調査情報部 根本 悠
野菜業務部交付業務課 伊東 大祐
台湾は、日本のレタスの最大の輸入先である。2000年代以降、台湾の生産の本格化と、日本の加工・業務用需要の高まりという双方の要因から、急速に結球レタスの対日輸出を増加させてきた。当面は、日本の加工・業務用として、安定的な取引が維持されると見込まれる一方、すでに日本の加工・業務用市場は飽和状態ともみられ、長期的には非結球レタスの対日輸出拡大や他国市場への輸出拡大といった変化が生じる可能性が予想されている。
1 はじめに
日本の野菜の最大の輸入先は中国であるが、一方で、台湾は、温暖な気候と日本との地理的近接性を生かして、さまざまな野菜を日本に輸出しており、日本の主要な野菜輸入先の一つとなっている。中でも結球レタスを中心としたレタスは、対日輸出野菜の主力品目である。日本の輸入レタス市場において、米国産が2000年代前半まで圧倒的な位置を占めていたが、台湾産は2004年ごろから数量を伸ばし、いまや冬場を中心に日本の輸入レタスの6~7割を占めるに至っている(図1~図3)。このため、本稿では、2016年12月の現地調査を基に台湾におけるレタスの生産・輸出動向について、対日輸出をめぐる状況を中心に報告するとともに、今後の見通しを展望する。
2 レタスの生産動向
(1)生産地域
台湾は、日本の九州地方よりやや小さいおよそ3万6000平方キロメートルの国土を有し、人口は約2350万人である。国土の中央やや南を北回帰線が通り、それ以北は亜熱帯性気候、以南は熱帯性気候である。国土の中央から東にかけては、南北に山脈が走っているため、主要都市は、北(台北周辺)から南(高雄周辺)にかけて広がる、西部沿岸の平野部に位置している。特に台中のやや南に位置する雲林県周辺は、温暖な気候に加え、北部県境に台湾有数の河川である濁水渓が流れる台湾最大の農業地帯であり、コメや野菜、果物などさまざまな農産物が生産されている。
レタスの主な産地も、雲林県であり(図4、写真1)、2015年の台湾のレタスの収穫量(5万2773トン)に占める同県のシェアは、82.5%(4万3516トン)にも達している。雲林県のレタス生産地域の合作社(組合系法人経営、詳細後述)によると、レタス栽培の適温は15~25度とされる中、レタスが栽培される冬場の雲林県は、平均気温が15度程度である上、海風により水分が昼間に蒸発し、昼夜の温度差が大きいなど、レタス栽培に適した自然環境となっている。
(2)作付面積および収穫量の推移
レタスの作付面積は、米国産の輸入の増加により1999年から2001年にかけて減少した。しかし、その後、冬季における日本のファストフードチェーン向けの輸出が開始されると、2002年から2004年にかけて大幅に増加した(図5)。その後は、2006年ごろにいったん減少したものの、2007年以降増加し、2012年にピークに達した後、やや減少している。また、レタスの収穫量は、おおむね作付面積に連動して推移している。
なお、台湾の統計上、「レタス」には日本で一般的な「結球レタス」以外のさまざまな非結球レタスも含まれるため、「結球レタス」としての統計値は明らかではない。
(3)作期
結球レタスは、夏季の暑熱を避けた秋冬季が主体であり、二期作または三期作により生産され、10月から翌5月にかけて出荷されている。そのうち輸出向けの出荷時期は、収穫量および品質が安定している12月から翌3月である。一方、非結球レタスについては、夏季でも生産が可能であり、年間を通じた生産が行われている。
(4)種類
台湾では、レタスを「萵苣」と書くが、生食向けの結球レタスおよび非結球レタスのほか、葉が上方に立つ形状の「A菜」や半結球性の「福山レタス」など日本ではあまり馴染みのない加熱調理向けのレタスも生産しており、品種も多様である(写真2、写真3)。また、レタスに限らず、台湾では、さまざまな葉物野菜が販売されており、種類も多様である(写真4)。
雲林県における「合作社」やそれに類似する「合作農場」(以下まとめて「合作社等」という。詳細後述)への聞き取りなどによると、台湾の結球レタスの品種は、主に米国種とオランダ種である。米国種は寒さに強く緑色が濃い、オランダ種は暑さに強いといった特徴があるが、出荷時期と日本の実需者の好みから、対日輸出用は米国種が主体である。ある合作社によると、以前、商社から日本の品種を栽培するよう依頼されたことがあったが、気象条件が合わなかったためか品質の良いレタスができなかったことから、現在では日本の品種の作付けは行われていないとのことである。
収穫された対日輸出向けのレタスは、まず真空予冷機によって冷却される。その後は、予冷庫での保管、冷蔵トラックおよび冷蔵コンテナなどで常時低温に保ち、船便で日本の実需者の元へ到着するまでのコールドチェーン(出荷から販売先まで全ての行程で低温状態が保たれていること)が確立されている。
台湾内向けについても、販売先が大手ファストフードチェーンや日系コンビニエンスストアチェーンの場合は、輸出向け同様、コールドチェーンが確立されている。
(5)栽培管理
レタス生産者戸数の統計値はないが、レタス栽培の主体は、それぞれは小規模な生産者が、共同で組織した合作社等である。また、平均作付面積も明らかではないが、訪問した対日輸出の代表的な合作農場は、300ヘクタールの作付面積を有していた。なお、同合作農場の労働力としては、常勤従業員約140名、アルバイトなど約60名、契約生産者約120戸を有している。
通常、合作社等では、契約生産者を取りまとめた上で、苗を生産し供給するほか、食品衛生上のリスク(残留農薬や菌類の付着など)のある病害虫の防除と収穫作業を行っている(写真5)。一方、契約生産者は、定植や水やりなどの栽培管理を行う。契約生産者への対価は、契約生産者ごとに管理したほ場における収穫量に応じて合作社等から支払われている。
ただし、一部の合作社等では、種子を購入して育苗業者に育苗してもらった苗を契約生産者に供給している。また、契約生産者が病害虫の防除を行うケースでは、植物改良所(政府関係機関)から講師の派遣を受け、農薬の適切かつ効果的な使用方法などについて栽培前に講習会を実施している。
さらに、合作社等によっては、レタスの主要な害虫であるハスモンヨトウなどのヤガ類への対策として、フェロモントラップと薬剤散布による防除を組み合わせている(写真6)。また、アザミウマ類への対策として、それらを誘引・補殺するための青色の粘着板をほ場に設置するとともに、モニタリングに基づく適期の薬剤散布を行うことで散布回数を抑制するといった、食品の安全性の向上と効率的な防除に取り組んでいる。加えて、病害の多発などの連作障害を回避するために、コメ、落花生などとの輪作を行っている。
なお、一部の合作社等では、内外のさまざまな地域の販促イベントに出展し、積極的な販売促進活動を行っている(写真7)。
(6)課題と展望
結球レタスの生産は、次の4つの観点から、今後も大幅な増加の可能性は低いと考えられる。
第一に、対日輸出向けの結球レタス取引は、生産時期が秋冬季に限られ、かつ一部の合作社等との安定的な取引となっているため、国内市場を第一とする他の多くの野菜生産者にとっては、必ずしも好ましい品目ではない。
第二に、生産時期が限られる結球レタスに専業として若年層が参入しづらいことから、生産者の高齢化が進行し、労働力が不足している。台湾政府は、農業の機械化を推進しており、さらに、若年層が就農する場合、資金、土地および技術情報の提供などによる支援を行っているが、現状では、生産現場の労働力不足は解消していない。
第三に、レタスの主要な産地である雲林県に追随するような新興産地が現れていない。高冷地は冷涼な気候を生かして結球レタスの出荷期間を延ばすことが可能だが、道路環境が平野部と比較して悪く、輸送で傷みやすいレタスには不向きである。加えて、山間部の環境保全の観点からも問題となる可能性があり、産地開発は容易ではない。
最後に、農地は遺産分割で細分化される傾向にあり、優良な農地の集積が容易ではないことも、生産拡大への大きな課題である。
3 レタスなどの野菜の流通動向
次に、レタスを含めた野菜の流通の仕組みと最近の動向について見ていく。台湾における野菜の流通は、通常、図6のとおりとなっている。なお、レタスについても、基本的に他の野菜と同様の仕組みとなっている。
(1)野菜の出荷
生産者が野菜を出荷するには、5つのルートがある。まず、生産者が自ら①卸売市場または②小売業者などの需要者に出荷するルートがあり、その他は、③農会系統、④合作社等、⑤産地商人を経由するルート─である。農会系統は日本の農協系統組織をモデルに設立された総合農協組織である。そのため、全国規模、県レベル、市町村レベルの3段階制の下、日本の農協系統組織の信用事業、共済事業、経済事業に相当する幅広い事業を行っている。一方、合作社等は生産者が集団で生産・販売するためにそれぞれの地域で設立する組合系法人経営であり、日本における農事組合法人に近い。ただし、合作社も3段階制をとっており、多くの合作社は3つの主な合作社連合社という上部組織の傘下に位置付けられている。また、産地商人は、産地で野菜を買い付け、需要者に販売する流通業者の一種である。これらのルートごとの内訳に関するデータは明らかではないが、農会系統の会員は182万人に及び、これは台湾の全農業生産者数301万人の約6割に当たる。また、農会によると、野菜の流通における農会経由率は35%程度となっている。
(2)野菜の売買
次に、野菜の売買は、日本と同様、卸売市場経由または市場外経由で行われている。台湾には全国に47の野菜・果物の卸売市場(以下特に断りのない限り「野菜・果物の卸売市場」を「卸売市場」という。)が存在しており、基本的に地方自治体などが開設し、農会系統や合作社等の農協系組織または民間企業が運営している。卸売市場は全土に分布しているが、最も数が多いのは、中部の彰化県の7市場である。彰化県は、最大の野菜の生産地である雲林県と、中部の中心都市、台中市に挟まれた、卸売市場設置に適した立地にあり、比較的小規模な市場が多数設置されている。また、雲林県にも、5つの市場が立地している。その一方、台北市内に存在する市場はわずか2つであるが、このうち、台北第一市場の取扱数量は台湾で最大であり、重要な消費地市場としての役割を果たしている。
野菜・果物の市場取扱数量は、近年おおむね横ばいで推移している(図7)。また、近年の野菜の卸売市場経由率は、おおむね5割程度である。
一方、レタスの市場取扱数量も、おおむね横ばいで推移している。レタスの卸売市場経由率は5割程度となっているが、この中には非結球レタスが多く含まれるとみられ、輸出向けが中心の結球レタスの卸売市場経由率はかなり低いと考えられている。
また、台湾においても特別に付加価値を付けた農産物を中心に市場外流通が広がっている。レタス輸出の実績を有する合作社に現地で話を聞いたところ、市場価格は相対的に安いため、市場外流通を重視しているとのことである。
ところで、台湾の卸売市場においても、競りまたは相対取引で売買が行われている。競りと相対取引の比率は不明であるが、台北、台中、高雄など大都市の消費地市場では競りが中心である一方、地方の産地市場では相対取引が中心である。
なお、台北市内の卸売市場(台北第二市場)によると、台湾の卸売市場は、需給調整のため、「備蓄業務」を行っている。これは、長期恒常的なものと、突発的な事態に対応するための短期的なものの2種類がある。前者はにんじんとばれいしょが対象となっており、後者は、その時々の状況によって、対象となる野菜はさまざまである。
(3)レタスの消費と輸入
台湾では、生食向けとなる結球レタスは輸出が中心であり、台湾内消費量の統計的なデータはないが、結球レタスの市場規模はそれほど大きくないとみられている。これは、中華系の食習慣として、伝統的に温かい食事を好み、さまざまな野菜を加熱調理(にんにくと炒める、オイスターソースで味付けするなど)して食べるためである(写真8)。そのため、サラダやハンバーガーといった生野菜にはなじみが薄い状態が続いていた。
しかしながら、中高年層はそういった傾向が未だに強いものの、若年層では、健康志向の高まりやファストフードチェーンの広がりに呼応するように、サラダやハンバーガーといった形での生野菜の消費が広まっている。実際に、食の洋風化を見込みレタス生産を開始したある合作農場は、台湾内の大手コンビニエンスストアチェーンやファストフードチェーンにレタスを供給することで、市場を拡大している。さらに、同合作農場は、HACCPやグローバルGAPの認証、同コンビニエンスストアチェーンのテレビコマーシャルによる農場の紹介などにより、消費者の評価を高めることを重視しており、台湾内市場は、絶対的な市場としては大きなものではないものの、消費拡大の可能性を秘めている。
なお、台湾は、日本向けを中心にレタスを輸出する一方、それを上回るレタスを輸入しており、その数量も増加傾向となっている。この大半が米国産であるが、日本産も一部流通している。輸入レタスは、国内需要の拡大とともに、生産が冬場に限定される台湾産結球レタスを補うため、春から秋にかけての供給源となっている(図8、図9)。
4 レタスの輸出動向
(1)輸出開始の契機
台湾のレタス輸出では、非結球レタスはわずかであり、ほとんどが結球レタスである。レタスの輸出は、1990年代まではそれほど一般的ではなかったが、2000年前後、冬場の主要生産品目であったキャベツの生産過剰による価格暴落が課題となっていた中、政府がキャベツ生産の代替として、米国からレタスの生産技術を導入したのが、レタス輸出本格化のきっかけである。当時、台湾では食の洋風化はあまり進んでおらず、サラダやハンバーガーなどの需要では生産分をこなせなかったため、シンガポール向けに輸出を開始した。しかし、シンガポールは市場が小さいことから、新たな市場開拓が課題となっていた。
(2)加工・業務用対日輸出の拡大
こうした中、日本の商社が、2000年代初めのある商談会をきっかけに、台湾産レタスの輸入を開始したことが、日本向けを中心とした輸出拡大の契機とされている。当時、日本では、国産は小売向けに出荷する一方、主に米国産レタスが、パックサラダやファストフードなど加工・業務用に輸入されていた。しかしながら、米国産は輸送期間の長さが課題であり、需要者は代替となる輸入先を探していた。いわば、輸出拡大したい台湾側と輸入先を開拓したい日本側のニーズがちょうど一致したのである。その後、台湾側の合作社等と日本側の輸入商社の間での契約取引を中心として、対日輸出は拡大傾向となり、現在に至っている。
このような経緯から、加工・業務用を主とする対日輸出向けの結球レタスは、1玉当たり重量が600~800グラム程度で出荷されている。米国種を中心とした台湾産結球レタスは、巻き(結球の度合い)がしっかりしていて歩留りが良いという特徴から、日本の実需者から高い評価を得ており、合作社等も対日輸出は安定的な取引として重視している。対日輸出用は日本の商社との契約栽培となっており、通常3カ月前後先の取引について、8月~10月に注文を受けて決定する。
(3)小売向け対日輸出の可能性
対日輸出は、加工・業務用として急増した一方、依然として、日本の小売向けの輸出は極めてわずかである。これには、供給(台湾)側、需要(日本)側双方の市場環境が関係している。まず、台湾側としては、レタスの品種が加工・業務用に適している上、重量ベースで生産者に支払いが行われるため、より重量のあるレタスの生産が収入の増加につながる構図となっている。しかし、日本の小売店では400グラム程度のレタスが主に流通していることから、仮に日本の小売向けに、その重さで収穫すると、収穫量が減少して収入が減少する懸念がある。さらに、パッケージング作業のための労働力の確保が難しいことも、小売向け輸出が本格化しない一因となっている。
一方、日本側としても、日本の消費者は小売店で国産品を志向する傾向が強く、輸入品の参入は困難という認識がある。つまり、ある種のすみ分けを前提として台湾産レタスを調達しており、台湾側もそうした前提で日本との契約取引を行っている部分がある。
(4)近年の輸出量の推移
以上を踏まえ、近年のレタス輸出量の推移を見ると、2001年には極めてわずかであったものが、徐々に日本市場における地位を確立し、2010年代に入ってからは大幅な伸びを見せてきた(図10)。しかしながら、2014年以降、おおむね横ばいとなっており、最近は輸出量の増加も一段落している。なお、結球レタスの輸出は、12月から翌3月に集中している(図11)。
(5)他国向けの動向
近年のレタス輸出は大半が日本向けであるが、他に韓国、シンガポール、香港など近隣のアジア諸国にも輸出されている。韓国やシンガポールでは、日本では加工・業務用と認知されている台湾産レタスに対して、加工・業務用、小売用双方の需要がある。また、シンガポールは、中華系の国民が多く食習慣が似ており、安定的な市場と位置付けられている。もちろん食習慣という意味では、中国、香港も、優位性を発揮できる市場と考えられる。
(6)課題と展望
以上のように、日本向け加工・業務用として、大幅な拡大を見せた台湾産レタスの輸出であるが、現地では、日本市場は飽和状態に近いとみられている。これは、日本では加工・業務用にほぼ特化しているため、安定的な取引が実現している一方で、新たな市場拡大の余地が限られている上、既述の通り、多くの野菜生産者は、国内市場を重視していることも関係している。
その一方で、ロメインレタスなどの非結球レタスについては、合作社等と商社の間で商談がなされていることなどから、今後、対日輸出が伸びる可能性があり、実際に2016年は急増している(図12)。ただし、台湾のレタス生産全体の生産力は現状から大きく変わらないと考えられることから、仮に、日本の商社からの非結球レタスの注文が多くなった場合は、結球と非結球のうち収益性が高い方を選択することとなり、場合によっては結球レタスの生産とその対日輸出は、減る可能性がある。
また、2016年の政権交代により誕生した現政権は、東南アジアや中東への農産物の輸出拡大を重視しているため、今後は日本以外の市場拡大の可能性も予想されている。
5 おわりに
台湾のレタスの対日輸出は、これまで日本市場における米国のシェアを奪う形で順調に増加してきたが、ここ数年はおおむね横ばいとなっている。それでも当面は安定的な対日輸出が維持される可能性が高いが、より長期的には、非結球レタスの対日輸出や、レタス全般の東南アジアなど他国向け輸出の状況に左右される可能性が高まっていくと予想される。