調査情報部
日本が輸入する冷凍ブロッコリーの半数が中国産であることから、今月号では、主産地の浙江省を中心に中国のブロッコリーの生産動向等を紹介する。
日本のブロッコリー供給量の約7割は国産品であるが、約2割は輸入冷凍品、1割弱は輸入生鮮品である(図1)。輸入生鮮品は、大半は米国産であり、中国産はわずかであるが、輸入冷凍品は、約半数が中国産である(表1)。中国産ブロッコリーの月別輸入量を見ると、生鮮品は、わずかながら秋から冬にかけて輸入されている。年間を通じて輸入されている米国を除くと、他の主な輸入先はメキシコと豪州であるが、メキシコからの輸入は春季に、豪州からの輸入は夏季に本格化するため、ちょうどこの両国からの供給が減少する時期に輸入されていることになる。一方、冷凍品は、年間を通じて安定的な数量が輸入されている(図2)。
また、近年の冷凍ブロッコリーの輸入量の推移を見ると、増加傾向となっており、中国に続いてエクアドルから主に輸入されている(図3)。なお、エクアドルについては、野菜情報2016年8月号、9月号を参照されたい。
本稿中の為替レートは1元=17円(2017年3月末日TTS相場:16.59円)を使用した。
中国のブロッコリー主産地は浙江省、山東省、江蘇省、河南省、陝西省である。公式な統計値は明らかではないが、中でも浙江省は、全国のブロッコリー作付面積の過半を占めるとみられている。
浙江省におけるブロッコリーの主産地は、同省のブロッコリー作付面積の約4分の3を占める台州市であり、中でも臨海市と温嶺市(注1)がその中心である。(図4)。
注1:中国では、大きい行政区分から順に、「省級(省、直轄市など)」「地級(地級市、自治州など)」「県級(県、県級市、市轄区など)」などとなっている。台州市は地級市であり、臨海市と温嶺市は、台州市内の県級市である。
浙江省では、夏播きの露地栽培が中心であり、品種により細かな時期のずれはあるものの、おおむね8月に播種し、9月に定植、11月に収穫される(図5)。主な品種は、「耐寒優秀」や「緑雄60」など日本の品種であり、耐病性、低温耐性、多収性が好まれている。
近年の生産動向を見ると、作付面積、収穫量ともに比較的安定して推移している。ただし、2015年は、主産地が水害に見舞われた上、病虫害による影響も加わったため、単収、収穫量は、比較的低水準となった。それを受け、2016年初めに価格が高騰したことなどから、2016年の作付面積、収穫量は、前年を上回っている(表2)。
10アール当たり生産コストの動向を見ると、2016年は4094元(6万9598円、2013年比40.7%増)と、大幅に増加している(表3)。項目別に見ると、近年の中国の野菜栽培で常態化している土地代と人件費の増加に加え、肥料・農薬費の増加も見られている。ただし、ブロッコリー栽培において、ほとんど農薬は利用されておらず、主に化学肥料の価格上昇が影響している。
近年の浙江省のブロッコリーの価格推移を見ると、収穫期である11月から市場に出回る3月ごろまでの数カ月間低水準で推移した後、徐々に上昇する傾向にある(図6)。ただし、2016年は、前年の収穫量減少に伴い、2~4月にかけて高騰するなど、例年と異なる価格推移になっている。
浙江省で収穫されたブロッコリーの約8割は、国内に仕向けられている。主な出荷先は、北京、上海、広州などの大都市や、山東省や江蘇省など、近隣の省である(写真1)。
中国の生鮮ブロッコリーの輸出量は、年間10万~13万トン程度で安定的に推移しているものの、2016年は、前年の収穫量の減少に伴い、前年を下回った。輸出される生鮮ブロッコリーの多くは浙江省産であり、主な輸出先は、香港、東南アジア諸国、韓国などの近隣諸国である(図7、写真2)。
一方、冷凍ブロッコリーは、中国の輸出統計上、「その他の冷凍野菜」に分類されるため、その数量は不明である。しかしながら、ブロッコリー輸出の中心は冷凍品であるため、少なくとも生鮮品の輸出量である11万トン前後を上回る数量であると推察される。輸出向け冷凍ブロッコリーも多くは浙江省産であり、主な輸出先は、日本、韓国、米国とみられている。通常、産地である台州市では、加工作業はあまり行われず、近隣の紹興市、金華市、杭州市内の萧山区(注2)などで加工されている。
注2:紹興市、金華市、杭州市は地級市であり、萧山区は、杭州市内の市轄区(県級)である。
米国からは、日本への輸出が多いブロッコリー、レタス、セルリー(セロリ)(以下「セルリー」という)について、それらの主産地であるカリフォルニア州を中心とした生産動向などを紹介する。また、トピックスとして、カリフォルニア州で発生した豪雨による被害と今後の動向について報告する。
1月から2月にかけてカリフォルニア州を襲った記録的な豪雨は、野菜の播種・収穫作業に大きな支障を来した。現地報道によると、3月初旬の時点ではインペリアル郡でブロッコリーの収穫に遅れが生じており 、他方、モントレー郡サリナスバレーでは収穫が平年より早まり、3月中旬から開始される見通しであった。なお、米国農務省全国統計局(USDA/NASS)によれば、3月中旬にはフレズノ郡でもブロッコリーの収穫が行われていた。
USDA/NASSが2月22日に公表した「Vegetables Annual Summary 2016」によれば、2016年のカリフォルニア州のブロッコリー作付面積は前年を4.2%上回る4万9776ヘクタールとなり、2012~2014年の水準(約5万ヘクタール)に戻った(表1)。
なお、本稿中の為替レートは、1米ドル=113円(2017年3月末日TTS相場:113.19円)を使用した。
2017年1月の生鮮ブロッコリーの生産者価格は、豪雨に襲われたカリフォルニア州で出荷量が減少したことなどから前年同月比9.8%高の1キログラム当たり1.23米ドル(139円)となった(表2)
また、3月に入り、カリフォルニア産ブロッコリーの価格は高騰した。その主要因として、豪雨による出荷量減少および品質のバラツキが挙げられる。インペリアル郡インペリアルバレー、リバーサイド郡コーチェラバレー、およびサリナスバレーから出荷されたブロッコリーの品質はおおむね良好であったため、1カートン(14個入り)当たり22~23米ドル(1キログラム当たり2.12~2.21米ドル:240~250円)で取引されていた。一方、作柄が不良であったサンタバーバラ郡サンタマリア産は同15~20米ドル(同1.44~1.92米ドル:163~217円)で取引されていた 。不安定な供給状態は5月初旬まで続く見込みであり、価格も平年に比べ高めの水準で推移することが予測される。
2017年1月のブロッコリーの対日輸出量は、前年の約2倍となる1271トンであったものの前月を大幅に下回った。輸出単価は前年同月比15.8%高の1キログラム当たり1.32米ドル(149円)と、前月並みであった。(表3)
2017年1月の東京都中央卸売市場の米国産ブロッコリーの入荷量は、前年同月の約17倍となる69トンであった。卸売価格は1キログラム当たり304円となり、2016年11月以降下落傾向が続いている。なお、同月に同市場で最も入荷量が多かったのは愛知産で、その量は前年同月をかなりの程度上回る847トンとなり、卸売価格は米国産をわずかに上回る同311円であった(表4)。
3月初旬、インペリアル郡ではロメインレタスやリーフレタスの収穫が行われていた。また、カリフォルニア州南部およびアリゾナ州ユマでは、比較的温暖だったこともあり、収穫が平年より早く完了した。一方、サンホアキンバレーおよびサリナスバレーでの収穫・出荷は3月末~4月初旬から始まるため、3月中旬から下旬にかけては供給不足が見込まれる。なお、サリナスバレーでは豪雨によりレタスの播種が難しく、今後の収量低下が懸念されている。
前述のUSDA/NASSの最新統計によれば、2015年から2016年にかけて、カリフォルニア州における結球レタスの作付面積は約3%増加し、リーフレタスの作付面積は約6%増加した。最大の増加率(約11%)を示したのはロメインレタスであり、その作付面積は2万8692ヘクタールであった(表5)。
2017年1月の結球レタスの生産者価格は、前年同月比31.2%安の1キログラム当たり0.64米ドル(72円)であった(表6)。同月は、レタス需要が落ち着いていたため、やや供給過多となり、価格は安定した水準で推移した
3月中旬現在は、レタス全般においてやや供給不足の状態となっているが、最も深刻なのはロメインレタスである。需要が供給を上回り、出荷されているものはカルシウム欠乏(チップバーン)、変色、変形球などの問題で低品質であると報告されている。こうした品薄感は4月まで継続するとみられている。一方、結球レタスにおいては、品薄感はあるものの、品質はおおむね良好と報告されており、価格の上昇幅は限定的である。
なお、3月中旬現在の価格は、結球レタスは1カートン当たり約16米ドル(1キログラム当たり約0.70米ドル:約79円)、ロメインレタスは23~30米ドル(同1.01~1.32米ドル:114~149円)、グリーンリーフレタスは17~20米ドル(同0.75~0.88米ドル:85~99円)であった。
2017年1月の結球レタスの対日輸出量は、前年同月比17.2%増の150トンで、輸出単価は同10.6%高の1キログラム当たり1.25米ドル(141円)であった(表7)。一方、結球レタス以外のレタスの対日輸出量は前年同月の約17分の1となる4トンで、輸出単価は前年同月の約3.6倍となる同4.32米ドル(488円)であった(表8)。
2017年1月の東京都中央卸売市場の結球レタス以外の米国産レタス(ロメインレタス、フリルレタスなど)の入荷量は前年同月比50.0%減の0.2トンであった。一方、卸売価格は前年同月並みの1キログラム当たり518円であった(表9)。
現地報道によると、3月中旬現在、相次ぐ豪雨の影響でベンチュラ郡オックスナードおよびサンタバーバラ郡サンタマリアの広い地域で圃場が浸水し、セルリーが大きな被害を受けていた。3月初旬から中旬にかけて出荷されたものは、「全体的に色が薄い」「内側の軸が白く、中から腐敗する可能性が高い」など、さまざまな問題が報告されていた。このため、6月にサリナスバレーで収穫・出荷が開始されるまで、品薄の状態が続く見通しである。
前述のUSDA/NASSの最新統計によれば、2015年から2016年にかけて、カリフォルニア州におけるセルリーの作付面積は前年を3.8%上回り、1万1088ヘクタールとなった(表10)。
2017年1月のセルリーの生産者価格は前年同月比73.6%安の1キログラム当たり0.39米ドル(44円)となった。やや品薄感が報告されていたものの、価格は前月並みの水準で推移した(表11)。
なお、作柄不良や出荷量の減少に伴って、価格は上昇傾向にあり、3月中旬現在のオックスナード産は1カートン(24茎)当たり約11~13米ドル(1キログラム当たり約0.40~0.48米ドル:45~54円)であった。
2017年1月のセルリーの対日輸出量は昨年の約2倍となる696トンであった。なお、輸出単価は1キログラム当たり0.64米ドル(72円)であり、2016年12月以降下落傾向で推移している(表12)。
2017年1月の東京都中央卸売市場の米国産セルリー入荷量は前年同月の約2倍となる27トンで、卸売価格は1キログラム当たり202円(同30.3%安)であった。なお、同月に同市場で最も入荷量が多かったセルリーは静岡産であり、その量は前年同月比5.3%減の354トン、卸売価格は米国産をかなり上回る1キログラム当たり233円であった(表13)。
カリフォルニア州では5年続いた干ばつのあと、今年の1月~2月には記録的な豪雨に見舞われた。豪雨については、直接的な被害が大きかった半面、同州の大部分では干ばつの被害が緩和されるという結果をもたらした。以下では、このことについて、カリフォルニア州の農作物との関係を中心に報告する。
米海洋大気局(NOAA)によれば、2017年2月は米国史上2番目に暖かい2月となり、かつ最も暖かい冬となった。2月の平均気温は華氏41.2度(摂氏約5.1度)であり、20世紀の平均気温より7.3度(華氏)高かった上、冬季(12月~翌2月)全体で見ても平均気温は35.9度(摂氏約2.2度)と平年より約3.7度(華氏)高く、特に米国の中部から東部にかけて記録的な暖冬だった。
また、2月の降水量は平均2.21インチ(約56ミリメートル)と、例年を0.08インチ(約0.2ミリメートル)上回ったが、これについては東西で状況が異なっており、東部では乾燥した気候が続いた一方、西海岸は記録的な豪雨に見舞われた。なお、冬季を通してみてみると、今期の降水量は平均8.22インチ(約209ミリメートル)と例年より3.6センチ多かった。中でも、カリフォルニア州では急激な水位上昇により、米国で最大のダムであるオロビル・ダムが損傷し、決壊の恐れが発生したため、約20万人の人が非難する事態に発展した。
こうしたことから、5年続いているカリフォルニア州の干ばつは、主に今回の豪雨やシエラ・ネバダ山脈への積雪量の増加により緩和されたとの見方が多い。山頂の雪解け水はカリフォルニア州の農場の大事な水源として重要な役割を果たしており、これまでには雪解け水が少なく水不足が発生した年もあったが、2017年2月時点の積雪水量は平年比180%となっており、洪水の可能性も指摘されている。
なお、米国の国立干ばつ緩和センター(National Drought Mitigation Center)は、干ばつの深刻度合いについて軽度のD0(異常乾燥)からD4(異常な干ばつ)までの5段階を設定し、全米の干ばつ状況を毎週更新しているが、これによると、2016年3月にはカリフォルニア州の95%近くがD0以上の状態にあったのに対し、現在ではD4エリアが消失し、南部でD0~D2のエリアがわずかに確認できるにとどまっている(図2)。
1月および2月の豪雨はカリフォルニア州全土で発生したが、特に北部および中部でその被害が大きかった。洪水や地滑りが発生し、州の多くの野菜などの圃場が浸水に遭った。さらに、強風により小麦やぶどうなどの倒伏の被害も確認された。
3月に入り、生産者はこれまでの被害状況を評価する作業に入った。多くの浸水被害が報告されている一方、水害を免れた圃場では作物の生育が順調であり、収穫作業が進められている地域もある。しかし、柑橘類では収穫されたものの品質に関する問題も報告されており、供給量の減少と相まって、今後生産者価格が上昇する可能性が見込まれている。なお、水害を受けた地域や圃場では、生産者は水が引くのを待たなければならず、特に野菜は収穫作業などに遅れがみられた。また、今年は湿度の高い冬であったため、病害虫対策として除草剤や殺菌剤が散布されている。
経済的な損失に関するデータはないものの、多くの圃場では浸水および倒伏、または作業の遅れなどの問題が発生し、野菜の場合は特に価格が影響を受けている(表14)。
今回の豪雨の規模は大きく、貯水池および地下水の水位や山頂の積雪水量は平年を上回った。これによって昨年末まで長年にわたり続いていた干ばつがある程度緩和されたとする見方もあるが、その一方で、大量の水による問題が指摘され始めている。
NOAAの予測によれば、カリフォルニア州およびネバダ州では春を迎えると雪解け水が川に流れるが、河川および貯水池は既に高い水位に達しているため、洪水が起こる恐れがある。ただし、現段階では雪の形成がまだ進行中であるため、いつ雪解けが始まるのかを予測することは難しい。
干ばつの状況について、NOAAは、乾燥した春が到来すれば、現在乾燥している地域(カリフォルニア州南部)の干ばつが引き続き継続されるとみており、干ばつ状態が終息する可能性は低いとみられている。また、気温について、NOAAは温暖な春を予測しており、米国全土にわたり平年より高い気温が観測されるとみられる。
トランプ大統領は2月14日、1月初旬の集中的な豪雨やダムの損傷による被害に対し、カリフォルニア州のブラウン知事の要請を受け、連邦政府として同州の危機に対処する旨の宣言を行った。これにより、カリフォルニア州は連邦政府から、損壊した建物の再建や復興のための支援を受けることが可能となり、米国連邦緊急事態管理庁(FEMA)も連携して事態の対処にあたることとなった。こうしたことから、倒木などで損害を被った生産者は、一定の条件を満たせば、連邦政府からの融資を受け取ることが可能となり、畜産、水産、林業および養蜂などの生産者にも融資制度が用意された 。なお、2月末にはブラウン州知事も水関連のインフラ整備に取り組む計画を述べ、洪水時の体制整備のための準備金として4.37億米ドル(493億8100万円)が必要であるとした。
しかし、異常気象が続いているカリフォルニア州では、水資源の包括的な管理政策を求める声が増えている。長く続いている干ばつの影響もあり、節水や水の効率的な使用に焦点が当てられてきたが、今回の豪雨の教訓として、例年になく降水量が多い年に得た水を効果的に利用することで、その後の干ばつの被害を軽減する手法を検討することが新たな課題となっている。