調査情報部
メキシコのブロッコリー産業は輸出志向性が高く、生産量のうち8割以上が輸出されている。主要輸出先は米国であるものの、同国産ブロッコリーは日本でも輸入量において第4位の位置を占めている。近年、同国のブロッコリー生産は拡大傾向で推移しており、2015年の生産量は2010年と比べ約1.5倍であった。品質保証や安価な人件費などの強みを有するメキシコ産ブロッコリーは、さらなるインフラ整備の進展などによっては将来的にその存在感を増す可能性があるものの、最近ではNAFTA再交渉による影響が懸念されており、今後の動向が注目される。
日本の冷凍ブロッコリーの輸入量は、外食産業などの業務用需要の増加を背景に、年々、増加傾向にある。このうち、メキシコからの輸入量は、中国、エクアドルに次いで多い(表1)。また、生鮮ブロッコリーの輸入は、米国産が多くを占めているものの、コールドチェーンなどのインフラの面などから輸入先が限られており、メキシコ産も一定のシェアを有している。特に、2015年は米国産、2016年は中国産の減少により、メキシコ産への代替需要が高まり、同国産の生鮮ブロッコリーの輸入量は大幅に増加した。このように、メキシコにおけるブロッコリー需給状況が、日本のブロッコリーの輸入動向ひいては国内需給に影響を及ぼしつつあることから、本稿では、同国のブロッコリー生産動向などに関して報告する。
なお、本稿中の為替レートは、1メキシコペソ=7円(9月末日現在のTTSレート:7.21円)を用いた。
メキシコのブロッコリー生産は、米国での消費の増加に伴い、1980年代に拡大したと言われている。また、冷凍ブロッコリー生産は、米国の野菜缶詰企業によって持ち込まれ、メキシコ中部を中心に拡大してきた。中央部は、標高が2000メートル前後と高く、平均気温が20度程度以下とブロッコリーの栽培に適した冷涼な気候であることに加え、かんがい施設や冷凍施設などのインフラが整備されていたことが、生産拡大に寄与したとされる。
2015年の作付面積は、2万9763ヘクタールと前年から2.9%減少したものの、近年、需要の増加に伴っておおむね増加傾向で推移している(図1、表2)。州別に見ると、最大の生産州であるグアナフアト州が全体の約7割を占めている。次いで、ミチョアカン州、プエブラ州が大きい。
2015年の生産量は、前年比0.7%増の44万9185万トンと、作付面積の拡大および単収の増加により前年を上回った(表3)。2010年と比較すると、1.5倍程度増加しており、近年のブロッコリー生産の拡大が示されている。州別に見ると、最大の生産州であるグアナフアト州は、作付面積および単収の減少により同2.9%減の28万3883トンとなった。
2015年の平均単収は、前年比0.9%増の10アール当たり1.51トンとなった(表4)。州別に見ると、主要生産州であるグアナフアト州は、同1.45トン(前年比0.5%減)と前年を下回った。同州の単収が全国平均を下回っているのは、輸出品目であるブロッコリーは利幅の高い作物として魅力があり、新規参入が増加する中、生産性の低い経営体の参入も増加していることによると考えられる。
最もよく栽培されている品種としては、高温乾燥地域での栽培に適したヘリテージ、生鮮での流通に適したアイロンマン、低温に耐性があり秋冬期の代表的な品種であるエクスポなどがある。
主要な生産地であるグアナフアト州、ミチョアカン州、プエブラ州などでは、休閑地を設けながら、秋冬期(10~3月)と春夏期(4~9月)に定植を行う2期作が行われている(図2)。一方、夏場に高温になる北部のバハ・カリフォルニア州やソノラ州では、秋冬の定植のみ行われている。直播の場合もあるが、通常は温室内で約12~15センチメートルまで育て、その後圃場に定植される。
秋冬期に定植したブロッコリーは、1月から7月ごろまで収穫され、通常4月に収穫のピークを迎える。春夏期に定植したブロッコリーの収穫は、7月に始まり、8~10月にピークを迎え、12月ごろまでに終了する(図3)。収穫は手作業で行われ、株全体の直径が25~35センチメートルであることが収穫の目安である。収穫後はすぐに低温・高湿度の環境に置かれ、乾燥を防ぐためにポリ袋に包む。
グアナフアト州の生産量が一年を通して最も多いが、地域的な気候などから、ハリスコ州は3~5月、ミチョアカン州は9~12月に生産量が増える傾向にある。
2015年の生産者販売価格は、前年比8.5%高の1キログラム当たり5.0メキシコペソ(35円)となった(表5)。主要生産地域である中部(グアナフアト州、ミチョアカン州、プエブラ州)は、全国平均並みかやや下回っている。一方、バハ・カリフォルニア州やソノラ州など北部は、全国平均を大幅に上回っている。この要因として、北部の州は、冷凍より高値で取り引きされる生鮮ブロッコリーを主に米国に輸出していることが挙げられる。
国内で生産されるブロッコリーの8割以上が輸出向けで、国内消費は2割にも満たない。また、冷凍ブロッコリーの約95%は輸出に向けられており、国内では生鮮での消費が主流となっている。米国で栄養面の利点が認知され始めてから、メキシコでも消費量は増えつつあるものの、1人当たり年間消費量は0.5キログラム(2015年)とされ多くはない。
1990年後半には、1人当たり年間消費量は1.8キログラムあったとの報告もあることから、長期的にみると消費量は減少傾向で推移してきた。しかし、近年は、貯蔵および流通におけるインフラが改善されてきたことや国民の健康意識の高まりなどから、緩やかではあるものの増加傾向に転じたとの見方もある。
メキシコでブロッコリーの冷凍加工を初めて行ったのは、米国資本のゼネラル・フーズ(General Foods)であると言われており、グアナフアト州の生産者から買い取ったブロッコリーを冷凍し、米国へ輸出していた。現在では、米国資本の企業のほかに、メキシコ資本企業も同様の事業を展開している。
以下、主要な大手生産者の概要について記載する。
メキシコ最大の食品総合会社BIMBOグループから1999年に独立した冷凍野菜および冷凍果汁の生産、加工、輸出業者で、米国向け冷凍ブロッコリーの約3分の1のシェアを有する。カリフラワーなども生産しているが、取り扱う野菜の8割をブロッコリーが占めている。
ブロッコリーの冷凍加工施設を、ミチョアカン州、ナヤリット州、グアナフアト州に計4カ所所有しており、これら地域を中心に6000ヘクタールの圃場も有している。また、契約栽培も行っており、生産者に種苗を提供し、技術指導を施している。年間の冷凍加工能力は、合計で約10万トンであり、今後は12万トンまで拡大する計画である。
同社は、メキシコ資本100%の野菜生産・冷凍加工業者である。グアナフアト州に本社を構え、米国に販売事務所を設けている。垂直統合が進んでおり、El Ovalo社(種苗)、Agricola Nieto社(生産)、Expor San Antonio社(冷凍加工)、Flensa社(輸送・貯蔵)、Expor San Antonio USA社(米国での販売)の5社からなるグループ企業である。ブロッコリーのほか、カリフラワー、にんじん、かぼちゃなどを取り扱っており、米国以外にもカナダや日本に輸出実績がある。
1992年に米国企業のSimplot社と提携し販売網を拡大したことにより、メキシコ最大の生産者となった。本社は、グアナフアト州に所在しており、海外事務所は米国と欧州に設置している。8000ヘクタールの自社圃場を有しており、ブロッコリーのほかに、カリフラワー、にんじん、豆類、果物なども生産している。製造する冷凍ブロッコリーの2割を自社圃場、残りを契約生産者から調達している。メキシコ国内にある3カ所の野菜加工施設に加え、グアテマラにも果物の冷凍加工施設1カ所を所有している。
上記3社のほかにも、1974年から日本向け冷凍青果輸出を行っているFrugo社、2500ヘクタールの圃場でブロッコリーやトウモロコシなどを生産するCovemex社、ブロッコリーの生産から輸出までを一貫して行うALTAR社、米国の大手冷凍野菜業者Brids Eye社などがメキシコで事業を展開している。メキシコのウォルマートなどの量販店にブロッコリーを卸しているEDLU社は、大手国内向け加工業者に位置付けられている。
メキシコにおいて、冷凍ブロッコリーは、最も主流な輸出形態である。しかし、近年は、冷凍よりも高値で取引される生鮮での輸出も増加傾向にある。
2015年のブロッコリー輸出量は、堅調な需要に後押しされ、前年比20.8%増の36万5000トンとなった(図4)。このうち、冷凍ブロッコリーは同26.9%増の25万6000トン、生鮮ブロッコリーは同8.6%増の11万トンといずれも増加した。輸出先を見ると、冷凍の91%、生鮮の95%は、北米自由貿易協定(NAFTA)により関税が優遇されている米国向けであった。このほか、カナダ向けは主に生鮮を、欧州向けはオーガニックを中心に少量が輸出されている。
なお、対米輸出を行う多くのメキシコの業者は、C-TPAT(テロ防止のための税関産業界提携プログラム)の認定を受けている。これは、国際的なサプライチェーンと米国国境におけるセキュリティの強化などを目的として、政府と業界が取り組んでいる任意のプログラムである。同プログラムの参加企業は、米国当局に対して、セキュリティ対策の実施状況などを報告することにより、顧客などに対して安全な流通網を確保するほか、通関手続きの際に検査回数の低減や検査の優先などの優遇措置を受けられるものである。
2016年の対日輸出量は、前年比20.7%増の2781トンとなった(図5)。この内訳を見ると、冷凍が同14.1%増の1546トン、生鮮が同30.2%増の1235トンと大幅に増加したものの、冷凍が輸出量全体の55.6%を占めている。日本での利用は、外食向けの業務用が主流となっている。なお、対日輸出については、日・メキシコ経済連携協定により生鮮および冷凍ともに関税は撤廃されている。
メキシコ産ブロッコリーの多くは輸出に向けられることから、生産者や輸出業者は輸出先の衛生基準に準じた認証を積極的に取得するなど品質保証の面から競争力の強化を図っている。業界レベルでは、全国団体として1987年に青果一般加工輸出業者協会が設立され、州レベルでも、グアナフアト州で「グアナフアト州ブロッコリー生産体制委員会」が存在しており、種苗業者、農薬企業、生産者、冷凍加工業者など23社が会員となっている。同委員会の目的は、グアナフアト産ブロッコリーの品質向上と競争力強化であり、植物検疫や品質などについての規定に関する講習会や適正な農薬の使用に関する講習会を開催している。さらに国レベルでも、2013年、食品安全に関する認証制度「メヒコ・カリダ・スプレーマ(Mexico Calidad Suprema)」が、ブロッコリーを対象品目に追加するなど、重要な輸出品目であるブロッコリーの品質向上に取り組んでいる。
このような品質面の強みに加え、収穫から数時間のうちに米国へ商品を届けられることや、収穫やカット、選別作業に多く必要とされる人手(人件費)が、米国よりも安価であることも、メキシコ産ブロッコリーの強みである。
米国企業によって開始されたメキシコでのブロッコリー生産は、現在ではメキシコ資本の企業によっても盛んに行われている。生産量はおおむね増加傾向で推移していることから、同国内の貯蔵・流通関連のインフラ整備が進展すれば、将来的にその存在感を増す可能性がある。こうした中、最大輸出先である米国との間で協議が進められているNAFTA再交渉は、業界関係者にとって大きな懸念材料となっている。輸入ブロッコリーの一部をメキシコ産に依存しているわが国としては、こうした北米農畜産物貿易の情勢を含めて、引き続き同国のブロッコリー需給動向を注視すべきであると考える。