調査情報部
(1)日本における中国産冷凍えだまめの位置付け
2015年の中国産冷凍えだまめの輸入量を見ると、図1の通り、日本の輸入量の26.1%を占めている。この輸入量を月別に見ると、冷凍品であるため、年間通じて輸入されているものの、春から夏にかけて高水準で推移し、冬場は比較的少ない(図2)。
(2)生産動向
中国のえだまめの主産地の一つである山東省におけるえだまめの生産は、臨沂市、濰坊市、青島市、煙台市、莱蕪市を中心に行われている(図3)。山東省のえだまめ栽培は、大半が小規模家族経営の露地栽培であり、4月に播種して7月に収穫(春えだまめ)、または5~6月に播種して8~9月に収穫(夏えだまめ)する(図4)。
2016年の生産動向を見ると、前年の減収に伴う価格上昇を受けて、作付面積、収穫量ともに前年を上回る見込みである(表1)。また、2016年6月に干ばつに見舞われたが、影響は少なく、単収も増加見込みとなっている。
なお、本稿中の為替レートは1元=16円(2016年10月末日TTS相場:15.76円)を使用した。
(3)生産コスト
10アール当たりの生産コストの動向を見ると、2016年は2107元(3万3712円、2013年比50.3%増)と、大幅に増加している(表2)。項目別に見ると、近年の中国の野菜生産全般に見られる土地代と人件費の上昇に加え、種苗費も大幅に上昇している。これは単収の高い緑寶石や開心緑など主要品種への需要が高まり、種苗販売業者が販売価格を引き上げる傾向があるためとみられている(写真)。
(4)価格動向
山東省で、えだまめが売買されるのは、通常4~10月である。その期間の卸売価格を見ると、季節的に供給量が少ない4~5月が高く、収穫が進むにつれて、10月にかけて下落傾向で推移している(図5)。2016年の価格推移を見ると、過去2年の相場が比較的高かったため、生産者が作付面積を増加させた結果、過去2年に比べ低水準で推移している。
なお、4~5月に売買されているえだまめは、他省から入荷された施設栽培のえだまめなど、ごく限定的なものである。
(5)国内向け出荷動向
えだまめは、栄養価が高く、貴重なたんぱく源であることから、中国国内の需要は高まっている。山東省で収穫されたえだまめの9割以上は、南部を中心に中国国内向けに出荷されている。2016年は、主に湖北省、江蘇省、福建省に出荷されたとみられている。
(6)輸出動向
中国のえだまめ輸出は冷凍品が主体である。近年、中国全体で年間6~8万トンの冷凍えだまめが輸出されているが、国内需要の高まりなどから、減少傾向となっている。このうち、山東省産は、年間1万トン程度である。
なお、中国のえだまめの主な輸出先は米国と日本であり、わずかながら欧州にも輸出されている(図6)。
(1)ブロッコリー、レタス、およびセルリーの生産動向
ア ブロッコリー
(ア)作況および作付面積
現地報道によると、9月中旬以降、モントレー郡サリナスバレーでは、高温や強い日照により、花蕾の変色が目立った。一方では、寒波による収穫への影響も報告されている。
フレズノ郡が公表している「2015 Annual Crop & Livestock Report」によると、2015年の同郡のブロッコリー収穫面積は、前年比21.7%増の1616ヘクタールとなった。また、生産量は同27.4%増の3万2000トンとなった。
なお、本稿中の為替レートは、1米ドル=106円(2016年10月末日TTS相場:105.86円)を使用した。
(イ)生産者価格
2016年8月のブロッコリーの生産者価格は、各生産地で収穫が好調であったことから、前年同月比43.6%安の1キログラム当たり0.62米ドル(66円)と前月から値を下げた(表1)。
9月は、天候不順によりメキシコ産の入荷量が減少したことや、新学期開始に伴って加工用の需要が増加したことに加え、中旬には収穫期が終わりに近づく産地もあり、価格が上昇した。10月中旬の時点では、サリナスバレー産は1カートン(14個入り)当たり約9~10.55米ドル(1キログラム当たり約0.87~1.01米ドル:約92~107円)、サンタマリア産は8.5~9.85米ドル(同0.82~0.95:同87~101円)で取引された。
前述のフレズノ郡のレポートによると、2015年の同郡のブロッコリーの生産額は、生産量の増加と単価の上昇により、前年比30.4%増の1411万2000米ドル(14億9587万2000円)と大幅に前年を上回った。
(ウ)対日輸出動向
2016年8月のブロッコリーの対日輸出量は、夏場の生産量の増加により、前年同月比40.8%増の2761トンとなった。輸出単価は同8.3%安の1キログラム当たり1.21米ドル(128円)となった(表2)。また、大手生産者は、9月中旬に、品質にバラつきが発生したため、輸出量が減少したとのことである。
(エ)東京都中央卸売市場の入荷量および価格
2016年8月の東京都中央卸売市場の米国産ブロッコリーの入荷量は、前年同月比25.8%減の118トンであった。平均卸売価格は1キログラム当たり310円と、前年同月からかなり大きく下落した(表3)。8月に同市場で最も入荷量が多かったブロッコリーは北海道産(964トン)であり、価格は米国産を大幅に上回る1キログラム当たり457円であった。
イ レタス
(ア)作況および作付面積
米国農務省(USDA)によると、9月下旬は、モントレー郡で収穫が行われていた。また、現地報道によると、10月初旬のカリフォルニア州産のレタスの出荷は安定しており、品質はおおむね良好であるものの、一部では病害虫の発生が確認されている。
フレズノ郡のレポートによると、2015年の同郡での結球レタスの収穫面積は、前年比3.6%減の2552ヘクタールとなり、生産量は同9.1%減の11万1300トンとなった。リーフレタスの収穫面積は、同23.7%減の1444ヘクタールとなったものの、生産量は同4.2%増の4万1587トンとなった。
(イ)生産者価格
2016年8月の結球レタスの生産者価格は、豊富な出荷量により前年同月比41.8%安の1キログラム当たり0.46米ドル(49円)と大幅に下落した(表4)。
9月から10月にかけて、出荷量が安定していたため、価格にも大きな変動は見られず、10月中旬の時点で、結球レタスは1カートン当たり約8~9米ドル(1キログラム当たり約0.35~0.40米ドル:約37~42円)、グリーンリーフレタスは約8~10米ドル(同0.35~0.44米ドル:約37~47円)で取引された。
フレズノ郡のレポートによると、2015年の同郡での結球レタスの生産額は、前年比13.1%増の6733万3000米ドル(71億3729万8000円)、リーフレタス(グリーンリーフ、ロメインなどを含む)は、3988万2000米ドル(42億2749万2000円)となった。
(ウ)対日輸出動向
2016年8月の結球レタスの対日輸出量は、今年に入って最も多い330トン(前年同月比7.1%増)、輸出単価は同16.8%安の1キログラム当たり1.04米ドル(110円)となった(表5)。一方、結球レタス以外の対日輸出量は、前年同月比73.9%減の3.7トンであり、輸出単価は同2倍の3.24米ドル(343円)であった(表6)。
(エ)東京都中央卸売市場の入荷量および価格
2016年8月の東京都中央卸売市場の結球レタス以外の米国産レタス(ロメインレタス、フリルレタスなど)の入荷量は、前年同月の約17倍となる0.5トンで、卸売価格は同26.3%高の1キログラム当たり518円であった(表7)。なお、同月は、米国産結球レタスは入荷されなかった。
ウ セルリー
(ア)作況および作付面積
現地報道によると、9月中旬から10月初旬にかけて、サリナスバレーではセルリーが豊富に出荷され、品質は良好とされた。また、大手生産者によると、サリナスバレーでの収穫は12月まで行われる見通しであり、今後も安定的な収量を見込まれている。一方、カリフォルニア州の次に生産量が多いミシガン州の今期の作柄は、悪天候により不良であった。
(イ)生産者価格
2016年8月のセルリーの生産者価格は、出荷量が多かったことから、前月から値を下げ、前年同月比30.8%安の1キログラム当たり0.36米ドル(38円)となった(表8)。
9月から10月にかけても、出荷量が多かったことから、価格は引き続き安値で推移した。10月中旬の時点ではサリナスバレー産、サンタマリア産ともに1カートン(24茎)当たり約7米ドル(1キログラム当たり約0.26米ドル:約25円)で取引されていた。
(ウ)対日輸出動向
2016年8月のセルリーの対日輸出量は、前年同月比20.2%増の602トンと、前年同月を大幅に上回ったものの、輸出単価は1キログラム当たり0.85米ドル(90円)と、前年同月を37.0%上回った(表9)。
(エ)東京都中央卸売市場の入荷量および価格
2016年8月の東京都中央卸売市場の米国産セルリーの入荷量は、前年同月比28.9%減の27トンであった。一方、卸売価格は、前年同月比3.6%高の1キログラム当たり201円であった(表10)。なお、同月に最も入荷量が多かったセルリーは長野産(808トン)であり、価格は米国産をかなりの程度下回る1キログラム当たり176円であった。
(2)トピックス
~カリフォルニア州における農業労働者の残業手当に関する法律の改正~
2016年、カリフォルニア州の農業経営に大きな影響を及ぼすとみられる2つの法案が可決された。1つは、4月に州知事が署名した、州の最低賃金を全米最高水準の時給15米ドルに引き上げる法案である。もう1つは、8月末に州知事が署名した農業労働者の残業手当に関する法案(Assembly Bill 1066:以下「AB1066」という)である。
米国では、1938年に制定された公正労働基準法(Fair Labor Standards Act)において、就業時間が1日8時間、週40時間を超えた場合に、事業主が労働者に対し超過勤務手当を支給することが義務付けられている。同法では、農業労働者は除外されている。一方、州レベルでは、1976年に、1日10時間または週60時間を超える農業労働に対し、残業手当を支給することが義務付けられたカリフォルニア州のほか、ハワイ州、メリーランド州、ミネソタ州が農業労働者に対する残業手当制度が設けられている。
AB1066は、現在1日10時間の就業時間を2019年から毎年30分ずつ段階的に短縮し、2022年までに1日8時間にする仕組みとなっている。発案した全米農場労働者組合などは「長年の不正が正された」として今回の結果を歓迎している。
一方、同州の農業団体や議会の一部は、農産物の生産コストや出荷価格の上昇などさまざまな問題が生じるとして、今後同州において価格競争力を持った同州産以外の農産物の需要が高まることを懸念している。また、同州南部に位置するインペリアル郡の農場経営者が、野菜の生産拠点をアリゾナ州やメキシコに移す可能性も指摘されている。
同州の農場経営者などは、今後、コスト削減のため、雇用の増加や作業の機械化を進めることで、1人当たりの就業時間を減らすことが予想されており、この場合、農業労働者にとっては、利益よりも損害の方が大きいとする意見もある。カリフォルニア大学の研究によると、2015年7月、カリフォルニア州の農業労働者(農園における直接雇用者)の平均就業時間は週43.6時間、特に収穫作業に従事する者の大半の就業時間は1日8時間未満であった。このため、AB1066の影響を最も受けるのは、繁忙期に週60時間以上働くかんがい作業者や機械操縦者である可能性が高いと指摘している。しかし、米国では、農業従事者の就業時間に関する統計がないため、同法が農園経営者や雇用者にどの程度の影響を与えるかを正確に予測することは困難としている。
これまで、農業労働者に対する残業手当に関する連邦法がなかったのは、農業の特色と言える季節性が背景にあったからである。農業において、労働ニーズを年間で均一にするのは難しく、カリフォルニア州では収穫期の5月から10月にかけて、農業雇用が多くなる傾向にある。このため、他の季節性の高い部門(スキーリゾートや消防など)と同様、独自の残業制度が設けられてきたのである。
同法の施行により、カリフォルニア州の多くの農業労働者が恩恵を受けると期待されている一方、農産物の生産コストを年間17億米ドル(1802億円)引き上げると懸念する声もあり、同州におけるブロッコリーやセルリーなど労働集約的な作物の生産動向にどのような影響を与えるか注目される。