調査情報部
日本が輸入する冷凍ほうれんそうの9割以上が中国産であることから、今月号では、主産地の一つであり、日本向けの輸出が多い山東省を中心に中国のほうれんそうの生産動向等を紹介する。
日本のほうれんそう供給量の9割近くは国産品で、1割強が輸入冷凍品であり(図1)、その9割以上が中国産である(表1)。わずかに輸入生鮮品もあるが、その大半は米国産であり、中国からの輸入はない。
また、冷凍ほうれんそうの輸入量は近年増加傾向で推移しており、輸入量の大半を占める中国産の増加が輸入増を担っている(図2)。
中国産冷凍ほうれんそうの月別輸入量を見ると、年間を通じて安定的な数量が輸入されているが、年末の12月に向けて特に多くなる傾向にある(図3)。
なお、本稿中の為替レートは1元=16円(2017年4月末日TTS相場:16.43円)を使用した。
中国のほうれんそうの主産地は、山東省のほか、黒龍江省などの東北地区、河南省、河北省、広東省などである(図4)。中でも山東省は、公式な統計値は明らかではないが、日本向け冷凍ほうれんそうを多く輸出している。
山東省におけるほうれんそうの主産地は、濱州市および荷澤市(注)であり、それぞれ同省のほうれんそう作付面積の約2割を占めている。その他、済寧市や泰安市などでも生産している。
注:中国では、大きい行政区分から順に、「省級(省、自治区、直轄市など)」、「地級(地級市、自治州など)」、「県級(県、県級市、市轄区など)」などとなっている。濱州市、荷澤市、済寧市、泰安市はいずれも地級市である。
山東省におけるほうれんそうの作型は主に春播き、秋播き、冬播きの3種類であり、春播きと秋播きは露地栽培、冬播きはハウス栽培が行われることが多い(図5)。その中でも、8月~9月に播種し、9月~11月に収穫される秋播きが最も多く、作付面積の60%を占める。主な品種は、「名門」や「三連冠」など香港やオランダなどからの輸入種であり、耐病性や多収性が好まれている。
直近3年間の生産動向を見ると、2014年は、天候に恵まれ単収が高かったが、2015年は、秋播きの収穫期に天候不良による凍害に見舞われたため、単収、収穫量が比較的低水準となった。2016年は、秋播きの播種期である8月に豪雨被害を受けたため、単収、収穫量とも2年連続で前年を下回った(表2)。
10アール当たり生産コストの動向を見ると、2016年は、4395元(7万320円、2013年比26.3%増)と大幅に増加している(表3)。項目別に見ると、近年の中国の野菜栽培で常態化している土地代と人件費の増加に加え、種苗費の増加も見られている。これには、単価の高い人気品種へ需要がシフトしていることが原因として挙げられる。
近年の山東省のほうれんそう価格を見ると、春播きの収穫期である5月前後と、秋播きの収穫期である11月前後は低水準で推移し、その後、それぞれの収穫期が終わった後に、上昇する傾向にある(図6)。一方、冬播きの収穫期は2月から3月ごろであるが、2月は旧正月により需要高であるのに加え、冬播きはハウス栽培によるコスト高により、この時期は比較的高水準となっている。
山東省で収穫されたほうれんそうの8割以上は、国内に仕向けられている。主な出荷先は、北京、天津などの大都市や近隣の河北省であり、一部は南京や上海にも供給されている(写真1、2)。
冷凍ほうれんそうの輸出量は、年々増加傾向で推移しており、2016年には約7万6000トン(2012年比43.8%増)であった。そのうち日本向けは約4万トン(同39.2%増)と全体の約5割を占め、次いで米国向けの約2万5000トン(同80.5%増)となっている(図7)。日本国内で、外食・中食など業務用需要が堅調に増加していることに加え、食の簡便化により、家庭内でも冷凍食品が多く利用されるようになっていることも中国産ほうれんそうの日本向け輸出が増加傾向にある要因として考えられる。現地の検疫所関係者の話によれば、日本向け冷凍ほうれんそうの輸出管理は厳しく、他の野菜とは別に単一産品の検査ルールにより行われているという。また、その加工企業および圃場については中国の地方検疫機関に登録する必要がある。現在加工企業については63社(冷凍ほうれんそう)、20社(冷凍調理ほうれんそう)が登録し、その大半は山東省に位置している。
なお、生鮮ほうれんそうの輸出量は、年間5000トン前後で推移しており、主な輸出先はマレーシアやタイなどである。
米国からは、日本への輸出が多いブロッコリー、レタス、セルリー(セロリ)(以下「セルリー」という)について、それらの主産地であるカリフォルニア州を中心とした生産動向などを紹介する。また、トピックスとして、米国の雇用農業労働者の最近の動向について報告する。
米国農務省(USDA)によると、2017年2月27日から3月5日にかけて、インペリアル郡では降雨により、収穫作業に遅れが生じた。
3月末、ブロッコリーの出荷は、アリゾナ州ユマ郡産からモントレー郡サリナス産、サンタバーバラ郡サンタマリア産へ移行する端境期にあったが、これらの郡では大雨により不作であった。また、メキシコ産は4月が近づくにつれて出荷が減少し始めたものの、米国東海岸からの出荷によって補われた。
なお、本稿中の為替レートは、1米ドル=112円(2017年4月末日TTS相場:112.29円)を使用した。
2017年2月の生鮮ブロッコリーの生産者価格は、豪雨による出荷量の減少により高騰し、前年同月比2倍の1キログラム当たり1.19米ドル(133円)となった(表1)。
3月10日から17日にかけて、カリフォルニア州は、気温が高く、降雨が続いたため品質が低下したが、出荷量も減少したので、前週に比べ相場が上昇した。USDAによると、3月の3週目、インペリアル郡産は1カートン(14個入り)当たり約22~23米ドル(1キログラム当たり2.12~2.21米ドル:237~248円)で取引された。4月4日時点の取引価格は、同約18.40~20.56米ドル(同1.77~1.98米ドル:198~222円)といったん値下がりしたものの、カリフォルニア州中部および南部の沿岸で、強風と降雨により収穫作業に遅れが生じ、4月13日時点では、同約30.45~31.55米ドル(同2.93~3.03米ドル:328~339円)と、高値で取り引きされた。
2017年2月のブロッコリーの対日輸出量は、前年同月比34.2%減の1027トンであった。また、輸出単価は同9.2%高の1キログラム当たり1.34米ドル(150円)と、前月からほぼ横ばいで推移した(表2)。
2017年2月の東京都中央卸売市場の米国産ブロッコリーの入荷量は、前年同月比18.1%増の39トンであった。卸売価格は、同4.8%安の1キログラム当たり319円となり、4カ月ぶりに前月から値を上げた。なお、同月に同市場で最も入荷量が多かったのは愛知県産で、前年同月を大幅に上回る1002トンとなり、卸売価格は米国産をかなり大きく下回る同271円であった(表3)。
USDAによると、2017年3月5日までの1週間、インペリアル郡では、降雨によりロメインレタスの収穫作業が遅れたことに加え、リーフレタスおよびロメインレタス、結球レタスの品質にバラつきが見られた。3月10日時点で、結球レタスおよびロメインレタスの価格は、多雨による収穫作業の遅れにより、3月末まで出荷量の減少が予想されたことから上昇した。また、サリナスでも、多雨により播種ができず、ユマ郡産からの出荷の切り替えに支障をきたしたことが、価格の上昇要因となった。
4月7日時点では、結球レタスとグリーンリーフレタスの品質は、平年並みないし良好となったが、ロメインレタスの品質にはバラツキがあり、色あせているものや主脈が変色しているものが発生していた。4月14日以降も、グリーンリーフレタスは、引き締まった需給状況が続いた。
2017年2月の生産者価格は、天候不順による不作に伴う需給のひっ迫により、前年同月比2.5倍の1キログラム当たり1.13米ドル(127円)と、前月から同49セント値上がりした(表4)。
インペリアル郡産では3月の第2週、結球レタスは1カートン当たり14.50~16.95米ドル(1キログラム当たり0.64~0.75米ドル:72~84円)、ロメインレタスは同28.95~30.95米ドル(同1.27~1.36米ドル:142~152円)、グリーンリーフレタスは同約18.5~20.95米ドル(同0.81~0.92米ドル:91~103円)で取引された。
4月の初旬、3月からの多雨による供給不足が続き、大幅に値上がりし、4月4日時点のサンホアキンバレー産の結球レタスは、1カートン当たり30.50~32.55米ドル(1キログラム当たり1.34~1.43米ドル:150~160円)、ロメインレタスは同46.50~48.55米ドル(同2.05~2.14米ドル:230~240円)、グリーンリーフレタスは同約45.65~47.55米ドル(同2.01~2.09米ドル:225~234円)で取引された。
4月13日時点のサンホアキンバレー産結球レタスの価格は、1カートン当たり43.55~44.55米ドル(1キログラム当たり1.92~1.96米ドル:215~220円)とさらに値上がりした。また、同時点のサリナス郡産を見ると、ロメインレタスは、同43.55~44.55米ドル(同1.92~1.96米ドル:215~220円)、グリーンリーフレタスは同約50.45~52.55米ドル(同2.22~2.31米ドル:249~259円)と高値で取引された。
2017年2月の結球レタスの対日輸出量は、前年同月比41.5%減の103トンで、輸出単価は同8.5%安の1キログラム当たり1.08米ドル(121円)であった(表5)。一方、結球レタス以外のレタスの対日輸出量は、前年同月の16分の1となる5トン、輸出単価は前年同月比69.8%高の同3.60米ドル(403円)であった(表6)。
2017年2月の東京都中央卸売市場の結球レタス以外の米国産レタス(ロメインレタス、フリルレタスなど)の入荷量は前年同月の12分の1となる0.5トンであった。一方、卸売価格は前年同月比3.2%安の1キログラム当たり518円と、前月から横ばいで推移した(表7)。なお、同月に同市場で最も入荷量が多かった結球レタス以外のレタスは、茨城産であり、前年同月比9.5%増の67トン、卸売価格は米国産の半額となる1キログラム当たり259円であった。
2月は従来雨量の多い月であるものの、例年以上の雨量を記録した。ベンチュラ郡オックスナードでは継続的な降雨により、セルリーの外側の株が水分を過剰に摂取して半透明になったり、泥が株の中に残っていたり、株の付け根が茶色く変色したことで、日持ちの悪化にも影響が出ていた。4月も前月に引き続き作柄が悪く、4月から5月にかけては慢性的な供給不足に見舞われた。
2017年2月のセルリーの生産者価格は、前年同月比48.5%安の1キログラム当たり0.34米ドル(38円)となった(表8)。
3月第3週時点のオックスナード郡産は、深刻な品薄が報告され、1カートン(24茎)当たり10.85~12.45米ドル(1キログラム当たり0.40~0.46米ドル:45~52円)であった。4月16日の復活祭に向けた需要の高まりにより、同郡産は、4月4日時点に同19.45~20.56米ドル(同0.72~0.76米ドル:81~85円)、4月13日時点に同21.85~23.56米ドル(同0.80~0.87米ドル:90~97円)と価格が上昇した。
2017年2月のセルリーの対日輸出量は、前年同月比18.4%増の534トンであった。なお、輸出単価は1キログラム当たり0.64米ドル(72円)であり、前月から横ばいで推移した(表9)。
2017年2月の東京都中央卸売市場の米国産セルリー入荷量は前年同月の1.8倍となる27トンで、卸売価格は1キログラム当たり204円(同34.0%安)であった。なお、同月に同市場で最も入荷量が多かったセルリーは静岡産であり、前年同月比6.6%減の311トン、卸売価格は米国産をやや上回る1キログラム当たり216円であった(表10)。
米国国土安全保障省(DHS)は2017年2月21日、ドナルド・トランプ大統領が1月に発令したメキシコ国境での壁建設などの不法移民取締強化の大統領令に基づいた指針を発表した。これにより、カリフォルニア州ロサンゼルス市では、ヒスパニック系移民160人以上が検挙・拘留され、このうち37人がメキシコに強制送還された。モントレー郡サリナスでは、多くの中米出身のヒスパニック系の移民・滞在者が農業部門で働いており、検挙率が上がることによって深刻な労働力不足になることが懸念されている。そこで、カリフォルニア州を中心に、米国の雇用農業労働者の最近の動向を報告する。
米国農務省(USDA)によると、雇用農業労働者は、農業分野における労働力の3分の1を占め、残りの3分の2を農場の経営者などの雇用主が占める。雇用農業労働者の大多数は、年間売上高が50万米ドル(5600万円)以上の大規模農場に雇用されている。
雇用農業労働者は、20世紀には最大で340万人いたが、20世紀末には100万人にまで減少した。また、米国の工業化に伴い、非農業部門での労働者が増加したため、農業部門の雇用労働者が全労働者に占める割合は、急激に減少し1%未満となった。
年平均雇用農業労働者数は、1990年の114万2000人から2008年に100万3000人まで減少した(図2)。2012年には、106万3000人の雇用農業労働者がおり、このうち57万6000人が常勤(年間150日以上勤務)、19万9000人がパートタイム(年間150日未満勤務)であった。雇用農業労働者数は季節ごとにバラつきがあり、2011年1月には80万80000人がいたものの、同年7月には118万4000人に増加した。USDAによると、米国の農業生産を維持するために必要な雇用農業労働者数は100万人で、カリフォルニア州では47万人としている。
一方、DHSによると、2000年以降の不法滞在者数は2007年には、2000年の1.4倍となる1150万人に達した。その後、メキシコの経済回復、リーマン・ショック、国境警備の強化によりやや減少傾向で推移しており、2017年現在では800万人程度と推計されている。これらの不法滞在者は、農作業の大きな担い手であり、無視できない労働力となっている。ただし、雇用農業労働者に占める不法滞在者の割合は、1999~2001年(54%)以降、わずかではあるが減少傾向で推移しており、2012年は48%となっている。
雇用農業労働者の出身地を見ると、米国またはプエルトリコの割合は、1989~1991年の約40%から、1998~2000年の約18%に減少した一方、メキシコの割合は、54%から79%に増加した。
2007~2009年の統計では、71%が外国出身であり、このうちメキシコが67%、その他の国が4%を占めた。
USDAは、自宅から75マイル(121キロメートル)以内にあるほ場で勤務している者を「定住労働者」と区分しており、これが作物農家全体の4分の3を占めている(図3)。一方、自宅から75マイル以上離れたほ場で勤務している「非定住労働者」は、2007~2009年時点で、全体の約12%を占め、1996~1998年のピーク時(24%)から減少している。また現在、季節ごとに州間を移住する非定住労働者は稀であり、2007~2009年には全体の5%となっている。
非定住労働者の多くは、H-2A(季節農業労働者)ビザの発給を受けて一時的に滞在している者である。雇用主は、国内で合法的に労働者を募集したことを労働省(USDOL)に証明し、雇用する労働者に住宅を提供することに加え、該当する州または連邦政府の最低賃金、またはUSDOLによって定められた地域・職種の最低賃金、あるいはUSDAの農業労働調査で示された該当地域の賃金のうち、一番高い金額を支払うことが定められている。2013年の時給は、米国全体では9.50~12.33米ドル(1064~1381円)で、カリフォルニア州の時給は中程度の10.74米ドル(1203円)である(図4)。
現在、H-2Aビザを持つ労働者は、総雇用農業労働者の5%に満たない。2012年には、8万3579件のH-2Aビザが発給され、直近5年間は年間6万6000~8万9000件で推移している。カリフォルニア州では近年、このビザを申請する雇用主が大幅に増加しているものの、基準に遵守した住宅を提供しなくてはならない点が、雇用主を悩ませているという。
カリフォルニア州の郡ごとの雇用農業労働者数は、野菜の栽培が盛んなモントレー郡、サンタバーバラ郡、ベンチュラ郡、インペリアル郡などで2万人以上6万人未満となっている。同州では、2017年1月1日に、2022年までに州の最低賃金を1時間当たり15米ドル(1680円)に引き上げる法律が発効した。また、残業手当は、従来10時間以上の労働時間があった場合に発生していたが、8時間以上作業した場合に発生することとなった。なお、従業員が25人以上の場合は2019年までに、25人未満の場合は2022年までに同法の遵守が求められる。
残業手当や最低賃金が引き上げられると、同州の農作物の生産コストは大幅に上昇することが予想される。同州では47万人の雇用農業労働者が必要とされる中、近年は25~30%の慢性的な人手不足が続いている。長期的な人手不足が生産コストに影響を及ぼし、結果的に小売価格の値上がりにつながっていることからも、同州の農場経営者は人件費以外のコスト削減が一層求められている。