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海外情報(野菜情報 2019年7月号)


EUにおける野菜の地理的表示(GI)の活用について

調査情報部 国際調査グループ


【要約】

 全国各地の伝統的な農林水産物・食品について、その名称を知的財産として保護することを目的として、日本のGI制度は2015年にスタートした。
 EUでは、1990年代初頭にGI制度が創設され、1000以上のGI農産品が登録されている。それにより、模倣品の排除にとどまらず、取引の増加や担い手の増加などが実現されている。

1 はじめに

農林水産省は2019年14日、伝統的な各地域の農林水産物および食品の名称を知的財産として保護する「地理的表示(G:Geographical Indication)」に、鳥取県大栄西瓜新潟県の津南の雪下にんじん香川県の善通寺産四角スイカが新たに登録されたと発表した。これで、GIに登録された産品は、2015年12月22日に最初のGIが登録されて以降、北は北海道から、南は沖縄県まで合計82件となった(ただし、イタリアの1産品を含む)。82件のうち野菜および野菜加工品は33件となっている。

GI制度は、特定の産地と品質などの面で結び付きのある農林水産物・食品などの産品の名称(地理的表示)を知的財産として保護することにより、生産者の利益と同時に、需要者の利益も保護することを目的とし、2015年日に施行された「特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(通称「地理的表示法」)」に基づいて運用されている。また、登録された農産品は、大きな日輪を背負った富士山と水面をモチーフとした「GIマーク」を使用することができ、消費者が購入の際に一目で分かるようになっている(図)。

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既に100カ国以上で同様のGI制度が導入されており、世界的にも認識された制度の一つであるが、GI制度の先駆けは欧州連合(EU)である(注1)。EUは、各国や各地域との自由貿易協定(FTA)の交渉において、EU産GI農産品の保護を要求しており、2019年2月1日に発効した日EU経済連携協定日EUEPAにおいても相互に保護を求めるGI産品を確定するなど対応している。

なお、GIは、地域の複数の生産者で共有する地域共有の財産として扱われる。

農林水産省は、GIのメリットとして、①模倣品の排除 ②取引の増加 ③担い手の増加を主なものとして挙げている。今回、そのような視点を踏まえて、日本におけるGI制度のさらなる効果的な活用ひいては国産野菜の競争力強化に資するため、EUにおけるGIの活用状況について、現地調査を行ったスペインやベルギーのGI野菜生産の事例と併せて報告する。

なお、本稿中の為替レートは、1ユーロ=123円(5月末日TTS相場123.24円)を使用した。

注1:EUにおけるGI制度の概要や登録手続きなどについては、フランスとオランダの現地調査と合わせて報告した「EUにおける野菜の地理的表示(野菜情報2018年1月号)https://vegetable.alic.go.jp/yasaijoho/kaigaijoho/1801/kaigaijoho02.html」を参照のこと。

2 EUにおけるGIの活用状況

 意義

野菜のみならず農産品の生産や製造において、その地域(一定の地理的領域)の気候や風土や土壌などの特性により伝統的に育まれてきたものは、非常に価値があり、それに携わる関係者のため、ブランド(知的財産)として守られるべきものと考えられる。

また、長い歴史の中、それぞれの地域で、その地域にしかない特性と伝統的な製法などを生かすだけでなく、日々消費者に応えるべく進化もし、携わる関係者の多くの知恵と知識を注ぎ込んだ不断の努力の結果である。

一方、評価が高まった農産品には、その評価の高さ故に、模倣品の出現や流通によってブランドイメージが損なわれることが往々にある。ブランド名をうたった大量生産された安価な模倣品は、ブランドイメージを損なうだけではなく、消費者に大きな誤解を生じさせ、当該農産品の生産の継続すら困難にさせる危険性をはらんでいる。

GI制度は、そのようなことを阻止し、各地域の農産品の名称を特定することによって保護することが目的であることから、多様な農産品の生産を守り、その農村地域の発展に貢献するという大きな役割を担っている。そのため、GI農産品に携わる関係者は、当該GI農産品の生産などに係る仕様を厳密に定め、協力関係により品質を維持し続ける必要がある。また、このような協同での作業により、当該農産品の高い評価は維持され、ひいては雇用が守られ、GIはその農村地域の存続に大きく貢献し得る。

(2) 二種類の制度

EUのGI制度は、日本に先んじること20年以上前の1992年に施行され、現時点(2019年3月8日時点)の登録農産品の数は1386件と、日本と比較すると20倍近くの差がある。また、申請中のものが202件(うち192件が2016年以降に申請されたもの)、その他EU官報に掲載済みのもの(異議申し立てなどがなければまもなくGIとして登録されるもの)が件と日本に比べて同制度の浸透具合や普及率は非常に高く、積極的に活用されていることが分かる。

GI制度には、地理的領域への結び付きの程度に応じて二種類ある(表1)。一つは「原産地呼称保護(PDO)」であり、もう一つは「地理的表示保護(PGI)」であり、PDOの方がより密接(一般的に条件がより厳しい)に地理的領域と結び付いている。具体的には、PDOは、生産工程(生産、加工、調製)のすべてが一定の地理的領域内で行われている必要がある。つまり、原則としてすべての原材料が同じ地理的領域内で調達されることが求められる。一方、PGIは生産工程の少なくとも一つが地理的領域内で行われていればよい。とはいえ、両者の登録件数はほぼ拮抗しており、全登録1386件のうちPDOが637件でPGIが749件となっている。地理的領域との結び付きについて、日本のGI制度は、PDOとPGIの両方をカバーしており、農産品の製造に対し、当該地理的領域以外から調達された原材料を用いても良いなど、やや柔軟性が認められている。

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このほか、EUにおける品質の高い農産品の名称を保護するための制度には、伝統的な慣行に沿った生産、加工方法または組成からなる農産品であることなどが要件とされる「伝統的特産品保証(TSG)」という制度もある。これは、他の類似農産品と区別できる特徴を有していなければならないが、PDOやPGIとは異なり、農産品と原産地との関連性は求めていない。

(3) 登録手続き

GIの登録には、登録を希望する農産品の品質管理をする生産者などの組織する団体が各加盟国の当局に申請する必要がある。また、申請にはGIとしてふさわしいとする農産品の特性やその生産、または製造地域や方法を具体的に示した「明細書」の作成が必要となる。

加盟国当局による精査の後、欧州委員会に送付され、同委員会がGI制度に適合していると判断すればEU官報に公示し、第三者の異議申し立て期間を設ける。もし、その期間に異義がなければ当該農産品はGIとして登録される。しかし、異議の申し立てがあれば、申請者側と異議申し立て側の間で協議を行い、それでも合意に至らない場合は、最終的に欧州委員会が登録の可否を判断することとなっている。いずれの場合も、結果はEU官報で公表される。

GIに登録された農産品は厳しく管理されていくことから、取り消されることはほぼなく、取り消しは、登録した生産者団体などが取り消しを要求した場合や、7年にわたって当該農産品が市場流通していない場合などに限られる。なお、EUのGI制度には、EU域外の国の農産品を登録することも可能である。この場合、直接または自国当局を経由して欧州委員会に申請を行う。現にEUで登録されているGI農産品には、アフリカ諸国や中東諸国などのものも多く存在している。

(4) メリット

GI制度のメリットは日本同様、模倣品の排除や取引の増加などであるが、関係者などに話を聞くと、排除すべき模倣品の存在が大きいようである。

2012年の報告書(注2では、GIに登録された産品の販売優位性として、具体的に価格差が挙げられており、大きいものでは2倍もの差になるという。野菜や果実でみると、価格差は、ワインやオイルなどの加工品よりも、非加工品の方が大きい傾向がある。同報告書によれば、EUにおける野菜および果実は、一般のものとGIのものとの価格差は3割程度となっている。収益性も一般のものよりGIは高いとされており、この点は農業生産の継続の面からも非常に重要なことであると考えられる。このことは、ひいては担い手の確保にも十分効果的と考えられる。

また、GIにより、地域社会に文化的・経済的な価値が創出され、地域の活性化に大いに役立っている。過去の取材では、地域振興のために地域一体となって地元産の野菜をGI登録させた例も確認した。そこではGI登録により、シェフなどから直接注文がくるなど、取引の拡大も見て取れた。GIによる地域振興に対して、地元の行政や関係団体が支援している場合がある。

さらに、消費者に信頼できる情報を伝達できるといった利点がある。消費者は、「明細書」の中身までは把握していなくとも(複雑であることから把握していないことの方が多いと考えられる)、「GIマーク」により品質が保証されているため、安心して、そのプレミア分の対価を払って購入する。GIがEUにおいて一つの選択肢として定着していることは、大きな効果につながっていると考える。

注2:AND International「Value of production of agricultural products and foodstuffs, wines, aromatised wines and spirits protected by a geographical indication (GI)」https://ec.europa.eu/agriculture/external-studies/value-gi_en

(5) GI戦略

近年、GI農産品の模倣品が世界的に増えているため、EUはGIの保護の強化を積極的に推し進めており、二カ国間のFTAなどでGIの相互保護を求めている。2019年月に発効した、日EUEPAでも、GIの相互保護を開始させた。

EUは、移民の増加などにより人口はやや増加傾向にあるも、成熟市場であり域内の需要が一気に増えるということは考えにくく、市場として域外への関心は高い。そのような中、GI農産品などブランドイメージが強く、競争性を有するものは、日本を含む域外へ販路を拡大するため、大掛かりな販売促進プロモーションなどを行っている。

2019年3月5日から8日に日本で開催されたFOODEX(国際食品・飲料展)では、日EU・EPAの発効直後ということもあって、欧州委員会が5年ぶりにEU農産品の輸出促進のため独自のパビリオンを出展している。同パビリオンにて、専門家によるEPAセミナーを開催し、EPAは日・EU双方の主要農産品の貿易にメリットをもたらすものと強調した。

同セミナーでは、関税の撤廃・引き下げや農業部門での協力などと併せて、GIについても専門家であるフランス当局担当者がプレゼンテーションを行い、GIは消費者側でもよく理解することが重要とし、GI農産品の価格が高いのは、生産者にとって付加価値を増し、より安全で高品質であることを示していると説明した。豪州とのFTAでフランス産シャンパーニュが豪州でGI保護されたことにより消費が増加した例を紹介し、その効果や必要性などを強調した。

また、パビリオン内ではGIについて説明する大画面ビデオが常時上映され、EUを代表するシェフによるクッキングショーでも、調理の合間に司会者がPDOやPGIの違いを分かりやすく解説するなどして知識の普及を図った。

3 日EU・EPAにおける相互保護

日本における相互保護は、日本と同等水準と認められるGI制度を有する国とGIのリストを交換し、当該国のGI農産品について、所要の手続きを行った上で、農林水産大臣が指定する流れとなっている。相互保護は、日本で外国のGIを保護するのと併せて、外国で日本産農産品のGIが保護されることから、日本の生産者のGI登録の負担が軽減され、外国での日本産農産品のブランド化が推進される。

日EU・EPAにあっては、日本側は48品目、EU側は71品目のGI農産品について、相互保護の対象となった。なお、発効後、必要な手続を経て随時産品の追加が可能となっている。日本で保護の対象となるEU産GI農産品は、酪農製品(27件)、食肉製品(14件)が過半を占めるが、野菜・果実もオーストリアの西洋わさびなどが含まれている(表2)。

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なお、先使用の規制として、相互保護の前から使用されていた当該産品と同一または類似の名称の使用は、原則として発効後7年間制限される。

一方、EUで保護の対象となる日本産GI農産品48件のうち野菜および野菜加工品は、14品目となっている(表)。

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これによりEU域内で、日本産GI農産品以外の農産品へのGI(夕張メロンなどの名称)の使用が禁止され、GI農産品であるかのような「〇〇タイプ」、「〇〇スタイル」などのような表示や、国旗などにより誤認されるおそれのある表示は規制される。また、EU市場に存在する模倣品を取り締まることができるほか、第三者による商標出願などもできなくなる。これらにより、当該農産品のブランドイメージを損なう恐れはなくなる。さらに、EUの消費者への効果的な知名度向上が可能となり、輸出機会の創出または拡大への貢献も見込まれる。

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EU側から見ても同様のことで、日本などとのFTAに相互保護を盛り込むことで、世界的にも評価の高い数々の伝統あるEUの農産品について、模倣品を排除し、輸出拡大の可能性が高まることは、最大のメリットとなっている。

4 EUのGI野菜生産の事例紹介

実際の野菜生産の現場において、GI制度のメリットは、具体的にどのように発揮されているのか、調査に応じたスペインとベルギーの三つの事例(いずれもPGI)を報告する。

(1) ゲルニカピーマン(Gernikako Piperra)(スペイン)

2010年にPGIに登録されたゲルニカピーマンは、スペイン北部のバスクで生産されている(写真1、2)。17世紀に生産が始まっていたとされており、同国の主要農産物生産地であるバスクにあっても最も古い農産物の一つとなっている。名前は、バスクのゲルニカという地でこのピーマンの素揚げがよく食べられていたことに由来する。

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ゲルニカピーマンは1997年、バスクが独自に規定する品質保証であり、バスク牛やバスク豚など特定の品質要件を満たす16品目のみしか認められていない「Eusko Label(バスク・ラベル)」に登録されている。しかし、同ラベルの効果などにより国内で評価が高まり、需要が増えると、大量生産の低品質かつ安価なモロッコ産ピーマンが「ゲルニカ風ピーマン」としてマドリードなどの主要消費地で出回り始めた。このため、ゲルニカピーマンの生産者団体は、2008年、模倣品に対する法的な対抗措置としてPGIに申請した。同生産者団体が考えるPGIによるメリットは、EU全域で当該農産品が保護され、農産品の差別化や模倣品への対応が容易となり、その農産品に品質面での付加価値が与えられることである。

ゲルニカピーマンは、山岳地域の大西洋気候の恩恵を受けた温暖で高い湿度、有機物が豊富な土壌といった産地の特性が、その高い評価の品質に貢献している。果肉は薄くてやわらかく、カプサイシンをほとんど含んでいないため非常に甘いのが特徴である。より美しく、おいしいゲルニカピーマンの生産のためにNEIKER(バスク州政府の農業研究所)で品種改良が行われており、種の選抜、管理も行われている。

同生産者団体の担当者によると、高齢化により生産者数は減少しているが、販売は好調であるという。具体的には、ピーマンが卸売価格1キログラム当たり60セント(74円)で流通している中、ゲルニカピーマンは約10倍の価格であるものの、その品質の高さ、希少性などから消費者に選ばれている。ゲルニカピーマンの収穫は、熟練した生産者によって品質を確認しながら、手作業で行われるので人件費は高い。また、食生活の変化により、素揚げにするのに手間がかかることから家庭での消費割合は減ったものの、外食では地元名産品として高い評価を受けている。

同担当者は、このようにして一定量の生産を維持できているのは、GIのおかげであるという。GIにより、プレミア分を支払う価値があると消費者に認められる品質が保証されているため、同地での継続したゲルニカピーマン生産が可能となる。GI登録時に作成した明細書に基づき、梱包作業など日々の管理を厳格に行っているほか、生産者団体が、毎月の報告書の作成や、年一回の検査により、品質の維持に努めている。

ゲルニカピーマンは、バスクをはじめ、スペイン国内で生産量の約80%が販売されている。生産者らは、GIを活用して消費者にゲルニカピーマンの品質の高さを認識してもらい、消費量の拡大を目指している。

(2) ラス・ペドロニェーラス紫にんにく(Ajo Morado de Las Pedroneras)(スペイン)

2008年にPGIに登録されたラス・ペドロニェーラス紫にんにくは、スペインの中央部に位置するラス・ペドロニェーラス村を中心としたカステーリャ・ラ・マンチャ州の4県の227市町村で生産されている(写真3、4)。この地域は、気候と土壌条件がにんにくの栽培に適しており、年間約1000万トンのにんにくを生産し、そのうちラス・ペドロニェーラス紫にんにくの生産量は年間200万~300万トンを誇る。取引量の増加と価格改善を目的に、2002年にPGIに申請した。

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当初、約800戸の生産者でスタートしたものの、現在は高齢化などにより約500戸となっているが、生産性や収益性が高いことから、新規就農者の中には若年層が増え始めている。また、一戸当たりの生産面積が拡大しており、総生産面積および生産量は毎年増加傾向で推移している。主要な輸出先は、英国、フランス、イタリア、ドイツなどEU域内であるものの、近年は日本をはじめとした域外へも輸出を拡大させており、2017年には、東京で販促活動を行っている。明細者が遵守されているか、生産から出荷時の梱包方法や貼付するラベルの位置までの細かい検査が、年一回実施されているのに加えて、抜き打ちの検査などもある。検査費用の70%が助成金として支給されるなど地元州政府の支援もある。生産者団体の長は、ブランド力強化のためにも価格のコントロールが必要であると考えているものの、現時点では生産者の自由競争としている。非GIの紫にんにくの販売価格は、キログラム当たりユーロ(738円)前後であるのと比較して、ラス・ペドロニェーラス紫にんにくは同ユーロ(9841107円)となっており、約30~50%の価格差がある。GIという品質保証や販売優位性により、積極的に取り扱う小売業者も多いという。

生産者団体が考えるPGIによるメリットは、EU全域での非GIの紫にんにくとの差別化による競争力の強化である。紫にんにくはその栄養価などが知られ、競争が激化しているが、PGIによる品質保証を武器に、販売促進などにより、消費者の理解譲成に努め、生産量を増加したいとしている。

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(3) フロランヴィルばれいしょ(Plate de florenville)(ベルギー)

2015年にPGIに登録されたフロランヴィルばれいしょは、ベルギー南部のフロランヴィル村を中心に東西に広がる地域で生産されている(写真5、6)。生産者団体の担当者によると、同地域の伝統的な食料であり、1931年の文献に当該名称が記載されており、その時期での生産が確認されているという。販売は好調であったものの、知名度が上がるほど模倣品の販売が増えてきたことから、5者の生産者が組合を設立して2013年にPGIに申請した。

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生産地域であるベルギー南部は、温暖で乾燥した気候である。年間の日照時間が長く、水はけが良い野菜生産に適した砂壌土であるなど土壌条件に恵まれている。フロランヴィルばれいしょの特性は、形状はやや平たく、果肉は黄色で、長時間煮ても煮崩れしにくい。その特性から外食産業への販売が好調であり、主にベルギー国内と同生産地域から近いフランス国境地域で消費されている。以前にはパリの高級百貨店などとも取引があった。同担当者によると、品質を維持するための明細書に基づく生産方法の検査が重要であるという。なお、その費用のうち50%は地方政府から補助されている。

生産者団体が考えるPGIによるメリットは、模倣品の排除、EU全域での品質保証、有利な宣伝活動、価格の維持による生産者の収益の確保などである。品質を維持するために、明細書にはヘクタール当たりの生産量を最大25トンまでに制限するなど細かく仕様を定めている。現在の年間生産量は合計で250~300トン、生産者の年齢層は3070代で、すべて家族経営である。販売価格は、一般的なばれいしょがキログラム当たり0.8ユーロ(98円)であるのに対して、同ユーロ(123円)となっており、25%高い。同担当者によれば、家族経営でありながらもこのようにプレミア価格を乗せた上で安定した生産が継続できるのは、PGIによるところが大きいとしている。将来的には、販路拡大による生産量の拡大を目指している。

5 おわりに

EUにおけるGI制度は、長い年月を経てEUの消費者へと広まっている。だからこそ、消費者は品質を理解して、そのGI農産品を選択し、その上でプレミア対価を払う仕組みが出来上がっている。日本では2015年に施行され、まだ走り始めたばかりである。よって、生産サイドでGI制度のメリットを認識し、効果的に活用することが求められる一方、表示を信頼した消費者の利益も保護されるなど、GIそのものの認識を消費者に広めるような活動も重要であると考える。

GI制度は、地域の知的財産を保護するものであり、農村地域の活性化には非常に効果的なものであると考えられる。EUの事例でもみられたようにGI制度により保護され、それによって競争力を持つことで、その土地が育んできた伝統を絶やさず、かつ収益性の確保などにより継続して野菜生産を行えることは、産地にとって理想的なものであるように思う。

日本全国各地に、それぞれの特徴や伝統を生かした品質の高い野菜などが多くあり、その生産の継続は消費者側から見ても望むものではないだろうか。昨今、地産地消などの地域密着への傾向は確実に強まっていると考えられ、生産サイドとしては産地の維持拡大のためにGI登録を検討することは、非常に有効なものと考える。農林水産省も、GI制度の普及啓発に係る情報提供や、GI登録申請の相談を一元的に受け付ける支援窓口を開設するなど、産地を支援する体制は整っている。

日本においても日EU・EPAの発効でGIに注目が集まる中、本報告により、GIの活用が国産野菜の競争力強化に向けた選択肢の一つとして検討される契機となれば幸いである。

(大内田 一弘(JETROブリュッセル)




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