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海外情報(野菜情報 2019年9月号)


中国における野菜増産の貢献要因の分析

中国農業大学 経済管理学院大学院 博士課程 王歓(Wang Huan
                         教授 穆月英(Mu Yue-Ying)


【要約】

 農業資源の不足が日増しに際立って来ている中、中国では野菜の生産量が増加を続けている。本論では、要素の投入ならびにその配置水準の角度から切り込むとともに、野菜の品目構造の変化を考慮し、要素の投入、要素の生産効率、生産構造の変化の三種類の要因が野菜増産に果たす貢献度およびその変化を測定、比較して、中国の野菜生産発展の特徴と傾向を全面的に考えた。
 その結果、①土地要素の角度から見ると、単位面積当たりの生産量の貢献度は徐々に低下しており、栽培面積の拡大による外延的生産方式への転換が顕著になっていること、②労働力要素の角度から見ると、労働生産性が野菜増産の主な推進力であり、同時に労働力の内容が重みを持つ生産方式に転換する傾向が顕著になっていることが明らかとなった。今後、野菜の持続可能な増産を実現するためには、資本要素の貢献度を増し、土地や労働力要素に代替する必要がある

1 はじめに

野菜は中国において、穀物に次いで基本的な作物であり、人々の日常生活に欠かせない食物繊維や微量元素の供給源である。改革開放政策が実施されるようになり、農業経営権が国民に与えられ、農産物市場が開放されるとともに、野菜の作付面積、生産量は安定的に増加している。

そして、耕地などの農業資源が不足する中、資源を合理的、有効に配置する農業発展方式が重要視されている。野菜の生産発展方法が多くの学者から注目されるホットな分野であるのもそのためである。

農業の産出増加は要素投入の増加と要素配置水準の向上の2つの面に帰結することができ、農業生産の発展形式は要素投入の増加という外延的発展と資源配置水準の向上という内包的発展に分けることができる。現代の農業の発展には資源配置水準の向上が求められ、外延的な発展から内包的な発展への転換が求められている。現在、野菜の生産発展方式についての研究は多くの場合、いかにして野菜生産において資源配置水準を引き上げるかに視点を置いて行われており、生産効率とその影響因子に関心が集まっている。野菜産業の発展にとって、一般的には技術的な進歩が野菜生産資源の配置水準を向上させる主な原動力であり、技術的効率のロスが野菜生産の発展を制約する主な要因となると考えられている。技術的効率はまた、自然や市場環境、農業経営主体の生産規模や類型、生産要素の有無などの条件によって影響される。以上の要素の分析に基づいて野菜生産の資源配置水準向上の道を示したとしても、生産の発展は資源配置水準の向上のみで成し遂げられるわけではなく、要素投入の増加も必要である。ところが、既存の研究には、要素の投入およびその配置水準から野菜生産の発展の特徴を全面的に考慮したものがまだない。同時に、野菜の最も顕著な特徴は品目の豊かさであり、国民の消費嗜好の変化とともに栽培される野菜の品目構造もまた変化している。こうした生産品目の変更も、また、野菜の総生産量増加を促進する原因であることが考えられる。しかし、既存の研究の多くは野菜という大分類の作物の生産分析である場合が多く、野菜の品目構造の変化については考慮していない。

農業生産全体を見ると、中国の農業生産の要素ひっ迫は避けがたい傾向であるが、野菜は2番目に大きな農作物であって、その生産方式は全国の農業全体の生産水準に影響を与える。各要素が野菜生産発展で果たす貢献度を分析し対比することは、野菜生産方式を最適化するうえで重要な意味を持つ。この点を考慮して、本論はこれまでの研究を基礎として、野菜の生産要素投入、要素配置水準、生産構造の変化という3つの角度から各要素が野菜増産に果たす貢献度を計測し、野菜生産発展を推進する主な原動力を探して、中国の今後の野菜生産方式の最適化のための参考となる情報を提供したい。

2 中国の野菜の生産量と生産構造の変化

野菜は基本的な作物であり、一貫して農業生産の重要な部分である。改革開放政策が実施されるようになって以来、農産物市場の開放、「野菜かごプロジェクト」、「野菜かご市長責任制」といったプロジェクトの推進を通して、中国の野菜産業は急速に発展してきた。需要の増加、収益面での優位性に促される形で、野菜の生産量と作付面積は年々増加してきた(図1)。1990年から2017年までの間に、全国の農作物作付面積は12.1増加したが、同期間の野菜の作付面積の増加率は215.26に達している。生産量も持続的に増加しており、全国の野菜生産量は254.49増加した。一方で、単位面積当たりの野菜生産の労働力は減少傾向となっており、1998年から2017年の間に、30.61減少している。

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野菜は品目が豊富であり、通常栽培される野菜は、葉菜類、ウリ科果菜類、根菜・茎菜類、果菜類、ねぎ・しょうが・にんにく類、豆類、水生菜類、その他の野菜類の8つに大きく分類される。2002年から2012年までの間の全国の各品目の生産量の変化ならびに野菜の増産総量に対する貢献度を表1に示した。野菜の生産量に占める割合から見ると、葉菜類が一貫して生産量が最も多く、野菜全体の生産量に占める割合は35以上に達している。その他の品目の中では、果菜類の生産量の増加率が最も高い68.82を記録し、2012年には根菜・茎菜類を抜いて生産量第2位の品目となった。増産貢献度の面からみると、生産量第1位の葉菜類の野菜の総生産量に対する貢献度が30.98で、野菜増産の最大の要因となっている。次に生産量の増産率が最も高い果菜類で、野菜増産に対する貢献度は26.66であった。2002年から2012年までの間に、果菜類の生産量はかなり急速に増加し、野菜生産量に占める割合が拡大したばかりでなく、野菜生産量の増産にかなり大きく貢献した。

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各品目の単収を見ると、最も高いのはウリ科果菜類であり、それに続くのが葉菜類、根菜・茎菜類、果菜類である(図2)。この4品目の単収はいずれも全野菜の平均値を上回っている。単収が最も低いのは豆類で、全ての野菜の平均値の74ほどであった。各品目の単収の増加率をみると、最も高いのはねぎ・しょうが・にんにく類の野菜で、2002年から2012年までの増加率は17.65に達している。これに次ぐのは葉菜類で、増加率は16.20であった。増加率第3位は豆類で、増加率は15.68%であった。ウリ科果菜類、果菜類、根菜・茎菜類の単位面積当たり生産量の増加率も10以上に達し、それぞれ13.3、12.2、11.18であった。増加率が最も低い水生菜類の増加率はわずか7.2であった。

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単位労働力当たりの生産量およびその変化から見ると、最も高いのは葉菜類で、次が根菜・茎菜類であった(図3)。その他の品目の単位労働力当たりの生産量水準はやや低めである。労働生産性の変化をみると、2002年から2012年の間の変化が最も著しいのは葉菜類で、上昇率は89に達している。次が根菜・茎菜類で、上昇率は76.8であった。上昇率が最も低かったのは果菜類で、29.7であった。各品目の土地と労働生産性およびその増加の違いは、野菜の品目構造の変化による生産量の変化を反映している可能性がある。

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各品目の作付面積の変化と品目ごとの割合の変化を表2に示した。各品目の作付面積はいずれも増加している。そのうち、葉菜類は作付面積が終始一貫して最も多くなっており、2002年には野菜の作付面積のうち37.6を占めていた。2012年にはやや下降して34.9となった。その他の品目のうち、ウリ科果菜類、根菜・茎菜類および果菜類は作付面積が比較的大きく増加しており、2012年には2002年と比較して作付面積の比率が上昇している。注意が必要なのは、果菜類の作付面積の増加がより顕著だということである。2012年には、根菜・茎菜類を抜いて作付面積第2位の品目となっている。この点から明らかなのは、生鮮食用の葉菜類が野菜の消費品目の中心であることには変わりはないが、野菜加工業の発展とともに野菜製品のニーズが多様化し、野菜生産の品目の割合も変化しているということである。

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3 中国における野菜増産の要因とその貢献度の分析

 野菜の生産量の増加を分析した結果を表3と表4に示した。土地生産性の角度から考察すると、野菜の生産量の増加率は34.09、作付面積の増加率は17.29、加重平均した単位面積当たりの生産量の増加率は16.81で、作付面積と加重平均した単収の貢献度はそれぞれ50.7と49.3であった。単収の貢献度のうち0.74は野菜の品目の変更に由来し、48.56は各品目の単収の増加に由来する。以上から分かる通り、土地の投入と平均土地生産性の野菜増産に対する貢献度はほぼ同じなのに対して、野菜の品目の変更の生産量に対する貢献度は相対的に限られたものとなる。つまり、2002年から2012年の間は、少数の品目で増加が著しかったのをのぞけば、野菜の品目の変更の貢献度は全体的に安定しており、増産は土地要素の投入(作付面積)と土地生産性の2つの面の増加に由来するものであった。

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段階に分けて考察してみると、第一段階(2002年から2006年の平均)では、作付面積と加重平均した単収の貢献度がそれぞれ50と50であり、加重平均した単収の貢献度のうち品目の変更の貢献度が2.08、各品目の単収の増加の貢献度が47.91であった。第二段階(2009年から2012年の平均)では、作付面積と加重平均した単収の貢献度はそれぞれ66.91と33.09となり、加重平均した単収の貢献度のうち品目の変更の貢献度が1.92、各品目の単収の増加の貢献度は31.17であった。つまり、第一段階と比べて第二段階は、加重平均した単収と各品目の単収増加に対する貢献度がそれぞれ16.91減、16.74減となった一方で、作付面積の貢献度は50を超えた。つまり、野菜の増産において、土地要素の投入と土地生産性の向上がともに重要であった第一段階と比べ、第二段階には、生産規模の拡張に依存する傾向への転換があったことが分かる。つまり、土地要素の投入と土地生産性の2つの面の増加に由来する生産方式から外延的生産方式への転換が生じていたということである。こうした現象が生じたのには2つの原因が考えられる。第一に、科学技術の進歩、生産条件の改善、投入要素の質の向上などに伴って、野菜の単収は早い時期には急速に伸びたが、単収が一定の水準に達すると、科学技術水準の制約を受けて、増産のスピードも徐々に落ちて来るということである。第二に、農家の管理や生産技術水準には限りがあって、各種要素を合理的に配備するのはむずかしく、それが単収の増加を制限することになったということである。

労働生産性の角度から考察すると、野菜の総生産量が増加する中で、2002年から2012年の労働力の投入の増加率は11.18減少しているが、加重平均した単位労働力当たりの生産量は45.28増加し、貢献度は132.8となっている(表4)。このうち、各品目の単位労働力当たりの生産量の貢献度は121.26、品目の変更の貢献度は11.54であった。つまり、労働生産性は野菜増産の主な要因であり、同時に、野菜生産の労働力が葉菜類などの労働生産性の比較的高い品目に多く分配されたこともまた生産量増加を促進することにつながっている。つまり、労働力の投入の角度から見ると、野菜の生産効率は向上を続け、内包的発展の特徴を良く呈している。

上述した野菜生産の二段階を対比してみると、第一段階は労働力投入の増加率が平均0.78で、増産への貢献度は31.46であったのに対し、第二段階では労働力投入の増加率が減少し、また貢献度もマイナスとなった。また、第一段階と比較して、第二段階では加重平均した単位労働力当たりの生産量と各品目の単位労働力当たりの生産量の貢献度がそれぞれ37.93増、13.87増となっている。つまり、労働生産性の貢献度が上昇を続けている。これは、科学技術の発展と農村の労働力の移転、転出により、野菜生産への労働力投入は減ったが、労働生産性は逆に上昇を続けているということであり、分析によっても、労働力投入の点から見て、野菜の生産が内包的発展によって、不断に最適化が進んでいることが明らかになった。 

4 結論と政策的提案

では、要素の投入ならびにその配置水準の角度から切り込むとともに、生産品目の変化を考慮し、要素の投入、要素の生産効率、生産構造の変化の三種類の要因が野菜増産に果たす貢献度およびその変化を測定、比較して、中国の野菜生産発展の特徴と傾向を全面的に考えた。その結果、総生産量と栽培面積から見て、生産する野菜の品目構造に一定の変化が生じていることが判明した。また、土地投入の角度から分析を行った結果、野菜の増産は全体として、栽培面積の拡大と土地生産性の増大に同時に依存していたが、その中でも栽培面積の拡大に頼る外延的生産方式への転換の傾向が見られることが分かった。同時に、野菜の品目の変化の生産量に対する貢献度は比較的小さかった。労働力投入の点から分析を行った結果によると、労働力の投入が減る情勢の中、野菜の生産量増加は主に労働生産性の向上に依拠していることが分かり、内包的生産方式への転換の傾向が顕著であった。また、労働力の点からは品目の変化もまた生産量増加の一つの重要な側面であり、葉菜類など労働生産性が比較的高い品目へと転換する傾向が見られた。

上述の結論に基づいて得られる政策的提案は次のようなものである。第一に、土地などの資源面での制約が厳しさを増す中、中国農業全体の生産構造の合理性を保証するためには、野菜生産において農地面積を拡大するより資本を投入することを奨励し、農業技術を向上させて土地生産性を引き上げることにより、外延的な生産方式へと転換しようとしている野菜生産の傾向を改めて、単位当たり生産量の増加を再び野菜生産量増加の動力とすることが必要である。第二に、農業機械の投入を奨励し、農業生産に関する特別研修の実施を奨励して、野菜の労働生産性をさらに高め、野菜生産を労働力の内容が重みを持つ生産方式へと転換することが必要である。



参考文献

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注:本論中の「貢献度」の計算方法

土地生産効率の貢献度の計測を例にとって分析方法について説明する。

時期tの野菜の総生産量(Qt)は二種類の方法で表すことができる。一つは、総作付面積(Rt)と「加重平均した単収」(Yt)の積であり、もう一つは、各品目ごとの作付面積(rit)とその単収(yit)の積の和である。すなわち下の式で表すことができる。

065a(1)

このうち i は様々な品目を代表する。式(1)の両辺を総作付面積で除すと式(2)が得られる。

065b(2)

このうちsitは、第 i 種の野菜の第 t 期の作付面積が占める割合を代表する。つまり、sit=rit /Rtであり、野菜の「加重平均した単収」は各品目の野菜の単収の加重合計に等しく、重みは各品目の作付面積の割合である。

このことから、野菜の総生産量は、①総作付面積の変化、②品目の栽培割合の変化、③各品目の単収の変化の三つの要素の影響を受けているといえる。

実際にはこの三要素が絡み合って作用しているため、野菜の総生産量の変化から、この三要素がもたらす影響を分離させるためには、まず栽培品目に変化がない状況を仮定し、式(1)と(2)に基づいて、t+1期の野菜の総生産量は次のようにあらわすことができる。

065c(3)

このうち r'it+1は、第 i 類の野菜が第 t 期の作付面積の割合を保持した場合の第 t +1期における作付面積を表す。且つ、r'it+1/rit =Rt+1/Rtβit を満たす。βit は、野菜の総作付面積の増加率を表し、これは栽培品目に変化がない状態における各野菜の作付面積の増加率に等しい。よって、栽培品目に変化がない状態における t と t +1期の野菜の総生産量の変化は次のようにあらわすことができる。

065d(4)

065fは、各作物の加重後のそれぞれの単収の変化を表す。このため、 t から t +1期の野菜の実際の総産出は以下の通り分解することできる。

065e(5)

式(5)は、t から t +1 期の野菜の実際の総産出の変化が等号の右側の三項に分解できることを示す。第一項は作付面積の変化であり、第二項は各品目の単収の変化であり、第三項は品目の栽培割合の変化である。

これに基づき、野菜の作付面積の変化(φR)、単収の変化(φy)、品目の変化(φA)の野菜の総産出の変化に対する貢献度を次の式により得た。

065g


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