調査情報部
米国は、世界第5位のばれいしょ生産国であり、近年の生産量は、年間約2000万トンの水準で推移している。消費においては、6割超を加工向けが占め、中でも冷凍フライドポテトの製造が盛んである。ばれいしょの主要生産地はアイダホ州とワシントン州であり、大手加工品製造企業としてはSimplotなどが挙げられる。
本稿では、前編として、アイダホ州産およびワシントン州産を中心に、米国のばれいしょの需給動向とばれいしょ加工品の生産動向などを報告する。
1 はじめに
米国はばれいしょの主要生産国のひとつであり、FAOSTATによると2014年の生産量は、中国、インド、ロシア、ウクライナに次ぐ世界第5位で、世界の生産量の5%を占めた(表1)。
日本のばれいしょ輸入量は、外食などの業務用需要の増加などを背景に、年々、拡大傾向にあるが、このうち、米国産は冷凍で約6割、乾燥では約半分を占めており、最大の輸入先国となっている。本稿では、日本のばれいしょ需給に大きな影響を及ぼし得る同国のばれいしょ生産および消費、輸出動向などについて報告する。
なお、本稿中の為替レートは、1米ドル=113円(2016年11月末日TTS相場:1米ドル=113.42円)を使用した。
2 生産動向
(1)生産概要
米国農務省(USDA)の2012年の農業センサスによると、全米のばれいしょ生産は、農家戸数が2万1079戸、収穫面積は47.3万ヘクタールと、前回のセンサスが実施された2007年の時点と比べるといずれも増加した一方、1戸当たりの収穫面積は22ヘクタールと29.0%縮小した。なお、2012年時点の生産状況を仕向け別にみると、生産農家戸数では生鮮向けが1万9750戸と加工向け(注1)の約9倍であったものの、収穫面積では加工向けが生鮮向けを上回り全体の53%を占めた(表2)。
注1:加工向け=冷凍フライドポテト、デハイドレイテッド(乾燥ばれいしょ)、ポテトチップスなど向け。
USDAが公表している毎年の生産統計によると、主要30州のばれいしょ生産量は、高温などに見舞われた2010年には1835万トンと落ち込んだものの、2012年は秋作生育期間中の気候条件に恵まれたことから単収が増加し、2000年以来の生産量である2109万トンとなった。しかし、豊作に伴う価格低下などが影響して2013年は減少し、以降2015年まで、収穫面積は42.5~42.6万ヘクタール、生産量は約2000万トンで推移している(表3)。
(2)主な生産地
ほぼ全ての州で生産されるものの、アイダホ州とワシントン州が主要生産地域であり、この2州で全米生産量の約半分を生産している(図1、図2)。広い国土を生かして地域ごとに秋作、春作、夏作と3期にかけて生産されているが(注2)、9割近くを秋作が占めており、両州で生産されるばれいしょも全て秋作であることから、本稿では秋作を中心に述べることとする。なお、春作(全体の5%)と夏作(同4%)はカリフォルニア州南部など、温暖な地域で生産されている。
注2:USDAは収穫時期に応じて、4月から6月にかけて収穫されるばれいしょを春作、7月から9月中旬にかけて収穫されるばれいしょを夏作、8月から11月にかけて収穫されるばれいしょを秋作としている。
上位2州の生産概況をみると、最大生産州であるアイダホ州は、総収穫面積が14万ヘクタールと全米生産面積の約30%を占め、中でも生鮮向けは全米2位のコロラド州の3倍以上と圧倒的な広さであり、大規模な生産が行われている。一方、ワシントン州では、収穫面積では加工向けが生鮮向けを大幅に上回っている一方、農家戸数では全米で最多となっている生鮮向けが加工向けを大幅に上回っていることから、小規模生鮮向けばれいしょ農家が多く存在しているとみられる(写真1、表2)。なお、アイダホ州やワシントン州の北西部のばれいしょの商業的生産ではかんがいを用いるケースが一般的で、センターピボットスプリンクラーなどが用いられている(写真2)。
(3)植え付けから貯蔵、流通までの流れ
ア 植え付けおよび生育期間など
アイダホ州やワシントン州などの米国北西地域からカナダにかけて生産される秋作ばれいしょの植付けは4~6月初旬に行われる。表4に挙げるのは、代表的な品種および、それらの生育期間と主な用途である。
2015年の品種別作付面積では、アイダホ州でラセットバーバンクが53.7%、ラセットノーコータが16.2%、レンジャーラセットが14.3%、ワシントン州でラセットバーバンクが32.6%、ラセットノーコータが16.2%、ユーマティララセットが15.4%であった。このようにラセットバーバンクが最もポピュラーで、主要7州の合計でみても40.9%を占める(表5、写真3)。
なお、植え付けについては、ピッカータイプ(尖ったピックで種いもを刺して植え付ける)やカップタイプ(カップで種いもをすくい、植え付ける。種いもを切らずに丸植えする場合に多く用いられる)の植え付け機で行うのが一般的である(写真4)。
イ 収穫
秋作ばれいしょの収穫の多くは、一般的に9~10月ごろ、茎葉と塊茎が成熟した時点より始まる。収穫前の茎葉の処理は、機械によって物理的に除去する方法と薬剤を用いて化学的に枯凋させる方法の二つがあるが、後者は湿度が高い時期や気温が高く、土壌が乾燥している時期には適していないとされている。機械処理の場合、一般的にフレールモアやロータリーチョッパーなどが使用される。また、プロパンガスなどで茎葉を焼却処理する場合もある。茎葉を処理してから約10日後、塊茎の表皮が硬くなってから収穫が始まる。ちなみに、冬から夏にかけてばれいしょを収穫する地域もあり、この場合、茎葉が若く、塊茎が未成熟の状態で収穫される。これらのばれいしょは即時販売向けとされ、生鮮市場または加工業者へと出荷される。
収穫作業は通常塊茎の温度が摂氏10~15度となるころに多畦処理ポテトハーベスタによって行われる(写真5)。収穫時にばれいしょに傷がつかないよう、最先端の技術を使用した機材が用いられており、Lockwood、WEMCO、Spudnik、Double Lなどの大手ブランドがさまざまな収穫機を提供している。
収穫されたばれいしょは通常収穫機からトラックへ積み込まれ、ゴム製のコンベヤーでいったん倉庫へ搬送され、グレーディングおよび傷物の選別・除去が行われる。その際、ばれいしょに傷がつかないよう、全ての機材に細心の注意が払われ(コンベヤーのスピード、付着した土砂の除去機および計測機の高さなど)、仕分けされたばれいしょは貯蔵庫や加工工場などへと運ばれる。
ウ 貯蔵
米国では、一般的に生産者が各自の貯蔵庫を所有している。貯蔵容量は500トンから2万トンで、基本的には断熱されており、温度と湿度を管理するための強制換気システムが取り付けられている。多くの場合、ばれいしょは積み上げて貯蔵されるが、箱に入れて貯蔵される場合もある(写真6)。
貯蔵は、キュアリング期間、保存期間、温化期間の3段階に分けて行われる。第一段階であるキュアリング期間は10~14日で、収穫作業時に生じた傷の治癒を促進し、表皮の堅固化をはかることを目的とする。この際、温度は摂氏10~14度、湿度は90%に設定される。次の保存期間では貯蔵庫の温度を比較的低温に設定し、チップ加工用ばれいしょは摂氏10~13度、冷凍フライドポテト用は摂氏7~9度、生鮮・種いもは摂氏約4度で保管される。なお、湿度は90~95%に設定される。最後は温化期間で、低温で貯蔵されていたばれいしょは、出荷作業で生じる傷の被害を最小限度にとどめる目的から、出荷前1~2週間には摂氏約10度まで温められる。
コラム1 収穫後の発芽抑制物質の使用
米国では、クロルプロファム(CIPC)が、1952年に初めて使用されて以来、ばれいしょの主要な発芽抑制物質となっている。しかし、米国環境保護庁(EPA)はCIPCをカーバメイト系農薬として分類しており、30ppmの残留基準値(MRL)を設けているため、近年他の発芽抑制物質への関心が高まっている。アイダホ大学ではエッセンシャルオイル(クローブやミントなど)の発芽阻害効果が研究されたほか、放射性物質(コバルト60)を用いたばれいしょ照射の研究も行われた。ただし、放射線照射による手法については、消費者の理解が得られるかが不明であり、慎重な態度が伺える。
また、アイダホ大学は2014年、長期貯蔵されるばれいしょに使用できる発芽抑制物質の研究も開始した。発芽阻害は生鮮ばれいしょの輸出促進の重要な課題であり、研究成果は2019年に発表される予定である。他方、ワシントン州立大学もばれいしょの発芽抑制方法の研究に取り組んでいる。2013年に発売が開始されたAMVAC Chemical CorporationのSmartBlockは同大学が7年間かけて研究開発した製品である。この発芽阻害物資(3-デセン-2-オン)は米国食品医薬品局(FDA)で直接食品添加物として認められており、EPAはバイオ農薬として分類している。収穫後に1回使用することで2~3カ月間発芽を抑制できるが、CIPCより集中的な管理を要する可能性も指摘されており、CIPCに置き換わる見込みは低い。
米国ではこのほか、マレイン酸ヒドラジド、ナフタレン、エチレンガス、過酸化水素などがばれいしょ発芽抑制物資として使用されている。なお、日本が輸入する米国産ポテトチップス加工用ばれいしょには、発芽抑制物質は使用されていない。
(4)流通
ばれいしょは収穫後、貯蔵用以外は即時販売に仕向けられる。生鮮市場向けのばれいしょはまずディーラーが生産者から買い取り、その後ディーラーから卸売市場や量販店に流通する。パッキングは一般的には生産者が行うが、ディーラーが自社の施設で行うこともある。卸売市場に出荷されたばれいしょは次に小売店や外食産業に流れ、チェーン店を経由したものと同様に、消費者のもとに届く。また、生産者はファーマーズマーケットなどで直接消費者に販売することもある(図3)。
加工用については、生産者と加工業者の間の契約栽培が一般的であり、契約栽培されたばれいしょは加工業者へ納入され、加工品は国内の外食産業、小売店、チェーン店で使用・販売されるほか、海外へ輸出される。また、大手加工業者は自社農場でばれいしょを生産し、原料として用いることもある。なお、生鮮ばれいしょの輸出は主に大手生産出荷業者(注3)が行っており、こうした業者は生産から輸出まで一貫して携わっていることが多い。
注3:生産出荷業者=自ら野菜を生産しながら、他農家からも野菜を集荷し、出荷を担う企業。
(5)生産者販売価格と生産コスト
ばれいしょの生産者価格は近年横ばいで推移しており、2010年から2015年の全米における平均価格は1トン当たり約200ドル(2万2600円)であった(図4)。なお、主要生産地であるアイダホ州、ワシントン州の生産者価格は全米水準より約15%低い。また、生鮮ばれいしょは、契約ベースで生産される加工向けばれいしょより1~2割程度高い価格で取引される。これは、生産者が収穫した生鮮ばれいしょを貯蔵し、高値の時に出荷するためである。
生産コストは地代、肥料費、種子費、農薬費、機械費、労賃などで構成される。コスト構造は地域によって異なるものの、アイダホ州の南西部では肥料費や農薬費がかなりの割合を占めている(表6)。10アール当たりの生産コストの推移をみると、過去5年間はおおむね上昇基調で推移しており、2014年は962米ドル(10万8706円)と、2010年と比べ15.8%上昇し、なかでも農薬費、種子費などが上昇した。ただし、過去5年間の中で最も高かった2012年から比べると、2013年、2014年はわずかに減少傾向で推移している。
(6)今後の見通し
近年、米国のばれいしょ生産量は約2000万トン前後で推移しており、今後も大きな増減はないと考えられる。米国における消費形態は主に生鮮から加工品へと変化しているが、ばれいしょは最も消費される野菜として定着しており、その消費量が大きく変動するとは考えにくい。後述する病害虫対策や新品種の育成への取り組みなどを通し生産力向上が図られ、次号で報告する通り輸出促進活動も積極的に行われていることから、ばれいしょの生産は今後も底堅く推移すると予想される。
(7)ばれいしょ生産をめぐる情勢
ア 種いもの供給体制
米国では連邦および州レベルで種いもの生産が厳しく管理・規制されている。種いもの生産は全ての州で行われているが、特に冬が長い北部の州(ワシントン州、オレゴン州、アイダホ州、モンタナ州、ノースダコタ州、ミネソタ州、ウィスコンシン州、ミシガン州、ニューヨーク州、メイン州など)に集中している。また、多くの場合、病害虫の感染を防ぐため、商業向けばれいしょの生産地域から離れた圃場で行われる。
種いもの認証機関は州政府、生産者組合、および大学である。認証基準は州ごとに異なるが、連邦基準を満たすことが前提となっている。種いもの原種は全て組織培養研究所から出荷されており、病虫害の増大を防ぐため、種地の生産サイクルは5年以下となっている。種いもの生産農家は病原菌を排除する条件下で種いもを栽培し、衛生、貯蔵、出荷地などの厳格な検査をクリアしたもののみがばれいしょ生産者へ販売される。
イ 研究開発および遺伝子組換え(GM)品種の導入状況
米国におけるばれいしょの研究開発は主に米国農務省農業研究局(USDA/ARS)と国立食料・農業研究所(NIFA)が所管している。過去25年間、ARSは毎年度、ばれいしょの研究開発のための連邦予算を活用し、さまざまな州政府や大学(ワシントン州立大学、ミシガン州立大学、アイダホ大学、コロラド州立大学、メイン大学など)とばれいしょ育種の共同研究(高収量品種や病害に強い品種改良)に取り組んでいる。また、NIFAも、1991年から2006年にかけて、連邦予算2350万ドル(26億5550万円)のほか、州政府および民間企業の資金を合わせ、合計約4500万ドル(50億8500万円)をばれいしょの品種改良の研究に投じたと推定される。なお、NIFAは2016年の研究費は前年の124万ドル(1億4012万円)を超える185万ドル(2億905万円)となると発表している。
大手加工業者も品種改良の研究を行っており、2014年にはJ.R.Simplotが開発した遺伝子組み換え(GM)InnateポテトがUSDA、食品医薬品局(FDA)、環境保護庁(EPA)に認可され注目を集めた。USDAによるGMばれいしょの認可は1995年から1999年にかけて、Monsantoが開発した害虫に強いGM品種(NewLeaf)以来初めてであった。米国ではGMトウモロコシや大豆は普及しているが、食用作物における遺伝子組み換えは安全性などが議論されており、ピーク時には北米で約2万2000ヘクタール栽培されていたNewLeafも、需要の低迷により、2001年に北米での販売は中止となっている。
2009年から2011年にかけて8つの州(フロリダ州、インディアナ州、アイダホ州、ミシガン州、ネブラスカ州、ノースダコタ州、ワシントン州、ウィスコンシン州)の圃場でテストされたJ.R.SimplotのInnateポテトはレンジャーラセット、ラセットバーバンクおよびアトランティックの3つの品種で提供されており、従来のばれいしょと比べ輸送の際に傷がつきにくく、また、揚げた際には発がん性物質(アクリルアミド)が低いように遺伝子が組み換えられている。2014年には162ヘクタールで栽培されたが、一般消費者向けの販売には年数を要すると考えられる。なお、現時点ですでに、一部の大手ポテトチップス製造企業や大手ハンバーガーチェーンはGMばれいしょの使用を検討していないと発表している。また、日本が輸入する米国産ポテトチップス加工用ばれいしょにも、GMばれいしょは含まれていない。
ウ 病害虫対策
米国ではジャガイモシストセンチュウ(英名:Golden Nematode)は1941年にニューヨーク州で初めて確認され、ジャガイモシロシストセンチュウ(英名:Pale Cyst Nematode、以下PCN)は2006年に初めてアイダホ州で確認された。ばれいしょの根に寄生するセンチュウは根を腐らせ、ばれいしょの生育不良および苗の枯渇をもたらし、放っておくと単収が8割減少することもある。このため、米国では動植物検疫所(USDA/APHIS)がアイダホ州とニューヨーク州の一部隔離された圃場からの、ばれいしょなどのなす科植物の苗、土壌、乾草、堆肥などの運び出しを規制している。
また、USDAは毎年、PCN National Survey(ジャガイモシロシストセンチュウ全国調査)およびCertified Export Survey for Canada(カナダ向け輸出調査)を実施し、2種類のセンチュウの調査を行っている。全国調査では米国の種いも作付面積の25%、商業用ばれいしょ作付面積の1%がサンプリングされる。ただし、商業生産者の畑の検査は任意によって行われる。
なお、PCN規制地域がある州では種いもの畑全てが調査対象となる。PCNが確認された場合、APHISは即時に衛生植物検疫措置をとり、全ての検査結果が出るまで州全体が検疫下に置かれる。
USDAはPCN対策としてPCNを防ぐための最良の管理法を実施するよう呼びかけている。圃場から圃場へ移動する際、機材を洗浄することや、PCNが含まれていないことを保証する種子の使用、圃場が空いている場合は被覆作物を植えるなど、さまざまな管理法を勧めている。
3 消費
米国のばれいしょ消費のうち、6割超が加工向け、4分の1程度が生鮮市場向けである。その他は主に種苗、減耗・ロス分であり、飼料向けはごくわずかである(表7)。生鮮市場の内訳としては、54%が小売向け、46%が外食産業向けとなっており、年々後者のシェアが増加している。
米国では従来、ばれいしょは主に生食として用いられていたが、1950年代以降、冷凍フライドポテトの加工技術の普及やファストフード店の人気の高まりなどを背景に、加工向けの消費量が急増した。2011年から2014年における1人当たりの年間ばれいしょ消費量は、生鮮向けが約15キログラムである一方、加工向けは冷凍が約22キログラム、ポテトチップスが約8キログラム、乾燥が約5キログラム、缶詰が約1キログラム以下、合計で34~37キログラムと、生鮮向けの2倍以上となっている。
4 ばれいしょ加工品の製造
(1)加工品別仕向け割合
加工品のうち最も多いのが冷凍フライドポテト向けで、加工品仕向け総量のうち、 半分超は冷凍フライドポテトに加工されている(表8)。次いで、ポテトチップスなどが20.8%、デハイドレイテッド(乾燥ばれいしょ)が17.1%となっている。その他、ごくわずかながらその他の冷凍食品、缶詰、サラダやアルコールなどに加工されている。
(2)主な加工業者の動向
冷凍フライドポテトの製造については、2011年時点ではMcCain、Lamb Weston、J.R.Simplot、Cavendishの上位4社で北米外食向け販売シェアの93%を占めており、加工施設は主要生産州であるアイダホ州やワシントン州、ノースダコタ州などに立地している(表9、図5)。また、ポテトチップスの製造については、全米にある84工場のうち、PepsiCo傘下のFrito-Layが6割のシェアを占めている。
コラム2 大口需要者などとの契約手法
ばれいしょの契約栽培は、生産者にとっては安定収入、加工業者にとっては原料の安定確保と、双方にとってメリットがある。ばれいしょの主要生産地ではSouthern Idaho Potato Cooperative、Potato Growers of Washington、Agricultural Bargaining Council Maineなどの生産者組合が設立されており、一般的にはこれらの組合と各加工業者の交渉により、契約内容が決められる。
まず、植え付け前に両者が収穫量および納期、生産方法、支払い方法などについて交渉する。生産方法に関しては、認定品種の種いもの植え付け、農務省が認可した農薬の適切な使用、肥料やかんがいなどについて、加工業者からの指示がある。また、多くの場合、生産および運搬に使用される機材類は加工業者側が決める。品質管理は第三者(州の農務省など)が行い、検査のコストは双方が負担することになっている。また、加工業者による圃場の視察や、生産者に過失があった場合の責任などについても契約に明記されている。
契約の詳細は契約ごとに異なるが、生産者組合は全ての加工業者に対し同一価格でばれいしょを供給し、不当な競争優位性を与えないことを方針としている。価格は交渉で決められた1トン当たりの基本価格(ベースプライス)が適用される。なお、米国におけるほかの契約農業と異なり、ばれいしょの契約生産では基本的に需要者(加工業者)による生産資材の提供や技術指導などは行われていない。
(3)今後の見通し
加工品の製造は概して増加傾向にあると考えられる。ばれいしょを原料とする冷凍製品はフライドポテトを除き、マッシュポテト、ダイスポテトなどの市場が近年拡大しており、大手企業Naturally Potatoesの2010年から2014年の年平均売り上げ伸び率(CAGR)は15%であった。同社は2014年、ばれいしょの処理能力を2019年までに5000万トンから9000万トンに上げるため、加工施設に750万ドル(8億4750万円)を投資した。また、2016年3月、大手企業Lamb Westonはオレゴン州におけるハッシュドポテトやポテトパフの製造事業拡大のため、3000万ドル(33億9000万円)を投資することを公表した。完成予定は2017年、処理能力は2万3000トン増加する見込みである。なお、同社は製造能力の強化は国内外の需要の伸びに対応するためと説明している。
一方、フライドポテトの製造量の見通しはほかの冷凍ばれいしょ加工製品と比べ、不明確である。米国のフライドポテト市場は近年消費者の健康志向の高まりなどを受け、横ばいまたは減少傾向で推移している。2011年には米マクドナルドがハッピーセットのポテトサイズを小さくするなど、ダウンサイジングによる製造量の減少が見受けられた。2014年、大手企業McCainはメイン州の加工施設における製造量減少に伴い、ばれいしょの発注量を2割削減した。他方、大手企業J.R.Simplotは2015年にアイダホ州に所在する工場のフライドポテト製造ラインの1日当たり処理能力を1320トンから1610トンに拡大すると公表した。このように、冷凍フライドポテトの製造量においては、海外市場へのアクセスが比較的容易な州(アイダホ州やウィスコンシン州)では今後も伸び、その他の州ではやや減少すると考えられる。
ポテトチップスの製造量は、米国の若い世代の増加に伴い今後も伸びると予測される。しかし、2013年以降、スナック菓子の販売量の最大シェアはクラッカー(塩味クラッカー、グラハムクラッカー、棒状のクラッカーなど)となっており、ここでも消費者の健康志向の高まりが伺える。
以上、本稿では米国のばれいしょの需給動向とばれいしょ加工品の生産状況を中心に報告した。次号では、同国におけるばれいしょの輸出動向などについて報告する。