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海外情報(野菜情報 2020年9月号)


中国産野菜の生産と消費および輸出の動向 (第1回:にんにく)

調査情報部


 中国は、日本における輸入生鮮野菜の65%(平成31年(令和元年)数量ベース)を占めるなど、主要な輸入元の一つとなっている。中でも、にんにくは生鮮輸入量の9割以上を中国産が占めており、同国の状況は国内の需給に大きな影響を与える。現地の野菜生産者などに対する聞き取りなどによれば、近年、中国産にんにくは人件費高騰を主要因として、生産および調製コストが増加しているとのことで、引き続きその動向を注視していく必要がある。

1 はじめに

中国産野菜は、日本の輸入生鮮野菜の65%(平成31年(令和元年)数量ベース)を占めており、主要輸入先国として大きな存在である中国の野菜需給の動向は、わが国の野菜需給にも大きく影響を与えるものである。そこで本誌においては今後6回にわたり、生産者から流通関係業者、消費者まで広く関心を寄せている同国における野菜生産と消費および輸出の最新の動向について、報告していくこととする。

本稿は第1回として、残暑の折、滋養強壮効果の高いにんにくを取り上げる。中国産にんにくは、日本の輸入にんにくの9割以上を占め、手軽に利用できるものとして広く消費者に知られているが、本稿では主産地であるさんとう省での聞き取りを中心に調査した結果について、統計データと併せて報告する。

なお、本稿中の為替レートは、1中国元=15.3円、1米ドル=105.6円、(2020年7月末日TTS相場)を使用した。

2 日本における中国産にんにくの位置付け

平成30年産(平成29年に植付け、30年に収穫したもの)の日本のにんにくの作付面積は2470ヘクタール(前年比1.6%増)、収穫量は2万200トン(同2.4%減)と、作付面積はわずかに増加傾向であるものの、主産地における単収の低迷などに起因して、収穫量はわずかに減少傾向にある(図1)。一方で、平成31年(令和元年)の生鮮にんにく(注)の輸入量は2万2319トン(同2.1%増)と、26年から6年連続で前年を上回り、国産にんにくの収穫量を上回る状況となっている(図2)。

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平成31年(令和元年)の生鮮にんにくの輸入量のうち、9割以上が中国産で、次いでスペイン産となり、この2カ国で全輸入量の98%以上を占めている。中国産の月別の輸入量は1370トンから2130トンの幅で変動し、7月を中心に夏季に多い傾向にある。輸入単価は1キログラム当たり180~250円の間で変動しており、8月までは上昇基調にあったものの、9月を境に値を下げ、以降はおおむね横ばいであった(図3)。

注:スライス加工したものやにんにくの芽なども含み、後述の中国税関統計のデータとは異なる。

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3 生産動向

(1)中国における主産地と生産概況

中国産にんにくの令和2の作付面積は43万ヘクタールで、前年比約6%増となった。主産地は山東省、なん省、こう省で、この3省で30万ヘクタールと中国全体の7割程度を占めている。その他代表的な産地としてほく省、せん省、うんなん省、こう西せいチワン族自治区などが挙げられ、国内の幅広い地域で栽培されている(図4)。

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同年の山東省の作付面積を見ると、18万7000ヘクタール(前年比20%増)と前年を大幅に上回る作付けとなった。これは、①平成30年産の作付面積の拡大による収穫量の増加により、にんにく価格が低迷したこれが農家の栽培意欲の低下を招き、平成31年(令和元年)産の作付面積は前年比で23%減少したその結果、同年産の収穫量は大幅に減少(前年比24%減)し、価格が反騰したこれを受け、令和2年産の農家の作付意欲が高まった―ためである。また、同省の令和2年産の収穫量は、同21%増の285万トンと大幅に増加した(図5)。

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(2)主産地の栽培スケジュールおよび栽培品種

山東省の気候はにんにく栽培に適しており、作柄は良好で、平成29年産以降、1ヘクタール当たり15トン台の単収を維持できている。

山東省の中でも主産地の一つであり、輸出向けにんにくの過半を占めるきんごう県での一般的な栽培スケジュールは、9月中下旬にじょうへの植え付けを行い、圃場で越冬し、翌年6月に収穫するというサイクルとなっており、植え付けから8カ月で収穫となる(図6)。これは日本の主産地である青森県とおおむね同様の栽培スケジュールとなっている。

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金郷県での主な栽培品種は3品種あり、「金蒜3号」「金蒜4号」「金育3号」である。うち、金蒜3号金蒜4号は10年ほど前から栽培されており、この2品種で金郷県でのにんにく作付面積の75%以上を占める。金育3号は現在、普及を目指して作付けを推奨している品種である(表1)。

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山東省の中のもう一つの主産地であるらんりょう県での主な栽培品種は「蒲棵」「糙蒜」「高脚子」があり、蒲棵は蘭陵県でのにんにく作付面積の80%以上を占める。この3品種は共通してにんにくの芽の単収が高いという特徴を持つ(表1)。

(3)生産コスト

にんにくの主要生産コストは地代と人件費であり、令和2ではこの二つで生産コスト全体の60%以上を占める。近年、地代および人件費の上昇が生産者の収益を圧迫しており、生産意欲の減退を招いている。山東省農業庁種植業管理処によると、近年の山東省主産地における地代の上昇幅は1年につき10アール当たり75元(1125円)から150元(2250円)である。また、人件費は平成29年産の1日1人当たり220元(3300円)から令和2年産の300元(4500円)まで上昇し、人件費はコスト全体の3分の1を占めるまでに膨らんでいる(表2)。また、農村部における若手労働力の都市部への流出が原因で、農村での労働力不足がますます深刻になっている。現在、雇用されている農業労働者は、45歳から60歳の女性が中心であるが、一部の大規模生産者は収穫期の労働力確保に苦労しており、収穫作業の遅れなどの悪影響が出た生産者もいたとのことである。このほかの生産コストは肥料費、種苗費、農機具費などに区分される(詳細は表2の通り)。

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4 国内販売動向

主産地である山東省で生産されたにんにくの約半分は国内向けに出荷され、残りの半分が輸出向けに出荷される(図7)。平成31年(令和元年)産は国内向け出荷量の約45%が北京および天津地区に出荷され、約30%は東北地方や南方の大都市へ出荷、残りの約25%は山東省内で販売された。特ににんにくチップスは国内外で需要が伸びているようで、国内消費量は年間10万トン強、輸出数量は年間20万トン強まで増加していると推定されている。

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山東省寿光市にある卸売市場の寿光農産品物流園の卸売価格を見ると、春に下がり、冬に向けて上昇傾向で推移することが多い。平成28年以降の年間で、1キログラム当たり1.87元(28円)から11.94元(179円)の間で推移しており、最高価格と最低価格との価格差は6.4倍である。平成31年(令和元年)産の作付面積が少なかったために年は高値で推移していたところであるが、令和2年は、春節(令和2年は1月末)による需要増に向けて買いだめが行われた上、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行したことで物流網が混乱したこともあり、令和2年2月まで高値が続いた。その後、交通規制の緩和に伴い、物流が回復したため供給量が増えた一方、COVID-19流行の影響による飲食業界の需要減により価格は急激に下落し、平成29年の水準にまで低下した(図8)。

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5 輸出動向

中国から輸出されるにんにくの形態は生鮮にんにく、乾燥にんにく(にんにくチップス)、冷凍にんにく、塩水または酢などにより漬物にした調整にんにくの5種に大別される。内訳を見ると、平成31年(令和元年)の輸出量は、生鮮にんにくが167万トン、乾燥にんにくは18万トンで、それぞれ総輸出量の89%、10%を占める(図9)。同年の生鮮にんにく輸出量は前年比6.7%減となったが、コスト増に伴う単価上昇により、輸出金額は18.3億米ドル(1939億8000万円)と前年比43.5%増となった。

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中国の輸出向けにんにくの50%以上は、山東省金郷県で生産されたものが仕向けられている。

平成31年(令和元年)の生鮮にんにくの輸出先内訳を見ると、約50%を東南アジアに輸出しており、インドネシアが最大の輸出相手国となっている(図10)。なお、インドネシアの国内需要量は年間約50万トンであるが、国内生産量は2万トン程度であり、国内需要の大半を中国産に依存している状況にある。同年の乾燥にんにくの輸出先内訳を見ると、米国が最大の輸出相手国となっており、次いでドイツ、日本となっている(図11)。

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対日輸出について見ると、平成31年(令和元年)のにんにく全体の対日輸出量は2万6677トン(前年比1.7%増)であった。形態別の内訳は、輸出量全体と同様に生鮮にんにくの割合が多いものの、乾燥にんにくが増加傾向にあり、生鮮にんにくに肉薄する状況となっている(図12)。同年の生鮮にんにくの輸出量は1万1728トンと前年比0.5%減となったものの、輸出金額は2132万3000米ドル(226024万円、単価:1キログラム当たり1.8米ドル(191円))と前年比15.8%高となった(図13)。

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6 調製コスト

にんにくの調製コストも生産コストと同様に増加傾向にあり、金郷県においては、平成29年産に1トン当たり2691元(4万365円)であったが、令和2年産には同3043元(4万5645円)にまで増加している(表3)。内訳を見ると、人件費が過半を占め、令和2年産には全体の6割を超えるにまで膨らんでいる。平成29年産の労働者の給与水準は1日、1人当たり150元(2250円)であったが、令和2年産には180元(2700円)と、30元(450円)の増加となり、割合にして20%増加している。人件費以外の費用は、近年大きな変化がないことから、人件費の増加が調整コストの増加に直結している状況にある。一般的に用いられる40フィートの冷蔵コンテナに搭載可能なにんにく(約23トン)を調製するには、労働者80名で3日ほど必要ということである。

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人件費に次いで占める割合が大きいのは包装資材費で、1トン当たり500元(7500円)であり、次いで設備減価償却費1トン当たり300元(4500円)となっているものの、この二つの費用については平成29年産と比較して変化はない。そのほか、管理費は20%増、水道光熱費および輸送費は平成29と同額となっている。

7 おわりに

今年に入り、COVID-19の感染拡大に伴い、価格の下落はあったものの、物流への影響が軽微であったことから、山東省におけるにんにく生産および輸出への影響はそれほど大きくないと推定される。実際に令和2年~4月の生鮮にんにくの輸出量は515000トンで前年同期比23%増と前年を大幅に上回り、輸出単価も1キログラム当たり1.2米ドル(令和2年1~4月平均127円、前年同期比:37%増)と前年を大幅に上回っている。近年の単価上昇の大部分は人件費の上昇によるものであり、今後も単価上昇のがいぜん性が高いと想定されるところ、引き続き人件費を中心としたコスト要素について注視する必要がある。




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