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海外情報(野菜情報 2020年12月号)


ベトナムにおけるキャベツの生産および輸出動向

調査情報部


 ベトナムは、気候区分でみると大部分が熱帯および亜熱帯に属するため、温度管理の観点から、主に冬期や高地などの冷涼な環境下で、キャベツ生産が行われている。国内では、生産者と仲買人との力関係やベトGAP(VietGAP)の普及など、生産面での課題があり、日本向け輸出は日本などの需給状況により大きく変動するものの、チャイナ・プラスワンとしての存在感を高めていることから、今後の動向を注視する必要がある。

1 はじめに

ベトナムは南北に約1600キロメートルと長い国土を有し、地域によって気候が異なる。北部に位置するハノイを含む紅河デルタ地域には、四季とともに雨季(5~10月)と乾季(11~翌4月)があり、雨季は高温多湿で平均気温が30度近くまで上昇するが、乾季の平均気温は、20度前後と年間の気候変動の差が大きい。一方、南部に位置するホーチミン市とその南のメコンデルタ地帯は、熱帯モンスーン気候に属し、年間を通して最高気温30度以上、最低気温25度前後の日が多い常夏の気候である。また、ダラット高原を含む中部高原地域は、標高1500メートル程度の高地にあり、年間を通じて平均気温が19度前後と安定している。加えて日照時間も長く、温度、日照量ともに野菜の生育に適した地域であり、当地域で生産される野菜はホーチミン市、ハノイ市など国内大消費地のほか、ホイアンやニャチャン周辺の国際的観光地の宿泊施設や飲食店舗などに仕向けられる一方、当地域の輸出向けの野菜の多くが日本向けとなっていることが特徴として挙げられる。

ベトナム産野菜の最大の輸出相手国は隣国の中国であり、日本や韓国、マレーシア、台湾といった近隣のアジア地域への輸出も多い(2018年数量ベース、図1)。一方で、日本の輸入生鮮野菜におけるベトナムのシェアは、生鮮野菜全体では1%未満と小さいものの、ながいもは61.5%、冷凍かんしょは54.5%のほか、シャロットでは4.9%、キャベツでは4.0%と、根菜を中心に特定の品目で主要な輸入先となっている。ベトナム産のながいも、かんしょの輸出先として日本は主要な相手である(2019年数量ベース、図2、3)。

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本稿では日本の需給に影響を与える可能性のあるベトナム産野菜の中で、日本における一世帯当たりの購入数量が主要な野菜のうち最も多い品目であるキャベツを取り上げる。

なお、本稿中の為替レートは、100ベトナムドン=0.45円(2020年10月末日参考相場1ベトナムドン=0.0045円)を使用した。

2 生産動向

(1)生産概要

キャベツは、冷涼な気候での栽培に適した作物であり、発芽適温は2025度、生育適温は15~20度とされ、生育期間は~4カ月程度である。そのため、北部および中央部高地など冷涼な地域を中心に、冬期を中心に初夏ごろまで作付されている(図4)。なお一部地域で夏期作付けされているが、夏期は特に病害虫対策が必要となることもあり、あまり一般的ではない。また、大部分が亜熱帯から熱帯に属するベトナムでは、雨季と乾季が存在し、季節により降水量が異なる。キャベツは一般に適応力が高く栽培しやすい作物とされているが、土壌水分要求量が高いため乾季においては、かん水施設が必要となる一方で過湿に弱く、畝立てなどのじょうの排水性を確保することが必要である(写真1)。

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品種は在来品種だけでなく、日本から持ち込まれた品種もあり、極早生品種の将軍など、F1品種が多く作付けされている。

近年のキャベツの作付面積はおよそ3万5000ヘクタール、収穫量はおよそ90万トンでそれぞれ推移している(図5)。作付面積、収穫量ともに2016年、2017年と2年連続で増加していたものの、2018年は減少に転じた。単収は2014年から2017年までは10アール当たり2.5トンから2.7トン程度で推移していたものの、2018年にはやや減少して10アール当たり2.4トンとなった。

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(2)生産コスト

過去5カ年における生産コストの推移をみると、最も大きいのは人件費であり、次いで肥料代および苗代が同水準で推移し、農薬代が最も少なくなっている。物価上昇の影響を受け、全費用ともにおおむね増加傾向で推移している(図6)。

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(3)主な病害虫とその対策

高温多湿な栽培環境となりやすいベトナムにおいても、日本と同様の病害虫が栽培上の問題となっている。以下に代表的なものを示す。

ア. コナガ

チョウ目昆虫で幼虫が葉を食害する。一般的な害虫で時期を問わず一年を通して発生し、被害も大きい害虫である。対策としては他作物との輪作や前作物の植物片などの残留物除去、周辺の雑草管理などが挙げられる。農薬散布による殺虫も行われるが、幼虫の発生密度が一定に達しないと農薬を使用しないなど、農薬散布の使用基準がある。この他、寄生バチやBT剤などの生物農薬(注1)も使用されている。

注1:病原微生物や天敵昆虫を利用したり、害虫の雌が放出する臭い物質であるフェロモンを利用したり、生物の代謝産物を活用したりして、病害虫、雑草を防除しようとすることを生物的防除法と呼び、これに用いる生物素材を生物農薬という。寄生バチとは、ハチ目の昆虫で、幼虫は寄生生活を行う。多くの場合、親バチが奇主に直接産卵し、孵化した幼虫は奇主の体を食して成長する。また、BT剤とは、Bacillus thuringiensisという土壌細菌およびこの細菌が産生する殺虫性結晶たんぱく質であり、このたんぱく質は特定の昆虫に選択的毒性を示す。

イ. ヨトウ

チョウ目昆虫で、幼虫が葉を食害する。幼虫は夜行性で日中は土壌中や株元に隠れているため、発見が遅れ、被害が大きくなることがある。

ウ. 黒腐病

細菌性の病気で、葉の周縁部からV字形に黄変するとともに葉脈が黒く変色する。病変部はやがて拡大し、感染した葉は枯死する。病原性細菌は土壌中に存在し、雨滴の跳ね上げなどによりキャベツへ感染する。対策としては感染した植物片は除去し、輪作を行うことが有効である。塩基性硫酸銅を有効成分として含む農薬の使用が有効である。

エ. 軟腐病

細菌性の病気で、地上付近の新しく柔らかい葉から感染することが多い。病斑部は、はじめに水浸状となり、その後病斑が拡大していく(写真2)。腐敗が進むと特有の悪臭を発生する。畝立てを行うなど圃場の排水性を確保する、施肥過剰に注意する、輪作を行うなどの対策が有効である。また、塩基性硫酸銅や、カスガマイシン、オキソリン酸などの抗生物質を有効成分として含む農薬の使用が有効である。

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ベトナムでも、適時適切な農薬使用、排水性確保、輪作、前作の植物片の除去、生物農薬、フェロモントラップの使用など、利用可能なすべての防除技術を利用し、経済性を考慮しつつ、適切な手段を総合的に講じる総合的病害虫管理を取り入れている。

(4)収穫作業

収穫作業の工程はその後の仕向け先により異なる。収穫後、市場へ出荷する場合は収穫後の工程は少なく、ほぼ収穫したままの状態で販売されることが多い(写真3)。一方、スーパーマーケットで販売される場合や輸出に仕向けられる場合は、調製作業や包装作業が行われる。特に輸出向けの場合は、調製作業がより複雑となり、トリミングなどの整形、洗浄、乾燥を経て輸出される。

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(5)流通構造

ベトナムの野菜の流通の主な経路は、仲買人による生産者からの直接買い取りである(写真4、5)。このほかに、協同組合や企業を通して仲買人やスーパーマーケットへ販売される場合や輸出される場合もある(図7、写真6)。ベトナムの野菜流通において主導権を握っているのは主にミドルマンと呼ばれる仲買人であり、仲買人が生産資材の調達費用の貸付を行い、集荷、卸販売といった流通で強い影響力を持っており、生産者の立場は弱い傾向にある。生産者から仲買人への販売価格は、小売価格の70~80%程度と言われている。

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また、大口の販売であれば、あらかじめ契約を結んだ販売となり、中でも、工場や病院、学校などの安定的な需要が見込める組織との契約においては、圃場単位による一括納入を行う場合もある(表1)。一般的な大口契約の場合、土壌調査や水質調査など圃場全体の調査が行われるのに加え、必要とされる生産水準を満たしているかどうかの確認も併せて行われることが多く、また、2008年にベトナム農業農村開発省が定めた農業生産工程管理(ベトGAP:VietGAP(注2))の導入が必要とされることが多い(写真7)。その一方で、生産者個人が仲買人へ販売する場合には、契約を結ばずに販売することがあり、一般の生産者にはベトGAPはまだ普及していない状況である。

注2:ベトナム農業生産工程管理(VietGAP)とは、農業において、食品安全、環境保全、労働安全などの持続的可能性を確保するための適正生産工程管理の取り組みのことで、ベトナム独自のGAP制度である。ベトナムでは、作物の安全性に関する関心の高まりや国際的なGAPの重要性の認識の高まりを背景に、2008年にベトナム農業生産工程管理(VietGAP)が制定され、普及、振興が推し進められている。制定当時のVietGAPは管理点が複雑で、認証費用負担も大きく、普及が進まないとの懸念から、国土全域にGAPの理念と技術を早期に浸透させることを目指して、2017年に現状に即した見直しが行われ、より運用しやすいGAP制度へと改善が図られた。

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3 国内販売動向および貿易動向

過去5カ年におけるベトナム国内の小売販売価格は、1キログラム当たりおよそ8000~1万4000ベトナムドン(36~63円)、卸売価格は、およそ50008000ベトナムドン(2336円)でそれぞれ推移している(図8)。月別でみると、小売販売価格は、出荷前半の9月から12月は、同1万2000ベトナムドン(54円)程度で推移している。また卸売価格は、出荷前半の9月から12月は、同80009000ベトナムドン(3641円)で推移し、1月と3月は価格水準が少し下がる(図9)。価格間の差を見ると、小売価格は卸売価格のおよそ1.5倍から2倍前後となっている。

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ベトナム国内では、キャベツは、北部を中心に冬期に日常的に消費されるが、南部では一般にあまり消費されない傾向にある。また、消費者による安全性や品質への懸念も残っていることから、基本的に生食はせずに鍋やスープなどの加熱調理により消費される。

輸出動向を見ると、多い年(2016年)で1万7000トン程度、少ない年(2014年)で4000トン程度と、年によりバラツキがあるもの、直近2年間は1万トン程度となっている(図10)。輸出先は台湾を含むその他アジア地域が最も多く、全体の8割程度を占める。台湾では、台風の襲来が多くなる夏場を中心に、リスク分散などの観点から、ベトナムからキャベツを輸入している。台湾を中心に、近隣国である日本と韓国を加えた3カ国へは基本的に毎年出荷されてはいるものの、年による輸出量の変動が大きく、その他の輸出先は年によって大きく異なっている。また、日本への輸出量は2018年に大きく伸びているが、これは日本国内産のキャベツが天候不順の影響により不作となり、春先を中心に高値で推移していたことから、業務用を中心に輸入物への需要が高まったためである(図11)。このように、台湾をはじめとするアジア地域を中心に、ある程度輸出先は安定しているものの、輸出量はその年の各国の需給状況により大きく変動している。

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4 おわりに

ベトナム産キャベツは、ダラット高原などの高地の冷涼な気候を利用したキャベツ生産が行われており、潜在的なキャベツ供給産地としての可能性を有していると言える。ベトナムではベトGAPによる生産管理に取り組むことで、高品質なキャベツの輸出に努めているものの、一般的な普及は道半ばの状況にあり、また、台湾や日本などの近隣国へ、毎年一定規模で輸出されているものの、各国の需給状況に大きく左右される状況にあり、安定性に欠けるとも言えるだろう。同国では、生産者と仲買人との力関係やベトGAPの普及など、依然として生産におけるさまざまな課題も残されており、ベトナム産キャベツがこれらの課題を解決して安定的な供給源となれるのかどうかは、生産コストが増加基調にある中で、病害虫発生への対策とともに、ベトGAPなどによる生産管理手法の浸透により、安定した生産を確保・実現できるかがカギになると思われる。

経済発展の著しいベトナムは、時として各種規制が大きく変更される中国産輸入の安全弁の役割を果たしつつ、今後もチャイナ・プラスワンのうちの1カ国としての存在感を増していくと思われるなか、政府が生産現場と一体となって、輸出に向けた安定供給に努めていくのか、同国における野菜生産の展開について注視する必要がある。




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