調査情報部
日本のにんにく供給量のうち過半を占める輸入品は、中国産が9割以上を占めるが、次いでスペイン産が多い。スペインは、生産協同組合を中心とした生産体系の下、EU域内の重要なにんにく供給源であるとともに、近年はEU域外への輸出拡大のため、積極的に取り組みを行っている。スペイン産は、最大の産地である中国に対抗し、紫にんにくなどによる品質面などの差別化を図り、輸出先の多角化を進めている。
スペイン産にんにくは、生産量では世界全体の1%にも満たないが、輸出量では中国に次ぐ第2位となっている。同国のにんにく輸出は、EU域内向けを中心に、近年は、ブラジルや台湾などへ拡大を図るなど、輸出量の増加のみならず、輸出相手先の多様化にも取り組んでいる。日本の市場では、中国産が9割以上を占めるが、スペイン産は第2位であり、近年、増加傾向にある。特に、モラード種(紫にんにく)は、一般的に出回っている白いにんにくとの差別化ができることから、同国において生産拡大、販売促進に積極的に取り組む動きがみられる。
本稿では、スペインにおけるにんにくの生産および輸出動向について報告する。
なお、本稿中の為替レートは、1ユーロ=133円(8月末日TTS相場:1ユーロ=132.84円)を使用した。
スペインは農業大国であり、国土面積の約60%を占める農用地で、穀物類をはじめ野菜、果物、オリーブなどさまざまな作物の生産が行われている。農業人口は、機械化が進んでいることもあり、労働人口の4.1%(74万人)にとどまっている(表1)。
スペインのにんにく生産量は、近年、需要の拡大により増加傾向にあり、2013年以降は17万~18万トン台で推移している(表2)。作付面積も拡大しており、2013年以降は2万ヘクタール以上で生産が行われている。
2015年に価格が好調に推移したことに続き、2016年は中国の輸出量減少の懸念から、スペイン産にんにくの価格が上昇するなど、今後の生産を後押しする動きもみられた。最近では、南部のコルドバ県のように地域産業として産地形成に取り組むところも出てきている。
スペインは、国土の中央部が大陸性気候、東部および南部が地中海性気候である。にんにく生産は、特に中央部から南部で盛んであり、中央部からやや南に位置するカスティーリャ・ラ・マンチャ州で全体の57%、さらに南のアンダルシア州で25%を生産している(図1)。
特にカスティーリャ・ラ・マンチャ州は、近年、作付面積が拡大している(表3)。同州は、夏に気温が高くなるが、11月から4月ごろまでの冬期は非常に冷え込み、年間の気温差が大きい。また、粘土質が20%以下となる。これらの自然条件は、にんにくの生産に適していることから、アルバセーテ県、クエンカ県、シウダ・レアル県において多く生産されており、この3県の生産量の合計は同州の過半を占める。モラード種(紫にんにく)は、主にクエンカ県で生産されており、主産地ラス・ペドロニェラスでは、地理的表示制度を活用した商品づくりが盛んである。また、同県には、国家にんにく生産者・商業者協会(ANPCA)をはじめ、主要な団体が拠点を置いている。
2番目に生産量の多いアンダルシア州は、コルドバ県の生産量が多い。同県でにんにく生産が行われるようになったのは1990年代からと比較的新しく、その多くは10ヘクタール以上を有する農家によるものである。カスティーリャ・ラ・マンチャ州よりも南部に位置するため、20~25日早くにんにくが収穫できる点が特徴である。かつては、同県のにんにくの大半がアンダルシア州内で消費されていたが、輸出を強化した結果、近年は生産量の9割が輸出仕向けとなっている。また、同県最大のにんにく生産企業であるLa Abuela Carmen社は、2014年以降、にんにくを発酵させた黒にんにくの生産に取り組むなど、輸出を視野に入れた積極的な生産活動を行っている。
にんにく生産は、主に露地栽培であり、そのうち約9割がかんがいを利用したものである。10アール当あたりの収量は、全国で約0.8~0.9トンであり、日本と同程度の水準である(表4)。最大の生産地であるカスティーリャ・ラ・マンチャ州は、かんがいの有無に関係なく、平均よりも低いが、アンダルシア州は、かんがいを利用した場合は、1トンを上回っている(表5)。これは、アンダルシア州の多くの農家が比較的単収の高いスプリング種を生産しているのに対し、カスティーリャ・ラ・マンチャ州ではモラード種の作付けが多いことが影響しているとみられる。
生産農家は、家族経営の企業体であることが多い。また、地元の生産協同組合に属している場合が多く、組合が流通、輸出などを担っている。同組合の全国団体が、国家にんにく生産者・商業者協会(ANPCA)であり、約1800戸の生産農家と46社の輸出業者から組織され、国内生産量の7割以上を取り扱っている。このほか、生産協同組合を中心とした14団体からなる国家にんにく協会(La Asociacion Mesa Nacional del Ajo)などがある。
にんにく生産は、播種から収穫までのあらゆる段階で機械化が進んでいるため、作付けと収穫、収穫後作業の時期のみ、季節労働者を雇用する形態が多くみられる。収穫期の雇用者数は、毎年7500人にも上り、その9割以上がルーマニアをはじめとする出稼ぎ労働者である。各生産協同組合は、青年農業協会(ASAJA)や小規模農業畜産業者連合(UPA)と連携し、季節労働者を確保している 。
生産される主なにんにくの品種は、ホワイト種、モラード種(紫にんにく)およびスプリング種と呼ばれる早生種である(図2)。スプリング種は、白と紫(バイオレット)の2種類がある。モラード種は、主にカスティーリャ・ラ・マンチャ州のクエンカ県で生産されるが、その中でも、ラス・ペドロニェラスという小さな町とその周辺の地区(作付可能面積は合計20万ヘクタール)で生産されているものは「ラス・ペドロニェラス モラード種」の商標を持っている(図3)。特定の地域で生産・加工が行われ、品質が保証されたものに付与されるEU規格である地理的表示保護(IGP)の認定を2001年に受けており、高品質なにんにくとして知られている。同認定の規格は、ExtraとLサイズで、中央の粒の直径が、皮をむいた状態で、Extraは45ミリメートル以上、Lサイズは41ミリメートル以上で、収穫から1年以上経っていないことなどが条件となる。同にんにくは、強い香りと辛味を特徴とし、海外でも知名度は高い。
スペイン農業食糧環境省(MAPAMA)によると、1992年当時、にんにくの流通量は、モラード種が80%、ホワイト種が18%、スプリング種は1%にすぎなかったが、1995年にはスプリング種が85%、ホワイト種が10%、モラード種は5%程度と大きく変化した。要因は、比較的単収のよいスプリング種を好む農家が増えたためと考えられている。にんにく生産の大手企業Big Garlic社(Business International Garlic, S.L.)によると、最近は、モラード種が増加、ホワイト種は減少傾向にある。ホワイト種は単収を上げにくいにもかかわらず、販売価格が他の品種と同程度であることが要因となっている。また、IGP認定を受けているモラード種やブランドにんにくを作る企業もあり、生産形態は大規模生産と、高付加価値を目指す小規模生産に2極化されているといえる。
種子は、自家採取したものを使うのが一般的であり、生産農家は種を貯蔵し、播種前に殺菌する。また、このほか、試験管で培養され、ウィルスフリーの保証を受けたR1と呼ばれる種子が、高い単収や品質ゆえ好まれている。このR1認証の種子は、クエンカ県の2つの生産者団体が共同出資して設立した研究機関であるMulvicoが、一元的に生産している 。Mulvicoが取り扱うのはMAPAMAおよび保健・社会対策省の品質基準に合格したR1種子で、単収の向上に大きく寄与するものだが、高価なため、播種のうち30~35%をR1とし、残りは3年ほどかけて、自家採取からR1に切り替えていく生産農家が多い。
なお、スプリング種については、国内で収穫されたものだけでなく、中国からの輸入種子も使用されている。
通常、ホワイト種およびモラード種は12月ごろに播種、翌年6、7月に収穫が行われ、スプリング種は9月に播種、翌年5、6月に収穫される(図4)。昨今の生産技術の向上で他作物との輪作も行われており、例えばカスティーリャ・ラ・マンチャ州のクエンカ県では、穀物(小麦または大麦)-ひまわり-穀物(小麦または大麦)-にんにくの輪作が行われ、同じ土地で2年続けてにんにくを生産しない方法が一般的である。
農家はまず、作付けの数カ月前から耕地を始める。にんにくの根が張る30センチメートルほどの深さまで土を耕した後、にんにくの風味を保つため、作付け前の遅くとも3カ月前までに施肥を行う。作付けでは、畝を作る方法が最も一般的であり、畝幅は50センチメートル、株間は15センチメートルまたは20~25センチメートル程度である。菌の繁殖を防ぐため、前年に栽培した土地は翌年休ませることや、雨量の多い時期にこうした作業を行わないよう、注意が払われる。作付けは、土の表面から4センチメートル程度の深さに機械で行う方法が一般的であるが、IGPモラード種の場合は種子の尖った部分を上にして植え付けるため、手作業で行う。
にんにく生産におけるかんがいは、重力かんがいやスプリンクラーが主流であるが、スペイン最大の協同組合Coop San Isidroのように自動かんがい装置を有する団体もある(写真1)。生育期間中に雑草が発生した場合は、手作業または除草機で除去し、必要に応じて除草剤が使用される。にんにくが花芽をつけたら早々に摘み取り、その後7日から10日で収穫が可能な状態となる。収穫は、外皮の腐敗や黒化の原因となる腐生菌の増殖を防ぐため、葉が完全に乾燥したタイミングで行われ、一般的に収穫機が使用される。
なお、輪作などの技術や農薬を使わず可能な限り自然に近い状態で農地を活用する持続可能な農業を行っている例はまだ限定的であり、国内のにんにく生産量の7%程度にとどまる。しかしながら、IGPの「ラス・ペドロニェラス モラード種」では全てこの方法を採用するなど、同様の動きは広まってきている。
収穫されたにんにくは、葉や根のついた状態のまま4、5日間圃場で天日干しされた後、手作業で葉と根がカットされる。その後、集荷施設に運ばれ、トレーサビリティを示すラベルが貼付される。洗浄、大きさの選別が行われた後、顧客の要望に合わせて0.5~20キログラム単位で木箱、ダンボール、袋、ネットなどに詰められ、マイナス2~4度で適度な湿度に保たれた施設内で保管される。大規模生産者の多くが、こうした乾燥・保管施設を所有している。
現在、にんにくの生育に影響を及ぼす可能性があるものとして、病害ではアオカビ(Penicilium sp)やさび病(Puccina alli)、先枯れ病斑(Stemphilium vesicarum)があり、害虫ではチューリップサビダニ(Acerea tulipae)、レッド・ボールワーム(Dyspessa ulula)、ウェアハウス・モス(Ephestia sp)などが挙げられる。国家にんにく生産者・商業者協会(ANPCA)によると、スペインでにんにく生産に甚大な被害を及ぼすような害虫、雑草が確認されることは、近年まれである。輪作が進んでいることや、適切な種子の選別や収穫後の土壌管理の徹底など、対策が採られていることが背景にある。一定の気候条件で発生しやすい害虫などに対しては、都度、農薬などが使用されている。
生産農家は、生産のリスク、特にひょうをはじめとする天候リスクへの対策として農業保険に加入しており、加入率は現在ではほぼ100%である。農業保険は半官半民の組織であるスペイン農業保険者連合会(AGROSEGURO)が一元的に取り扱っており、保険金の支払い財源の一部は政府の補助金が充当される。最近の事例では、2015年5月にひょうが発生し、クエンカ県やアルバセーテ県などで2000ヘクタール弱を対象に、ホワイト種やモラード種の生育被害に対して、保険金が支払われた。
アンダルシア州で行われたアンケートによると、にんにくの生産コストは、10アール当たり約1034ユーロ(13.8万円)であり、このうち4割程度が種子などの物財費である(表6)。この他、労働費や地代が、比較的大きな割合を占める。生産コストは、農薬、肥料、人件費、地代などの高騰が影響し、近年やや上昇傾向にある。
にんにく生産は安定して推移しており、EU域内への重要な供給国となっている。品質や安全性を評価する消費者や、人件費の高騰などにより中国産の価格が上昇していることも、スペインの生産および輸出を後押ししている。業界関係者によると、今後、生産量が急激に大幅に増加することはないが、微増で安定して推移することが見込まれている。
しかしながら、にんにく価格は、中国の生産動向に左右されるため変動が大きく、常に価格が下落する危険をはらんでいる。生産者は安定した価格で収入が安定することを望んでおり、今後、生産量の伸びが期待される中、こうした課題への対応も必要とされている。
生産されるにんにくの2割程度が国内に仕向けられ、1人当たりの年間消費量は850グラムから1キログラムで安定している(表7)。世界平均では同800グラム程度と言われており、スペインの消費量は平均的といえる。一般の消費者は、伝統的な小規模店舗やスーパーマーケットでにんにくを購入することが多い 。
にんにくを使った代表的なスペイン料理としては、日本でも知名度のあるにんにくとオリーブオイルを煮込んだ「アヒージョ」が挙げられる。また、スペインオムレツにつける「アリオリ」と呼ばれるマヨネーズとにんにくを合わせたソースのほか、にんにくとトマトをすりつぶしたペーストをのせたパン「パン・コン・トマテ」が朝食メニューとして人気がある。
また、スプリング種はスペイン全土で広く流通しているが、マドリッドではホワイト種、バルセロナではモラード種が好まれる傾向にある。近年、にんにくを発酵させた黒にんにくも、その目新しさゆえ人気となっている。普通のにんにくと同様に料理に混ぜる調理法が一般的だが、ドライフルーツのような味が特徴的なため、ビスケットなどお菓子に混ぜたり、パンとあわせてそのまま食べたりする。
にんにくの総生産量の9割程度は、生鮮販売向けであり、そのほか、自家消費、加工用として消費されている(図5)。生鮮品は日本同様にバラ売り、数個単位のネット入りのほか、数珠つなぎなどの形態で流通しており、一般的な生のにんにくのほか、セミドライまたはドライのものもある。生鮮にんにくは、収穫直後から9月いっぱいまでのものが新物として取り扱われている。また、加工品としては、乾燥にんにくや、スパイス・製薬用に粉状にしたもの、オリーブオイルやピクルス液などに漬けたものなどが小売店で販売されている。
にんにくは、従来、日本と同様に、生産者から地元の生産協同組合などにわたり、卸売業者、小売業者へと流通していた。現在もこうした流通は存在するが、近年、生産協同組合などから、スーパーマーケットなど小売業者が直接あるいは複数の小売業者の委託を受けて運営される購入センターまたは物流プラットフォームを経て小売へと流れる新たな流通構造での取引が増加している。また、生産から国内流通や輸出までの過程には、さまざまな企業・団体が存在するが、生産企業や生産協同組合などがサプライチェーンを川上から川下まで一元的に管理していることも少なくない。
従来型と新たな流通構造では、各流通段階における利益の分配、最終的な小売価格が大きく異なる。従来型の流通では、卸売業者が一定の利益を得る仕組みとなっている一方、新たな流通構造では、小売業者に利益が集中する形態になっている。
従来型の流通では、生産協同組合、加工業者団体、倉庫業者などの組合・団体が仕入れたにんにくは、卸売業者へと出荷される。卸売業者は多くの場合、MAPAMAなどの出資で国が運営する国内農水産品の卸売・流通ネットワーク「メルカス」に所属している。メルカス・ネットワークに所属する卸売業者は、場所代を支払い、青果市場で昔からの小規模小売店や、ホテルやレストランなどの顧客に対し、販売する。同ネットワークを通じて取引されたにんにくは、2015年に約2万トンに上り、国内流通量の半分強を占める 。
近年増えつつある新たな流通構造では、卸売業者を介さず、生産者と業者が取引する場である購入センターや、輸送・保管などをつかさどる物流プラットフォームが、大きな役割を果たしている。大手スーパーマーケットなどであれば独自の購入センターやプラットフォームを有している場合もあるが、中小規模の小売店では同一のプラットフォームに加入する形を取り、連携することで交渉力を高め、より有利な条件で取引を進められるような体制となっている。
このように、卸売業者や購入センターや物流プラットフォームを経て、にんにくは小売店へと流通する。基本的に、伝統的な小規模小売店は卸売業者からにんにくを仕入れて店頭で販売する一方、近代的な比較的大規模の小売店は後者を利用する。最終的なにんにくの小売価格は、新たな流通構造では従来型より高く、消費者の負担は大きい。しかしながら、スーパーマーケットなどの店舗数拡大と利用者の増加に伴い、伝統的な小売店ではにんにくの販売量が減少し、現状では、販売シェアは、全体の3分の1程度となっている。
また、これらの型とは別に、生産から国内流通、輸出までを一手に担う企業や組合も存在する(表8)。にんにくの取扱量が最も多いのは、国内の最大生産量を誇るAjos La Veguilla社であり、これに複数の生産協同組合と加工業者から成る協同組合Coopamanが続く。
生産者販売価格は、世界最大の生産・輸出国である中国を参考にして設定されている。同価格の変動は大きく、近年は下落を続けており、2014年には1キログラム当たり0.9ユーロ(120円)と、2011年の約半分まで落ち込んだ(表9)。
また、卸売価格も、生産者販売価格と同様下落傾向にあり、ここ数年は同2ユーロ(266円)を下回る水準となっている。小売価格は、この数年は同4ユーロ(532円)を下回って推移している。
世界のにんにく輸出量は、中国が全体の80%以上を占める。かつてはアルゼンチンがこれに続いていたが、2013年以降はスペインが第2位につけている。にんにく輸出は、堅調に伸びており、生産量の8割程度が輸出向けとなっている。2016年は中国の不作懸念などに伴う需要増加により、平均輸出価格も上昇したとされる。
これまで主な輸出先は、イタリア、フランス、ドイツなどEU域内であったが、南アフリカ、米国、カナダ、ブラジル、日本、豪州、台湾などの域外輸出も伸びている(表10)。特に台湾向けは2014年および2015年と落ち込んだが、2016年は回復基調にある。これは、2016年半ばに国家にんにく生産者・商業者協会(ANPCA)が台湾の雲林商工会議所との間で、にんにくの売買について協力体制を強化する協定を結んだことが影響している。
輸出形態は、購入先との取り決めにより、業務用や小売用に、箱詰、袋入り、ネット入りなどさまざまである。仕向け先がEU域内の場合は、大半がトラックで運ばれる。鮮度を保つため、最終地まで直行便を使うことが望ましいが、場合によってはフランス南部のペルピニャンなどの中継地が利用される。運搬は、保冷トラックでにんにくだけを積む場合と、他の野菜と混載する場合がある。
EU域外向けには、比較的安価な海上輸送が利用されることが多い。ブラジル向けの場合は40フィートのリーファーコンテナがよく使われるが、日本のように輸出量が多くない地域には20フィートコンテナの利用も多い。40フィートコンテナには21パレット積載が可能であり、1パレットには10キログラムの箱が110ケース(30ポンドの箱で80ケース)積載できる。
にんにくは、収穫量・品質を予測することが難しいため、輸出契約は多くの場合、収穫後に結ばれる。取引は、EU域内であれば、顧客の倉庫で引き渡すDAP(仕向地持ち込み渡し条件)または、顧客の指定した運送人に引き渡すFCA(運送人渡し条件)で行われる。EU域外の場合には、CIF(運賃・保険料込み条件)での契約が一般的であるが、顧客によってはFOB(本船甲板渡し条件)が選択される。
日本のにんにく(生鮮)輸入は、毎年2万トン前後で、わずかながら増加している。中国からの輸入が90%以上を占め、スペイン、米国が続く(表11)。
日本では、中国産の価格は国産品に比べ2分の1から10分の1程度である(図6)。中国産は、スーパーマーケットで販売されたり外食などで使われるとともに、国産品と異なり小粒であるが香りづけなどの用途では国産品との差が大きくつきにくいことから、調味料向けとしても使用されている。
米国産は、卸売・小売チェーンや業務用スーパーマーケットで販売されている。国産品よりも安価で、中国産以外の輸入品という位置付けで、消費者から選択されているとみられる。
スペイン産は主に生鮮で流通している。スペイン産の品種別流通量は不明だが、ホワイト種は、スペインでの生産が減少していることや、国産や中国産などと差別化されにくいことから、減少傾向にあると考えられる。これに対し、モラード種は、日本に2010年に輸入されて以降、有名レストランなどで使用されている。最近では有名シェフとタイアップして比較的高級なブランドイメージを打ち出した商品がスーパーマーケットに出回っており、一般消費者の目に留まる機会が増えている。
2016年の輸出量は、ブラジルや台湾などからの需要増加や、中国の生産に対する不安も手伝って、大幅に増加した。スペインは、引き続き重要なにんにく供給国であり、また、価格高騰や食の安全の観点から中国産が敬遠されることなどから、今後も主要輸出国の立場を維持していくと予想される。
輸出先に関しては、今後もEU域内向けが主となるとみられる。2014年に、EUと中国との間で経済連携協定(EPA)が結ばれ、中国産にんにくに約1万2000トンの無税輸入枠を導入することが決定された。このため、スペイン政府と業界関係団体は、EUの財政支援を受け、中国産にんにくとスペイン産にんにく、特に早生種モラード種との違いを打ち出し、ソーシャルメディアなどを活用し消費キャンペーンを実施した。
今後もスペインは、世界のにんにく市場の中でも重要なEU域内市場に対し、キャンペーンを行うなどして輸出維持・強化を図るものとみられる。
一方、EU域外向けについては、ブラジル向けは伸びているものの、同国は南米南部共同市場(メルコスール)圏外からのにんにくに対して35%の輸入関税を課しているため、今後大きく増えることは考えにくい。ただし、日本向けは、2012年以降増加傾向にある。2015年は前年比3倍強の650トンを記録し、2016年も、中国の懸念などを背景に1100トン超となった。日本全体の輸入量においてスペイン産が占める割合はまだ5.5%にすぎないが、人気が高まりつつあり、さらなる伸びが期待されている。業界団体が中心となり、モラード種の販売促進プロモーションなどのブランド力を高める活動も積極的に行われており、2015年には、米国を抜いて第2位のシェアを獲得した。
スペインのにんにく輸出量は順調に伸びており、今後も安定的に維持すると見込まれている。特に、最近では、人件費高騰などで価格が高まる中国産を避け、他国産に対する世界的な需要増加がみられており、スペインの輸出の機会は拡大しているといえる。しかしながら、供給面で、価格の不安定さなどが課題として挙げられており、輸出拡大にはこうした点への取り組みが求められている。
輸出においては、スペインは引き続きEU域内を重要な市場として捉えており、EU域内で中国など他国産品との差別化を打ち出す消費キャンペーンなどに取り組んでいる。また、輸出先の多角化を図るべく、EU域外ではブラジルや台湾などとの関係性強化にも努めている。対日輸出も堅調であり、モラード種をはじめ、スペインのブランドにんにくのイメージを消費者に広める動きが出てきており、日本に対して今後さらなる輸出の伸びが期待されている。