響を及ぼすことになるのか、今後のカナダのばれいしょ生産や輸出動向が注目される。




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