調査情報部
メキシコは、世界第3位のセルリー(セロリ)の輸出国であり、日本は米国、カナダに次ぐ3番目の輸出先で、主に業務用や外食産業用に使用されている。輸出単価も中国に次ぎ安く、競争力があり、今後需要が高まる可能性があるが、日本向けは、小さめにカットするなどの条件があるため、契約販売に限定されるといった課題もある。
セルリー(セロリ)(以下「セルリー」という)は地中海および中東地域にその起源をもち、エジプト、ギリシャ、ローマでは消臭剤や薬用として栽培された。16世紀からイタリアで野菜として認識され、17世紀に英国に広まった後、ようやく19世紀に入り北米で栽培が始まった。
現在、セルリーは世界中で一般的に食されており、2018年の世界総輸出量は35万9377トン。メキシコは、米国、スペインに次ぐ5万8305トンで、世界の輸出量に占める割合は16%になる(表1、図1)。また、輸出単価を比較すると、メキシコ産は、1トン当たり515米ドル(5万6135円)と、中国より安く、競争力があることがわかる(表1)。本稿では、世界的にみてポテンシャルが高いメキシコ産セルリーの生産・輸出動向について報告する。【※本段落の文章を修正しました(2019.12.19)】
本稿中のレートは、1メキシコペソ=6.5円、1米ドル=109円(2019年9月末TTS相場1メキシコペソ=6.48円、1米ドル108.92円)を使用した。
(1) 品種
セルリーは、大きく黄色種、緑色種に分けられ、メキシコでは、緑色種が主に栽培されているが、メキシコ政府統計においても品種ごとのデータ登録がなく、品種による区分はあまり重要視されていない。顧客(特に米国市場)は、一般的に品種よりサイズや茎の太さを重視しているため、カビに対する耐性の強いタンゴが主流で、その他ケルビン、ステサムも栽培されている。
○主な品種の特徴
・タンゴ(Tango)
葉柄の質がよく、非常に滑らかな品種でスーパーマーケットなど生鮮市場に最適。強靭で(体長約65センチ)、ケルビン種と同様輸出に向いている。また、気温の変化に耐性がある(写真1)。
・ケルビン(Kelvin)
適度に強靭で、収穫期が長い。強い緑色でまっすぐ長い葉柄を持ち、生鮮だけでなく加工用の需要が高い。
・ステサム(Stetham)
明るい緑色、強い葉、長くて丈夫な茎を持つ。直立成長するので収穫および包装が容易である。
(2) 生産量
セルリーの主要生産州は、グアナファト州、バハカリフォルニア州、ソノラ州、ケレタロ州、プエブラ州であり、生産量の約8割が輸出されている(図2)。2017年の生産量は 9万614トンであり、このうち第1位のグアナファト州は40.6%を占めた(表2)。
グアナファト州の生産量および作付面積の増加は著しい。その理由の一つは、輸出への交通アクセスの良さである。同州はメキシコ中央高原に位置し、国際港であるラサロカルデナス港またはマンサニージョ港に近く、米国やカナダ市場へは陸路でも輸出が可能であり、高速道路を使い米国国境まで10時間という好立地である。その他、鉄道、国際空港も整備されている。
また、同州はメキシコの中で特に政治が安定している。1991年から国民行動党(PAN)が外資誘致政策を継続して行っており、外資系企業も安心して投資を行えるビジネス環境にある。2018年の選挙でも国民行動党(PAN)が政権を維持したため、外資誘致を軸とした経済開放政策は2024年までは確実に継続されることとなる。
また、標高が高く、昼夜の寒暖差が大きいためセルリー生産に適した気候であること、1980年代から拡大したといわれているブロッコリー生産などを背景に、かんがい施設などの農業インフラが整っていたこと、そして同州の経済開放政策と米国でのセルリー消費の増加が相まって、Grupo U社(後述)などの大企業が同州に農地や工場を移転、ビジネスを拡張したことで、同州でのセルリー生産はますます拡大していった。
(3) 生産コスト
グアナファト州における10アール当たりの生産コスト(2018年度)は、聞き取りによると、平均で約8500ペソ(5万5250円)である。
(4) 主な生産企業
セルリー生産者の多くは契約栽培を行っており、ブロッコリー、にんじん、レタスなど複数の作物を同時栽培していることが多い。そのため、生産者の規模はさまざまで、大手と呼ばれるセルリー生産者は数えるほどしかいない。
以下にグアナファト州で最大規模の生産量を誇り、日本企業にも輸出をしているGrupo U社、家族経営で輸出も手掛けるMACU社、そして米国のレストランチェーン向けに生産しているAVALON Fresh社の3社の概要を紹介する。
ア Grupo U社
Grupo U社は30年以上の歴史を持つ企業で、国内市場と米国市場を中心に数多くの農作物を輸出している。具体的には、にんにく、ブロッコリー、キャベツ、レタス、セルリー、カリフラワー、いちごなどオーガニック産品も含めて39種類の農作物を生産しており、その他ドレッシングやサラダ用カット野菜などの加工品も生産している。セルリーは、「Mr.Lucky」というブランド名で販売しており、メキシコ全土のスーパーマーケットで購入できる有名ブランドである。茎部をカットする「セルリースティック」や芯部を残して葉をカットする「セルリーハート」などの加工品も提供しており、加工により産出する葉や根の部分はドレッシングの材料や乾燥調味料などに利用することで、副産物の有効活用に力を入れている。
グアナファト州内に計1万7000ヘクタールの農園を有し、地下水のみを使用した点滴かんがい設備(注1)を整備している(写真2)。点滴かんがい用のホースを地下に埋め、空気に触れることなく苗の根に直接水分や肥料が届く仕組みを採用することで、水と肥料を無駄なく与え、害虫や菌などがホース内に入り込むことを防いでいる。また、施肥計画を立て、週に1回、毎週違う種類の栄養素を流している。水質検査については、毎週自社で実施し、年2回は第三者機関にも委託している。農園全体をフェンスで囲み、動物の進入や盗難などが発生しないよう安全管理に努めている。
農園には、収穫した農作物を洗浄、冷蔵、加工、輸送する工場が併設され、米国の一般的なトレーラーサイズである長さ58フィートトレーラー(約17メートル)9台分の収穫量に対応できる冷水冷却装置(Hydrocooler)が3台常設されている。工場の内部は一定の冷蔵温度に設定し、輸送トラックが工場に横付けできるシステムを採用しているため、収穫した農作物が冷蔵温度以上の環境に触れることはない(写真3、4)。加えて冷蔵トレーラーを所有しているため、陸送の場合は顧客に届けるまで、自社の責任で温度管理を行っている。
Grupo U社は、その品質の高さを明確にするため複数の認証を取得している。そのため、条件が厳しい日本向け輸出が実現している。
なお、グアナファト州政府によれば、同州のセルリー生産業者のうち25社が何らかの食品安全・品質管理の認証規格(注2)を取得している。このうち、播種・育苗から収穫、出荷まで一貫して行っているのは15社しかいない。
注1:管理された少量の水を均一に補給する方法で、土壌や根の近くに配水管やチューブを設置し、ゆっくりかんがい水を与えることができる。
注2:グアナファト州が企業に推奨している食品安全・品質管理の認証規格は、 SQF規定、グローバルGAP認証、Primus GFS、IFS、FSSC22000の5つ
イ MACU社
MACU社は2000年に創業した企業だが、米国、カナダへの輸出は10年以上も行っている。完全契約販売に特化した経営戦略を打ち出しているため、家族経営規模にもかかわらず、輸出向けの高品質な農作物を生産している。約300ヘクタールの農園を有し、うちセルリーは約60ヘクタール、年間約480トンの生産量である。米国では生産不可能な10月~翌5月の間を狙ってセルリーの輸出を行っている。農園にはコンピューター制御の点滴かんがい設備が導入されており、常時必要な水量だけを提供することができる(写真5)。同社のかんがいは、農園内全てのかん水や液状肥料の施肥のタイミングが中央管理室で一元的に管理されている。また、連作障害を避けるため、サイクルを考えて複数の農作物を栽培する輪作農法を採用している。
MACU社の洗浄、冷蔵、加工設備は小規模ながらも高い水準を保っている。製氷機、冷水冷却装置、金属探知機、遠心分離機、洗浄用ベルトコンベア、パッキングシステムなど、輸出用の設備が完備されている。
ウ AVALON Fresh社
AVALON Fresh社は、米国の飲食サービス業界に農作物を提供している企業である。タコベル、マクドナルド、ピザハット、ケンタッキーフライドチキンといった有名チェーンレストランなど米国の顧客に特化しているため、米国食品安全強化法(FSMA)(注3)対応を実施している。国内全土の9カ所に農園を有しているため通年収穫が可能である。レタス、グリーンパプリカ、トマトなど18種類の農作物を生産しており、セルリーは年間生産量全体の1%にすぎないが、940トン以上の生産量である。また、米国最大のオーガニック食品スーパーチェーン「Whole Foods Market(ホールフーズマーケット)」にも農作物を提供し、米国の厳しいオーガニック基準にも対応している。
注3:米国の食品の安全について定めた法律(2011年1月制定)であり、米国内に流通する輸入食品にも適用される。
(5) 栽培の概要
セルリーの収穫は主に11月~翌4月および5月~10月の2期で行われ、通年収穫が可能である。グアナファト州の場合では、北部と南部で生産時期が分かれており、北部の収穫時期は11月に始まり、バヒオ(中央部)と呼ばれる南部では5月末から6月上旬に収穫時期が始まる(表3)。
苗はビニールハウスで栽培し、ある程度の大きさに成長したら農園に定植し、収穫まで露地で栽培する(写真6)。
(6) 収穫から出荷まで
ア 収穫・貯蔵
収穫は、圃場に段ボール箱を積載したトラックを乗り入れ、セルリーを収穫しながら同時に箱詰め作業を行う(写真7)。箱詰めされたセルリーは真空予冷されたのち、1~4度に保たれた冷蔵倉庫で保管し、セルリー自体の温度を1度近くにまで下げる(写真8)。出荷する際は1度に温度を保った冷蔵トレーラーに積載し、低温を維持したまま顧客まで輸送する。
日本に輸出する際は、鮮度を長持ちさせるために冷水冷却装置にセルリーを入れ、冷却水で洗ってから箱詰めする。こうすることで、遠距離の輸送であっても新鮮なまま納品することが可能となる。
冷却は、野外に設置された冷水冷却装置(トラック9台分)にトラックが進入し、パレットごと下ろす方法(Grupo U社)、冷水冷却装置に収穫した農作物を入れ、上部から冷却水をかける方法(MACU社)、収穫した作物をベルトコンベアで内部に運び、上から冷却水をかける方法(San Pedro社)などがある(写真9~11)。
イ 加工
顧客の要望に応じて加工する場合が一般的で、芯部を残して葉をカットするCorazon de Apio(セルリーハート)か、茎部をカットするParillo de Apio(セルリースティック)が主な加工方法である。加工企業は作業場の衛生管理を徹底しており、手の消毒、使い捨ての帽子とマスク、白衣の着用を義務化している(写真12)。また、安全な水を使用するため、浄水設備や製氷機も導入している。
輸出向けには収穫後に葉部と茎部を切り分けて別々の袋にパッキングするものもあるが、一つ1キログラム程度の茎部を箱詰めすることが多い。輸出用段ボール箱は、輸出先の顧客から買い取り、使用する場合がほとんどである。1箱に入る本数がセルリーのサイズを選定する際の基準であり、1箱当たり18本、24本、30本、36本、48本の5種類がある(写真13)。米国では24本が一般的で、サイズの大きいものに需要がある。日本企業からは、48本など細いセルリーの需要が高く、その要望に応えるには契約受注などでないと難しいのが現状である。
(7) 大口需要者との契約手法
大口需要者は、他の農作物と同様に、ほぼ米国市場である。大きく2種類の契約方法があり、一つが出荷量、サイズ、金額など先決めする完全契約販売、もう一つが米国市場の価格に変動する自由販売である。前者は金額が一定であるため大きな問題はないが、後者は米国内の生産動向や天候に大きく左右されるため、価格変動が激しい。それでも自由販売を継続する農家が多いのは、価格が上昇した際の利益率が非常に高いためである。
生産資材に関して、種子は、米国の顧客が好む「Tango」と呼ばれる品種を国内の種苗会社から購入している。段ボール箱は、米国の顧客から1箱当たり約2.20米ドル(240円)で購入するのが一般的である。
(8) 生産者販売価格
生産者へのヒアリングによれば、2018年の米国顧客への販売価格は1箱当たり8米ドル(872円)と前年比で大幅に下落したが、2019年現在で同20.8米ドル(2267円)と、大幅に回復するなど安定していない。その要因は、主に天候および米国での需要の増減である。2015年は大雨、2018年は低温による影響から、生産が大幅に落ち込み、米国市場への輸出が減少した。一方、2019年は天候に恵まれ、生産も順調で米国市場への輸出も好調なことから、価格は好転している。
(9) 今後の見通し
米国のメディアによれば、メキシコ産生鮮の対米輸出金額は、2017年に3300万米ドル(35億9700万円)と、2016年から27%、2013年からは43%増加した。しかし、その生産は輸出のほぼ全量が仕向けられる米国市場の需要に大きく左右される。
(1) 流通の流れ
ある程度規模の大きい生産者は、収穫後自ら冷却し、中央卸売市場、中間卸売業者や小売チェーンへ出荷するが、多くの中小生産者は冷却および冷蔵設備を保有していないため、収穫後中間卸売業者へ常温のまま販売する(図3)。
(2) 消費形態
生産量の約8割が輸出されるが、関係者へのヒアリングによると、徐々に国内消費量も増加しつつある。食に関して保守的かつセルリーを食べる文化がないため、セルリーを調理する料理はそれほどなく、そのままスティックで、またはサラダなどにして生食されることが多い。スープや揚げ物、煮物、またサルサと呼ばれるソースの材料にも用いられることもある。また、ビールとクラマトジュース(トマト、アサリ、セルリーなどが入っている飲料)を使ったミチェラーダと呼ばれるビールカクテルがあり、そこに生のセルリースティックをマドラー替わりにすることが定番である(写真14)。Jugo de Verde(グリーンジュース)と呼ばれるグリーンスムージーに似た飲み物は、ジューススタンドやレストランなどでも飲むことができる(写真15)。
加工食品業界では缶詰セルリー、乾燥セルリーまたはセルリー油にも加工される。また、茎のみならず葉や種に至るまで、芳香剤など食用以外に使用されることもある。
(3) 販売形態
国内市場では、スーパーマーケットや市場といった小売市場において、生鮮のまま販売されることがほとんどである(写真16)。一部、セルリーをカットしてスティック状にし、同じくスティック状にカットされたにんじんやヒカマ(マメ科の葛に似た野菜)とセットにして販売されることもある(写真17)。また、大手ジュースメーカーから健康志向の消費者をターゲットとした緑黄色野菜ジュースが販売されている(写真18)。
(4) 価格
メキシコシティに位置する国内最大の中央卸売市場セントラル・デ・アバストには、メキシコ全土から農作物、魚介類といった生産品が集まっており、メキシコシティの人口約2000万人の食を支えている(写真19)。
セントラル・デ・アバストにて各店舗の卸売価格を確認したところ、サイズや生産地などにより差はあるが、1個当たり20~30ペソ(130~195円)である。
小売価格は、1キログラム当たり15~23ペソ(98~150円)で推移している(表4)。
(1) 輸出量および輸出額
近年、セルリーの輸出量は増加が顕著である。2013年の5万6656トンから2017年には7万582トンまで増加しており、この間の年平均成長率は6.7%だった。それに伴い2013年には2292万9293米ドル(24億9929万円)だった輸出額が、2017年には3542万9987米ドル(38億6187万円)まで拡大し、年間平均成長率は12.6%となっている(図4)。
主要輸出先国は、その他多くの生産品と同じく米国である。2018年は9割以上が米国向けであり、米国市場への依存が高いことがうかがえる(表5、図5)。逆に言うと米国市場のメキシコ依存も高く、米国産だけでなくメキシコ産も約3億人の米国人口の食を支えている。加えて、現地でのヒアリングによると、米国では、天候不順やそれに伴う生育不良などにより予定している生産量が見込めない場合は、メキシコ産を輸入することで市場への安定供給が図られている。セルリーの輸出増加の背景には、米国の需給が大きく影響していることが分かる。
(2) 輸出形態
メキシコのHSコードでは、「カットセルリー」と「カット以外のセルリー」の2種類にのみ分かれている。前者はセルリースティックのことであるが、2017年時点で総輸出量の約19%を占めており、そのまま食べられる加工品という点から米国の需要に応えた形と考えられる。一部カナダにも輸出しているが、全体の0.03%にすぎない。残りの81%は葉部分のみをカットして輸出する形態が一般的で、主に輸入国側で加工される。
(3) 輸出コスト
輸出に要するコストには、日本向けを例にすると、基本的には、輸出通関、原産地証明発行費などを含むメキシコ側乙仲業者費用と、冷蔵コンテナでの陸上および海上輸送費、入国時の植物検疫など通関手数料、THC(ターミナルハンドリングチャージ)などを含む日本側乙仲業者費用、さらにコンテナヤードから顧客の指定する倉庫までの輸送費(コンテナドレージ)が含まれる。その他、輸入国規制による洗浄・検疫作業が必要な場合の追加経費、特殊な梱包を要求された場合などの輸出梱包費、決済のための銀行費用といった経費が発生する場合がある。
まず、グアナファト州からラサロ・カルデナス港またはマンサニージョ港を経由し、横浜港入港までにかかる輸送費用を試算すると、メキシコ側のコストは、1コンテナ当たり約3500米ドル(38万1500円)である。生鮮野菜・果物の輸出の場合、1コンテナ当たりの取扱金額が安価なため、CIF(運賃保険料込)ではなく、運賃込のCFR規則が適用される場合が多い。そのため、陸上輸送費と海上輸送費は区分されず輸送費として一括して計上される。
◇メキシコ側乙仲業者費用 300~500米ドル(3万2700円~5万4500円)(コンテナではなく船荷証券ごと)
◇内陸輸送+海上輸送 約3500米ドル(約38万1500円)(CFRの場合)
◇日本側乙仲業者費用 5~6万円
◇コンテナドレイ費用 2~5万円(輸送距離に準じる)
(4) 輸出企業
メキシコ全国農牧協議会(CNA)の監修の下、発刊されているメキシコ輸出企業情報「Mex Best」によれば、2018年1月時点で、14のセルリー輸出業者が登録されている(表6)。
なお、企業別輸出量、輸出額などは、公表されていない。
(5) 今後の見通し
政府、企業とも米国への輸出については、今後も見込めるとしている。しかし、米国以外への輸出についてはメキシコ政府およびグアナファト州政府の高官が前向きなのに反して、生産企業は、完全契約販売としない限り容易ではないという反応であった。例えば、日本企業からの引き合いはこれまで実際何度もあったのだが、対日輸出の条件(サイズ、量、コストなど)が厳しく、契約成立まで至っていない企業が数社あった。従って、将来への展望はあるものの、おそらく今後もこれまで通り、北米を中心に輸出が伸びていくことが予想される。
(1) 概況
セルリーの輸入は、2014年までは一部を除き米国産だけだったが、2015年からメキシコ産、豪州産の輸入が始まった。このため、米国産は2014年から2015年にかけて約3000トン減少した。高温・干ばつによる影響で高値をつけた米国産の輸入減少分を穴埋めするかのように、メキシコ産および豪州産が増加したと考えられる。
日本市場の場合、小さめのサイズを好む傾向にあるため、1箱48本入りが一般的である。日本向けは他国(特に米国)の需要に合わないため、生産者は完全契約販売でのみ対応している。加工はせず、葉部分のみをカットした状態で輸出されることがほとんどで、日本国内で業務用や外食産業向けに加工されている。
メキシコ産の輸入量は、2016年から増加傾向で推移し、2018年は641トンに達した(表7)。
日本市場へ輸出される場合、海上輸送でおおむね11日~15日間を有する。出荷から日本の消費者までの輸出の流れは図6の通りである。
(2) 消費動向
メキシコ産セルリーを輸入している日本企業は、青果物輸入専門商社や、大手総合小売業である。数年前にメキシコ産セルリーの輸入を検討していた企業もあったが、当時は条件が整わず、契約までには至らなかったとのことである。その後の実績は不明だが、日本の輸入業者が、当時からメキシコ産セルリーが日本産または米国産に代替する可能性があることに注目していたことは確かであろう。
輸入業者へのヒアリングによると、メキシコ産の日本における需要は低く、国産→米国産→メキシコ産の順で、販売されることが多いという。事実、日本のスーパーやコンビニエンスストアといった小売店でメキシコ産を見かけることは限られている。多くが総菜や加工品といった業務用、レストランといった外食産業に使用されており、一般の市場にはあまり出回っていない。一部スーパーで販売されているが、まれなケースと考えられる(写真20)。しかしながら、国産が流通しにくい真冬と真夏の間は、業務用・外食産業向けにおいて代替品として常に一定の需要があるといえる。
なお、メキシコでは米国市場の需要に合わせたセルリー栽培を実施しているため、メキシコ産と米国産に大きな違いはない。
(3) 今後の見通し
メキシコ側からすれば、米国やカナダ市場だけでなく、できるだけ多くの輸出先を持つことが理想的である。2015年から現在まで安定的に輸出ができている日本は魅力的な市場であることは間違いない。
一方、日本側のメキシコ産セルリーへの関心は年々高まってきているものの、セルリーのみならずメキシコ産農産物全般が、未だに、日本産、そして米国など次点のサプライヤーに次ぐ第三のオプションでしかない。実際、小売店に並ぶメキシコ産セルリーはまだ非常に少なく、輸入のほとんどは主に外食産業向けやスープやジュースなどの原料として流通していると推測される。また、国産品も、ハウスやトンネル栽培により年間を通じて流通させることができるため、現時点ではメキシコ産を生食用として積極的に輸入するメリットは少ない。
しかしながら、国内出荷量が横ばいで推移する中、メキシコ産セルリーが外食や業務用としての用途だけではなく、今後スーパーマーケットで見る機会が増える可能性はあると考えられる。
参考資料
(1) European Union Institutions (2015). Common Catalogue of Varieties of Vegetable Species — 34th Complete Edition. P56-60.
https://publications.europa.eu/en/publication-detail/-/publication/725bd0f8-94d6-11e5-983e-01aa75ed71a1
(2) 農畜産業振興機構 2017年 メキシコにおけるブロッコリーの生産および輸出動向、野菜情報(2017年11月号)https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/kaigaijoho/1711/kaigaijoho02.html
(3) PRINCIPALES PLAGAS Y ENFERMEDADES DEL CULTIVO DEL APIO (APIUM GRAVEOLENS VAR. DULCE)