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海外情報(野菜情報 2016年10月号)


イタリアのトマトの生産状況およびトマト加工品の生産、輸出動向(前編)

調査情報部


【要約】

 イタリアでは、トマト生産に適した気候からトマトの生産が盛んである。同国のトマト生産の9割は加工用トマトであり、その生産量は、米国に次いで世界第2位となっている。加工用トマトから生産されたトマト加工品の6割は、EU域内、米国、日本を中心に輸出されている。近年、中東やアジアなどの新興国からの需要も高まっており、さらなる輸出拡大も予想される。
 同国の南部では、統廃合による加工品生産業者の大規模化が進んでいる。一方、北部では、大企業が中心となり一般家庭向けを中心に販路を拡大している。
 本稿では、前編として、イタリアのトマトとトマト加工品の生産状況について報告する。

1 はじめに

16世紀に南米からヨーロッパに伝えられたトマトは、当初はその赤い色から有毒と信じる人も多かったが、徐々に食用として受け入れられるようになり、イタリアでは18世紀末には多様なトマト料理が生まれた。

イタリアは、トマト食文化の発展とともに伝統的な産地である南部カンパニア州を中心にトマト加工業が興隆し、現在では米国、中国に次ぐ世界で番目のトマト加工品生産国である。

同国のトマト加工品は、日本のトマト加工品輸入量全体の割を占めている。

本稿では、日本市場で大きなシェアを占めるイタリアのトマト加工品の生産、輸出動向について、加工用トマトの生産状況と合わせて報告する。

なお、本稿中の為替レートは、ユーロ116円(月末日TTS相場1ユーロ116.45円)を使用した。

2 トマトの生産状況

(1)作付面積・生産量

イタリアは、夏の日差しが強く、年間を通じて降雨量の少ない地中海性気候にその大部分が属していることから、トマトの生産に適しており、北部のエミリアロマーナ州、南部のプーリア州、カンパニア州を中心にトマト生産が非常に盛んである。

イタリアは、トマト全体(加工用・生食用の合計)の生産量では中国、インド、米国、トルコ、エジプト、イランに次いで世界第位、加工用トマトでは米国(主産地はカリフォルニア州)に次いで第位の主要な生産国となっている(世界加工用トマト協会、2013年)。近年、イタリアのトマト全体の作付面積は約10万ヘクタール、生産量は500600万トンで推移しており、このうち割を加工用トマトが占めている(図)。2015年の加工用トマトの作付面積は約8.4万ヘクタールで、好天に恵まれたことにより、生産量は約530万トンと高い水準であった。



加工用トマトの生産は、EUの共通農業政策(Common Agricultural Policy CAP)で最も手厚く保護されてきたこともあり、CAP改革の影響が最も大きいセクターの一つとなっている。

2001年、加工用トマトの生産者に対するトン当たり34.50ユーロ(4002円)の補助は、果物・野菜分野の市場施策改革(EU規則11822007)により、生産と支払いを切り離すデカップリングが導入され、過去の支払い実績に基づいて支払い額が決まることとなった。イタリアでは、移行期間を経て、2011年までにデカップリングを完了することが義務付けられた。

加工用トマトの作付面積・生産量は、2011年から2013年にかけて、この市場改革の影響や、2013年春の悪天候による定植の遅れなどにより、約20落ち込んだ。2015年月以降、業界の要望を受けて、直接支払いを補完する独自の補助金としてヘクタール当たり160ユーロ(万8560円)の補助制度が導入されている。

後述する通り、2016年にはトマト加工品生産業者社が、EUの補助金を利用してトマト加工品を不当に安く生産しているとして、豪州政府によるダンピング関税の適用決定を受けており、EUCAP改革やトマト加工産業に対する保護政策の動向は、今後も生産や輸出に影響を与える可能性がある。

(2)主要産地

加工用トマト生産は、南部のプーリア州と、ポー平原が広がる北部のエミリアロマーナ州が二大産地となっており、この二州で全体の割弱を占める(図、表)。プーリア州ではフォッジア(Foggia)が、エミリアロマーナ州ではピアチェンツァ(Piacenza)、フェラーラFerarra、パルマPalmaなどが主要な産地である。その他ではロンバルディア州、シチリア、カンパニア州などで生産が比較的多くなっている。2015年の作付面積では、エミリアロマーナ州が最大で全体の30を占め、次いでプーリア州が同26ロンバルディア州が同10シチリア州が同10%などとなっている。





カンパニア州、特にナポリからサレルノにかけてのアグロ・サルネーゼ・ノチェリーノ地域は、伝統的な生産地域で、「レッドゴールド地区」と称されるほどトマトの産地として有名である。特に、イタリアにおける保護原産地呼称であるDenominazione di Origine Protetta (以下「D.O.P.」という)に認定されているサン・マルツァーノトマトの産地として知られ、1980年代にはイタリア最大の生産地であった。しかし、1990年代にまん延したキュウリモザイク病により生産が激減し、南部の主要産地はプーリア州に移り、加工用トマトの生産量では第位まで順位を落としている。最近はカンパニア州の生産量も徐々に戻ってきていると言われているが、統計では顕著な増加は見られていない。ただし、伝統的なトマト産地として、いまだ多くの主要なトマト加工企業が所在している。

(3)生産農場数

加工用トマトを生産しているのは、主に大規模農家か、農協の下で組織化された中小規模農家である。全体として、北部は、南部に比べて農場の規模が大きい傾向にあり、EUの農場データネットワークが収集したサンプルによれば、北部のエミリアロマーナ州の戸当たり加工用トマト作付面積は12.9ヘクタールであるのに対し、南部のプーリア州では同4.4ヘクタールとなっている 。なお、加工用トマトは、契約生産で行われている場合が多い。

2010年のイタリア統計局による農業センサスによれば、トマト生産農場数は、生鮮トマト生産が延べ万5787農場、加工用トマト生産が延べ9564農場であった(表)。生鮮トマトの約割(万102農場)がヘクタール未満の比較的小規模な農場で生産されているのに対し、加工用トマトは比較的規模が大きく、5~50ヘクタール未満の農場が全体の半分以上(5151農場)を占め、50100ヘクタール未満が割強(1137農場)、100ヘクタール以上の大規模農場も6%程度(607農場)存在している。



(4)生産品種

トマトは、加工向けにはリコピンが多く、味の濃いものが適している。リコピンは、トマトの赤い色素で、抗酸化作用を持つといわれている。トマト生産に適した地中海性気候で生産されるイタリア産トマトは、熱を加えることにより粘りのある独特のうま味が出ることから、特にトマトソースに向いているとされている。生食用トマトはジュース分が多いのに対し、加工用トマトは固形分が多く皮が厚いのも特徴の一つである。

イタリアで生産される加工用トマトは、主に丸い形をした丸トマト(イタリア語で「トンド」という)と長円筒形の長トマト(同「ルンゴ」)である。最も生産量が多いのは丸トマトで、2015年には約430万トンと全体の割を占めた(図、表)。一方、主にホールトマトの生産に使われる長トマトは、同年には約100万トンの生産量であった。長トマトの生産は、主にイタリア南部で行われており、南部最大の産地であるプーリア州フォッジアやカンパニア州では主にこのタイプが生産されている。一方、北部の主要産地であるエミリアロマーナ州のフェラーラやピアチェンツァでは、主に丸トマトの生産がされている。近年は丸トマトの生産が増加しており、2013年から2015年にかけては56増となっている。その他では、ミニトマトの一品種であるチェリートマトが生産されている。





トマトは、1950年代以降多くの品種改良が加えられており、現在の加工用トマトのほとんどはF1ハイブリッド種である。イタリアで登録されているトマト品種は、約350あり、このうち約50品種がイタリアの種子市場で多く取引されている。D.O.P.にも認定されている伝統品種であるサンマルツァーノ(San Marzano)種や、パンアメリカン(Pan American)種とレッドトップ(Red Top)種を交配して作られたローマ(Roma)種などが有名な品種である。

(5)生育ステージ

加工用トマトは、春先にグリーンハウス(育苗ハウス)で苗を生産し、4~6月に定植を行い、7~9月にかけて収穫するのが一般的である(図)。トマト加工品の生産は、北部では月下旬~9月中旬、南部では月中旬10月中旬に行われるのが典型的である。



トマトは、主に露地栽培で生産されており、2015年のトマト収穫量のうち、ハウス生産はわずか9%弱にすぎず、その約半分がシチリアにおける生食用トマトとなっている。生食用の生鮮トマトは完熟前に収穫されるのに対し、加工用は完熟してから収穫するという違いがある。

南部と北部ではトマトの生育環境が大きく異なる。南部は、年間を通して比較的高温で、北部と比較して降雨が少ないため、配水管などの施設を用いて土壌表面に少しずつかんがい水を与え、水や肥料の消費量を最小限にする点滴かんがいを行っている場合が多い。一部機械によるじかきが行われているが、一般的には定植を行っている。収穫作業は、約割が手作業で、多くの外国人労働者が収穫作業に従事しており、労働環境などが問題となっている(コラム参照)。ただし、南部でも機械化が急速に進んでいる(写真)。



一方、北部は日隔差が大きいためトマト生産に向いているとされる。主にスプリンクラーかんがいが用いられてきたが、点滴かんがいも普及しつつある。南部同様、ほとんどが定植による生産で、直播割程度である。また、植え付け、収穫ともに完全に機械化されている。

コラム イタリア南部の移民労働者問題

2013年、ノルウェーの大手新聞社が、イタリア南部のトマト収穫作業における移民労働者からの搾取について取り上げたことをきっかけとして、ノルウェーの小売業者が中心となってイタリアのトマト加工産業における労働搾取に関する調査を行い、2015年に報告書が発行されている。これによれば、南部では、カポラリと呼ばれる仲介者がトマトの収穫期に主にアフリカや東欧地域の多数の外国人労働者を囲い込み、最低賃金以下で長時間労働に従事させている。例えば、プーリア州では12時間の労働に対する報酬がわずか25~30ユーロ(2900~3480円)で、うち5ユーロ(580円)がカポラリに手数料として徴収されている。

こうした問題は、ヨーロッパや豪州など主要な輸出先のメディアでも大きく取り上げられ、イタリアのブランドイメージに少なからぬ影響を与えている。

3 トマト加工品の生産状況

(1)品目別生産量

イタリアは、トマト加工品の生産量では米国、中国に次ぐ世界第位で、EU全体の約割を占める一大生産国となっている。生産されたトマト加工品のうち国内で消費されるのは割で、残りの割はEU域内米国、日本を中心に世界各国輸出されている。

トマト加工業は、伝統的な産地であるカンパニア州、ナポリを中心に18世紀後半から発展した。トマト缶の生産が始まったのは1800年代で、完成品が1878年のパリ万博で紹介されたことが記録されている。元々はホールトマトのみが生産されていたが、その後トマトピューレなど他の加工品が生産されるようになり、立方形に切ったダイストマトやそれをさらに細かくしたポルパフィーネなどが生産されるようになったのは比較的最近である。

収穫されたトマトは洗浄され、蒸された後、皮むきが行われ、その後パルプ(トマト果実。ホール、ダイス、ポルパフィーネなどさまざまなサイズがある)、ピューレ、ペースト、ソースなどに加工される。ホールトマトは長トマトから、ダイストマトは丸トマトから、それぞれ生産される。

南部はホールトマトの生産が多く、北部ではダイストマトのほか、トマトピューレなど幅広く生産されている。南部のトマト加工業者団体である野菜ジャム協会(ANICAV)によれば、2009年に加工向けに使用されたトマト約490万トンのうち、トマトピューレなど濃縮トマト向けが46、固形トマト向けが26、その他が29であった。州別では伝統的にホールトマトの生産を行ってきた南部カンパニア州の処理量が多く、全体の約5割を占め、そのうち約半分が固形トマト向けである(表)。一方、北部の主要産地であるエミリアロマーナ州の処理量は、全体の36を占め、そのうち64濃縮トマト向けである。



イタリア産のホールトマト缶は、既に確立された輸出市場を有しており、ブランドとしての認知度も高く、世界のトマト加工品の需要拡大も背景に今後も安定的に生産が行われると予想される(写真)。その中にあっても、北部地域はトマトペーストなど、新しい製品の開発に取り組んできた経緯や、さまざまな食品産業を擁する地域性も相まって、パスタソースなどにも関心を持っているため、今後製品構成が多様化していくことが見込まれている。



(2)主なトマト加工品生産業者の動向

イタリアのトマト加工業は、年間30億ユーロ(3480億円)を産出し、約万人を雇用する一大産業である。トマト加工業の産業構造は歴史的に地域で異なり、南部にはカンパニア州を中心に中小メーカーが多く所在していた。一方、北部は以前から比較的少数の大企業が中心であった。

南部は、元々家庭内手工業からスタートしたような農協系の企業が多く、かつては200社程度あったのが、統廃合が進んで現在は80社程度と大規模化が進んでいる。主要企業としては、PIA(元ARIA)、La Doria Group、Giaguaro Groupなどがあり、これら大手のトマト処理能力は、年間3040万トンで、主にホールトマト、ダイストマトを生産している。前述のとおり南部最大のトマト産地はプーリア州フォッジアであるが、加工メーカーは伝統的なトマト産業地域であるカンパニア州に集中している。フォッジアからカンパニア州ナポリに続く道は「トマトの道」と呼ばれ、収穫期を迎える夏には、フォッジアからナポリに向けて大量のトマトがトラックで輸送される光景を目にすることができる。

一方、北部は、大企業が中心で、エミリアロマーナ州を中心に40社程度が、トマトペーストやダイストマトを中心にEU域内向けに生産している。エミリアロマーナ州は、ハムや乳製品の産地として有名なパルマ県を擁していることから、これら加工品生産のための食品機械工場が集まっており、トマト加工機械もパルマ県で開発されたものが多い。従来、加工業務用がメインであったが、家庭向けも生産するようになってきており、最近は一般家庭向けパスタソースなども多く生産している。主要企業として、農協系のCasalasco、Conserve Italia、Copadorのほか、老舗企業のMuttiなどが有名である。年間のトマト処理能力は、Casalascoが最大で55万トンとなっており、その他大手では1035万トン程度である。

南部および北部の主要なトマト加工企業の概要は表のとおりである。



(3)原料の調達動向

イタリアは、トマト加工品の主要な輸出国である一方、米国やスペイン、中国などからトマト加工品原料を輸入している(図)。

EUでは、中国からのトマト加工品原料の輸入拡大と、国内の生産者への影響を危惧したトマト加工業界による強い働きかけもあり、2011年に原料原産地名の表示を義務付けるEU規則が施行された。この新たな規則の導入と人件費の高騰や天候不良を背景とした中国産トマトの値上がりなどにより、中国からのトマト加工品原料の輸入量は、2011年の13.3万トンをピークに激減し、2014年にはわずか1.4万トンとなっている。一方、米国産のトマト加工品原料の輸入量は中国産を代替する形で急増し、2014年には約万トンが輸入された。

なお、中国産のトマト加工品原料が多く輸入されていた5~6年ほど前には、安い中国産原料を加工してアフリカに輸出するビジネスが一部で行われていたが、中国からの原料輸入の減少に伴いこうしたビジネスは縮小している。一方、一部報道によれば、南部において、引き続き、中国産トマト加工品(トマトピューレなど)の輸入品は、固形トマトの充填液や、トマトピューレに再加工され、そのほとんどがイタリア産としてEU域内に輸出されている。



以上、本稿ではイタリアにおける加工用トマトとトマト加工品の生産状況を中心に報告した。次号では、同国におけるトマト加工品の輸出動向について報告する。



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