調査情報部
(1)生産動向
中国のねぎの主産地は、山東省であり、済南市章丘区(市轄区)と濰坊市、安丘市(県級市)(注)で、合わせて山東省の作付面積全体の約3分の2を占めている(図1)。山東省のねぎ栽培は、大半が露地栽培であり、9月下旬に播種、翌年の6月に定植、9~10月に収穫する(図2)。一方、施設栽培は、さまざまな生育ステージがあり、主なものは、図2に示す4通りである。
2015年産の作付面積および収穫量を見ると、前年の価格下落と冬場の大幅な気温低下の影響により、ともに減少している(表1)。2016年産は、前年産の収穫量減少に伴う価格上昇を受けて、作付面積(2万5000ヘクタール)、収穫量(125万トン)と、ともに増加見込みとなっている。
なお、本稿中の為替レートは1元=15円(2016年9月末日TTS相場:15.44円)を使用した。
(注):中国では、大きい行政区分から順に、「省」、「地級市」、「市轄区・県級市」などとなっており、済南市、濰坊市は地級市であり、安丘市は県級市である。
(2)生産コスト
10アール当たりの生産コストの動向を見ると、安丘市では2015年は5533元(8万2995円、2012年比42.5%増)と、大幅に増加している(表2)。項目別に見ると、土地代の上昇と、労働力不足による人件費の上昇が増加要因となっており、これは、おおむね中国全般で見られる傾向である。中でも、山東省は、農業が盛んである上、工業も比較的発展しているため、農地価格や全般的な賃金水準の上昇が、他地域よりも顕著に見られている。また、出荷調製作業において、機械よりも手作業の部分が多く、賃金の上昇を機械利用で代替することが困難なことも、人件費中心の生産コスト上昇につながっている(写真1、2)。
(3)価格動向
ねぎの卸売価格について山東省の動向を見ると、年による変動が大きい。2014年は、収穫量の増加に伴い、年間を通じて低水準で推移した。このため、多くの生産者が他作物に切り替え、収穫量が減少した結果、2015年後半に上昇に転じた(図3)。また、同時期以降、生産者が価格上昇を受けて、一気に収穫・出荷を促進した結果、その後の出荷量が減少した上、最大の需要期である春節(旧正月)が重なったことで、2016年1~3月にかけて高騰した。その後は、価格上昇に伴う作付面積の拡大による収穫量の増加を反映して、再び下落傾向となっている。
(4)国内向け出荷動向
山東省で収穫されたねぎの9割以上は、北京や天津など近郊の大都市を中心に国内向けに出荷されている。また、山東省は中国全土のねぎの集散地でもあり、他産地のねぎもいったん山東省に輸送され、選別や調製など一次加工の後、全土に販売されている。
(5)輸出動向
近年、中国全体では、年間4~6万トンのねぎが輸出されている。このうち、山東省産は、年間2~3万トンで安定的に推移している。輸出形態としては、生鮮(冷蔵)、冷凍、乾燥の3種類が挙げられるが、大半は生鮮である。
なお、中国の輸出量の9割近くは日本向けであり、その他韓国、モンゴル、ロシア、シンガポールなど主に近隣諸国に輸出されている(図4)。
(1)ブロッコリー、レタス、およびセルリーの生産動向
ア ブロッコリー
(ア)作況および作付面積
米国農務省(USDA)によると、フレズノ郡では9月初旬、直播されたブロッコリーが発芽し、生育は良好である。また、9月の2週目にはインペリアル郡でブロッコリーの直播が行われていた。現地報道によると、サリナスバレーおよびサンタマリアでは天候が良く、出荷されているブロッコリーの品質は良好と報告されている。なお、大手野菜生産出荷業者によれば、今期のブロッコリーの単収は過去最大であり、品質も非常に良いとのことである。
なお、本稿中の為替レートは、1米ドル=102円(2016年9月末日TTS相場:102.12円)を使用した。
(イ)生産者価格
2016年7月のブロッコリーの生産者価格は、前年同月比4.8%安の1キログラム当たり0.8米ドル(82円)となった(表1)。6月から7月にかけては出荷量の安定などに伴い、価格は下落した。
9月は、天候不順によりメキシコ産の入荷量が減少したことや、新学期開始に伴って加工用の需要が増加したことなどから、価格は上昇し、9月最終週の時点では、サリナスバレーは1カートン(14個入り)当たり約9米ドル(1キログラム当たり約88円)、サンタマリアは8米ドル(同78円)で出荷されていた。
(ウ)対日輸出動向
2016年7月のブロッコリーの対日輸出量は、前年同月比3.2%増の2387トンであった。輸出単価は同3.1%安の1キログラム当たり1.23米ドル(125円)であった(表2)。
(エ)東京都中央卸売市場の入荷量および価格
2016年7月の東京都中央卸売市場の米国産ブロッコリーの入荷量は、前年同月比33.1%減の115トンであった。平均卸売価格は1キログラム当たり340円と、前年同月並みであった(表3)。7月に同市場で最も入荷量が多かったブロッコリーは北海道産(1114トン)であり、価格は米国産をかなり大きく上回る1キログラム当たり390円であった。
イ レタス
(ア)作況および作付面積
USDAによると、モントレー郡では8月中旬から9月初旬にかけて、山火事や連日の涼しい湿った天候が野菜の栽培や害虫防除にやや影響を及ぼしたが、レタスの収穫量は平年並みとなっている。大手野菜生産出荷業者は、9月はサリナスバレーからの豊富な出荷を見込んでおり、10月に同産地での収穫を終え次第、徐々にフレズノ郡ヒューロンからの出荷を始める見通しである。
(イ)生産者価格
2016年7月の結球レタスの生産者価格は、高い需要に支えられ短期的に高騰したものの、その後は豊富な出荷量により低下したことから、結果的に前年同月比39.0%高の1キログラム当たり0.57米ドル(58円)と、前月と同水準であった(表4)。
その後、9月5日のレーバーデーに向けて小売店の需要が高まったため、価格は9月初旬にかけて上昇傾向で推移した。今後は、全米各地で地元産の収穫期が終わりを迎えつつあることから、カリフォルニア産の需要はさらに高まる見通しである。しかし、今年は収穫量が多く、出荷が安定していたため、昨年の同時期と比べ価格は比較的低い水準で推移している。9月最終週の時点では、結球レタスは1カートン当たり約8米ドル(1キログラム当たり約0.35米ドル:約36円)、グリーンリーフレタスは約9米ドル(同0.40米ドル:約41円)で取引された。
(ウ)対日輸出動向
2016年7月の結球レタスの対日輸出量は、今年に入って最も多い253トン(前年同月比38.4%減)となり、輸出単価は1キログラム当たり0.97米ドル(99円)と、今年に入ってからの最安値を更新した(表5)。一方、結球レタス以外の対日輸出量は、前年同月比4倍の29.3トンであり、輸出単価は同47.8%高の2.63米ドル(268円)であった(表6)。
(エ)東京都中央卸売市場の入荷量および価格
2016年7月の東京都中央卸売市場の結球レタス以外の米国産レタス(ロメインレタス、フリルレタスなど)の入荷量は、前年同月並みの0.2トンで、卸売価格は同26.3%高の1キログラム当たり518円であった(表7)なお、同月は、米国産結球レタスは入荷されなかった。
ウ セルリー
(ア)作況および作付面積
現地報道によると、9月初旬、サリナスバレーからはセルリーが豊富に出荷されており、品質はおおむね良好と報告されている。また、ミシガン州やカナダのケベック州などからの出荷もあり、これらの地域では比較的温暖な天候が続いているため、収穫は6~7日前倒しとなっている。なお、この時期に各産地の収穫が集中した場合、その後の供給量が不足する可能性があるとされている。
(イ)生産者価格
2016年7月のセルリーの生産者価格は、6月以降の出荷量が安定していたことからやや下落し、前年同月比2.6%高の1キログラム当たり0.39米ドル(40円)となった(表8)。
9月初旬には、カリフォルニア州、ミシガン州、カナダのケベック州など、さまざまな地域でセルリーの収穫が行われ、出荷量も安定しているため、価格は前月同様に比較的低水準で推移している。9月中旬の時点ではサリナスバレー産、サンタマリア産ともに1カートン(24茎)当たり約7米ドル(1キログラム当たり約0.26米ドル:約27円)で取引されていた。
(ウ)対日輸出動向
2016年7月のセルリーの対日輸出量は、前年同月比69.2%増の697トンと、前年同月を大幅に上回った。この背景には、米国市場でセルリー供給が過剰になっていることがあるとみられている。なお、輸出単価は1キログラム当たり0.91米ドル(93円)と、前年同月を33.8%上回った(表9)。
(エ)東京都中央卸売市場の入荷量および価格
2016年7月の東京都中央卸売市場の米国産セルリーの入荷量は、前年同月比31.6%減の26トンであった。一方、卸売価格は、前年同月比8.5%高の1キログラム当たり204円であった(表10)。なお、同月に最も入荷量が多かったセルリーは長野産(830トン)であり、価格は米国産をかなりの程度上回る1キログラム当たり222円であった。
(2)トピックス ~農薬・種子市場におけるM&A~
ドイツの大手農薬メーカーであるバイエル社は9月14日、世界最大の米国の種子会社モンサント社を買収することでモンサント社と合意に達したと発表した。買収金額は、約660億米ドル(約6兆7320億円)とのことであり、買収が実現すると、世界最大の農薬・種子企業となる。近年、農薬・種子市場におけるM&A(企業の合併、買収)が増えており、業界再編が今後も進むとみられている。本稿では、世界における農薬・種子市場における企業の動き、また、その動向が野菜の生産に与える影響などについて解説する。
ア M&Aの背景
現在、農薬・種子メジャーと呼ばれる企業は6社ある。これらは、農薬および種子の市場で圧倒的なシェアを誇っている(図2、3)。Konkurrenzグループによると、農薬・種子分野における技術開発資金は、拡大の一途をたどっており、今後の技術開発は、少数のメジャー企業が握っている状況にある。今後の種子市場では、将来的な人口の増加などに対応するため、より高い生産性や気候変動に対する耐性などの開発や技術革新が求められている。さらに、多くのメジャー企業は、ビッグデータや精密農業といった新たな技術の導入に、多くの資金を必要としており、効率的な資金の活用を目的として、メジャー同士のM&Aが進められる状況にあり、前述のバイエル社によるモンサント社の買収のほか、米国の大手化学企業ダウ・ケミカル社とデュポン社の経営統合や、中国の国有企業の中国化学工業集団公司(ケムチャイナ)によるシンジェンタ社の買収などもある。特に種子市場において、買収後のバイエル社と経営統合したダウ・ケミカル/デュポン社が、市場シェアの半分以上を占める状況となり、今後もこのような動きが続くとみられている。
イ 野菜への影響
野菜や果実は、大豆や綿花に比べ、各地の状況に合わせて栽培・消費されるため、多品種となることから、多額の研究開発費用を必要とするGM技術に不向きとされている。実際に、野菜種子市場を見ると、多くの企業が参入しており、メジャー企業による寡占化は起こりづらいとされている(図4)。
ウ 今後について
メジャー企業同士のM&Aには、否定的な声も多く挙げられている。Konkurrenzグループは、バイエル社によるモンサント社の買収が完了すると、同社は米国内の綿種子の約7割のシェアを占めることとなり、農薬市場においてもその立場が強化されるとしている。また、バイオテクノロジーにおける競争性が減退し、新たな技術開発の機会が失われるともしている。
同社の買収実現には今後、複数の国や地域の独禁当局による承認が必要となるが、仮に承認されなかった場合は、バイエル社がモンサント社に対して、20億米ドル(2040億円)の違約金を支払うこととなっている。