調査情報部
2020年9月18日、トランプ大統領と米国農務省(USDA)のパーデュー長官は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)により市場の混乱やコスト増に苦しんでいる農業生産者に対して、最大140億米ドル(1兆4840億円、1米ドル=106円)となる第2弾のコロナウイルス食料支援プログラム(CFAP2)を公表した。
同年5月に公表されたCFAPでは同年4月15日までの損失が支払い対象であったが、CFAP2では4月16日以降も支払い対象と対象期間が更新され、対象となる農作物も拡大した。申請受付期間は、同年9月21日から12月11日までとなっている。CFAP2ではCFAPの直接支払いと同様に、穀物、家畜、野菜や果物、乳製品、水産物、その他の作物を支援するために、商品信用公社(CCC)憲章法とコロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(CARES Act)の財源を使用する。
【対象作物と支払額】
CFAP2の対象作物は次の3種類に分けられる。
1 トリガー価格作物・畜産物
2020年1月13日から1月17日までの期間と7月27日から7月31日までの期間の全米平均価格を比較して、5%以上下落した主な作物および畜産物。
・トウモロコシ、小麦、大豆など
大麦、トウモロコシ、ソルガム、大豆、ひまわり、リクチワタ、小麦に対する支払額は2020年の作付面積に基づいて算出されるが、作付け放棄地や試験的な作付け地は対象外となる。支払額は、以下のうちの大きい方となる。
(1)1エーカー(4047平方メートル)当たり15米ドル(1590円)を対象となる作付面積に乗じた額。
(2)対象となる作付面積に作物ごとの全米の作物売買比率と単位当たり支払額(表1)および2020年の生産履歴(APH)で承認された生産量を乗じた額。APHが利用できない場合、2019年の郡べース農業リスク補償プログラム(ARC-CO)(注)における対象作物の標準収穫量の85%が適用される。
(注)ARC-CO(Agriculture Risk Coverage-County Option):ARCは当該年の生産者の収入が保障水準を下回った場合に、その差の一部を補てんするプログラムであり、COは郡の実収入額が予め設定された額を下回った場合に補償が行われる。
・肉用鶏と卵
肉用鶏の支払額は、2019年の肉用鶏の生産量の75%に1羽当たり1.01米ドル(107.06円)を乗じた額となる。
2020年に飼育を開始した生産者および2019年に生産実績がなかった生産者に対する支払額は、申請時点における2020年の生産量に基づいて算出される。
鶏卵の支払額は、2019年の鶏卵生産量の75%に単位当たり支払額(表2)を乗じた額となる。2020年に飼育を開始した生産者および2019年に生産実績がなかった生産者に対する支払額は、申請時点における2020年の生産量に基づいて算出される。
なお、契約生産により価格リスクを負っていない農家は対象外となる。
・乳製品(牛乳)
牛乳に対する支払額は、以下の(1)と(2)の合計額となる。ただし、2020年9月1日より前に廃業した場合は対象外となる。また、2020年9月1日以降に廃業した場合は、推定生乳生産量は日割りで算出される。
(1)2020年4月1日から8月31日までの期間における実際の生乳生産量に、100ポンド当たり1.2米ドル(同127.2円、1キログラム当たり2.8円)を乗じた額。
(2)2020年9月1日から12月31日までの期間(122日間)の推定生乳生産量(同年4月1日から8月31日までの期間から算出された1日当たりの平均生乳生産量に、122を乗じた値)に、100ポンド当たり1.2米ドル(同127.2円、1キログラム当たり2.8円)を乗じた額。
・家畜(肉用牛、豚および子豚、子羊と羊)
対象となる家畜に対する支払額は、2020年4月16日から8月31日までの期間に生産者が選択した日における最大飼育頭数に対して、商品信用公社(CCC)憲章法の支払い率を乗じた額(肉用牛:1頭当たり55米ドル(5830円)、豚および子豚:1頭当たり23米ドル(2438円)、子羊と羊:1頭当たり27米ドル(2862円))となる。ただし、種畜は対象外である。
2 定額作物
アルファルファ、超長繊維綿、オート麦、ピーナッツ、米、麻、キビ、マスタード、ベニバナ、ゴマ、ライ小麦、菜種などは5%以上の価格下落要件を満たさない作物または価格変動を算出するために利用できるデータがない作物だが、2020年の対象面積に1エーカー当たり15米ドルを乗じた額を受けることができる。
3 売上作物・畜産物
野菜や果物、水産物、苗床作物、花卉、トリガー価格作物および定額作物とならないタバコ、トリガー価格畜産物とならない山羊乳、ミンク(生皮を含む)、モヘア、ウールおよび食品、繊維、毛皮、羽毛などのために飼育されるその他の家畜が対象となる。
支払額は、2019年の売上範囲(5段階)に応じて定められた支払い率に基づいて決定される(表3)。
支払額の例:生産者Aの対象作物における2019年の売上が7万5000米ドル(795万円)であった場合、支払額は、(4万9999米ドル(529万9894円)×10.6%)+(2万5001米ドル(265万106円)×9.9%)=7775米ドル(82万4150円)。
2020年に飼育を開始した生産者および2019年に売上実績がなかった生産者に対する支払額は、申請時点における2020年の売上に基づいて算出される。
生産者が加工や包装などを行った場合、売上のうち付加価値に相当する分は対象外となる。
【受給資格】
1個人または1法人につき全品目合計の支給額の上限は25万米ドル(2650万円)となっている。企業、有限会社、有限組合の申請者は、従業員が農業経営に労働力としてや経営管理に携わっている場合、この上限が増加する可能性がある。また、第1弾および第2弾のCFAPの対象となった信託や不動産が、上限増加に考慮されるようになった。
また、申請者は平均調整総所得(AGI)が90万米ドル(9540万円)未満であることを証明しなければならないが、AGIのうち75%以上が農業、牧場または林業関連の活動からの収入であれば、AGIに関する制限は除外される。さらに、「著しく侵食を受けやすい土地および湿地の保全」に係る規則を遵守していることなどのいくつかの条件が設定されている。
今回の公表に合わせて、パーデュー長官は、「米国農業界は高い回復力を持つとはいえ、COVID-19の大流行により現在も多くの困難に直面している。トランプ大統領は、米国の農家や牧場主が米国の繁栄のために必要な食料、燃料、繊維を生産する事業を継続できるようにするという約束を果たしている。我々は、COVID-19の影響について、農家、牧場主および農業団体の声を受け止め、ニーズに合ったより良いプログラムに改良した。」と述べている。
【参考:新型コロナウイルス関連情報(米国)】
・農務省はコロナウイルス食料支援プログラムの対象農作物を追加(海外情報(令和2年8月21日発))(「野菜情報」2020年10月号「新型コロナウイルス感染症関連の情報」参照)
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002762.html
・米国農務省は新型コロナウイルス感染症の影響を受けている生産者への支援策の詳細を発表(海外情報(令和2年5月26日発))(「野菜情報」2020年7月号「新型コロナウイルス感染症関連の情報」参照)
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002709.html
・米国農務省、新型コロナウイルス感染症に対する農業支援策を発表(海外情報(令和2年4月28日発))(「野菜情報」2020年6月号「新型コロナウイルス感染症関連の情報」参照)
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002685.html
(国際調査グループ)
2020年9月18日に公表された第2弾のコロナウイルス食料支援プログラム(CFAP2)に対する米国の農業団体による主な声明は以下の通り。
・アメリカン・ファーム・ビューロー・フェデレーション(AFBF)のデュバル会長
農家や牧場主は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が米国で流行し始めた時、市場の需要が消滅するという状況を目の当たりにした。現在は食料供給への不安は落ち着いているが、米国の農家や牧場主は経済的な困難に苦しんでいる。COVID-19がいつ収束するのかは誰にも分からず、我々はまだ貿易上の不均衡と悪天候の影響を受け続けている。今回の支援策は、農家や牧場主が生活を維持し、彼らが米国民に食料を提供し続ける頼みの綱である。
・全米肉用牛生産者・ 牛肉協会(NCBA)のイーサン・レーン政府担当責任者
COVID-19の流行により深刻な被害を受けている肉用牛生産者にUSDAが追加支援を提供することを嬉しく思う。初回のCFAPは、COVID-19発生直後の重要な暫定支援として実施された。残念なことに、今春の前例のないサプライチェーンの崩壊と農家全体の経済的混乱によって、肉用牛業界の多くの人々は現在も不安定な状況にある。我々は、全米の農家と牧場主に追加支援を提供するために休む間もなく働いているトランプ大統領、USDAのパーデュー長官そして政府関係者に感謝している。我々は、肉用牛生産者を確実に回復させるための適切な支援が提供されるまで、議会と協力して取り組み続ける。
・全米七面鳥協会(NTF)のジョエル・ブランデンベルガー会長
我々は全米の七面鳥生産者の要望に応えてくれたトランプ大統領とパーデュー長官に感謝している。今回のCFAP2から新たに支援対象として七面鳥が加わったことは、COVID-19による市場の混乱と外食産業による需要の喪失に苦しんでいる七面鳥生産者の困難な状況を認識し、それに応えてくれたものである。CFAP2が始まることを楽しみにしており、今後も七面鳥業界が必要とする支援を提供し続けるように取り組み続ける。
・全米生乳生産者連盟(NMPF)のジム・ムルハン会長兼CEO
CFAP2は、COVID-19の流行による経済的影響に苦しむ多くの家族経営の酪農家を支えることになる。今回の支援策はすべての酪農家の要望に応えるものではないが、今後の秋から冬にかけてのセーフティーネット強化に役立つ。我々は、次のCOVID-19に関する連邦議会の審議において、農業に関する事項を優先することを連邦議員に要請する。サプライチェーンの崩壊と乳製品の日持ちしにくい性質により、特に酪農家は年間を通して損失を被っている。5年間も続いた乳価の低迷に苦しんできた酪農家は、ようやく乳価が回復する兆しがみられていた矢先に、COVID-19による休業状態に見舞われ、今も経営収支の改善に苦労している。また、USDAが今回の支援策で支払い額の上限を撤廃しなかったことは残念である。支払額の上限は、乳価の下落によって深刻な被害を受けている多くの大規模酪農家にとって不公平なものである。
・全米トウモロコシ生産者協会(NCGA)のケビン・ロス会長
2020年は農業にとって厳しい年となっており、我々はこれから収穫の時期を迎えるが、多くの不透明性が残されている。我々は強固な基盤を取り戻すべく全力を尽くしているが、我々だけでは達成できないため、今回の支援策は歓迎すべき一歩である。
今回の新たな支援策について、支援対象となる期間が延長されたことを評価する声が多く、農業団体はおおむね歓迎の意を表しているが、一部では更なる支援を求める声もあり、今後の動向が注目される。
【参考:新型コロナウイルス関連情報(米国)】
・農務省はコロナウイルス食料支援プログラムの対象農作物を追加(海外情報(令和2年8月21日発))(「野菜情報」2020年10月号「新型コロナウイルス感染症関連の情報」参照)
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002762.html
・米国農務省は新型コロナウイルス感染症の影響を受けている生産者への支援策の詳細を発表(海外情報(令和2年5月26日発))(「野菜情報」2020年7月号「新型コロナウイルス感染症関連の情報」参照)
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002709.html
・米国農務省、新型コロナウイルス感染症に対する農業支援策を発表(海外情報(令和2年4月28日発))(「野菜情報」2020年6月号「新型コロナウイルス感染症関連の情報」参照)
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002685.html
(国際調査グループ)
欧州連合(EU)最大の農業生産者団体である欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(COPA-COGECA)(注1)、欧州食品飲料産業連盟(Food Drink Europe)(注2)、欧州農産品貿易連絡委員会(CELCAA)(注3)の三者は連名で9月24日、英EU・自由貿易協定(FTA)交渉が合意できなければ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大で苦しんでいる農家、農産品・食品事業者、貿易業者にとって、壊滅的な結果をもたらすことになると表明した。
三者は、2019年には貿易額が580億ユーロ(7兆3660億円、1ユーロ:127円)となったEUと英国の貿易に役立ち、ビジネスと雇用を支援するための解決法を見出だすよう求めるとともに、EUと英国の間の公平な競争と、EU側の単一市場の完全維持を追求しなければならないとしている。
海を挟んだ英国とEU間の農産品・食品事業者は、2021年1月1日以降の動植物検疫、食品と飼料管理に関する英国の規制制度や、EUの輸出に影響を与えるさらなる要件が見極められない状況に置かれており、移行期間の終了まで4カ月を切った今もなお、質の高いFTAに合意することを期待している。しかしながら、迫り来る困難を考え、50億ユーロ(6350億円)のBREXIT調整準備金(注4)を、農産品・食品部門のために迅速に活用できるようにすることも求めている。
英国側は、9月7日に英EU・FTA交渉に関する声明を発表し、EUとの交渉期限を10月15日までとする一方、欧州側は第8回目の交渉後の声明で、EUは英国の主権を尊重した解決策を見つける柔軟性を示してきたとしている。しかし欧州側は、重視する分野で大きく意見が異なっており、英国が、「公平な競争条件の確保」について拒絶し、「社会、環境、労働、気候に関する規制の維持」について確約を得られていないなど、主要な問題点について取り組んでいないとした上で、2021年1月1日に想定しうるすべての状況に備えるための準備作業を強化しているとも述べている。
(注1)欧州農業組織委員会・欧州農業協同組合委員会(COPA-COGECA)とは、EU加盟国の2300万人以上の農業生産者によって構成されるCopa(欧州農業組織委員会)および2万2000の農業共同組合により構成されるCogeca(欧州農業協同組合委員会)により組織されたEU最大の農業生産者団体。CopaおよびCogecaは、独立した組織であるものの、両者は共同で事務局を設置し、主にロビー活動を行っている。
(注2)欧州食品飲料産業連盟(Food Drink Europe)とは、EU加盟国の29万4000社の事業者と470万人の労働者で構成されるEU最大の食品製造業団体。取引量はEU全農産物の70%を占める。
(注3)欧州農産品貿易連絡委員会(CELCAA)とは、EU加盟国の3万5000社の農産物貿易事業者で構成されるEU団体。穀物、飼料、砂糖、ワイン、食肉、乳製品、青果物、卵、香辛料、切り花などの農産物を対象としている。
(注4)欧州理事会で2020年7月21日、EUの次期中期予算計画である2021年~27年の多年次財政枠組み(MFF)に併せてMFFの枠外で合意された、英国のEU離脱により不測の悪影響を受けた加盟国や分野に対処するための準備金。詳細は今後欧州委員会において検討されることとなっている。
(参考) 「EU農産物・食品飲料団体ら、英EU・FTA交渉が難航していることにリスクが高まっていると懸念を表明。「合意なし」の場合、移行期間の延長、代替案の措置を要求(海外情報(令和2年6月11日発))(「野菜情報」2020年8月号「新型コロナウイルス感染症関連の情報」参照)
https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002724.html
(国際調査グループ 小林 智也)