調査情報部
〈カナダ政府が約192億円の食料・農業支援策を発表〉
カナダのトルドー首相は5月5日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が同国でも拡大する中、農家、食品事業者、食品加工業者向けの支援に少なくとも2億5200万カナダドル(約192億円:1カナダドル=76.1円)を拠出すると発表した。また、カナダ酪農委員会(CDC)が利用できる借入限度額を2億カナダドル(約152億円)増額する意向があることも発表した。
畜産に関連する主な支援策の一部を紹介する。
◎最大95億円の農業復興事業の実施
COVID-19の影響によって発生した生産者の追加コストの負担を軽減する支援策であり、政府は最大1億2500万カナダドル(約95億円)の資金を拠出する。追加コストには、食肉処理施設の一時的な閉鎖により農場で行き場を失っている牛や豚の飼養コストなどが該当する。
◎経済的弱者支援のための食品買い上げプログラムの実施
ばれいしょや家きん肉のような行き場を失った食品を政府が買い上げ、地元団体を含むフードバンクなどへ提供する。政府は5000万カナダドル(約38億円)の資金を拠出し、カナダで初めてとなる余剰食品買い上げプログラムを開始する。
◎食品製造業者等への支援
食品製造事業者等が、COVID-19に対応するため、個人防護具や安全手順の向上、設備の自動化や近代化を行うために利用可能な最大7750万カナダドル(約59億円)の基金を創設する。
◎チーズやバターの一時保管のための支援
食品廃棄の回避を目的とした支援策であり、政府はカナダ酪農委員会(CDC)の借入限度額を2億カナダドル(約152億円)増額し、5億カナダドル(約381億円)とする意向を発表した。政府からの借入限度額の増額で、CDCはより多くの直接買い入れ、保管が可能となる。
今回の連邦政府の発表を受けた、農業関係団体のコメントを紹介する。
○カナダ農業連盟(CFA)(5月5日)
連盟は、政府による今回の発表を歓迎するものの、2億5200万カナダドル(約192億円)の規模は、CFAが要求していた26億カナダドル(約1979億円)と比較して、大きく不足している。同連盟のメアリー・ロビンソン会長は、「これほどの不確実性があり、財政的な裏付けが不足している状況下では、現状のとおり食品生産を継続することは危険であり、生産者は生産計画を見直さざるを得ないだろう」と言及している。
○ カナダ酪農生産者協会(DFC)(5月5日)
私たちは、政府により発表された支援策について、カナダ酪農委員会(CDC)の借入限度額の増額といった主要内容について歓迎するが、提供される資金の規模は、CFAが要求していた額と比較して不足しており、幅広い農業セクターを支援するため、政府による更なる支援が必要である。
○ カナダ鶏肉協会(CFC)(5月8日)
私たちは、連邦政府がCOVID-19による具体的な影響を緩和するために何が必要かを十分に理解していないと考えている。生産者は、COVID-19の影響で殺処分が必要となった場合に生じる費用や損失に対する補償を求めている。今回の支援策は、これらを補償するものではない。私たちは、今後の政府による追加支援策を待ち望んでいる。
〈2020年4月の農業就業人口、前月から1万人減少〉
カナダ統計局は5月8日、4月の労働力調査結果を公表した。これによると、カナダの4月の総就業人口は、1618万人(前月比11.0%減)となり、1カ月で約200万人が減少する結果となった。このうち、農業就業人口(林業、漁業除く)をみると、28万人(同3.9%減)と前月から1万人以上減少した(図1)。カナダの農業就業人口は1月まで、国内の好景気や人口増加などを背景に、他産業と同様、増加傾向で推移してきた。しかし、2月以降、営業停止となった他産業ほど影響は甚大ではなかったものの、COVID-19の拡大防止を目的とした全国的な経済活動の縮小により、農業就業人口は減少に転じている。
また、4月の失業率をみると、全体では、調査開始以降、過去2番目に高い13.0%(前月比5.2ポイント高)となり、リーマン・ショック(2008年9月に起きた米国大手投資銀行の経営破綻)時と比べても非常に高い水準となっている(図2)。このうち、農業では、4.8%(同2.0ポイント高)と他産業と同様に上昇した。農業の失業率は長年、全体を下回って推移している。これは、農業がその他の産業と比べて特別に低いわけではなく、長年失業率が比較的高めに推移していた「林業、漁業、鉱業、採石業、石油・ガス産業」「建設業」「金融・保険・不動産業」などが全体の失業率を引き上げていたことが主な要因である。また、4月は、全体の失業率が急上昇し、農業と大きく乖離しているが、要因としては、外出自粛の影響が甚大であった「宿泊・外食産業」の失業率が33%(同16.7ポイント高)と跳ね上がったことにより、全体を大きく引き上げたことが挙げられる。
(国際調査グループ 河村 侑紀)
米国農務省(USDA)のパーデュー長官は5月19日、コロナウイルス食料支援プログラム(CFAP)のうち、生産者への直接支払いプログラムの詳細を公表した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大流行の影響を受けた米国の農家や牧場主などを救済するため、最大160億米ドル(1兆7280億円:1米ドル=108円)の生産者への直接支援が行われる。また、多くのレストランやホテル、その他のフードサービスなどの閉鎖によって労働力に深刻な影響を受けている地域や地元の流通業者と提携し、30億米ドル(3240億円)分の生鮮青果物、乳製品、食肉を買い上げ、食料を必要としている米国人へ届ける、食品買上げ配給プログラムの実施が決まっている。
損失に基づく直接支払い
USDAによれば、CFAPは、COVID-19の影響で5%以上の価格下落に見舞われ、需要減少、生産過剰、出荷パターンや通常の売買が混乱した結果、多大な追加のコスト負担に直面している生産者に対して、極めて重要な財政的支援を行うものである。
農家と牧場主は、2つの財源から直接支援を受けることになる。
1つ目は、コロナウイルス支援・救済・経済安全保障法(Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security(CARES) Act)に基づく95億米ドル(1兆260億円)の財源である。これは、2020年1月中旬から2020年4月中旬までの間に発生した価格下落による農家への損失補償と、同期間に農場から出荷されたものの、その後販路を失い結果として損失が発生した果物や野菜などの園芸作物への支援に充てられる。
2つ目は、商品信用公社(CCC)憲章法に基づく65億米ドル(7020億円)の財源であ
り、それ以降の継続的な市場の混乱による生産者への損失補償に充てられる。
家畜
支払い対象となる家畜は、肉用牛、豚、2歳未満の若羊。支払い総額は、2020年1月15日から4月15日までの間に売却された頭数に、CARES Actに基づく1頭当たりの支払い額を乗じた額と、2020年4月16日から5月14日までの間における最大飼養頭数に、CCCに基づく1頭当たりの支払い額を乗じた額の合計額となる(表1)。生産者は所有する家畜・クラス別に、対象期間の販売額と最大所有頭数についての情報を提供しなければならない。
生乳
2020年1月から3月までの第1四半期に生産された生乳(廃棄された生乳を含む)の証明をもとに支払われる。
2020年1月から3月までの第1四半期に生産された生乳100ポンド当たり、同四半期の価格低下の80%に相当する4.71米ドル(509円、1キログラム当たり11.2円)を乗じた額と、第2四半期の生産量増加を考慮して第1四半期の生乳生産量に1.014を乗じた量100ポンド当たり、第1四半期の価格低下の25%に相当する1.47米ドル(159円、1キログラム当たり3.5円)を乗じた額が支払われる。
果物や野菜などの園芸作物
園芸作物については、①2020年1月15日から4月15日までの間に販売されたが5%以上の価格下落により損失が生じた農産物②2020年4月15日までに農場から出荷されたものの販路を失い重大な品質劣化が生じた農産物③2020年4月15日までに農場から出荷されなかった農産物や販売先が見つからないまたは見つかる見込みがないため、収穫できずに収穫適期が過ぎてしまった農産物-が対象となる(表2)。
①に関しては、生産者は当該農産物の販売価格が記された売渡書などが必要となる。
②に関しては、生産者は販売先から代金が支払えないことが記された文書などが必要となる。これには、販売先に当該農産物を出荷した際に、契約条項をすべて満たしているにも関わらず代金が支払われなかった場合も対象となる。
なお、①、②はCARES Actの財源、③はCCCの財源が活用される。
トウモロコシや小麦などの穀物、大豆などの油糧作物部門
2020年1月中旬から4月中旬までの間に5%以上の価格低下を受け、在庫の販売コストが上昇している穀物や油糧作物が対象となる。生産者は、価格低下のリスクがあった2020年1月15日時点の対象作物の在庫量に基づいて支払いを受ける。支払いは、生産者の2019年の総生産量の50%または2020年1月15日時点における2019年産在庫量のいずれか小さい方に0.5を乗じた値に対して、CARES Actに基づく支払い額とCCCに基づく支払い額をそれぞれ乗じた額の合計となる(表3)。
生産者は、当該作物の2019年総生産量および2020年1月15日時点で販売されていない2019年産の総生産量についての情報を提出する必要がある。
羊毛
一定期間に5%以上の価格低下を受け、在庫の販売コストが上昇している羊毛が対象となる。生産者は、価格低下のリスクがあった2020年1月15日時点の在庫量に基づいて支払いを受ける。支払いは、生産者の2019年の総生産量の50%または2020年1月15日時点における2019年産在庫量のうち、いずれか小さい方に0.5を乗じた値に対して、CARES Actに基づく支払い額とCCCに基づく支払い額をそれぞれ乗じた額の合計となる(表4)。
生産者は、羊毛の2019年総生産量および2020年1月15日時点で販売されていない2019年産の総生産量についての情報を提出する必要がある。
受給資格
1個人または1法人につき全品目合計の支給額の上限は25万米ドル(2700万円)となっているが、法人に関しては、実際に経営や作業に従事する株主の数に応じて、最大75万米ドル(8100万円)まで受給できる可能性がある。申請者は2016年~2018年の課税年度の平均調整総所得(AGI)が90万米ドル(9720万円)未満であることが必要である。ただし、AGIのうち75%以上が農業、牧場または林業関連の活動からの収入であれば、AGIに関する制限は除外される。また、「著しく侵食を受けやすい土地および湿地の保全」に係る規則を遵守していることなどのいくつかの条件が設定されている。
申請と支払い
5月26日から、USDAは農場サービス局(FSA)を通じて、損失を被った農業生産者からの申請受付を開始する。申請期間中に資金を確保できるように、生産者は申請が承認された時点で、最大支給額の80%を受け取ることができる。残りの支給額は、後日支払われる。
また、USDAは対象となる農作物の追加を検討するとして、特に種苗・苗木、水産物、切り花について生産者が価格の低下とコスト増に関する情報を求めている。
今回の発表に合わせてパーデュー長官は、「米国が新型コロナウイルス対策に取り組む中で、米国の農業界はこれまで経験したことのない状況に直面している。トランプ大統領は、米国の国を愛する農家、牧場主、生産者に支援が行き届くことを確保するためにUSDAに権限を委譲しており、USDAは農家などへの支払金が確実に届くよう迅速に取り組んでいる。これらの支払金は、米国の経済活動が再開して回復し、市場の需要が戻るまでの間、農家などが経営を維持するための一助となる。米国の農家などは立ち直る力があり、いつものように、自信と勤勉さと決意をもって、この難局を乗り切ることができるだろう。」と述べている。
(国際調査グループ)
欧州における生鮮野菜・果物のサプライチェーン全体を代表する団体である欧州生鮮青果物協会(FRESHFEL EUROPE)は5月6日、ヨーロッパの生鮮野菜・果物部門に対して新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が及ぼした影響に関する評価を公表した。同評価には、主にEUおよび各国の公的機関や国際機関を対象とした政策立案者への提言も含まれている。
FRESHFEL EUROPEは、ここ数カ月間のCOVID-19が生鮮野菜・果物部門に及ぼした影響を把握するとともに、今後消費者への生鮮食品の供給に短期、中期、長期的にどのような影響がありうるかを明らかにしたとしている。
同協会総代表のフィリップ・ビナード氏は、「我々の部門は、大流行期間中、新鮮、安全で体に良い食品を消費者に途切れなく供給することが出来た。一方、この2カ月間に重要な課題に直面し続けており、そうした課題について、本評価で総括している。この評価の中には、大流行によるサプライチェーンへの経済的影響と追加コストの分析だけでなく、労働力の確保と労働者の感染防止、新たな物流の制約などの課題、市場の実績が含まれている」と説明した。
今回の評価の中では、主に以下の項目を重要な課題としている。
〇労働力の課題
・移動禁止により、生産に必要な季節労働者が大幅に不足しており、中期的には供給力が損なわれる可能性がある。
・社会的距離の確保の措置により、サプライチェーン全体の働きが鈍化し、消費者への生鮮食品の供給力が低下した。
・防護用具と検査の不足は、労働者とその家族の健康を危険にさらす可能性がある。
〇物流の停滞
・社会的距離の確保や国境閉鎖による物流の遅延が、EU域内の貿易と域外との輸出入の両方を歪めるため、生鮮食品の品質や供給力に強い影響を与えている。
・輸送経路の混乱により、需要のある海上コンテナが利用できなかったり、トラックが空のまま戻ってきたりするだけでなく、航空便の大幅な減少により、貿易に重要な書類のやりとりに齟齬をきたしている。
・事業者は、輸送、販売、その他の物流業務を継続するために、防護用具や追加人員確保のための投資を余儀なくされている。
〇不確実な市場の動き
・高い柔軟性により、消費者の主な生鮮食品部門に対する高い需要を満たしている。
・外食産業の閉鎖により、利益が大きい部門(サラダ、カット野菜、その他の簡便な青果物など)の需要がなくなっている。
・サプライチェーンの混乱により、価格が乱高下する可能性が高い。
・中期的には、収穫、梱包、輸送に従事する労働者が不足し、販売先までの物流の確保などが難しくなる影響で、食品の損失につながる可能性がある。また、輸入生鮮食品は、物流などの鈍化によって特に影響を受ける可能性が高く、特定の品目の供給に影響を与える可能性がある。こうした供給量の減少は、生鮮食品の価格変動につながる可能性がある。
・EU市場への供給に集中し、輸出における新たな困難やリスクを回避しようとしているため、輸出は減少すると予想される。これは、中期的には一部の競争市場で市場シェアを維持するのに悪い影響を与える可能性がある。
〇追加コスト
・COVID-19への対策の結果、物流の混乱と人件費の増加により、EUの生産者のコストが2カ月で10億ユーロ(1180億円、1ユーロ:118円)増加した。
・EU全域でバーやレストラン、ケータリングサービスの閉鎖が相次ぎ、卸売業やフードサービス部門が最も影響を受けている。さらに、制限解除の日程などに不確実性が高く、加盟国間の調整も不足していることから、企業が損失を評価し、適応するための将来の計画を立てることに対して依然として困難をきたしている。
〇その他:
・消費者の関心が、COVID-19以前の持続可能性への懸念の高まり(例:包装の削減、有機農産物)から、食品の安全性を重視する傾向へ変化したため、一部の加盟国では消費者が包装された生鮮食品を好むようになっている。一方で、COVID-19の影響により、一部の加盟国において、青果物の供給のため経済活動を継続することが非難され、関係者により多くの情報提供を求められることとなったことや、過度に国産青果物の消費が強調されることによって、市場が統一されていることの価値を減じ、合法的に流通している他国の青果物が不当に差別される恐れが生じている。
FRESHFEL EUROPEは、生鮮野菜・果物部門に関してだけでなく、サプライチェーンの各段階に関して、一体として政策立案者に以下の具体的な提言を行っている。今後数カ月間に競争力を維持し、2020年以降も新鮮な野菜や果物の消費者への供給を確保するためには、この部門に対するさらなる支援が必要であるとしている。
今回の評価の中では、主に以下の項目で提言を行っている。
〇ヨーロッパにおける解決策の模索
・流行が始まった当初の無秩序な国境管理により、一部の国による一方的な対策が生鮮食品のサプライチェーンに被害をもたらすことが明らかになった。今後の行動はEU全体で統一的な方針に基づく対策をとる必要がある。さらに、EU加盟国の制限解除は、EU全体で調整すべきである。
・COVID-19の第2波が秋以降に発生した場合、感染防止政策を協調して実施できるようにしなければならない。
〇生鮮野菜・果物労働者の不可欠な役割に対する理解醸成
・全ての生鮮野菜・果物に関わる労働者は「必要不可欠」とみなされ、防護用具を優先的に利用できるようにするべきである。
・生産と供給の継続を確保するためにも、季節労働者にも検疫や渡航禁止が免除されるように特別な条件が適用されるべきである。
〇経済的持続可能性のためのEU域内外の同部門への資金援助
・共通農業政策(CAP)やその他の手段により、この部門、特に生産者、卸売業者、外食産業の供給者の経済的持続可能性を確保すべきである。
・EUの長期的な食料安全保障を確保するためには、生鮮食品の主要な供給者である発展途上国に対する EU の支援も優先されるべきである。
〇EU政策施行の再調整
・目の前の課題に鑑み、新しい EU要件(例えば有機農産物に関する規制など)の適用を短期的に延期することが必要である。
・将来業界に対し何らかの行動を求めたり、支援を実施したりする場合には、EUとしてCOVID-19後の状況を考慮した優先順位を定めるべきである。
〇生鮮野菜・果物の貿易確保のための国際協力
・輸送労働者の保護と港湾管理(例:消毒基準)のためには、行動手順の標準化が必要である。
・EUは、全ての貿易相手国による相互的な貿易円滑化措置を実施するための世界的な取り組みを主導すべきである。
・この取り組みには、特に、国際的な「グリーンレーン(優先レーン)」の確立、全ての輸出証明書の電子送信の世界的な受け入れ、EUの輸出業者による衛生植物検疫(Sanitary and Phytosanitary (SPS))措置の遵守促進などが含まれる。
(参考)欧州生鮮青果物協会プレスリリース:https://freshfel.org/freshfel-europe-releases-covid-19-impact-assessment/(5月20日閲覧)
(国際調査グループ 小林 智也)