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海外情報(野菜情報 2019年6月号)


韓国のトマトの生産・流通状況および日本への輸出動向

調査情報部


【要約】

 トマトは、多くがピューレ、ケチャップなどの加工品として輸入されているが、近年、生鮮トマトの輸入も増加傾向で推移している。国内の生鮮トマトは、大玉トマトとミニトマトに区分されるが、近年、サラダ人気の高まりなどからミニトマトのニーズが増えている。生鮮トマト(大玉トマトおよびミニトマト)の輸入量のうち、過半が韓国からの輸入となっており、また、韓国における生鮮トマトの輸出先の約98%が日本向けとなっている。今回は韓国におけるトマトの生産、流通状況および日本への輸出動向、政策による輸出支援策などについて報告する。

1 はじめに

日本では、トマトは抗酸化作用のあるリコピンを多く含むことで知られており、また彩りとしても欠かせない食材である。

わが国の2018年のトマト収穫量は72万4200トンであり、生鮮トマトに関してはほとんど国産品で需要を賄っている。トマトピューレやトマトケチャップなどの加工品は輸入が多く、生鮮トマトの輸入は収穫量の約1%にすぎない。

生鮮トマトのうち、大玉トマトは果実が堅く輸送に適しているニュージーランド産やカナダ産が多いが、ミニトマトは韓国産が多い。近年、サラダ人気の高まりなどからミニトマトのニーズは増えており、野菜の鮮度をより重視した結果、地理的に近く輸送時間の短い韓国産が年々シェアを伸ばしている(図1)。

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韓国産トマトは、栽培技術が高度であることに加え、国を挙げて輸出市場の開拓や輸出窓口の一本化など、積極的に農産物の輸出拡大に取り組んできたことを背景に、輸出量は増加傾向にある。

そこで、本稿では、同国におけるトマトの生産および流通動向に加えて、業界団体による輸出戦略や政府による輸出支援策などを紹介する。

なお、本稿中の為替レートは、1ウォン=0.1円(2019年4月末日TTS相場0.098円)を使用した。

2 生産および消費動向

(1)生産動向

トマトの栽培面積は2000年代に入り、健康志向の影響もあり、年々増加し、2007年には7353ヘクタールまで急激に増加した後、卸売価格の下落により、栽培面積は減少に転じ、2010年には5270ヘクタールまで減少した。その後、2014年には7070ヘクタールまで増加したものの、再び卸売価格が下落したことから、2017年には前年比9.5%減の5782ヘクタールと再び減少傾向となっている。なお、生産量はおおむね栽培面積と同様の傾向で推移し、2017年には、同9.0%減の35万5107トンと3年連続で減少している(図2)。

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栽培面積に占める輸出用トマトの面積シェアは2.4%前後であり、このうち、ミニトマトが74ヘクタール、大玉トマトが100ヘクタールと推定される。また、国を挙げて輸出拡大に取り組んできたこともあり、日本への輸出量は増加傾向となっている(表1)。

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(2)消費動向

日本のトマトの年間人当たりの購入数量は約4キログラムであるが、韓国での1人当たり年間消費量は、2014年には9.5キログラムあったものの、2014~17年の間に生産量が減少したことにより、2017年の消費量は6.6キログラムなっている。韓国のトマト自給率は90%以上であり、国内で生産されたもののほとんどが国内で生鮮トマトとして消費されている(写真1)。同国で生産されるトマトは色が薄、果肉が少ない、柔らかいなどの特性上、加工用には向いていない。

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消費者調査の結果(韓国農村経済研究院農業観測本部 2018年12月)によると大玉トマトよりミニトマトを好む消費者が多い。また、形状は丸型よりも楕円系型好まれる傾向にある。

3 生産概況

(1)生産地域、作型など

トマトの生産方法は、土耕栽培(促成、半促成、抑制)と養液栽培があるが、地域ごとに定植時期と出荷時期をずらすことにより、ほぼ1年を通しての出荷が可能となっている(図3)。主産地は、ちゅうせいなんどうぜんなんどうこうげんどうおよびけいしょうなんどうとなっており、この4地域で生産量の6割以上を占めている(図4、表2)。

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土耕栽培のうち促成栽培は、秋に定植した後、収穫期間が冬から春になるため栽培期間の多くで加温を必要とすることから、比較的温暖な南部(全羅北道以南の地域)で多く行われている。半促成栽培は、冬に定植した後、収穫期間が春から初夏になるため温度管理が行いやすいことから、韓国のトマト栽培方法の大部分を占めており、南部と忠清地方で多く行われている。抑制栽培は、初夏に定植した後、収穫開始が盛夏期となり、夏の高温・梅雨や乾燥などを避けるため、冷涼な準高冷地や高冷地(江原道、京畿道の一部など)で行われている。

また、ミニトマトでは、土を使わずに肥料成分を水に溶かした養液栽培が主流となっている(写真23)。養液栽培には土の代わりに固形物質を培地として用いる固形培地耕と固形物質を用いずに根に直接養液を接触させる水耕栽培があるが、韓国ではパーライト耕を培地として使用した養液栽培が最も多い。

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(2)輸出用品種

輸出向け品種としては、果肉が硬く、かつ厚くて貯蔵性が高い利点を持つ海外品種が使われることが多い。、大玉トマトにはTabor、Dafinis、Star Buckなどがあり(写真4)、ミニトマトにはCarol 7、Chelsea Mini などがある(写真5)。ミニトマトでは、Carol 7のように果皮が柔らかいか、Chelsea Mini のように酸味が強くない品種が、生鮮トマトとして活用される。

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(3)生産コスト

2017年のミニトマトの10アール当たり生産コストのうち、最も大きなウエイトを占めるのは光熱費、次いで雇用労働費、資材費、施設償却費、種苗費となっている(表3)。光熱費は、原油価格の影響を大きく受け、年間平均原油価格が下落したのに伴い2014年以降減少している。加えて、資材費も減少しているため、生産コストに占める割合は2013年と比較すると減少傾向となっている。一方で、種苗費は、収量と耐病性を重視するため、割高な海外品種を使わざるを得ず、圧縮が難しい。また、雇用労働費は、毎年最低賃金が引き上げられているため増加しており、生産コストに占める割合は高くなってきている。

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(4)今後の生産見通し

2019年の大玉トマトの栽培面積は、新規栽培農家の増加や他品目からの切り替えなどもあり、前年よりわずかに増加するものと予想される。

中長期的には、栽培面積は、2018年の6058ヘクタールから、10年後の2028年には4.6%増の6337ヘクタールに達すると見通されている。また、単収についても、栽培技術の向上などにより2018年の10アール当たり6.0トンから2028年には8.3%増の6.5トンになると見込まれている。この結果、生産量については、2018年の36万5000トンから2028年には13.4%増の41万4000トンに増加すると予想されている(表4)。

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4 流通動向

(1)流通経路

国内向けトマトは、全量が生産者から農協などの生産者団体に出荷された後、卸売市場、小売業者または量販店を経由して収穫から2日程度で消費者に届けられる(写真6~7、図5)。国内流通は、生産者団体から卸売業者に引き渡される量が約3分の2、量販店などの大型流通業者に引き渡される量が約3分の1となっている。近年、徐々にではあるが卸売業者のシェアが低下し、大型流通業者のシェアが上昇する傾向にある。2015年時点では、生産されるトマトの約半分が、大型流通業者を経由して消費者に届けられており、大型流通業者の影響力が強まっている。

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国内で生産されるトマトのうち、生鮮品として消費者が購入するシェアが国内の91%、業務用として大口需要者が購入するシェアが8%となっている。

なお、輸出に仕向けられる量は、全生産量の1%にすぎないが、生産者団体が自ら輸出することにより、流通経費を低減し、価格競争力の強化を図っている。

(2)卸売価格と小売価格の推移

2017年のミニトマトの卸売価格は、1キログラム当たり4188ウォン(419円)となった。近年、栽培面積が増加したことに伴い、供給量が多めに推移し、2015年は同4000ウォン(400円)を下回っていたが、2016年以降、生産量が減少したことにより、卸売価格は回復傾向となっている(図6)。

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年間の卸売価格の推移を見ると、年末の需要期をはさんで9月から翌年3月ごろまでは、価格が高い時期となり、出荷量が多くなる5~7月ごろに価格が低落している。

また、2017年のミニトマトの小売価格は、1キログラム当たり6605ウォン(661円)となっている。小売価格は、卸売価格に連動する形で推移しており、2015年は低い水準となっていたものの、2016年以降、回復傾向となっている(図7)。

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5 輸出動向

トマトの輸出は、生産量の1%程度と少ないものの、輸出されている生鮮トマトのうち95%がミニトマトと言われており、また、輸出量の95%以上が日本向けとなっている。日本への輸出は、物流コストも安価な船舶により輸送されるが、地理的にも近いため輸送時間は1日程度と短い。

2001年以降、対日向けが大幅に減少したことにより輸出量も大幅に減少したことから、輸出先の多角化を目指して台湾、香港、ロシアなどの新市場の開拓を行っているが、対日輸出依存度は依然として高い。

(1)輸出量および輸出金額の推移

輸出量の推移を見ると、国内価格の上昇と日本がポジティブリスト制度(注)を施行したことにより、2008年までは継続的な減少傾向を見せていた。しかし、ポジティブリスト制度への対応が徐々に出来るようになったため、2009年から増加に転じ、その後は増加傾向で推移し、2018年は4940トンとなっている(図8)。

注:原則、すべての農薬などについて残留基準(一律基準を含む)を設定し、基準を超えて食品中に残留する場合、その食品の販売などの禁止を行うこととした制度。2006年施行。

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輸出量は、出荷量が少なく国内価格が高い厳冬期の1~2月に少なく、出荷量が多く国内価格が低下する7~8月にかけて増加し、その後は国内価格の動向により増減するなど、国内価格の影響を強く受けている(図9)。

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(2)業界団体による輸出戦略

業界団体においても、トマトを重要な輸出品目に育成すべく、課題の解決に向けて取り組んでいる。課題として挙げられている点は、トマトを利用した加工食品の開発だけではなく生産拠点ごとに近代的な加工センターを整備する必要性と、輸出窓口の一本化とされている。特に、輸出窓口の一本化については、複数の生産者団体が別々に輸出に取り組んでいたため、輸出に当たって統一的にブランド化、品質規格、事務手続きを行い、競争力強化の必要性が指摘されていた。

こうしたことから、業界の輸出戦略の一環として、2016年に韓国産トマトの輸出競争力の強化と輸出一元化を図るため、生産農家134戸および貿易企業5社を会員とする輸出先導組織として、輸出専門企業である株式会社 K-TOMATOが設立された(表5)。これにより、日本向けは、同社を通して、同一規格およびブランドの製品が輸出されることとなった。

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(3)政府による輸出支援策

韓国政府は、トマトをはじめ、いちご、パプリカなどを主要な輸出品目に育成するとともに、海外市場での競争力の維持・強化を図るために補助事業を通じて側面支援を行っている(表6)。補助事業のメニューは、生産段階においては、じょうを集約化し生産団地の造成と近代的な施設・設備を整備するハード事業をはじめ、輸出に係る物流経費、為替変動リスクなどの保険料、輸出拡大のため経費の一部を補助するものなどがある。さらに、輸出品目の安全性を確保するために、残留農薬検査やその他の衛生検査(微生物、寄生虫、重金属、保存料および酸化防止剤)の経費の一部を補助するメニューが整備されている。

このように、韓国政府においては、農林水産食品の輸出拡大に向けて、さまざまな側面支援を行っている。

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6 日本国内の動向

(1)輸入品の動向と仕向け先

2018年の月別輸入量を見ると、一年間を通じて韓国産が多くなっているが、韓国国内の価格が低くなる7~8月にかけて輸入量が増加する傾向にある(図10)。日本における韓国産トマトはほとんどがファストフード店やファミリーレストランで消費されるため、小売店などで目にする機会は少ないとされている(写真8)。

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(2)日本産ミニトマトの動向

サラダ人気の高まりなどからミニトマトのニーズが増えている中、ミニトマトの作付面積および出荷量は増加傾向で推移しており、2018年の作付面積は2520ヘクタール(前年比1.6%増)、出荷量は13万4100トン(同1.6増)となっている(図11)。

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7 おわりに

韓国産トマトの今後の見通しについては、中長期的にみると新規農業者の参入と品目の転換により増産が見込まれており、全生産量に占める輸出量の割合は1%程度と低く、さらに輸出量は国内価格の影響を受けて増減する傾向にある。しかし、韓国政府は、トマトなどを主要な輸出品目に育成するとともに、海外市場での競争力の維持・強化を図るために補助事業を通じて支援しており、日本向けがほとんどであるトマトの輸出も、新市場の開拓など輸出先の多様化を進めておりロシア、香港、モンゴルなど、日本以外への輸出量も増加している。

韓国においては、日本の消費者の購買ポイントである鮮度と価格を考慮してみると、韓国産は地理的に近距離にあることと価格競争力を有していることから、他の輸出国よりも有利であると考えられている。また、一年を通して輸出することが出来るため、今後も輸出拡大の可能性は十分にあるとされている。

一方、日本にとっても韓国は、鮮度の良いミニトマトを安定して調達できる重要な輸入先国となっており、低迷していた時期と比較すると韓国からの輸入量は大幅に増加している。

しかし、日本の生鮮トマトの輸入量は、全体的に増加傾向にあるものの、日本国内のミニトマトの作付面積および出荷量も増加していることから、韓国から日本への輸出量の大幅な増加は考えにくい状況にあると思われる。




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