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海外情報(野菜情報 2017年8月号)


タイのえだまめの生産および輸出動向

調査情報部


【要約】

 タイのえだまめの生産は、主に日本企業向け輸出となっているため、作付面積、生産量は日本の需要の影響を強く受ける。
 日本市場では、タイの冷凍えだまめは、大きな伸びはみられないものの、中国の食品安全性問題を契機にその存在感が増している。

1 はじめに

えだまめとは、さやつき大豆を若取りしたものを指し、完熟したものは大豆となる。枝付きのままゆでて食されていたことから、「えだまめ」と呼ばれるようになったとされる。未成熟の大豆を食べるという食習慣は、日本独自のようで、海外ではあまり見かけられない。

えだまめの主な旬は7~9月だが、おつまみの定番として一年中需要があるため、年間を通して海外から輸入されている。輸入のえだまめは、生鮮・冷凍別では冷凍品がほとんどであり、外食・中食向けの業務用や直接家庭で消費される。日本の冷凍えだまめの輸入量のうち、タイ産は約3割を占めており、2015年には初めて中国を上回り、台湾に次ぐ第2の輸入先国となっている。

本稿では、主要な輸入先国であるタイのえだまめの生産および輸出動向について紹介する。

なお、本稿中の為替レートは、1バーツ=3.4円(2017年6月末日TTS 相場:3.37円)を使用する。

2 生産状況

(1)主産地の動向

タイは、山岳地帯で比較的冷涼な北部地域、稲作農業が主として営まれている東北部地域、農作物の栽培に適した肥よくな大平原が広がる中央部地域、稲作やゴムなど熱帯作物の生産が盛んな南部地域の4つの地域に区分される(図1)。

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主産地は、北部地域のチェンマイ県、チェンライ県、ランパーン県、ウタイタニー県、ピサヌローク県の5県となっている(注。えだまめ農家戸数は、増加傾向で推移しており、2015年は1944戸であった。同年の作付面積は、日本をはじめとする輸出先国の需要が増加したことから、2070ヘクタール(前年比18.5%増)となり、生産量も2万1566トン(同59.6%増)と大幅に増加した(表1)。

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中でも、ウタイタニー県、ピサヌローク県は、農業に適した平たんな土地が多く経営規模が大きいことから、1戸当たり平均耕地面積は全国平均を大きく上回っており、農業収入も比較的高い(表2)。近年、多くの冷凍野菜生産・輸出企業(以下「企業」という)がこうした地域に進出しており、えだまめの作付面積、生産量ともに増加している。一方、チェンマイ県、チェンライ県は、耕地面積が小さい上に、傾斜地が多く機械の走行に適した畝幅や条間を確保できないことから、一般的に機械化が難しく手作業での収穫が行われている。

注1:タイでは、大きい行政区分から順に、「県」、「郡」、「行政区」、「村」などとなっている。これらとは別に特別時自体としてバンコク都、パタヤ特別市がある。

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(2)栽培行程

タイでは、日本のハウス栽培(促成・半促成栽培)やトンネル栽培(早熟栽培)といった栽培方法は一般的ではなく、露地栽培が主流であり、作型は、春作、秋作、冬作の3つに分けられる(図2)。そのほとんどが畝に直接種まきをするじかまき栽培となっている。

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春作、秋作は、種から収穫まで65~68日程度と日本の極早生種の70~75日と比べて5日程度早い。ウタイタニー県、ピサヌローク県では、年末の気温が低くなる時期でも発芽に最適な地温を保つことができるため、冬作を含めた年3回の栽培を行うことができる。単収は、春作が、10アール当たり813~938キログラムと最も高くなり、日長が短くなる秋作、冬作は、同625~750キログラムと低くなる。一般的に収穫の多くは手作業で行われており、特にチェンマイ県、チェンライ県での収穫機の使用は前述の理由から低くなっている。収穫作業の機械化により人件費などのコストを低減できるが、さや割れなどが発生し歩留まりが低下するというデメリットもある。

農業・協同組合省傘下のチェンマイ県畑作研究所(以下「研究所」という)は、タイのえだまめ生産について、洪水や干ばつなどの気象災害により前作の収量が減少しても後作で補完することができることが、最大の特徴であるとしている。

作付は、輸出先国の輸入業者からの年間発注計画に基づき行われ、前作の作柄によっては後作の作付面積を調整している。2016年は、春作が干ばつに見舞われ生産量が減少したため、秋作、冬作の作付面積を増やして不足分を補った。また、えだまめの連作障害を避けるため、産地の土壌適性などに応じて稲作や他作物(飼料用トウモロコシ、にんにく、たまねぎなど)との輪作が行われている。

(3)品種

栽培する品種は、企業によって異なっており、主に日本、中国、台湾などから種子を輸入している。日本向けに輸出するえだまめについては、さやの色、さやの数、食味などについて日本側が求める特性を持った品種を使用しなければならない。研究所は、農家の種子代を低減することを目的に品種改良を進め、2012年に風味が良く多収量の「チェンマイ84-2」を開発した。しかし、豆の色がやや黄ばんでいるため、日本向け輸出には適しておらず、主に国内市場向けに栽培されている。

一部の企業は、甘みが強く独特の風味を有する茶豆系統を栽培し、日本に輸出している。流通量が多い白毛豆系統より出荷価格は高くなるが、味が良いため日本からの需要は高いという。

3 企業との契約栽培

(1)栽培形態

えだまめは、タイ国内では一般的な野菜ではなく、市場流通量は少ないため、個人が専業で栽培することはなく、主に企業との契約により生産されている。国内生産量のおよそ90%が冷凍えだまめとして輸出されているため、農家は、冷凍加工施設を有する企業との契約なくして生産を行うことはない。えだまめの品質は、収穫すると急速に低下し始めるため、輸出向けは、収穫後出来るだけすぐに冷凍加工を施し鮮度を維持する必要がある。

企業は、個々の農家と契約するのではなく、農家リーダーと呼ばれる地区を代表する農家や集荷業者などと契約を締結する(図3)。農家リーダーは、企業の求める生産量に応じて自身の管轄地区の農家と交渉し、農家は買取価格など企業が提示した条件が合えば作付けを行う。農家リーダーは、生産県の郡単位におよそ20~30名いて、農家に対し、作付けの交渉のほか栽培の指導や収穫支援などを行う。企業が受注量を確保するためには、指導力があり農家からの人望が厚い有能な農家リーダーと契約を結ぶことが重要である。企業は、農家リーダーと契約するほか、栽培指導員を30名程度雇用し、直接農家に対し栽培方法や農薬の使用方法の指導も行っている。

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企業は、作付け前に農家リーダーを通じて農家に農薬、肥料、種子などを提供し、農家は、企業や農家リーダーの指導に基づき企業が求める品質のえだまめを生産し、出荷するという生産形態となっている。委託費は、企業が、出荷時の品質や収量に応じて農家リーダーに支払い、農家リーダーは、自身の取り分を差し引いて農家に代金を支払う。買取価格については、毎年、年初に企業、農家リーダー、農家の3者が協議して設定される。

栽培指導員や農家リーダーは、施肥や農薬散布などを農家に指導し品質の確保に努めている。全ての農家は、予め企業から配布された農薬カードに農薬散布日や散布回数などを記入して企業に提示しなければならない。収穫時には、栽培指導員が農家の圃場に赴き残留農薬のサンプル検査を行う。

(2)収穫から加工までの行程

A社は、1993年に設立されたチェンマイ県に本社を置く主要3企業の1つで、えだまめのほかにいんげんやスイートコーンなどを加工し海外に輸出している。日本の商社からえだまめ栽培を勧められ、設立時から現在に至るまでえだまめの生産を行っている。

A社と契約したウタイタニー県のB氏の圃場における冬作の収穫から加工までの一連の工程を紹介する。

B氏はえだまめを栽培して2016年で5年目となる。同氏は、A社の作付け計画に基づき、冬作は毎年11月ごろから段まきし、年明けから2月上旬ごろまで収穫を行う。

A社の栽培指導員は、収穫の5~7日前にB氏の圃場を訪問し、害虫被害の有無の確認や残留農薬のサンプル検査を行う。基準値を超える残留農薬が検出された場合、買い取りを拒否することができ、もし指定農薬以外のものが検出された場合は、契約を解除することもできる。同社の担当者によると、契約栽培を始めた当時は、農薬の使用条件に従わない農家もいたが、厳格な指導を続けた結果、現在は指定農薬以外を使用する農家はいなくなった。A社は、農薬の使用管理を徹底しており、日本の食品衛生法に規定されたポジティブリスト制度に抵触しないよう、農薬の使用基準を遵守するよう指導している。

えだまめは、収穫適期から2日以上収穫が遅れると、さやの色が黄色く変色し甘みも落ちるため、サンプル検査合格後、速やかに、収穫に必要な労働力の確保と車両の手配が行われ、収穫日が決定される。

収穫は、朝7時から夕方17時までA社が所有する日本製の収穫機によって行われ、機械で収穫しきれなかった部分は、手作業で摘み取られる。収穫機は1日1台当たり16アール収穫することができる。選果所にて扇風機の風圧や目視で異物を除去し(写真1~3)、選別機を用いて未熟さや1粒さやの選別を行う。

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その後、企業の検品場にて害虫被害のサンプル調査を行い、鮮度保持のため冷水に浸けて予冷した後、5度に設定された冷蔵車でチェンマイ県の冷凍加工施設に運搬される(写真4~6)。

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冷凍加工施設に到着後、害虫被害の有無を確認し、洗浄、ブランチング(湯煮)、冷却の行程を経て半製品として冷凍保存される。湯煮直後に冷却するのは、さやの色を鮮やかにするためである。出荷前には、半製品を再度選別した後、顧客が求める包装サイズに小分けし、金属探知機、重量検査を経て箱詰めされる。製品は、トラックでバンコク港やレムチャバン港に運搬され、船便で日本に輸出される。

冷凍加工施設の作業は、夜間の電気代が日中より安価なため、20時ごろから翌朝7~8時過ぎまで行う。6~8月の繁忙期は、入荷量が多いため翌日の正午まで作業を続けることもあり、その際は3シフト制で24時間稼働する。

同社では定期的に日本の顧客を農家の圃場に招待し、日本が求める品質などを直接農家に伝えることにより、製品の品質向上と信頼関係の構築を図っている。また、数年前から生産量、品質面で優れている農家を日本に招待し、量販店などで販売されている商品を見学してもらうことにより、生産意欲の向上と日本が求める品質に対する理解の醸成を図っている。

(3)生産に影響を与える要因

ア 他作物との競合

北部地域は、えだまめのほかにキャベツ、レタス、いんげん、ブロッコリーなどの野菜を栽培できるため、農家はより収益の上がる作物を作付けする傾向にある。農家は、他作物の買取価格が上がった場合、企業に対してえだまめの価格も引き上げるよう要求し、折り合いがつかない場合は作付けを拒否することもある。

イ 収穫時の労働力不足

前述のとおり、一般的に収穫機の普及率が低く、手作業で収穫する場合には10アール当たり16人程度の労働力を確保する必要がある。収穫は、地区の農家同士の助け合いにより行われているため、無計画な作付けは、労働力を確保できず収穫適期を逃してしまうことにつながる。そのため、チェンマイ県、チェンライ県など手作業で収穫している地域は、多くの労働力を確保する必要があるため、大幅な生産量の増加は望めない。

ウ 農業政策

タイの農業政策としては、インラック前政権が2011~14年に実施した米農家を優遇した「籾米担保融資制度」があった。現地の関係者によると、同制度では、米を生産すれば政府が数量制限なく高値で買い上げたため、農家は収益の上がる米の作付面積を増やしたとされる。同制度は、極度の財政負担を国庫に強いたことに加え、制度運用過程で発覚した度重なる不正の事実により、インラック前政権が崩壊する一要因となった。2014年に発足した暫定軍事政権は、同制度を廃止し、生産性が低い土地での米の作付けを減らすため、他作物への転換を奨励している。2018年後半に予測されている総選挙により誕生する新政権の動向によっては、えだまめ生産に影響を及ぼす政策が実施される可能性がある。

4 国内消費と輸出入

(1)国内消費と輸入

えだまめの生産は増加しているものの、タイ国内では、えだまめはまだ一般的な野菜ではなく、消費者の食卓に上がることは少ないが、約2700カ所の日本食レストランの一部でビールのおつまみとして食されている。また、最近は、バンコク市内の量販店やコンビニエンスストアで冷凍えだまめが販売されるようになっている。現地関係者は、消費者の目に触れる機会が増えたことから、健康的な食品として身近な存在になりつつあるとしている。

量販店などで販売されている冷凍えだまめは、中国産もあるがタイ産が多く、容量、規格などはさまざまである(写真7~9)。現地関係者によると、国内市場にえだまめを普及させるためにはストーリー作りが必要で、数年前には枝付きにすることによって糖度が高いことをアピールしたり、最近では、消費者の食卓に上がる頻度を上げるため、味付きえだまめなど新たな売り方を検討している。

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輸入量については、2016年のえだまめを含む冷凍豆類(注2)の輸入量は、1993トン(前年比396%増)と、輸出量と比べてごくわずかとなっている。ほぼ全量を中国から輸入しており、冷凍えだまめとして国内市場に仕向けられている。

注2:HSコード 0710.900.000

(2)輸出量

2016年のえだまめを含むその他の冷凍豆類の輸出量は、万4757トン(前年比.6%減)となっている。このコードには冷凍いんげん豆も含まれるが、現地関係者によると、冷凍いんげん豆の輸出量は、冷凍えだまめの10分の1程度とのことである。輸出額は17億6964万バーツ(同0.9%増、60億1678万円)となっている。

国別では、日本が全体の85.8%、次に米国が9.6%を占め、この2カ国で95.4%を占めている(図4)。企業によると、えだまめは、日本だけではなく米国および欧米諸国などでも健康食として人気が高まりつつあり、今後の輸出量は増加すると予測している。

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5 日本市場における他国産との競合

最大の輸出先国である日本は、多くの冷凍えだまめを輸入しており、2015年の輸入量は国内生産量を上回っている(図5)。主な冷凍えだまめの輸入先国は台湾、タイ、中国で、2015年以降、タイは中国を上回り、台湾に次ぐ第2の輸入先国となっている(図6、写真10)。中国からの輸入が減少した理由としては、2002年ごろから中国産食品の安全性をめぐる事件が相次いで発生したため、消費者が中国産の購入を見合わせる傾向が強まったことが挙げられ、中国産は主に外食・中食向けの業務用に仕向けられている。

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冷凍えだまめの1キログラム当たりの輸入単価をタイと台湾で比べると、2002年は194円と219円で25円タイの方が安価だったが、その差はだんだんと縮小し、2012年には1円、2016年には9円と価格面での優位性はなくなってきている(図7)。これは、比較的低廉な人件費で注目を浴びたタイも、経済成長が進むにつれて人件費が高騰し、2011~13年にかけて毎年最低賃金の引き上げが行われたことが影響していると考えられる。2017年1月には、4年ぶりに最低賃金の改定が行われ、これまで全国一律に1日当たり300バーツ(1020円)だったものが、各都県の経済情勢に応じて5~10バーツ(17~34円)引き上げられた。現地の関係者によると、中国産は、中国は地理的に距離が近いことなどから価格面ではそれほど大きな変化はみられず優位に立っているが、品質面では台湾、タイに劣っているとしている。

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台湾産は、日本市場で食味について最も高い評価を受けており、品質面での評価はタイより高い。一方で、台湾産および中国産には6%の関税が課せられるが、タイ産については、2007年11月に日・タイ経済連携協定が発効し、2012年以降は無税となっており、関税面で優位に立っている。

日本市場が品質で重要視することは、残留農薬、害虫被害の有無、色の鮮やかさ、黒点などの傷の有無などである。特に、顧客からのクレームで一番多いのが、シンクイムシやアワノメイガなどによる害虫被害となっている。最近は、日本の要望により製品から生産地まで追跡できるトレーサビリティに対応した企業がタイで増加しており、日本市場からの食品衛生面での評価は高くなっている。

6 おわりに

タイで生産されるえだまめは、企業向け出荷が主で、作付面積、生産量は企業側の意向により変動し、その多くが日本向け輸出となっているため日本の需要の影響を強く受ける。主な生産地は、比較的冷涼な北部地域で、地域によっては年3回の栽培が可能なため、洪水や干ばつなどの気象災害により前作の収量が減少しても後作で補完することができる。

その一方で、最低賃金の引き上げによる人件費の高騰に伴い輸入価格は上昇しており、価格面での優位性は無くなりつつある。企業は人件費の低減のために収穫作業の機械化を進めたいが、主産地のチェンマイ県、チェンライ県では収穫機の導入が進んでいないのが現状である。

しかし、こうした課題を抱え、輸出量に大きな伸びは見られないものの、中国の食品安全をめぐる問題を契機に日本市場での存在感は増してきており、2015年には初めて中国を上回り台湾に次ぐ第2の輸入先国となった。また、関税面でのメリットがあることから、今後もタイのえだまめの生産および輸出動向は注目される。


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