調査情報部
米国労働省労働統計局(BLS)が毎月公表する消費者物価指数(CPI)(注1)は近年、食品、非食品ともに多くの月において前年同月を上回っており、消費者の購入価格(消費者段階での物価)は上昇し続けている。こうした状況の中、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的な感染拡大で米国民の消費生活に影響が出始めた2020年3月以降、同年8月現在まで、総合(非食品含む)のCPIは引き続き前年同月を上回ったものの、上昇率は大きく鈍化した(図1)。鈍化した要因としては、非食品が4月、5月に下落に転じたことが挙げられる。非食品の中でも、ガソリンやアパレル関連の価格は大きく下落し、底となった5月のCPIはそれぞれ前年同月比33.8%、同7.9%の下落となった。
非食品が下落に転じた一方、食品のCPIは、COVID-19流行以前は同2%程度で推移していた中で4月以降は急上昇し、ピーク時の6月は同4.5%の上昇となった。これは、COVID-19で生じたサプライチェーンの混乱による一部農産物の卸値の上昇や、家庭内での食事機会の増加を背景とした小売の需要増などが要因とみられ、消費者の負担が増加している。
食品の内訳を見ると、3月まで同1%弱で推移していた家庭内(小売など)は、6月には同5.6%まで上昇した。一方、同3%程度と比較的高めに推移していた外食(持ち帰り、宅配を含む)は、4月以降、緩やかながら上昇基調となっているものの、家庭内を下回っており、外食のCPIへの影響は家庭内と比べて小さいものとなっている(図2)。要因としては、食品・メニュー価格に占める原料農産物の割合(注2)が外食のほうが家庭内より小さいことや(図3)、外出制限による外食需要の減少などが挙げられる。
(注1)消費者物価指数(CPI)とは、消費者が購入する商品(財やサービス)について、基準年を100とした場合の価格指数のことをいい、物価の変化を総合的かつ客観的に表したものである。なお、本調査は、品目によって基準年が異なることなどから、本稿の本文や図では前年同月比を用いている。
(注2)価格に占める原料農産物の割合は、家庭内の食品価格や外食の料理メニュー価格に占める農家による農産物出荷時の農産物の価値の割合をいい、出荷後から消費までに係る流通段階(輸送、卸売、外食店や小売店での人件費など)での付加価値を含まない。
外食の業態別のCPIの動向を見ると、レストランは、2020年4月に大きく鈍化したものの、前年同月を上回って推移している。一方、持ち帰りが比較的好調なファストフードは、同年3月以降上昇し続け、4月以降はレストランを上回って推移し、8月は前年同月比4.8%上昇した(図4)。
(参考)「外食支出額、2019年は過去最高も2020年2月以降急落(米国)(海外情報2020年6月9日発)」(「野菜情報」2020年8月号「新型コロナウイルス感染症関連の情報」参照)(https://www.alic.go.jp/chosa-c/joho01_002719.html)
(国際調査グループ 河村 侑紀)
米国労働省労働統計局(BLS)が毎月公表する消費者物価指数(CPI)(注)のうち肉類・鶏卵は、いずれの品目も卸売価格におおむね連動し、2020年4月以降、前年同月比で大きく上昇している(図1)。特に、牛肉・子牛肉は、卸売価格の一時的な急騰が小売価格に転嫁されたことから、ピーク時の6月は同25.1%の上昇となった。8月は同9.6%の上昇と、上昇率は低下したものの、依然として高水準となっている。また、鶏卵については、米国内外の旺盛な需要などを背景に、長年大きく変動して推移している。
(注) 消費者物価指数(CPI)とは、消費者が購入する商品(財やサービス)について、基準年を100とした場合の価格指数のことをいい、物価の変化を総合的かつ客観的に表したものである。なお、本調査は、品目によって基準年が異なることなどから、本稿の本文や図では前年同月比を用いている。
牛乳・乳製品を見ると、2019年以降、いずれの品目も上昇基調となっている(図2)。2020年4月以降、コロナ禍におけるサプライチェーンの混乱により、乳価や卸売価格の乱高下が見られたものの、CPIの変動は牛肉や鶏卵と比べると小さいものとなった。
生鮮野菜を見ると、2019年は、栽培面積の減少や好調な需要などにより、多くの品目でおおむね前年を上回って推移した(図3)。2020年4月以降、フライドポテトに生産量の約3分の1が仕向けられるばれいしょや、レタス、トマトなどサンドイッチ、サブメニュー(サラダなどメイン料理に付随する料理)向けなどの外食需要が多い品目は、外出制限に伴う消費低迷が懸念されたが、小売需要が増加したことなどから、上昇基調で推移している。
砂糖および人工甘味料を見ると、天候不順に伴い、てん菜糖、甘しゃ糖ともに生産量が減少したことなどから、2019年7月以降、前年同月を上回っており、2020年5月には前年同月比9.0%上昇したものの、8月には同6.0%の上昇と、ピーク時と比べて落ち着きつつある(図4)。これは、コロナ禍において、小売需要へのシフトによる小袋の出荷が増加したものの、食品メーカーや外食店への大袋や液糖の大口出荷の減少分を相殺できるほどではなかったことが一因と考えられる。
(国際調査グループ 河村 侑紀)
英国政府は9月4日、8月に実施した食事代の半額を補助する外食支援策(Eat Out to Help Out Scheme)が1億食以上に利用されたことを発表した。
今回の外食支援策は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響を受けた飲食業界を支援する目的で実施された。
支援内容は、以下の通りである。
・対 象:8月3日から8月31日の月曜日から水曜日に、支援策に参加するレストランなどで行った飲食(持ち帰りやアルコール飲料を除く)
・補助率:対象となる食事代の最大50%(1回の食事につき1人当たり上限10ポンド(1420円:1ポンド=142円))
・補助回数:期間中であれば何度でも利用可
・最低利用額などの制限:なし
・補助の仕組み:利用客がレストランで食事をした際に、自動的に食事代から割り引かれ、レストラン側が食事代から割り引いた金額を政府に請求する
リシ・スーナック財務大臣は、この支援策は、サービス産業で働く180万人の生活を守り、COVID-19からの経済回復に役立ったとしている。
最新のデータによれば、週を追うごとに利用は増加し、8月末までの間にレストランの予約数が大幅に増加した。8月31日までに、当初の予想を上回る延べ1億食を超える利用があった。支援策に参加した8万4700軒のレストランからの割引額に対する補助申請件数は13万件となり、その金額は5億2200万ポンド(741億2400万円)となった。英国政府は、多くの人々が外食することで、経済を後押しし、より多くの雇用が確保されたことを意味していると述べている。なお、レストランなどからの補助申請は9月末まで受け付けているため、これらの数字は増加する可能性があるとしている。
また、リシ・スーナック財務大臣は以下のようにコメントしている。
・当初から雇用を守ることが我々の使命であり、そのためには前例のない創造的な取り組みに思い切って挑戦する必要があった。
・今回のデータは、外食支援策が成功していることを示している。私は外食支援策を受け入れ、景気回復を後押ししてくれたレストラン関係者や食事に出掛けた全ての人に感謝したいと思う。
・この支援策は、「雇用のための計画」の一部に過ぎず、我々は、再び強い国家となることを保証するために雇用を保護し、支援し、創出していく。
なお、プレスリリースによれば、レストランの予約は、前年の同じ曜日と比較して、8月全体を通して月曜日、火曜日、水曜日に平均で53%増加した。7月のレストラン予約は、前年と比較して、月曜日から水曜日の平均で54%減少していた。支援策の最終日である8月31日には、前年同日と比較して、予約件数は216%増加した。また、支援策が終了したにもかかわらず、9月1日の火曜日のレストラン予約は2019年の同じ条件の日と比較して2%増加し、需要を押し上げ続けていることが初期の兆候として現れているとしている。
この支援策は英国全体で実施されており、1週目に合計で1050万食、2週目に3500万食、3週目に6400万食と利用は増加し、8月31日までに延べ1億食に利用された。
一方、現地報道によると、実施前には、外食が出来る裕福な人々へのご褒美となりがちになるとの予測や、ジャンクフードを奨励することとなるとする指摘も聞かれた。また、実施期間中には、ソーシャルディスタンスの必要性や需要増加に対処する店員に対するクレームの増加を原因とした外食支援策への参加取りやめや、週初めに来客が集中することで週末の取引の損失を心配する声もあった。
(国際調査グループ 小林 智也)