調査情報部
中国は、日本における輸入生鮮野菜の65%(2018年数量ベース)を占めるなど、主要な輸入先の一つとなっている。
今月号では、中国からの輸入が大部分を占めているたまねぎ、しょうがの主産地の生産状況について、現地の野菜生産・輸出企業に対し聞き取り調査を行ったので報告する。
(1) 日本における中国産たまねぎの位置付け
2018年の日本のたまねぎの作付面積は2万6200ヘクタール(前年比2.3%増)、収穫量は115万5000トン(同5.9%減)となっている。一方、同年のたまねぎの輸入量は生鮮品で29万4257トン(同1.1%増)、乾燥品で7430トン(同3.1%増)と合計約30万トンとなっている(図1)。2018年の生鮮たまねぎの輸入量のうち9割弱が中国産で、次いで、豪州産、ニュージーランド産、米国産となっている(表1)。毎月一定数量が輸入されているが、主産地である北海道産が出回らなくなる6月に輸入量が多くなる傾向にある(図2)。
なお、本稿中の為替レートは、1元=16円(2019年10月末日TTS相場:15.76円)を使用した。
(2) 生産動向
ア 中国における産地
たまねぎは、山東省、甘粛省、雲南省、四川省、河南省、江蘇省など広い地域で生産されており、その中でも生産量の多い地域は山東省、甘粛省、雲南省である(図3)。日本向け輸出に関しては、4~12月が山東省、8~翌3月が甘粛省、1~3月が雲南省などからの内陸部が中心となっている。今号では、秋冬期における主産地である山東省、甘粛省の生産動向を対日輸出も行っている輸出企業数社からの聞き取り情報を中心に紹介する。なお、山東省における主な産地は、濰坊市、聊城市、荷澤市など、甘粛省の主な産地は、酒泉市、張掖市、金昌市である。
注:中国では、大きい行政区分から順に、「省級(省、直轄市など)」、「地級(地級市、自治州など)」、「県級(県、県級市、市轄区など)」などとなっている。
イ 播種、定植および収穫時期
山東省のたまねぎ生産は、通常、9月に播種、10月に定植を行い、翌年5月に収穫する。
また、甘粛省では、2月に播種、4月に定植を行い、8月に収穫する(図4)。
ウ 山東省における生産動向とコスト
今回は、日本向けたまねぎを取り扱っている2社に聞き取りを行った(表2)。A社は濰坊市にあり、2001年に設立された従業員200名超の企業である。自社の野菜生産基地を山東省に所有するほか、雲南省、甘粛省からも仕入れている。生鮮野菜だけでなく冷凍食品の生産ラインも所有し、日本向け輸出の割合は金額ベースで50%となっている。日本向けは直接、輸出しており、毎週1回、出港している。また、韓国、中東にも輸出している。2019年5月収穫分の作柄は、天候に恵まれ単収も上がったため、貯蔵量が増加している。コストについては、地代、人件費、輸送費の上昇により前年比5~10%増となっている。
B社は2017年3月に設立された合資企業で、農産物の買い付け、生産、選別加工、冷凍加工、貯蔵を主な業務としている。2018年の輸出価格が安かったことから栽培面積を減らしたため、2019年5月の収穫量は減少した。2020年収穫分については、作付面積を増やす予定である。
エ 甘粛省における生産動向とコスト
甘粛省についても2社に聞き取りを行った(表3)。C社、D社については2018年収穫分についてヒアリングを行った。天候に恵まれ、災害などもなかったことに加え、東南アジアの需要増やヨーロッパ市場の新規開拓などから栽培面積を増やしており、両社とも生産量は増加している。
(3) 輸出
中国の輸出たまねぎは、ほぼ生鮮品となっており、ここ数年の輸出量はほぼ増加傾向で推移している(図5)。2016年は、収穫量の減少に伴う価格の高騰から輸出量は減少したものの、2017年は豊作であったため大幅に増加した。2018年は前年比1.8%減とわずかに減少したものの、88万7514トンと高水準となっている。
主な輸出先国は日本、ベトナム、マレーシア、韓国で、全体の輸出量の8割近くをアジア向けが占めている。日本向けは、全体の輸出量の3割程度を占めており、直近5カ年は25~30万トンで推移している。ベトナム向けの輸出量が増加しているものの、依然として日本は中国の最大の輸出先国となっている。
ア 山東省
A社は東南アジアの経済発展、ヨーロッパをはじめ中東向けの新規市場開拓などから輸出量は増加傾向であるが、対日輸出については大きな変化はないものとみている。また、対日価格については、国内需要の高まりから5~10%の上昇を見込んでいる。B社は2018年の輸出価格が安かったことから、全体的に輸出量が減少している。
イ 甘粛省
C社は一帯一路政策によりEU市場の開拓がしやすくなったことから輸出量は増加するが、日本向けは現状維持と見込んでいる。D社は東南アジアの経済発展を背景に輸出量は増加するが、日本向けは現状維持と見込んでいる。対日価格については、国内外のたまねぎ需要の高まりから上昇を見込んでいる。
ウ 今後の見込み
日本国内のたまねぎについては、北海道の天候が良かったことから豊作傾向で安定した入荷が見込まれる。また、国内産の価格は、5月以降、前年を割る状況が続いている。中国産もおおむね生育が順調とみられているが、10月の東京市場では入荷量が前年の半量ほどとなっていることもあり、入荷量は前年並みか減少すると見込まれる。
(1) 日本における中国産しょうがの位置付け
2018年の日本国内におけるしょうが供給量の約4割は国産品で、残りの6割を輸入品が占めている(図6)。国産品は小売向けの生鮮品が中心となっているものの、輸入品はさまざまな形態で輸入されている。輸入品の分類の中で「酢調製」はがり、「塩蔵等」はがりや紅しょうがの原料として貯蔵・加工に適するよう塊茎のみの状態で塩漬けしたもの、「その他調製」は、チューブ入りしょうがの原料、「乾燥」は、チップや粉末状のしょうがの原料などが該当するが、乾燥以外の形態はいずれも輸入品中で一定の割合を占めている。
分類別の輸入量を見ると、いずれも中国は主要な輸入先となっており、その他の輸入先としてはタイ、ベトナムなどのアジア諸国となっている(表4)。
(2) 生産動向
ア 中国における産地
中国におけるしょうがの主な産地は、山東省、河北省、河南省、遼寧省などとなっている。たまねぎ同様に、主産地である山東省の生産動向を対日輸出も行っている輸出企業数社からの聞き取り情報を中心に紹介する。なお、山東省における主な産地は、濰坊市、煙台市、青島市などである(図7)。
イ 山東省における植え付けおよび収穫時期
生鮮向け、加工向け(漬物用、乾燥用)ともに露地栽培とハウス栽培で生産される(図8)。地域や天候によって前後することはあるものの、一般的な露地栽培では4月上旬に種しょうがを植え付け、10月に収穫となる(写真3)。10~12月に収穫したしょうがはそのまま出荷されるが、1月以降に収穫される場合は冷蔵保管の後、翌年7~8月まで出荷が続く(写真4)。
ウ 山東省におけるしょうがの生産動向および生産コスト
今回、聞き取りを行った2社の概要は表5のとおりである。両社ともドバイ、サウジアラビアなどの中東諸国とパキスタン、バングラディシュなどの南アジアからの注文が増えたことから栽培面積を増やしている。天候に恵まれ、生産管理技術の向上もあり作柄は良好である。
(3) 輸出
中国のしょうが輸出量は、2014年は大きく減少したものの、ここ4年間は40万トン以上で推移している。2018年は前年比7.9%増の49万471トンとなった(図9)。
国別にみると、パキスタン、米国、オランダなどへの輸出量が多くなっている。日本へは毎年約3万トン程度が安定的に輸出されているものの、酢調製品のデータを入手することができないため、日本向けの加工品を含めた全体の輸出量を把握することはできない。
中国からは80カ国以上に輸出されており、輸出先国に大きな変化はないが、中東、欧米、東南アジア諸国への輸出量が微増となっている。
前出の企業では、今シーズンの対日輸出量の見込みは前年並みとしているものの、全体の輸出見込みでは、増加となっている。この理由としては、近年、東南アジアや中東諸国の経済発展による需要増加やヨーロッパなどの新しい海外市場の開発などがあるとしている。
なお、対日向けの輸出価格については、1トン当たり6000~7000元(9万6000円~11万2000円)と見込まれている。
参考資料
(1) 農畜産業振興機構 2019年 中国における輸出向け野菜の生産・加工・輸出状況~対日輸出に力を入れる企業の事例を中心に~(2019年3月号) https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/kaigaijoho/1903/kaigaijoho02.html