調査情報部
ニュージーランドの国土は27万平方キロメートルと、本州と九州を合わせた面積とほぼ同じで、北島と南島の二つの主要な島と多くの小さな島々で構成される。西岸海洋性気候に属し、年間平均気温は南島が約10度、北島が約15度で、年間降水量は600~1600ミリメートルと年間を通して降雨が期待でき、酪農などの畜産をはじめとした農業全般に適した地域である。北島、南島ともに島の中央に複数の山脈が存在し、周辺には広大な沖積平野が広がっており、えんどうのほか、北島ではキウイフルーツをはじめとした園芸作物、南島では小麦や大麦などの穀類、ばれいしょなどそれぞれの特徴を生かした作物が生産されている。同国は農林水産物の輸出も盛んで、日本への輸出金額のうち60%以上を農林水産物が占める。このような中、日本の輸入先国として冷凍えんどうにおいては3位、乾燥えんどうにおいては4位に付けている。
本稿では、日本の主要な輸入先国の一つであるニュージーランドのえんどうの生産や輸出動向などについて報告する。
なお、本稿中の為替レートは、1ニュージーランドドル=71円(2020年6月末日TTS相場71.09円)を使用した。
(1)生産概要
近年、ニュージーランドの耕地面積は減少傾向にあり、過去10年間で約6%減少している(図1)。特に近年は、夏から秋にかけて干ばつがたびたび発生し、気候変動に伴う気温上昇および降水量の減少によってこの干ばつリスクは年々高まり、耕地面積が減少する要因の一つとなっている。
この傾向はえんどうにおいても確認できる。2017年度(7月~翌6月)のえんどうの作付面積は4075ヘクタールとなり、近年において最大の作付面積を記録した2012年度と比べておよそ4割減と大幅に減少している(図2)。同期間の全耕地面積の傾向と比較してもえんどうの作付面積の減少の程度は著しく、この要因として、後述するように、2016年に発生した害虫であるエンドウゾウムシの影響が大きいものと推測される。
国内のえんどう生産地を見ると、主に北島ではホークス・ベイ、南島ではカンタベリーで栽培され、用途別に見ると大きく青果用と種子用に区分される中、種子用はカンタベリーでの栽培が多くなっている(図3、4、5)。
カンタベリーは温暖な気候で適度な降雨もあり、混合農業、酪農、肉用牛、牧羊、園芸など多種多様な農業が盛んで、えんどうを生産するのにも適した環境が整っている。453万4600ヘクタールと国土面積の17%を占め、平野部は長さが約193キロメートル、最大幅約64キロメートルとニュージーランド最大のカンタベリー平野が広がり、サザンアルプス山麓から流れる河川の堆積物から構成される豊潤な土地である。カンタベリー中央部にあるクライストチャーチは高緯度にあるため、夏でも平均最高気温が約23度で湿度が低く、冬はほぼ同緯度の北海道ほど寒さは厳しくない(平均最低気温0.6度)。降水量は冬にやや多く、夏に少なくなる傾向にあるが、年間を通しておおむね一定の降水があり、年間降水量は約600ミリメートルとなっている。
一方、ホークス・ベイは、141万6400ヘクタールと国土面積のおよそ5%を占め、広大な農地が広がっている。気候は晴天が多く、夏は20~35度と気温が高く、冬でも平均気温は15度と温暖である。また、西側に位置する山脈が西風を遮るため冬季も温暖だが、同地方への往来には多少の障壁となっている。同地域のほぼ中央を流れるナガルーロロ川の周辺に形成されたヘレタウンガ平野の土壌は非常に肥沃であり、乾燥した夏でも豊かな地下水源が存在し、灌漑に用いられている。この地域は園芸作物の作付が非常に盛んで、えんどう以外にもたまねぎやワイン向けのブドウの生産も行われ、作付面積は約1万8000ヘクタールと地域の総面積に対する割合が最も高い地域である。
(2)栽培概要
えんどうは輪作のサイクルの中に取り入れられ、土壌改善、窒素固定能による地力の回復などの役割を担っている。えんどうの後には冬小麦やスイートコーンが作付されることが多い。播種期はおおむね7~11月であり、中でも最適なのは9月下旬~10月上旬であるが、加工工場の処理能力に合わせて収穫を調整する必要があるため、加工会社や種苗会社により播種日が指定されることもある。
えんどうの育種において、もっとも評価されている品種としては「ソナタ」が挙げられる。この品種は、えんどうの育種のほか、北半球では被害のあまりない害虫や耐病性に関する研究を行っている政府管轄の研究所であるPlant&Food Researchにおいて開発され、高収量かつうどんこ病の抵抗性があり、特にカンタベリーでの栽培に適していると報告されている。ニュージーランド最大の野菜加工業者であるハインツ・ワッティーズでのえんどう栽培事業においては、生産者へ供給する種子の3分の1を同品種が占めるなど高い評価を得ている。同社はソナタの導入により平均収量を1ヘクタール当たり5トンから8.5トンへ増収させることに成功しており、Plant&Food Researchの貢献が大きいと高く評価している。現在、Plant&Food Researchでは更なる改良を加えた新品種が試験中であり、生産性の一層の向上が期待される。
一方、同国におけるえんどう栽培において留意すべき病害虫としては、エンドウゾウムシやアブラムシ、根腐病や立ち枯れ病などが挙げられる。
エンドウゾウムシはマメゾウムシ科の甲虫で、成虫は黒褐色に白い複雑な紋様があり、体長は約4.5ミリメートルほどである(写真1)。飛翔による移動が可能で、圃場のえんどうのさやに産卵する。貯蔵乾燥豆の中で何世代も発生を繰り返すことができるいんげんの大害虫として有名なアズキゾウムシとは異なり、乾燥豆から繁殖することは不可能で基本的には野外に生息し、圃場の豆を加害する。ヨーロッパや北米、アジアの一部など、世界的に分布しており、日本でも確認されている。ニュージーランドでは、2016年4月、ワイララパ地域で初めて発見され、同地域では、約60戸の農家、面積にして1200ヘクタールが被害を受け、被害金額は1500万ニュージーランドドル(10億6500万円)と試算され、国内全体では総額約1億5000万ニュージーランドドル(106億5000万円)の被害を与えたとされている。
2016年4月の同国内での発見を受け、ニュージーランド第一次産業省は同年7月、飛翔移動が可能であることや貯蔵乾燥豆から繁殖できないなどの特性を考慮し、同地域でのえんどうの栽培を全面的に禁止し、えんどう豆および茎葉の移動を規制した。その際同省は、エンドウゾウムシ発生状況の監視を目的に、同地域の周辺の一部で、おとりとしてえんどうを栽培し、エンドウゾウムシを捕獲する取り組みも併せて行った。その結果、2016年度には11カ所で1700匹以上確認されたのに対し、2017年度には2カ所で15匹と大幅に減少し、ついに2018年度には1匹も発見されなかった(写真2)。
最後にエンドウゾウムシが確認された2017年12月以降、2年以上にわたり発生が確認されなかったことから、2020年2月、同省はエンドウゾウムシが国内において完全に根絶されたとして、えんどう栽培に関する規制を解除した。オコナー第一次産業省大臣は「私の知る限りにおいて、エンドウゾウムシの根絶に成功したのは世界初であり、政治、産業、地域社会が一体となって取り組むことで根絶を達成できた」との談話を発表している。
アブラムシは吸汁害虫であり、植物体の師管に口針を挿入し、吸汁することで植物に害を与える。体長は1~3ミリメートルで体色は黄緑色のものから黒褐色まで多様である。アブラムシはソラマメモザイク病やその他のモザイク病の原因となるモザイクウイルスを媒介し、吸汁時にウイルスが植物体へ感染する。対策として、発見後は早期に浸透移行性殺虫剤を散布することが重要である。
罹病しやすい病気としてはAphanomyces属、Fusarium属、Pythium属などの菌類による根腐病や立ち枯れ病などが挙げられ、輪作を行い、前作との間隔を大きく確保すること、深耕、排水性の高い土壌を用いることなどの耕種的防除や承認された殺菌剤による種子消毒などの化学的防除が対策として挙げられており、総合的病害虫管理(Integrated Pest Management:IPM)(注)が重要である。
注:経済性を考慮しつつ各種防除手段(生物学的防除、化学的防除、耕種的防除、物理的防除)を適切に組み合わせ、環境への負荷を低減しつつも病害虫の発生を抑制する防除技術。
(3)貯蔵概要
えんどうは収穫後、テンダメーターと呼ばれる圧力測定機器で硬さを測定のうえ、等級を決定する。等級決定後、冷凍保存されることになるが、えんどうは傷みが早いため、貯蔵作業が遅れるとえんどうの風味が劣化する恐れがあることから、収穫後、短時間で冷凍することが重要である。基本的には収穫後2日以内には等級決定作業を行い、洗浄、加熱、冷凍保存を行うが、気温が高い場合はさらに短い時間で対応する必要がある。出荷時はビニール袋で包装し、湿度90~100%、摂氏0度を維持して保管される。
(1)輸出量および単価
冷凍えんどうはニュージーランドにおける野菜輸出品目のうち生鮮かぼちゃ、冷凍ばれいしょに続き3番目に輸出量が多い品目で、近年3~4万トンの冷凍えんどうが輸出されている。一方、乾燥えんどうは豪州、日本、英国など約40カ国に輸出されており、輸出量で見ると冷凍えんどうより少ないものの、近年の輸出量は1万5000トン前後で推移している(図6)。
日本は主に乾燥および冷凍の形態でえんどうを輸入しており(図7)、これはニュージーランド産でも同様である。ニュージーランドからの輸入は、冷凍えんどうは近年減少傾向ではあるものの、輸入数量2000トン、輸入金額3億円前後で推移している(図8)。乾燥えんどうは近年増加傾向にあり、2019年の輸入量は1545トン、輸入金額1億6568万円となった(図9)。
輸入先国を見ると、冷凍えんどうは中国、米国、ニュージーランドで9割以上を占め、近年は米国、ニュージーランドがやや減少傾向にある一方、中国がやや増加傾向にある。乾燥えんどうはカナダ、米国および英国で約9割を占め、近年はカナダが減少傾向にある一方、米国とニュージーランドが増加傾向にある。2019年は、ニュージーランドからの輸入量は4番目に多い。
価格面では、ニュージーランド産の冷凍えんどうは主要3カ国の中で1キログラム当たり約150円と最も安く、価格競争力を有する状況にある(図10)。一方、ニュージーランド産の乾燥えんどうは主要5カ国のうち最も高い価格で推移していたが、近年の下落傾向により米国産に次いで、2番目に高い価格となっている(図11)。
(2)今後の対日輸出の見通し
上述の通り、外国産冷凍えんどうにおいて高い価格競争力を有するニュージーランド産の今後の対日輸出の見通しを探るべく、過去5年間の東京都中央卸売市場および大阪中央卸売市場における卸売価格と入荷量を見てみると、国産えんどうの平均価格が1キログラム当たり1017円であるのに対し、輸入えんどうの平均価格が同587円と、約430円の価格差が確認された。
東京都中央卸売市場の国産えんどうの2019年の卸売価格は、1キログラム当たり662~2899円で推移した。なお、8月から10月の間は入荷量が大幅に減少するため、卸売価格は高くなる傾向にある(図12、13)。
大阪府中央卸売市場の国産えんどうの2019年の卸売価格は、1キログラム当たり751~2938円で推移し、東京都とおおむね同様に7月以降取引数量が大幅に減少する(図14、15)。
月別の輸入数量を見ると、生鮮えんどうについては、国産の取引数量が減少する7月以降の輸入量が増加する傾向にある一方、ニュージーランド産冷凍えんどうおよび乾燥えんどうにおいては乾燥えんどうでは冬季にやや数量が増加する傾向が見られるものの、国産とは加工状況や価格が異なることもあって、年間を通じて比較的安定していると言える(図16、17、18)。
また年間ベースにおいても、東京都中央卸売市場の過去の取引数量をみると、2016年や2018年など、流通量の少ない年においても(図19)、冷凍および乾燥えんどうの輸入が補填するような数量の動きは見られない(図8、9)。
このような状況を考慮すると、国内の生産状況に伴う冷凍および乾燥えんどう輸入量への影響は軽微であるものと考えられる。これは、輸入冷凍および乾燥えんどうの用途が特定されていることで、その仕向け先が一定程度存在し、今後も安定的な輸入が継続するものと推測される。
ニュージーランドのえんどうは、冷凍野菜および乾燥野菜の形態で、毎年一定量が日本に輸入されている。しかし2016年には、エンドウゾウムシの大発生により多額の損害が発生し、作付面積の減少は他の作物以上に著しい状況となるなど、ニュージーランドにおけるえんどうの生産基盤は脅かされることとなった。ニュージーランド政府はこの困難に立ち向かうべく、エンドウゾウムシ根絶に向けて速やかに対策を講じるとともに、その後4年間着実に取り組みを継続してきた。その結果、2020年2月に栽培などの禁止令の解除が発表され、えんどう栽培が再び正常化し、再興が期待される状況となった。そんな矢先、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大により、需給への影響が懸念されている。現時点において、今年の冬作の生産は豊作傾向と見込まれ、当面の間、生産への影響は軽微なものと想定され、日本への輸出は比較的安定していると思われるものの、日本の外食産業の需要が減少するなど、需要側におけるCOVID-19の影響は依然見通せない状況にあり、同国のえんどう生産および輸出は引き続き予断を許さない状況にあると言えよう。