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・海外情報(野菜情報 2019年3月号)


中国における輸出向け野菜の生産・加工・輸出状況
~対日輸出に力を入れる企業の事例を中心に~

調査情報部 青沼 悠平、露木 麻衣


 中国では政府に登録した生産地のみ野菜を輸出することができ、日本向けの品質・安全 管理基準は特に厳しい。今回は、日本への輸出に力を入れる野菜の輸出企業3社の生産加工方式、品質・安全管理、課題などを中心に日本への輸出状況を報告する。

1 はじめに

日本の家計消費用の野菜はほとんどが国産であるが、加工・業務用のうち約3割は輸入野菜を使用している。加工・業務用として輸入されたものは、日本の野菜加工業者や食品製造業者によりカット野菜、加工食品、総菜などに加工され、量販店、コンビニエンスストア、飲食店などに出荷されている。

近年の日本の野菜供給量は、1500万トン程度で推移しており、うち約8割が国産、約2割が輸入品となっている。日本の野菜の主要輸入先国は、中国、米国、タイである(図1)。

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中国からの野菜輸入量は、2007年末に発生した中国産冷凍ギョウザ農薬混入事件によりその後数年間は低迷したが、2011年以降は130~150万トン台で推移している。類別では、生鮮野菜、冷凍野菜の2類別で7割を占めており(図2)、生鮮野菜としてはたまねぎ、にんじん、かぼちゃ、ねぎ、冷凍野菜としてはブロッコリー、ほうれんそうなどが多く輸入されている。

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このように中国は、日本の外食・中食産業にとって重要な原料野菜の調達先となっており、価格を抑え、利益を確保するには中国産野菜の使用は必要不可欠となっており、日々の生活の中で知らないうちに中国産野菜を消費しているのが現状である。しかし、日本の消費者の中には、中国産食品の安全性をめぐる事件の相次ぐ発覚により、中国産野菜に対する不信感を持つ者も少なくない。

そこで本稿では、野菜の生鮮・加工品輸出企業(以下「輸出企業」という)、特に日本向けに輸出する輸出企業における原料野菜の調達方法、生産および加工現場での安全・品質管理などを明らかにするとともに、生産・加工コストの増加などの課題についても考察する。具体的には、日本への輸出が多いさんとう省、こう省、せっこう省の事例を中心に、2018年9月に実施した現地調査を基に報告する(図3)。

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なお、本稿中の為替レートは、1元=17円、1米ドル=110円(2019年1月末日TTS相場:16.55円、109.96円)を使用した。

2 野菜の生産、輸出状況など

(1)生産、輸出

近年の中国の野菜の作付面積と生産量は、国内外の需要増から右肩上がりで増加しており、2016年は2233万ヘクタール、7億9780万トンと過去最高となった(表1)。全国的に野菜は生産されているが、特に生産量の多い地域は山東省、ほく省、なん注1で全国生産量の3分の1弱を占めている。

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注1:中国では、大きい行政区分から順に、「省級(省、自治区、直轄市など)」、「地級(地級市、自治州など)」、「県級(県、県級市、市轄区など)」などとなっている。

2017年の中国の野菜輸出量は827万2000トン(HSコード07(食用の野菜など。)(果実的野菜、しょうが、調製野菜などは除く。で、生産量に占める輸出量の割合はわずか1%にすぎない。主な輸出先国はベトナム、日本、香港、韓国の順となっており、これまで日本への輸出量が1位であったが、2017年にベトナムが初めて日本を追い抜いた。

中国における野菜の主要輸出地域は、山東省を始め、かんとん江蘇省、ふっけん省、りょうねい省、浙江省など東部沿海地域である(表2)。2013年の野菜輸出量上位10省の中に上記省が含まれており、そのシェアは全体の輸出額のを占める。特に山東省の輸出量は突出しており、重要な野菜生産および輸出地域となっている。東部沿海地域は、降水量が多く、野菜などの生育に適した気候を有しているため、多種多様な野菜を生産することができる。そのため同地域には、輸出企業が多く立地しており、日本への輸出も積極的に行われている。

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(2)今回訪問した3省の概況

ア 山東省

面積の半数程度が平野であり、年間平均気温は14度前後で安定していることから、古くから中国を代表とする農業生産地域として知られている。山東省で野菜生産の多い地域は、ほう市、さいねい市、りょうじょう市などである。冬期は、日光温室注2を使用して主に果菜類などを栽培している。山東省野菜花き研究所によると、日光温室の建設費用は1ムー(6.67アール)当たり15万元(255万円)程度である。

1980年代後半ころから日系企業は野菜生産に適した山東省に関心を示すようになり、当地への進出を開始した。その当時、現在のような輸出企業はほとんど存在しなかったため、日本の商社やバイヤーなどは現地の企業と合弁して野菜の加工、輸出を行える企業を設立した。野菜農家および輸出企業に対し、日本の品質基準に合致した野菜を生産させるため、日本のハイブリッド種子(F1種子)を提供するとともに、栽培管理、集荷・加工および輸出方法などの指導を行った。また、同省はちんたお港、にっしょう港など主要港への距離が近いというメリットも有している。日本商社などの指導の下に中国の野菜輸出産業は成長し、今日では日本だけではなく、多くのに野菜が輸出されている。

注2:「日光温室」は日光を最大限に活用した中国特有の園芸施設。透光面は南面のみで他の面は特殊な蓄熱・保温構造で、中国北部の厳冬期においても無加温で野菜栽培が可能とされている。構造が単純で低コストであることから、中国の野菜栽培の方式として一般的に普及している。地域によって、さまざまな構造のものがある。

イ 江蘇省

平野が7割程度を占め、気候は温暖で四季がある。コメ、小麦、綿花などの生産量が多いため、中国において重要な農業生産地域と位置付けられている。同省は河川・湖沼の面積が大きいことから「水郷の江蘇」として知られ、れんこんの主産地となっており、日本にも多く輸出されている。

ウ 浙江省

山地が多く、山地が7割、耕地が2割、河川・湖沼が1割(中国語で「七山一水二分田」)と言われている。亜熱帯気候に属し、年間平均気温は18度前後と温暖で、5、6月が雨季となる。コメ、茶葉などの生産量が多い。野菜の生産量は全国的に見てそれほど多くないが、中国最大の都市であり大消費地の上海市が隣接していることや、上海港まで近く、海外への輸送が容易なことをメリットとして野菜生産が行われている。主産地はこうしゅう市、ねい市、こう市などである。

3 輸出向け生産地の概況

(1)輸出向け生産地

輸出野菜は、中国農業農村部国家質量監督検査検疫総局(以下「質検総局」という)が2002年に施行した「輸出入野菜検査検疫管理弁法」に基づき、輸出登録生産基地以外からは原則輸出できない。質検総局から輸出登録生産基地の承認を受けるには、輸出企業は直営農場だけではなく、生産委託する農家(以下「契約農家」という)のじょう管理を徹底し、残留農薬などの検査を行う体制を整備しなければならない。

言い換えれば、輸出企業は、①国内市場に出荷している農家②各地域の野菜卸売市場③中間流通業者、など栽培管理方法を把握できず、また、生産地が特定できない場所からは買付けすることができない。

この法律は、2002年に日本向けほうれんそうで残留農薬問題が発生したことを契機に制定されることになった。その当時、日本の厚生労働省は輸出企業に対し輸出停止措置を実施したほか、日本の輸入業者に対しても中国産野菜の輸入を自粛するよう求めた。残留農薬問題が顕在化して以降、輸出企業の原料野菜の調達は、これまでの国内卸売市場などから直営農場または契約農家へとシフトした。直営農場の生産は、自社職員による効率的な栽培管理が行えるなどのメリットはあるものの、天候不良による栽培リスクを自社が負うなどの経営上のリスクを伴うことから、契約栽培からの調達の方が高くなっている。実際に、今回訪問した3社の輸出企業での原料野菜の調達状況をみると、直営農場より契約農家から調達している割合の方が高かった。

(2)契約農家の形態

輸出企業契約農家との契約形態は、企業や地域によって異なり、分類することは難しいが、今回の調査により、農民専業合作社注3(以下「合作社」という)の代表と一括契約を行う方法と他者から農地を借り入れて経営する大規模経営者と契約する方法があることが分かったため、それぞれの成り立ちなどについて説明する。

ア 農民専業合作社

合作社には農家自ら組織したものと、輸出企業が農家に合作社を組織するよう推奨したものなどさまざまな形態がある。

農家主導型は、中間流通業者を介さずに農家自らが国内卸売市場や輸出企業と直接価格交渉をすることを目的とした農家組織である。中国には数多くの中間流通業者が存在しており、同者は自身の利益を最大化するため、野菜の買取価格を低く抑える傾向にあり、価格交渉力のない農家は多額の中間マージンを取られるため収益が上がらないといった問題を抱えている。

輸出企業推奨型は、輸出企業が原料野菜の調達のために合作社を組織する方法である。合作社との契約は輸出企業側から見ると、中間流通業者の中間マージンや、数百戸の農家と契約を締結する手間や集荷コストを節約できるというメリットがある。

2017年の中国農業年鑑によると、2016年に登記されている合作社は179万4000社、加入農家戸数は1億800万戸となっており、中国の農家総数の44.4%を占めている。

注3:農民専業合作社法では、農民専業合作社とは「同じ農作物または農業サービスを提供する者や利用する者が自ら組織し、民主的な管理を行う互助性経済組織」と定義されている。

イ 大規模経営者

大規模経営者とは、他者の農地を賃借により集積して管理する者のことを指す。

経済成長により、都市部に吸収される農村労働力が増加しており、多くの労働者が出稼ぎで農村部を離れている。また、不安定な国内野菜卸売価格により生産意欲が低下した農家が離農するケースも増加している。このような理由により、農地を管理できなくなった者が大規模経営者に自身の農地を貸与している。

野菜生産が盛んな東部沿海地域の農村を中心に農家間での直接の賃借や、地方政府の介入の下で農地の賃借が行われている。

中央政府も出稼ぎ労働などにより農地が流動化するといった問題を抱えているため、農家間の土地の賃借を阻害せず、大規模経営者に農地を集積することを各種規程に明記し、推奨している。一方で、地方政府の介入による農地の賃借において、農家の意向を無視した強制的な農地収用が発生し、問題となっている。

また、契約農家とは別に輸出企業が周辺農家から農地を賃借して大規模な直営農場を運営する場合もある。

(3)輸出企業の安全、品質管理

2006年に日本でポジティブリスト制度が実施されて以降、輸出企業の農薬検査項目は大幅に増加した。その後もたびたび中国農産物を巡る安全性の問題が発生し、その都度輸出企業における残留農薬基準は厳しくなり、品質・安全管理の取り組みは向上している。

現在では輸出企業および輸出登録生産基地には、定期的に質検総局の立ち入り検査も行われるが、各輸出企業でも独自の厳しい基準でさまざまな検査が行われている。

今回調査した3つの輸出企業では、作付け前に自社で雇用している栽培指導員を通じて契約農家などに農薬、肥料、種子などを提供し、農家は、輸出企業の指導に基づき同社が求める品質の野菜を生産し、出荷するという生産形態をとっていた。

特に残留農薬に対しては、①近隣農家の圃場との間隔を定め、場合によっては隔離シートを使用しドリフト(飛散)を防止②収穫前および収穫時に栽培指導員が農家の圃場に赴き複数回の残留農薬のサンプル検査を実施③基準値を超える残留農薬や指定農薬以外の成分が検出された場合、買い取りの拒否や契約を解除できるという条件で契約を締結するといった対策を取っている。各輸出企業で細かな違いはあるものの、各企業ともに、農薬の使用管理を徹底しており、ポジティブリスト制度に抵触しないよう細心の注意を払っている。

また、それぞれの輸出企業は、HACCP、ISOをはじめ、生産・加工に関する中国政府の種々の認証を取得し、品質向上に努めている。

4 日本への輸出に力を入れる輸出企業の生産、加工、出荷方式

ここでは、今回調査した山東省の莱陽恒潤食品有限公司(以下「恒潤」という)、江蘇省の揚州市富田有限公司(以下「富田」という)、浙江省の嘉興泰晟来福食品有限公司における生産、加工、出荷方式を報告する(表3)。

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(1)莱陽恒潤食品有限公司(山東省らいよう市)

ア 概要

恒潤は、1996年に莱陽恒潤食品冷蔵場が自国資本、台湾企業、日系企業と合弁して設立した輸出企業である。主力商品は、①冷凍野菜・果実②フリーズドライ製品(写真1、2)③調理食品④生鮮青果物である(表3)。①の年間製造量は約1万6000トン、ほうれんそう、さといもの順に製造量が多い。このうち90%程度が日本向けであり、ヨーロッパや韓国にも輸出しているが量は少ない。②は国内販売が主体となっており、北京、上海などの大都市の量販店、コンビニエンスストアで販売されている。最近はインターネットでの売れ行きも良好とのことである。

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イ 契約農家に対する栽培指導、農薬管理など

同社は45戸の契約農家から原料野菜を調達している。契約農家は野菜栽培歴10年以上の経験のある農家が多い。11名の栽培指導員が契約農家の圃場を巡回し(写真3、4)、農薬散布や施肥方法の指導、病害虫被害の有無の確認、残留農薬のサンプル検査などを行っている。同社が農薬を購入する際は、日本の基準に合致しているかを確認した上で購入し、さらに上海にある日系企業の研究所で中身が正しいかを検査する。契約農家が農薬を使用する際は、使用目的、散布量、希釈倍率、農家名などを確認後、栽培指導員の立ち会いの下に農薬を散布し残った農薬は回収する。また、他の農薬との混入を防止するため散布機のタンクの確認などを行っている。

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ドリフト対策については、契約農家に対し、地上作物で5メートル以上、地下作物で1メートル以上、近隣農家の圃場との間隔を空けるよう指導している。必要ならば隔離シートや草丈の高くなるトウモロコシを栽培してドリフトを防止している。また、隣接する農家に対しては、契約農家と同じ農薬を使用するよう依頼している。

契約農家になるための条件としては、日本の品質・安全管理基準遵守できることはもちろんのことであるが、①耕作面積3.3ヘクタール以上を保有②水や土壌が重金属などに汚染されていない(年1回土壌、水質の分析を実施)③ガソリンスタンドなど土壌を汚染する施設が周辺にないことなどの条件を満たさなければならない。契約農家になるメリットとしては、国内卸売価格は騰落が激しく不安定である一方、輸出企業の買取価格は安定していることにある。

作付けは、日本のバイヤーからの年間発注数量を基に行われ、天候不良や調理・加工損耗などを考慮し、3割程度多く契約農家に作付けするよう指示する。また、不作に備えて播種期をずらして収穫時期を分散する(段まき)などの対策も行っている。仮に豊作になった場合でも冷凍品の保存期間は2年程度あるため、収穫物は全て買い取り、加工して冷凍倉庫に保存する。

ウ 課題

現在抱えている課題は、人件費(最低賃金)の上昇と環境対策である。人件費については、労働者賃金の上昇や労働者不足などから上昇しており、加工コストに影響を及ぼしている。この対策として、機械化による労働者の削減や、さといもの六方むきなど加工技術が複雑で人手を要する製品の生産量の削減を行っている。

雇用対策としては、宿舎の環境整備(エアコンやテレビなどの設置)、食事の提供、衛生環境の整備など福利厚生面の向上に取り組んでいる。また、工場内の加工ラインにおいて異物を発見した者に賞与を支給し、労働者の意欲を高めるなどの取を行っている。環境対策としては、近年政府の工場排水に関する基準が厳しくなり、政府の設置した排水管に排水しなければならず、それに対応するための設備の導入にコストが掛かるとのことである。

(2)揚州市富田有限公司(江蘇省ようしゅう市)

ア 概要

富田は江蘇荷仙食品集団のグループ会社で、約20種の冷凍野菜製品を製造し日本などに輸出している(写真5)。揚州市はれんこんの産地として知られていることもあり、売上の3分の1程度はれんこん製品である(写真6)。日系企業20社程度と取引を行っている。

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イ 原料野菜の調達、加工、流通

同社は合作社と直営農場から原料野菜を調達している。作型表および主要品種は図4のとおりである。買取価格は、基本的には前年を参考に決定するが、社会情勢の変化などによる生産コストの上昇や作柄状況によっては合作社との間で協議することもある。各品目によって最低買取価格が定まっており、例えば、さやえんどうは500グラム当たり1~1.5元(17~26円)である。品質が良ければ上乗せをして買い取ることもある。

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作付けは、バイヤーなどから年間必要数量を聞き取った上、平均20~25%の製品減耗率を加味して行われる。合作社や直営農場の管理は自社の栽培指導員が行っており、合作社には日本の品質・安全管理基準に合致した種子、農薬、肥料などを提供し、収穫物の運搬は合作社が手配した運搬業者が行い、その費用は会社が負担する。

工場から港まではトラックで輸送され、冷凍品はれんうんこう港、その他は上海港を使用することが多い。海上輸送費は1冷凍コンテナ当たり1万1000元(18万7000円)で、日本までの輸送料のほか、港湾利用料、保険料が含まれる。工場から日系企業の倉庫に届くまで4日程度を要する。

今回、富田の工場内で冷凍ごぼうの製造を見学することができ、その加工工程を図5のとおりまとめたので参照されたい。

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なお、入室の際には、HACCPに基づき記帳、着替え、ローラーがけ、塩素濃度50ppmの水で30秒手を消毒・流水・乾燥、エアーシャワー12秒、靴消毒30秒の工程を経なくてはならない。また、室内の清掃は1時間ごとに行い、室温は27度前後に保たれるように管理している。

(3) 嘉興泰晟来福食品有限公司(浙江省嘉興市)

ア 概要

1999年に設立、2002年から日系企業の資本が入り、売上の40%が国内、60%が輸出で、現在は輸出品の全てが日本向けとなっている。約20種類の冷凍品を製造しており、売の25%がかぼちゃ、15%が葉物となっている。日本向けはかぼちゃが一番多い。中国には十年数前までは冷凍野菜を食べるという習慣はなかったが、品質の向上、一次処理されている手軽さ、価格が安定していることなどから、加工・業務用、家計消費用ともに国内向け需要が増加している。

イ 原料野菜の調達など

原料野菜は、直営農場のほか合作社から調達している(写真7)。合作社とは9年以上契約を締結しており、双方から特に契約解除の申し入れがなければ契約は自動延長される。合作社の管理指導は2名の栽培指導員が行っている(表4)。

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ウ 課題

毎年工場の生産コストが5%上昇しており、この要因として人件費と直営農場の土地利用料の上昇が挙げられる。土地利用料は、10年前は1ムー当たり400元(6800円)であったが、現在は2.8倍の同1100元(1万8700円)まで上昇した。以前は4年ごとに土地価格は改定交渉が行われていたが、最近は経済環境の変化に応じて土地所有者から毎年のように価格改定を要求される。生産コストの上昇分を製品価格に転嫁したいが、国内外のバイヤーとの友好な取引関係を維持するため、なかなか価格改定に踏み切れないでいるとのことである。

5 まとめ

これまで見てきたように、日本向け野菜の生産、加工体系については、輸出登録生産基地制度の確立に加え、輸出企業による契約農家の管理、残留農薬の検査体制が整っているとのことであった。

国内野菜の卸売・小売価格は、農家の経験不足による作付け予測の見誤り、市場変化への対応の遅れ、省政府からの適切な情報提供などサポート体制の欠如などから非常に不安定である。このため、国内向け農家は、年間を通して買取価格が安定している輸出企業と契約を交わしたいと考えている者が多いことが今回の調査で分かった。中国の内需拡大による日本への輸出余力が低下するのではという声もあるが、このような点から、管理の厳しさを差し引いても農家は日本への輸出にメリットを感じているようである。

輸出企業が抱えている課題としては、人件費などの上昇による生産・加工コストの上昇や労働力不足などである。中国国家統計局によると、全国平均年間賃金は近年増加しており、2017年は7万4318元(126万3406円、前年比10.0%増)と、毎年増加している。中国においては、各地域の経済発展状況や物価水準などを考慮して政府が賃上げ基準を発表しており、経済成長による賃金の増加は今後も続くものと思われる。労働力不足については、農業は他の業種と比べ賃金が低く、肉体労働を伴うため人気がなく、さらに、工業化の進展による輸出企業の労働者吸引力の低下、地方の開発計画の推進による労働力需要の増加などが農業離れに拍車をかけている。今回訪問した輸出企業においても就労可能な青壮年労働者が不足しているという声が数多く聞こえてきた。

いまだに過去の事件によるマイナスイメージは払拭されていないものの、実際には、中国の日本向け野菜の品質・安全に関する水準は他国と比べて高いため、生産・加工コストの上昇や労働力不足が直ちに国際競争力の低下につながるとは考えづらいが、少し長期的な視点で見ると、中国を補完する東南アジアなどの開発および中国並の安全管理体制の整備が進めば日本への野菜の供給国シフトすること想定される。

コラム:中国国内向け野菜の安全性を巡る動向

中国都市部の家庭での野菜の1人当たり消費量(2017年99.2キログラム(家庭消費分))に近年あまり変化は見られないが、所得水準の向上により消費構造は高度化してきており、野菜の安全性や品質に対する要求は高まってきている。中国野菜流通協会によると、アスパラガスなど供給量が少なく、これまで消費されてこなかった高単価野菜の需要が増加しているとしている。北京、南京、上海など大都市圏に住む消費者は、品質や安全性をより重視する傾向にあり、農家の安全性に対する意識も高くなってきている。

中国の国内向けの残留農薬などの対策は、2002年に無公害農産物管理弁法が施行され、翌年には無公害農産物の認証制度が開始された。農家はしゅから収穫までの全過程において、これらの種々の規定に基づき残留農薬などの安全基準を求められるようになった。中国野菜協会によると、農家は政府が定める残留農薬基準を遵守しなければならず、違反した場合は刑罰を受けることもある。具体例を挙げると、山東省において農家が出荷した野菜を食べたヤギが死亡した事例では、当該農家は懲役7年の刑に処されたという。

近年、中国では野菜の電子商取引が急速に成長してきており、消費者は、インターネットを通じて緑色農産物、有機農産物の認証を受けた野菜やその加工品を購入することも多くなってきている(コラム写真1)。緑色農産物とは無公害農産物より厳しい安全基準によって生産された農産物のことで、有機農産物とは生産過程において化学合成の農薬や肥料を使用せずに生産された農産物のことを指す(コラム写真2)。

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