調査情報部
わが国のいちご供給量のうち、輸入品の占める割合は約17%で、その約半分を中国産が占めている。今月号では、中国の主産地の一つであり、日本向けの輸出が多い中国の遼寧省を中心に、いちごの生産動向等を紹介する。
2016年におけるわが国のいちご供給量は全体で約19万1107トン。そのうち国産品が15万9000トンで83%を占めるのに対し、輸入品が3万2107トンで残りの17%を占めている。(図1)。
輸入品では、生鮮品が約1割を占めるのに対し、加工用に仕向けられる冷凍品および調製品が約9割を占め、特に冷凍品が輸入の主体となっている。
2012年以降の冷凍いちごの輸入量を見ると、年間2万5000トンから3万トンの間で推移している(図2)。このうち、中国からの冷凍いちごの輸入量は、年間1万5000トン前後で推移し、全輸入量の過半を占めている。中国に次ぐ輸入先国は、年間4000トン程度の輸入量となっている米国であったが、シェアは年々低下傾向となっており、2017年はチリが米国を抜いて第2位となった。その他の輸入先国としては、エジプト、モロッコなどとなっている。
なお、本稿中の為替レートは1元=17円(2018年6月末日TTS相場:16.96円)を使用した。
中国全土のいちごの作付面積は約13万ヘクタールとされ、主な産地は遼寧省、河北省、山東省、江蘇省などの東部沿岸地域である(図3)。中でも遼寧省は、作付面積が中国全体の2割強のシェアを占める3万ヘクタールに及び、日本向け輸出の主力地帯となっている。特に、遼寧省の東港市は中国最大のいちご生産地であり、2017年の同市の作付面積は、約1.27万ヘクタールと、遼寧省のいちご作付面積の42%を占めている。
注:中国では、大きい行政区分から順に、「省級(省、自治区、直轄市など)」、「地級(地級市、自治州など)」、「県級(県、県級市、市轄区など)」などとなっている。東港市は地級市である。
近年、遼寧省のいちご作付面積は、需要増大を反映し、年平均7%程度で拡大を続けており、ここ5年間で1.3倍となった。
これに伴い、収穫量も安定的に拡大しており、2017年には110万トンに達しており、ここ5年間で1.4倍となった。
単収については、年々、品種改良などによりわずかではあるが向上し、2017年には10アール当たり3.67トンとなった(表1)。
栽培方式は、ほとんどが施設栽培であり、露地栽培は東港市および庄河市でわずかに行われている。
施設栽培には、主に日光温室(注)のものと、ビニールハウスによるものの2種類がある。それぞれの栽培方式ごとの作付面積は、日光温室が67%のシェアを占め、続いて、ビニールハウスが25%、露地栽培が8%を占めている。
生育ステージについては、施設栽培の場合、8~9月に定植し、11月下旬から翌年6月上旬にかけて収穫する。一方、露地栽培の場合、8月上旬~中旬に定植し、翌年5月上旬~6月上旬に収穫する。(図4)
注:「日光温室」は日光を最大限に活用した中国特有の園芸施設。透光面は南面のみで他の面は特殊な蓄熱・保温構造で、中国北部の厳冬期においても無加温で野菜栽培が可能とされている。構造が単純で低コストであることから、中国の野菜栽培の方式として一般的に普及している。地域によって、さまざまな構造のものがある。
遼寧省におけるいちごの生産コスト(施設栽培(日光温室)の場合)の変化を2014年と2017年で比較すると表2の通りとなる。
2017年の10アール当たりの生産コストは、2万3225元(39万4825円)と、2014年より17%上昇している。
内訳を見ると、土地代と人件費が増加しているほか、種苗費も増加している。種苗費については、苗の供給が需要増大に追いつかず、最もコストが上昇している項目となった。
一方、肥料農薬費については、農薬使用量の削減の取り組みが浸透しつつあり、コスト面でも減少となった。
また、人件費については、いちご生産の工程全体が人手作業に依存せざるを得ないため、最近の中国の労賃上昇を反映した伸びとなっている。
また、一部の大型いちご農家では、ボイラーによる日光温室への熱供給システムや二酸化炭素生成器などに施設投資し、積極的に増産に取り組む事例も見受けられる。
ここ5年間の遼寧省のいちご生産量は、2013年の78万トンから2017年には110万トンと4割増しとなっており、急成長している。2017年の出荷先は、国内向けが99万トンで9割のシェアを占める一方、輸出向けが11万トンで1割のシェアを占めた(表3)。
国内向けの増加は、生鮮いちごの国内消費が大都市圏を中心に急速に拡大してきたことを反映したもので、生産拡大を牽引している。
その要因としては、経済発展による所得向上により、比較的高価な食品であったいちごの購入頻度が増えたことに加え、多くの人々が、贈答品として利用する傾向が強まったことが挙げられている。
さらに、インターネット取引の普及により、販売ルートが拡大したことも市場を押し上げた要因として挙げられている。
また、消費者の安全志向の高まりを反映し、有機いちご市場が急速に拡大しているとも言われている。
一方、生鮮いちご以外の国内向けには、いちご加工製品としてジャム、お酒、ジュース、缶詰などがあるが、これらは、国内向け数量の15%程度を占めている。
中国の冷凍いちごの輸出量は、年によって増減があり、2017年は、前年比12.5%減の7万8829トンとなった(図5)。
同年の輸出先国のトップは日本で、輸出量は同12.1%減の1万361トンと減少したが、引き続き、全体の13%を占めている。第2位がロシア、第3位がタイと続き、アジア、欧州、北アメリカ、大洋州などの多くの国々に輸出されている。
冷凍いちごを日本向けに輸出する企業は、主に山東省に所在しており、中国からの日本向け輸出量のうち約3分の2を占めている。
なお、輸出向け冷凍いちごの1トン当たりの加工コストを2014年と2017年で比較すると表4の通りとなる。2017年の1トン当たり加工コストは、2569元(4万3673円、2014年比8.5%増)と増加している。コストアップの要因としては、人件費と管理費が占めており、生産コストと同様に人件費の上昇がコスト増の主要因となっている。
中国のいちごの需給を見ると、需要の約9割を占める国内市場の拡大に伴い、生産量を拡大させてきた。近年、贈答品需要などにより大都市圏で順調に需要が拡大してきたが、これに加え、インターネット取引の普及による販売ルートの拡大が需要を押し上げてきた。
一方、供給側は、生産コストおよび加工コストの上昇に直面している。需要が好調なことから、小売価格も上昇すると見込まれているが、一方で大都市圏での需要拡大は限界に達しつつあるとの見方もあり、今後も中国において需給が安定していくのかが注目される。
米国からは、日本への輸出が多いブロッコリー、レタス、セルリー(セロリ)(以下「セルリー」という)について、それらの主産地であるカリフォルニア州の生産動向などを現地報道などを基に報告する。また、トピックスとして、トレーサビリティの改善が求められる米国野菜業界について紹介する。
カリフォルニアのブロッコリー生産の5月31日時点での主産地は、モントレー郡のサリナスバレーとサンタバーバラ郡のサンタマリアバレーとなっていた。ブロッコリーの価格は高水準となっており、この要因としては、需要が高まっている一方で、1カ月程度続いている冷涼な気候および霧や強風などによる天候不順により供給が少なくなっていることや、輸入されたメキシコ産ブロッコリーの品質に問題があった点が挙げられている。
なお、本稿中のドルはすべて米ドルであり、為替レートは1ドル=112円(2018年6月末日TTS相場:111.54円)を使用した。
2018年4月の全米のブロッコリーの生産者価格は、前年同月比58.3%安の1キログラム当たり0.88ドル(99円)であった。前月の価格高騰は供給量の減少によるとみられており、4月に入って供給量が回復したことにより価格が下落したと考えられる。ただし、メキシコ産ブロッコリーの存在感も強まっていることから、価格は不安定に推移している。
2018年4月の米国産ブロッコリーの日本向け輸出量は2049トンとなり、前年同月比183.6%増と大幅に増加した。この背景には、生産量の増加などがあるとみられる。また、輸出額は前年同月比176.8%増の250万5000ドル(2億8056万円)となった。輸出単価は前年同月比2.4%安の1キログラム当たり1.22ドル(137円)であった。
2018年4月の東京都中央卸売市場の米国産ブロッコリーの入荷量は、前年同月比46.3%増の60トンであった(表3)。また、平均卸売価格は、同8.3%安の1キログラム当たり297円であり、同月に同市場で最も入荷量の多かった香川県産(同449円)と比較すると33.9%安かった。
モントレー郡では6月4日時点ではレタスの定植が行われていたが、6月11日時点では風が強く、曇りの日が多かったため、レタスの葉先焼けなどが一部で問題になっていた。この頃には2作目のレタスの収穫が進んでおり、収穫が終わった圃場から3作目の定植が開始されていた。
2018年4月の全米の結球レタスの生産者価格は、1キログラム当たり0.56ドル(63円)と前年同月比69.2%安となった。この背景には、供給量が3月に比べて回復したことや、4月に発生した腸管出血性大腸菌(O-157)による食中毒の影響を受けて需要が縮小したことなどがあるとみられる。
2018年4月の米国産レタスの日本向け輸出量は、結球レタスが前年同月比288.9%増の105トン、結球レタス以外のレタス(ロメインレタス、フリルレタスなど。以下同じ。)は前年同月比98.3%減の1トンと大幅に減少した。結球レタスの増加要因としては、供給量が3月に比べて増加したことが挙げられる。
輸出単価について、結球レタスでは1キログラム当たり1.17ドル(131円)と前年同月比1.7%安となった。また、結球レタス以外のレタスは前年同月比343.7%高の1キログラム当たり6ドル(672円)であった。
2018年4月、東京都中央卸売市場では、米国産のレタスは、結球レタス、結球レタス以外のレタスともに入荷されなかった。なお、同月に同市場で最も入荷量の多かった結球レタスは茨城県産であり、卸売価格は1キログラム当たり142円であった。
全米のセルリーの品質は5月31日時点において非常に良好とのことであった。また、6月14日時点の品質も標準的であり、需要は例年並みで推移していた。
2018年4月の全米の生鮮セルリーの生産者価格は、前月比21.8%安の1キログラム当たり0.68ドル(76円)であった。
2018年4月の米国産セルリーの日本向け輸出量は596トンであり、前年同月比7.6%増であった。輸出額は37万1000ドル(4155万2000円)であり、前年同月並みの水準であった。輸出単価は、前年同月比7.5%安の1キログラム当たり0.62ドル(69円)となった。
2018年4月の東京都中央卸売市場の米国産セルリーの入荷量は、前年同月比18.8%減の26トンであった(表9)。また、平均卸売価格は、同3.8%安の1キログラム当たり205円であった。これは、同月に同市場で最も入荷量の多かった静岡県産(同282円)と比較すると、27.3%安かった。
2018年4月以降、米国において、アリゾナ州ユマ産のロメインレタスに関連したとみられるO157:H7の発生が確認された。この影響で、米国ではレタスの需要が縮小し、価格にも影響する可能性があるとみられている。
米疾病対策センター(以下「CDC」という)の6月28日「Final update」によれば今回の発生は終息したとみられる。一方で、今回の発生を踏まえ、米国では、消費者の安全・安心を担保するために店頭やレストランから生産農場に追跡する現在のトレーサビリティを強化すべきとの声が高まっている。
今回の発生を踏まえた政府の対応として、CDCは、消費者に対して、ユマ産のロメインレタスを用いたサラダミックスなどの購入や消費を控えるよう注意喚起を行った。また、日常の対応として、冷蔵庫の衛生保持や料理時の手洗いの励行など衛生管理の徹底も求めた。
米国食品医薬品局(以下「FDA」という)は、レストランや小売店に対し、FDA Food Code 2017に従って、レタスを含めた葉物野菜をカットするなど加工した場合には、5度以下で冷蔵保管の徹底を求めた。
5月2日、FDAは、今年のユマ産ロメインレタスが4月16日の収穫分を最後に出荷されていないこと(ユマ産は通常、11月~翌3月が出荷時期)、レタスの保管期間(shelf life)が21日間であることから、現状流通の可能性は低いと発表した。
6月28日、FDAは発生原因の暫定調査結果を明らかにした。この結果によると、ユマ産の生産地での環境サンプルを調べたところ、用水路の水から発生原因の菌と遺伝的に同一性のある菌が検出された。しかし、用水路の水に原因菌が侵入したルートやこの水がレタスに移行したルートは特定されておらず、FDAは今後も、対象範囲を広げ調査を継続し、原因究明を行う予定としている。
5月24日、米国の非営利消費者組織のコンシューマーズ・ユニオンなどが、FDAに対して葉物野菜(leafy greens)のトレーサビリティの強化を求める書簡を送った。
この書簡では、6カ月以内に次の事項の強化を要請するものであった。
●食品安全強化法で、流通過程の記録が義務づけられる高リスク食品は、食品を介した疾病の発生状況や病原性の強さなども考慮して指定すべき。
●トレーサビリティをより確実に行うため、高リスク食品に係る法的義務を強化すべき。
この書簡の最後に、政府と業界が健康保護に必要な対応をとり得る情報を保持することは、消費者の信頼につながると結び、早期のトレーサビリティの強化を求めた。
食品安全強化法(2011年4月に制定)
第204条 食品のトレーサビリティの確保のための記録保存の義務
高リスク食品を製造・加工、保管する施設等は、食品を特定する情報(ロット番号、種類、数量など)や食品の受領と発送などの記録を2年間保存することが義務付け。