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・海外情報(野菜情報 2019年2月号)


ベルギーのばれいしょの生産および輸出動向

調査情報部


 ベルギーは、世界有数のばれいしょ輸出国であり、冷凍ばれいしょについては世界最大の輸出国となっている。また、わが国にとっては、米国に次ぐ第2位の冷凍ばれいしょ輸入先国となっている。東南アジアをはじめとするベルギー産ばれいしょへの世界的な需要の高まりを受け、特に冷凍ばれいしょの輸出量の増加が顕著である。輸出量の増加などにより、作付面積も増加傾向で推移しており、2017年には9万ヘクタールを超えた。
 日本への輸出についても、日本国内における外食産業での需要が増加傾向にあるため、今後の伸びが見込まれている。

1 はじめに

ベルギー産ばれいしょは、日本の冷凍ばれいしょ(調製するなどしたばれいしょで冷凍したものを含む)輸入の1割弱を占めているが、米国に次いで第位となっている。2014年末に発生した米国西海岸の港湾ストライキを機に、日本への輸出量が増えており、外食産業での利用が多くなっている。

ベルギーでは、西フランドル州、東フランドル州およびエノー州で全体の割以上が生産されている。また、加工業は家族経営を含む中小企業で構成されている。

本稿では、日本向け輸出の伸びが見込まれるベルギー産ばれいしょの生産および輸出動向などについて報告する。

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なお、本稿中の為替レートは、ユーロ=129円、1米ドル=112円(2018年12月末日TTS相場:ユーロ=128.50円、1米ドル=112.00円)を使用した。

2 生産動向

(1)生産概要

ばれいしょは、比較的冷涼な気候を好むことから、ベルギー、オランダ、ドイツ、フランス、英国などの欧州北海周辺国が位置する「ばれいしょ・ベルト(Potato belt)」と呼ばれる、ばれいしょの栽培に適している地域で栽培されている。ベルギーの気候は西岸海洋性気候で、夏は冷涼で過ごしやすく、また冬は暖流の影響で穏やかであること、土壌は保水力の高いローム層が多いことから、ばれいしょの栽培に向いている。

ベルギーでは、ベルギー産ばれいしょの輸出需要の増加などにより、作付面積が増加している。ベルギー統計局によれば、国内のばれいしょ作付面積は2017年に万3000ヘクタールと、2010年の万2000ヘクタールから14%増加している。ばれいしょの作付面積はベルギー国内農業用地の%程度に相当する。ばれいしょはベルギー全土で栽培が行われているが、主要生産地は西部に集中しており、北側のフランドル(またはフランダース)地域にある西フランドル州および東フランドル州並びに南側のワロン地域にあるエノー州の上位州で全体の約65%の栽培面積を占めている(表2、図1)。

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(2)生産量、作付面積、農家戸数

Belgapom(ばれいしょの流通・加工業界を代表する協会)によれば、ベルギーには約5000戸のばれいしょ農家が存在する。全農家のうち、約2割は、農業機械を所有している規模の大きな農家である。残りの約8割は、農業機械を所有せず、規模の大きい農家や加工業者から貸与された農業機械を使用して生産している中小規模の農家である。人件費の高い欧州では、機械を購入した方が安価かつ効率的にばれいしょを生産することができる。

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1戸当たりのじょう規模は11.43ヘクターで、農業のかたわら、養豚業を営んでいる中小規模の生産者が多い。

また、ベルギー全体でのばれいしょの生産は早生種、貯蔵用および種いもに大別され、2017年については収穫面積のうち、11%が早生種、87%が貯蔵用、残り%が種いもを占めている(表3)。

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生産量は2012年に300万トンを下回ったものの、2010年から2017年までの平均生産量は約370万トンであり、2017年には440万トンを超えている。2016年に気候の影響で不作となり、価格が上昇したが、2017年には作付面積が増え、さらに気候が良かったため、豊作となった。2017年の単収は10アール当たり4.76トンと、英国の同4.29トン、フランスの同4.41トン、ドイツの同4.68トン、オランダの同4.60トンに比べ高くなっている。良好な気候および肥沃な土地に恵まれ、農場の規模による技術の差が無いことも高単収につながっていると考えられる。そして、高単収はベルギーの高い競争力の一因となっている。

Belgapomによれば、ベルギーには、社のばれいしょ加工業者がある。カナダに本社を持つMcCainの傘下企業であるLutosa社、オランダに本社を持つAviko社およびFarm Frits社以外は地場資本の家族経営である。加工業者は原料となるばれいしょの55%を契約栽培をしている農家から、残りを時価(市場価格)で市場から調達している。加工業者は契約農家と連絡を取り、栽培する品種や植え付ける時期などを決定している。収穫されたばれいしょは契約している加工業者へ持ち込まれ、貯蔵庫へと運ばれる。独自に貯蔵庫を持つ比較的大きな農家の場合、そこへ貯蔵するケースもある。

(3)植え付けから貯蔵、流通まで

ア 植え付けおよび栽培方法

ベルギーでは、10月中旬からは日照時間が急激に短くなり、夜間の温度も低下し霜が降りる可能性が高くなる。また、霜に加え、降雪もあり、土壌水分が多くなるため、年を通じてのばれいしょ栽培は困難であり、収穫が可能な時期は月から10月末くらいまでとなっている。このため、ベルギーでは、年を通してばれいしょを供給できるよう、種類のばれいしょを栽培する方法を用いている。一つは日本の新ばれいしょに相当する早生種ばれいしょ(early potato varieties)で、もう一つは貯蔵用ばれいしょ(storage varieties)である。早生種ばれいしょは、月の植え付け後90日ほど経過してから収穫となり、収穫の時期は通常月頃となる。一方、貯蔵用ばれいしょの植え付け月に行われ、120日以上経過してから収穫となり、収穫の時期は通常月以降となる(図2、写真2)。

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ベルギーでは貯蔵用ばれいしょの生産量が多く、ばれいしょ農地のうち9割弱で貯蔵用ばれいしょが栽培されている。貯蔵用ばれいしょは収穫された後、翌年の月まで貯蔵が可能であり、加工向けに使用される。貯蔵用ばれいしょの供給がなくなる頃になると、早生種のばれいしょが使われるようになる。早生種は、皮が薄く貯蔵に向いていないため、出回る時期が限られている。

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イ 植え付け、かんがいの利用

ベルギーでは、植え付けから機械で行われている。また、かんがい設備はほとんど使用されていない。国土の狭いベルギーでは、米国の農場で見られるような大型のかんがい機械はコストに見合わないため使用されず、また、かんがいが使用されているとしても移動可能な小型なものであり、その使用は天候不順などの際の使用に限られている。Belgapomによれば、2017年月に高温少雨が続いた時期にかんがいが行われたが、例外的な処置であった。また、2014年の調査によれば、フランドル地域のばれいしょ農地の%でしかかんがいが行われず、ワロン地域ではかんがいによる生産は行われていない。フランスの40%(2010年)、オランダの27%(2007年)のばれいしょ農場でかんがいが行われていることと比較すると、非常に低いことがわかる。しかし、ベルギー土壌局によれば、気候変動が進行するに伴い、かんがいの必要性が増すとみられている。

ウ 収穫および貯蔵方法

ベルギーでは、収穫から加工までの工程が機械化されており、高性能な機材が使われている(写真4)。そのため、生産性が高くコストの低い生産体制を実現している。収穫作業は農家または契約農家が行い、収穫後は、契約している加工業者へと納入される。納入する時期が加工業者と調整されている場合は、その納入時期まで自家保管庫にて一定の温度で貯蔵される。

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貯蔵用ばれいしょは、加工されるまで貯蔵庫で保管される(写真5)カ月の短期間の貯蔵の場合、温度や湿度は管理されず空調は自然の気流を利用するため、天候の影響を受けるが、現在でもこの手法は利用されている。カ月の中期間の貯蔵およびカ月以上の長期間の貯蔵の場合、コンピュータで制御・管理された貯蔵庫で貯蔵される。貯蔵庫では、温度(常時度)、湿度、空調、遮光、酸素濃度などの調整や、発芽の抑制などの管理がされている。

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エ 流通

収穫後、加工業者に納入されたばれいしょのうち、早生種はすぐに加工される。貯蔵用ばれいしょは、貯蔵庫に運び込まれ低温保管される。加工工程では、洗浄、石の除去、皮むき、切断、乾燥、フライ、冷却などを経て包装し、発送される。これらの工程はほとんど機械化されており、大量生産を可能としている。また、加工工場はばれいしょの生産地に立地していることもあり、輸送距離が短くコストが抑えられている。

加工業者はばれいしょの買い付けから保管、加工および輸出を担っており、冷凍ばれいしょ生産の主要なプレイヤーとなっている。自家圃場を有していないが、契約栽培を行うことにより原料の安定的な確保を図っている。それに加え、輸出を自前で行うことにより競争力の高い価格を実現できていることも特筆すべき点である。ベルギーの加工業者の多くが海外に事務所を置いていることからも、加工業者の生産と市場を結ぶ役割が大きいことがわかる。

コラム 大口需要者との契約手法

ベルギーでは契約栽培の割合は55%であり、10年前の20%に比べ、その割合が大きく増えている。残りの45%は市場価格で取引されるが、ばれいしょの市場価格は天候の影響などを受けやすいため、あらかじめ設定した契約栽培の価格とは対照的に変動しやすい。

そのため、安定的な原料調達の実現を目指して、加工業者は契約栽培の割合を高めている。契約栽培には、一定価格で安定した供給が図れるというメリットがあり、24時間体制で稼動する加工業者にとって好都合である。また、生産者にとっては、安定収入を得られるというメリットがある。加工業者は生産者と協議しながら栽培品種を選定し、種いもの供給、技術指導などを行っている。1年契約が一般的ではあるが、サプライチェーンをさらに強固なものにするため、5年契約についても検討されている。大手のLutosa社では、これまで、原料となるばれいしょのうち半分を契約農家から、もう半分を市場から調達していたが、近年では70%を契約農家から調達するようになり、契約農家からの割合を高めている。

契約栽培が増加する一方、市場での取引が依然として大きな割合を占めている理由は生産者および加工業者の両方にある。

加工業者は、貯蔵用ばれいしょの収穫の時期になると、まず、契約した量のばれいしょの買い取りを始める。そのため、収穫時期の初めは、契約栽培以外のばれいしょの販売先が限られることから、市場価格が低くなる傾向にある。

一方、基本的にばれいしょ加工品の生産は計画通りに行われるものの、生産が計画を上回った場合は、収穫期の後半に原料が不足することがあり、この場合、加工業者は市場から必要な分だけ追加で調達する。そのため、この時期になると市場価格が上昇する傾向にある。

また、気候変動などによる生産量の上下に呼応し価格も変動し、契約栽培より有利にばれいしょの取引ができるため、生産者も加工業者も市場価格での取引を希望する場合がある。

契約栽培以外でも、生産者がより有利な条件(高価格)でばれいしょを販売または、安定供給することを目的として、ばれいしょ流通業者のRTL Patat社が2016年にベルギーで初のばれいしょプールを創設した。これは、深刻な干ばつに襲われ、ばれいしょの供給が大幅に減少したことを受け、設置が実現したものである。生産者はRTL Patat社の設けるばれいしょプールにばれいしょを供給し、RTL Patat社が集まったばれいしょを需要者に販売するというものである。生産者は、シーズンの初めにプールにどれだけのばれいしょの量(200トン以上)もしくは面積(5ヘクタール以上)を割り当てるかを報告する。ばれいしょプールに集まったばれいしょは、生産者から任命された委員会の監督の下で、協議の上、販売される。また、ばれいしょプールの純売上高の97%(ただし、管理費として、100キログラム当たり0.25ユーロ(32.25円)が差し引かれる)が、生産者に支払われることになる。

(4)生産者販売価格と生産コスト

2001年月以降、農業担当の部署を地域毎に編成し、農業に関する権限を地域に委譲したことをきっかけに、ベルギー政府は取引価格を決定しなくなった。そのため、Belgapomは、2001年からビンチェ種の「Belgapom相場価格」を公表する役目を担っている。流通業者4名と加工業者4名からなる委員会で、農家が加工業者に販売した際の最も頻度の高い価格を基に取りまとめた相場価格を、毎週金曜日に公表しており、この価格が農と加工業者との取引で指標として使用されている(図3)。2016年のビンチェ種の価格は1トン当たり173ユーロ(2万2317円)であった。また、近年のビンチェ種の生産の減少およびチャレンジャー種とフォンテーン種の生産の増加を受け、2016年月からは、チャレンジャー種およびフォンテーン種も含めた種類の相場価格を発表している。この取り組みは、ベルギーのばれいしょの円滑な取引に寄与していると考えられる。

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英国農業園芸開発公社(AHDB)によると、ベルギーにおけるばれいしょの生産コストは、周辺国と比較して低くなっている(表5)。

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この要因として、まず、農場では、かんがいの使用がほとんどないことから、かんがい設備の維持管理費および水資源にかかるコストを小さくすることが可能である。また、単収を上げるために、主要品種であったビンチェ種以外に、天候不順でもよく育つ強い品種(イノベーター種、フォンテーン種など)も生産するようになっている。さらに、加工工場のみならず農場でも機械の使用が進んでおり、効率性を高めている。ベルギーは欧州の他国と比較し国土面積が小さいこともあり、農場から加工工場までの距離が短く、新鮮なまま加工業者へ輸送できることから、つぶれたり、腐食するといった輸送中のロスを減らし、輸送コストを低く抑えることができる。

こうしたことから、生産コストが低くなっていると考えられる。なお、一般的に農地価格が高騰しているとの指摘があり、これに対応するため、近年では隣国のフランスから原料を調達する動きがみられる。

(5)ばれいしょ生産をめぐる情勢

ア 種いもの供給体制品種改良の取り組み

ベルギーでは、地域政府(フランドル地域政府、ワロン地域政府、ブリュッセル首都圏地域政府)が種いもの生産を厳しく管理および規制しており、地域政府が認証した種いも以外の使用は禁止されている。種いもを栽培しようとする場合は、管轄当局の検査を受け、クリアした場合のみ、生産が許可される。種いも栽培者としての許可は日から翌年の月30日まで有効である。

前述の通り、ベルギーではビンチェ種が主流であり、栽培されているばれいしょのうち40~50%がビンチェ種である。しかし、昨今の気象状況の変化、特に高温に対して弱く傷みやすいことから、ビンチェ種の使用割合は減少傾向にあり、高温や病害虫に強いイノベーター種やフォンテーン種の生産が増加傾向にある。

イ 主な病害虫対策

病害を防ぐための手法として、3品目以上の輪作が行われており、中には4~5品目の輪作を行う農家もいる。輪作の主な品目は小麦などの穀物、飼料用トウモロコシ、テンサイおよび野菜などである。一方、ベルギー政府は、総合的病害虫・雑草管理(Integrated Pest Management; IPM)(注を実施することにより、殺虫剤の使用を極力減らしながら防除することを促している。ばれいしょ生産の持続可能性を確保するとともに、EUでは農薬の使用規制が強まっている点が背景にあると考えられる。

ベルギーの代表的な品種であるビンチェ種はシストセンチュウ(cyst nematode)やジャガイモ疫病菌(Phytophthora infestans)に弱く、さらに古い品種であるため、近年の気候変動による多雨、高温への耐性が少ない。そのため、近年では、高温、病害虫、多雨や少雨に耐性のある品種の栽培が増えている。そのほか、病害虫対策の一環として2014年からジャガイモ疫病菌に耐性を持つビンチェ種の改良品種であるビンチェ・プラス(Bintje Plus)の開発が進められている。

注1:総合的病害虫・雑草管理とは、病害虫の発生状況に応じて、天敵(生物的防除)や粘着板(物理的防除)等の防除方法を適切に組み合わせ、環境への負荷を低減しつつ、病害虫の発生を抑制する防除技術である。

コラム:生産拡大を目的としたIoTの活用

2017年にBelgapom、VITO(フランダース技術研究所)、CRA-W(ワロン農学研究所)およびULg(リエージュ大学)が共同開発したばれいしょの生育モニタリング用ウェブツール「Watch iT Grow」が公表された。このツールは、天候データ、衛星写真、ドローンによる空中画像、地上センサーからのデータなどを集約したり、農業用機械とリンクさせたりすることで、ばれいしょの生育状況や病害虫の有無の確認、収穫期の予測などを可能とすることを目的として開発された。

また、Belgapom、VITO、CRA-Wは、「Watch iT Grow」のほかに、ベルギー科学政策局(Belgian Science Policy Office)から資金の拠出を受け、iPotプロジェクトを実施している。このプロジェクトでは、ばれいしょ農家に対して、農場の天気や土壌の状態、生育状況についてリアルタイムで情報を提供するとともに、衛星写真と作物成長モデルを組み合わせることで、単収の高い圃場のさまざまな情報や収穫高の推定値などの情報を提供している。

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3 消費動向

ベルギーでは、年間350万トンのばれいしょがフライドポテト、マッシュポテト、フレークなどに加工される。また、一人当たり年間80~85キログラムを消費している。そのうち、家庭では、生鮮ばれいしょが年間38キログラム、フライドポテトなどのばれいしょの加工品が年間キログラム消費されている。最も多い調理方法はボイルであり、次いで、マッシュポテト、フライパンでの炒め揚げ物の順となっている。なお、残りは外食などで消費されているとみられる(写真6、7)

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ベルギーでは、他のEU諸国と同様、冷凍食品の中でフライドポテトが最も多く売られている。2017年には、フライドポテトの生産は前年の191万トンから4.3%増の199万トン、チップス、コロッケ、マッシュポテト、フレークなどの製品の生産量は、前年の46万8513トンから47.5%増の69万159トンとなった。

価格については、多くのばれいしょが契約栽培されているため、卸売価格に関する統計は入手できない。小売価格は、生鮮ばれいしょが2010年から2017年の平均で1キログラム当たり0.82ユーロ(106円)、フライドポテトなどのばれいしょの加工品は平均で同2.73ユーロ(352円)となっている(表6)。

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4 輸出動向

(1)輸出概況

冷凍ばれいしょの輸出量は、2011年までオランダが世界第位であったが、2012年からはベルギーが世界第位となっており、ベルギーの輸出量は増加傾向にある。また、生鮮ばれいしょ(種いもを除く)の輸出についても、世界第位と高いシェアを誇る(表7)。

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2010年から2017年の輸出量の推移を見ると、2017年の冷凍ばれいしょの輸出量は2010年と比べ160.4%となっており、大幅に増加している。

また、2017年にベルギーが輸出したばれいしょのうち64%は冷凍であり、生鮮が25%程度、加工が%、乾燥が%未満であった。また、種いもの輸出量は全体の%程度とごくわずかである(表8、図4)。

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(2)輸出形態別輸出動向

ア 冷凍

ベルギーは約170カ国に冷凍ばれいしょを輸出している。主な輸出先はフランス、英国、オランダおよびスペインであり、総輸出量の5割以上を占める。同4カ国への輸出量が横ばいで推移している中、近年サウジアラビアへの輸出が増加傾向にある(図5)。また、近年輸出が増加している東南アジアへの輸出傾向をみると、上位4カ国(フィリピン、マレーシア、タイ、インドネシア)のうち特にフィリピンへの輸出が大幅に増加しており、マレーシアへは2016年に減少したものの、全体的に増加傾向にある。これは、アジア諸国を中心に進んでいる食の西洋化や、ファストフード店が増加していることを受け、フライドポテトの消費が増加傾向にあることが原因であるとみられる。

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イ 生鮮(種いもを含む)

ベルギーで生産される生鮮ばれいしょの割以上は隣国のオランダに輸出されており、フランスへは割程度の輸出となっている。両国とも横ばいまたは増加しているが、ドイツおよびスペイン向けは減少傾向にある。また、英国向けは、2013年には万8000トンを輸出していたが、2014年以降は万~万トン程度となっている(図6)。

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なお、ベルギーはEU諸国にばれいしょを輸出している一方、EU諸国から輸入もしている。2017年において最大の輸出先国であるオランダにとってベルギーは第1位(輸出量42万トン)(図7)の輸出先国となっている。また、次ぐ輸出先国であるフランスにとっては、第2位(同45万トン)(図8)の輸出先国となっている。

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ウ 加工(調製、保存処理済)

加工ばれいしょについては、オランダ、ドイツ、フランス、英国が主要な輸出先であり、同4カ国に対して全体の9割程度が輸出されている(図9)。2010年以降の傾向をみると、2016年は前年と比較して輸出量が増加したものの、全体としては減少傾向にあり、特に、オランダ向けは大幅に減少している。

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なお、2017年において最大の輸出先国であるオランダにとってベルギーは、第3位(輸出量4万トン)の輸出先国となっている(図10)。

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(3)輸出に要するコスト

ベルギーでは加工業者が輸出まで行っているため、輸出に要するコストに関する情報は公表されていない。一方、冷凍ばれいしょの1トン当たりの輸出単価(注2)(2017年は726ユーロ(万3654円))から1トン当たりの生産者販売価格(注3)(同220ユーロ(万8380円))を差し引いた場合、冷凍ばれいしょを輸出する際に要するコストはトン当たり506ユーロ(万5274円)と推計される。これには、国内加工、輸送コストおよび利益なども含まれていると考えられる。ベルギーの主要港であるアントワープ港からの輸出が主だが、地理的に近いオランダのロッテルダム港やフランスのダンケルク港からも輸出が行われている(図11)。なお、最近では、加工工場から港まで河川を利用して運搬するようになり、交通渋滞を避けるとともに、輸送コストを削減している。

注2:HSコード 071010のもの

注3:2016/2017年度(2016年6月~2017年6月)ビンチェ種および早生種のもの。

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(4)今後の見通し

冷凍ばれいしょをはじめとする加工品の生産と輸出量が拡大傾向にある。その背景にあるのは豊富な生産量および生産性の高い生産体制がある。企業数は社と限られており、それぞれが増産に向けた投資を行い、今後、新たに処理できるばれいしょの量は80万トンまで拡大している。そのため、今後も輸出が増えるとみられる。特に東南アジアへの輸出が増加傾向にあるが、これはアジア諸国における食の西洋化およびファストフード店が増加していることが要因とみられる。

しかし、東南アジアを含む海外への輸出には課題もある。中国やインドにおける加工品の生産は、ベルギー企業を含む多くの外資系企業が参入していることから、増加傾向が見込まれる。Belgapomによれば、これら新興国の生産量増加は短期的には世界的な供給過多につながることはないものの、競合国が増えることにより競争力を高める必要性が増すとのことである。また、西洋化した食事に対する負のイメージが広がっているため、ばれいしょ加工・輸出業界団体であるBelgapomが中心となって、ベルギー国外において、正しい知識の普及のための広報活動も行っている。

5 対日輸出動向

(1)対日輸出向け形態

ベルギー産ばれいしょの対日輸出については、2010年以降はそのほとんどが冷凍である。2017年は、ベルギーから輸入されたばれいしょのうち、98%が冷凍ばれいしょ、2%が乾燥ばれいしょであり、加工ばれいしょ、冷蔵および生鮮ばれいしょの輸入はなかった。

冷凍ばれいしょの用途はフライドポテトである。なお、生鮮ばれいしょは、日本は植物防疫法でシストセンチュウなどの病害虫が発生している国からの輸入を禁じていることから、ベルギー産の生鮮ばれいしょは輸入することができない。また、袋入りポテトチップス製品は、空気を多く含む包装となり、かさばるため輸出には向いていないことから、ベルギーからの輸入はほとんどない。

ベルギーからの輸入は冷凍ばれいしょ、乾燥ばれいしょともに増加傾向にある。ベルギー産の輸入が増加した要因の一つに、2014年末に米国西海岸の港湾で発生した港湾職員のストライキが挙げられる。日本はばれいしょの輸入を米国に依存していたが、ストライキが発生した際に日本国内でばれいしょが不足したことを受け、他国からの輸入を検討せざるを得なくなったとみられ、2015年はベルギーからの冷凍ばれいしょの輸入量が、前年の約2倍となった(図12)。なお、この経験を機に、日本では輸入先を複数確保しようとする動きが見られるようになった。

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ベルギーの日本への冷凍ばれいしょの輸出量は、ベルギー近隣のEU諸国向けと比べると非常に少ないが、アジア諸国の中では、主要な輸出先国となっている。2010~2015年については、日本、マレーシア、フィリピンが、2016~2017年については、日本、フィリピン、中国が、上位1~位を占め、日本は、いずれの年も輸出先国第1位もしくは2位となっている。また、日本向けに、2015年、2017年は3万4000トンを輸出している(図13)。

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(2)日本国内での消費動向

前述のとおり、日本がベルギーから輸入するばれいしょのほとんどは冷凍ばれいしょであり、そのほとんどがフライドポテト用である。日本国内では、ファストフード店やレストランでフライドポテトを提供しているが、冷凍フライドポテトの75%が米国産である。ベルギー産のシェアは小さく、ベルギー産とオランダ産を合わせても15%にとどまっている。これは、米国発のファストフード店が日本へフライドポテトを広めたことが要因の一つとなっていると考えられる。しかし、ベルギー産フライドポテトを利用する外食産業やコンビニエンスストアが増加傾向にあるため、冷凍ばれいしょの輸入も安定した需要を得ているといえる。

(3)日本産、ベルギー産、米国産ばれいしょの比較

ア 品質・規格

米国産や日本産と比べ、ベルギー産のばれいしょは小ぶりであり、色が黄色く、香りも強い。

イ 使用用途

日本産は25%が加工食品に使用されている(図14)のに対し、米国産は61%、ベルギー産は90%以上がそれぞれ加工食品に仕向けられている。また、加工食品のうち、米国産およびベルギー産は冷凍フライドポテトへの使用が最も多いのに対し、日本産は7割弱がチップス用である(図15)。

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ウ 価格帯

品種や使用用途などの違いにより価格を比較することは難しいが、ベルギー産の生鮮向けばれいしょは1キログラム当たり1.02ユーロ(132円)、米国産は同1ドル(112円)以下、日本産は同143円~168円程度(表9)となっている。

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なお、財務省貿易統計によれば、2017年の冷凍ばれいしょの輸入価格(CIF価格)は、ベルギー産が1キログラム当たり118円、米国産が同143円となっている(表10)。

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(4)今後の対日輸出の見通し

冷凍ばれいしょの輸入量に占めるベルギー産ばれいしょの割合は1割弱であるが、その需要先であるフードサービス、ファミリーレストラン、コンビニエンスストアでの需要が増加傾向にあるため、日本への輸出順調に拡大している。

また、2014年末に米国で発生した港湾ストライキにより輸入が困難になった経験から、日本側が輸入先を複数確保しようとする動きも見られる。外食産業では米国産とは異なる品種であるベルギー産を高く評価する需要先があり、ベルギー産は為替相場の影響で価格優位性があることから、その利用機会が今後増えるとみられる。

近年、EUが東南アジアを始めとするアジア諸国への輸出を促進していることを受け、ベルギーも東南アジアへの輸出量を徐々に増加しつつあるが、ベルギー国内におけるばれいしょ生産への投資額の増加、単収の増加もあり、高い競争力を実現できているため、ばれいしょの対日輸出量も増加傾向を維持すると考えられる。

6 おわりに

世界的なばれいしょの需要増加を受け、ベルギーでは、近年の気候変動に耐性のある品種の選択、生産および加工過程の機械化や投資、IoTの利用、業界における調査研究の実施などを通じて、生産を伸ばしている。同時に、天候、土壌に恵まれているためにかんがい設備の利用を極めて少なくできることや、農場から加工工場、加工製品を輸出するための港までの距離が短く、河川輸送もできることなどを理由に生産・輸送コストを低く抑えることで、他のばれいしょ輸出国に対しても競争力を強く維持できる。このため、今後もベルギーのばれいしょの輸出は増加していくと考えられる。

一方、西洋の食事に対しては、ファストフードや肥満という負のイメージがあるため、これらのイメージを払拭するべく、Belgapomなどの業界団体も対策を講じ始めている。また、世界全体で保護主義の傾向が見られ、ばれいしょの輸出にも影響が出ることが考えられる。さらに、中国やインドといった国が生産・加工能力を高めていき、安価に輸出し始めれば、ベルギーのばれいしょについてもさらに競争力を高めなければならなくなるであろう。今後もこれらの課題に取り組んでいくベルギーの動向が注目される。




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