調査情報部
たまねぎの生産・価格・輸出動向
(1)生産動向
中国では、さまざまな地域でたまねぎが生産されており、今月号では、主産地の一つである山東省と甘粛省を中心に、生産動向を報告する(図1)。
なお、本稿中の為替レートは1元=16円(2016年8月末日TTS相場:15.71円)を使用した。
ア 山東省
山東省のたまねぎの主な産地は、濰坊市、聊城市、菏澤市、済寧市などであり(図2)、9月中旬ごろに播種、11月上旬ごろに定植した後、翌年の6~7月ごろに収穫する(図3、写真)。
2016年産について見ると、単収は2016年初めの寒波の影響により減少したものの、作付面積が2015年後半からの価格上昇に伴い増加したため、収穫量は、豊作となり前年を12.0%上回ると見込まれている(表1)。
なお、作付面積は、ここ数年増減を繰り返しているものの、長期的に見ると減少傾向となっている。これは、農村部の若年層は農作業よりも効率的に賃金を稼げる都市部への出稼ぎを選ぶ傾向があること、たまねぎの価格変動が大きいこと、一般的に価格交渉などで農家は買付け業者より弱い立場にあることなどが背景にある。
イ 甘粛省
甘粛省のたまねぎの主な産地は、酒泉市、嘉峪関市、武威市などであり(図4)、2~3月ごろに播種、4~5月ごろに定植した後、7~10月ごろに収穫する(図5)。
2016年産について見ると、作付面積は山東省と同様に2015年後半からの価格上昇に伴い増加し、単収は2016年初めに低温に見舞われたものの軽微な影響にとどまったため、収穫量は、前年を18.2%上回ると見込まれている(表2)。
(2)生産コスト
ア 山東省
10アール当たりの栽培コストの動向を見ると、山東省濰坊市では2016年は5190元(8万3040円、2013年比37.8%増)と大幅な増加が見込まれている。これは、地価の上昇に伴う土地賃借料の上昇と、若者の出稼ぎに伴う労働力不足に起因する人件費の高騰が影響している。一方、近年、山東省で栽培されている品種はあまり変化しておらず、種苗費は横ばいでの推移が見込まれている(表3)。
イ 甘粛省
10アール当たりの栽培コストの動向を見ると、甘粛省酒泉市に位置する玉門市(県級市)では、2016年は5175元(8万2800円、2013年比34.2%増)と大幅な増加が見込まれている。甘粛省でも、山東省と同様に土地賃借料と人件費の上昇が大きく影響している。さらに、甘粛省では、農家が良質で価格も高い種子を求める傾向から種苗費も増加が見込まれている(表4)。
(3)加工コスト
2016年の1トン当たりの1次加工(産地からの集荷、選別、出荷調製までの一連の工程)コストについて、山東省の一般的な動向を見ると、人件費の上昇とそれに伴う管理費の上昇に伴い、2471元(3万9536円、2013年比8.8%増)とかなりの程度の増加が見込まれている。一方、他の項目については、横ばいとなっている(表5)。
(4)価格動向
たまねぎの卸売価格について、山東省の動向を見ると、収穫期前の1~3月は高く、収穫が始まる5月前後に下落し、7月以降、供給量の減少に伴い上昇するというのが一般的である(図6)。2015年から2016年にかけて、卸売価格は気象条件の悪化による収穫量の減少を受けて、上昇傾向で推移した。その結果、収穫期前の2016年3月から4月にかけて、ピークを迎え、その後は、収穫量が増加し、大幅に下落している。
(5)国内向け出荷・輸出動向
ア 国内向け
山東省で収穫されたたまねぎは、9割以上が北京や天津など近郊の大都市を中心に国内向けに出荷されている。また、山東省は中国全土のたまねぎ加工の集散地でもあり、他産地のたまねぎもいったん山東省に輸送され、選別や調製など、一次加工された後、全土に販売または輸出されている。
また、甘粛省で収穫されたたまねぎは、約3分の2が国内向けに出荷されている。甘粛省は、乾燥気候、十分な日照時間、昼夜の温度差などたまねぎの栽培に適した気象環境から、その品質の高さが国内外で高く評価されている。
イ 輸出向け
近年の中国のたまねぎの輸出量は、国際的な需要の高まりを受け、増加傾向で推移しており、主な輸出先は、日本、韓国、東南アジア、ロシアとなっている(図7)。
山東省のたまねぎの輸出先も、主に日本、韓国、東南アジアであるが、大半が国内向けであり、輸出向けの数量は限られている。
一方、甘粛省は、輸出向けの割合が約3分の1と相対的に高いことから、中国のたまねぎ輸出量全体の過半は、甘粛省産とみられている。主な輸出先は、日本、韓国、東南アジアであるが、少ないながらロシアにも輸出されている。
なお、2016年上半期(1~6月)の中国の輸出量を見ると、日本向けを中心に減少しているものの、ベトナム、フィリピン、韓国向けは前年同期を上回っている(図8)。
(1)ブロッコリー、レタス、およびセルリーの生産動向
ア ブロッコリー
(ア)作況および作付面積
8月中旬、モントレー郡サリナスバレーやサンタバーバラ郡サンタマリア産ブロッコリーの品質は、おおむね良好であった(図1)。大手野菜生産出荷業者によれば、今後の収穫量は、季節変動によりやや減少する見通しである。
野菜の主産地であるサンタバーバラ郡が6月に公表した「Agricultural Production Report 2015」によると、2015年の同郡のブロッコリーの収穫面積は、1万510ヘクタールと前年比4.0%減となったものの、同郡で生産された野菜の収穫面積としては最大となった。また、 オーガニックブロッコリーの栽培面積は、前年の2倍以上の208ヘクタールとなった。
なお、本稿中の為替レートは、1米ドル=104円(2016年8月末日TTS相場:104.18円)を使用した。
(イ)生産者価格
2016年6月のブロッコリーの生産者価格は、出荷量が不安定であったため、前年同月比41.6%高の1キログラム当たり1.09米ドル(113円)となった(表1)。しかし、6月中旬から8月中旬までは出荷量が安定したため、価格は下落傾向で推移し、サリナスバレーでの8月最終週時点の価格は1カートン(14個)当たり5.5~6.65米ドル(1キログラム当たり0.53~0.64米ドル:約55~67円)であった。
なお、前述のサンタバーバラ郡のレポートによると、2015年の同郡のブロッコリーの総生産額は、前年比19.3%増の1億6382万米ドル(170億3728万円)と、全体の14%を占め、いちごに次いで2番目に多かった。
(ウ)対日輸出動向
2016年6月のブロッコリーの対日輸出量は、前年同月比22.5%増の2780トンであった。輸出単価は前年同月並みの1キログラム当たり1.25米ドル(130円)となった(表2)。
(エ)東京都中央卸売市場の入荷量および価格
2016年6月の東京都中央卸売市場の米国産ブロッコリーの入荷量は、前年同月比32.8%減の117トンであった。平均卸売価格は1キログラム当たり343円と、前年同月比3.1%安となった(表3)。6月に同市場で最も入荷量が多かったブロッコリーは長野産(540トン)であり、価格は米国産を大幅に上回る1キログラム当たり652円であった。
イ レタス
(ア)作況および作付面積
7月中旬、モントレー郡サリナスバレーの気候は涼しくなり、病害虫による被害が報告されたものの、多くの結球レタスが収穫された。7月末から8月初旬にかけて、モントレー郡で発生した山火事による日光の遮りや大気汚染により、レタスへの悪影響が懸念されたが、8月中旬時点ではレタスの出荷量は高水準で推移した。
サンタバーバラ郡のレポートによると、2015年の同郡のレタスの収穫面積は、最大のブロッコリーに次ぐ広さとなった。順位は前年と変わらなかったものの、面積は前年から144ヘクタール減少した。リーフレタスについては、前年比3.3%増の1671ヘクタールとなった。また、オーガニックレタスの栽培面積は、リーフレタスが225ヘクタール、ロメインレタスが151ヘクタールであった。
(イ)生産者価格
2016年6月の結球レタスの生産者価格は、カナダ産の出荷開始による供給量の増加により、前年同月比14.9%安の1キログラム当たり0.57米ドル(59円)となった(表4)。
7月下旬、カナダ産ロメインレタスの出荷が本格化し、サリナスバレー産の価格が下落傾向となった。また、結球レタスにおいても収量が多く、価格は下落傾向であった。8月の3週目時点では、結球レタスは1カートン当たり7~7.5米ドル(1キログラム当たり0.31~0.33米ドル:32~34円)、ロメインレタスは約7米ドル(同0.31米ドル:32円)、グリーンリーフレタスは6~6.5米ドル(同0.26~0.29米ドル:27~30円)で取引された。
前述のサンタバーバラ郡のレポートによれば、結球レタスの総生産額は前年比0.8%減の約8000万米ドル(83億2000万円)と、全体の7%を占めた。
(ウ)対日輸出動向
2016年6月の結球レタスの対日輸出量は前年同月比1.4%減の205トンであり、輸出単価は1キログラム当たり1.05米ドル(109円)であった(表5)。一方、その他のレタスの対日輸出量は、前年同月比3.5倍増の14トンであり、輸出単価は0.86米ドル(89円)と、前月に続き2016年の最安値を更新した(表6)。
(エ)東京都中央卸売市場の入荷量および価格
2016年6月の東京都中央卸売市場の結球レタス以外の米国産レタス(ロメインレタス、フリルレタスなど)の入荷量は、前年同月比54.7%減の0.53トンで、卸売価格は同18.0%高の1キログラム当たり399円であった(表7)。一方、4月、5月に入荷がなかった米国産結球レタスは、90キログラムが入荷され、価格は1キログラム当たり57円であった。
ウ セルリー
(ア)作況および作付面積
8月2週目の時点では、モントレー郡サリナスバレー、サンタバーバラ郡サンタマリアともに出荷は好調で、品質もおおむね良好とされている。大手野菜生産出荷業者によれば、サリナスバレー、ミシガン州やカナダでは、セルリーの出荷が1週間ほど早まっているケースがあり、今後の供給不足が懸念されるとしている。
前述のサンタバーバラ郡のレポートによれば、2015年のセルリーの作付面積は、前年比9.8%減の1488ヘクタールと、前年からかなり減少した。また、同年のオーガニックセルリーの栽培面積は、166ヘクタールであった。
(イ)生産者価格
2016年6月のセルリーの価格は、比較的強い需要を背景に前年同月比5.1%高の1キログラム当たり0.41米ドル(43円)となった(表8)。7月中旬から8月中旬にかけて、セルリーは供給量が増加し、価格は下落傾向で推移した。8月最終週時点では、サンタマリア産およびサリナスバレー産ともに1カートン(24茎)当たり約7米ドル(1キログラム当たり0.26米ドル:約27円)で取引されていた。
前述のサンタバーバラ郡のレポートによれば、2015年の同郡のセルリーの総生産額は前年比7.3%増の4345万米ドル(45億1880万円)であり、収穫面積は減少したものの、単価が上昇したため、総生産額が増加した。
(ウ)対日輸出動向
2016年6月のセルリーの対日輸出量は、前年同月比33.0%減の555トンであった。また、輸出単価は前月から上昇し、前年同月比54.8%高の1キログラム当たり0.96米ドル(100円)であった(表9)。
(エ)東京都中央卸売市場の入荷量および価格
2016年6月の東京都中央卸売市場の米国産セルリーの入荷量は、前年同月比35.9%減の25トンとなった。一方、卸売価格は、前年同月比11.2%高の1キログラム当たり208円であった(表10)。なお、同月に最も入荷量が多かったセルリーは長野産(679トン)であり、価格は米国産を51.0%上回る1キログラム当たり314円であった。また、同月は、少量のニュージーランド産や豪州産の入荷もみられた。
(2)トピックス
~カリフォルニア州の「持続可能な貨物輸送行動計画」~
カリフォルニア州は2016年7月、「持続可能な貨物輸送行動計画(California Sustainable Freight Action Plan)」を公表した。同計画の策定には、交通局、環境保護局、天然資源局、空気資源ボード、州交通省、エネルギー委員会および知事室内ビジネス経済局が、関連部局として関わった。同計画の目的は、①輸送効率の改善、②温室効果ガス排出ゼロ技術への移行、③カリフォルニア州の輸送システムの競争力強化である。
同計画の中には資金源確保のための施策や、上記目標を達成するために2030年までに遂行すべき具体的な行動などが明記されるとともに、短期的に実施するパイロットプログラムの案が盛り込まれている。
ア 現状
カリフォルニア州は、米国最大の海外貿易の拠点であり、全米の総輸出額の11%を占める。2014年の州貨物輸送業界のGDPは7400億米ドル、労働力は500万人であり、貨物輸送の中には輸送の他に、保管施設、電力網、貿易、製造加工、建設、農業および鉱業などの分野も深く関わっている。同州には12の深水港、6000マイルの鉄道網、12の貨物輸送対応空港などがある。主要な貨物輸送拠点は4つあり、中でもロサンゼルス~インランド・エンパイア地域は全米最大の貨物輸送拠点である。貿易についても、カリフォルニア州は連邦道路庁(Federal Highway Administration)によると、人口の増加などに伴い、カリフォルニア州の貨物輸送量と輸送額は、2015年から2045年の間にそれぞれ59%、133%増加すると見込まれている。一方、物流の増加が原因で、同州では激しい交通渋滞や港湾・国境での物流の停滞といった問題が発生している。また、貨物輸送の大半はトラックであるため、大気汚染および騒音といった問題もある。同州のディーゼルPM(排気微粒子)の半分、酸化窒素排出量の45%は貨物輸送によるものである。
イ 計画の概要
「持続可能な貨物輸送行動計画」では2050年までの長期的ビジョンとともに、2030年までの具体的な目標が以下の通り定められている。
■ 2050年ビジョン
・ 連邦政府、州政府、地方政府、業界などとの連携を通じて、カリフォルニア州の経済および生活環境を維持するような近代的で統合された、力強い貨物輸送システムを実現する。輸送は安全で効率的、温室効果ガス排出ゼロまたは排出ゼロに近いクリーンで代替可能な燃料によって動く輸送車または設備によりいかなる場所へでも貨物を輸送できるようにする。
■ 2030年までの目標
・ 輸送システムの効率性を25%改善する
・ 温室効果ガス排出ゼロ輸送車および設備を10万台展開する。これにより、排出ゼロ輸送車や代替可能なエネルギーを使用した設備を増やすことで排出ゼロに近づける(2020年まで)。
・ 貨物輸送量の増加に資する政策やプログラムを制定する。これにより、貨物輸送業界に柔軟性、効率性および投資増加を促進し、将来的な経済成長を促す。
「2030年までの目標」は、達成目標ではなく、持続可能性を実現するための「意欲的な進捗状況の目安」であると記されており、州政府はこれらの進捗状況を評価した後、2019年に修正の必要性について検討するとしている。また、関係部局間の役割分担の明確化と協調体制が、同計画の重要な部分となっている。具体的には、今後産業界や市民団体と連携し、競争力強化、システムの効率化、労働力開発および規制・許可手続きの改善といったワーキンググループが設置される予定である。
同計画は、州政府がこれまで実施してきた環境対策や輸送対策など各種施策との整合性が保たれている。環境対策では、2015年に制定された目標(2030年までに温室効果ガス排出量を1990年比で40%削減)が、同計画の中でも踏襲され、排出ゼロ輸送車の導入などが盛り込まれている。輸送についても、同州が2015年に定めた「5カ年インフラ計画」と同様に、既存道路のメンテナンス・整備事業に焦点が当てられている。
財源については、2015年にオバマ大統領が署名した「米国陸上交通修復法(Fast Act)」によりカリフォルニア州が受け取る見込みの約1.2億米ドル以上の資金に加え、2016年1月にブラウン知事が発表した交通向け資金投入計画から約20億米ドルを貨物輸送インフラ投資に充てる予定である。
一方で、同計画に記されている以下の3つのパイロットプロジェクトは今後3年以内に実施することが定められているものの、その導入のための予算は確保されていない。
■ 3年以内に実施するパイロットプロジェクト
・ 輸送車向けの乳製品由来バイオメタンプロジェクト(サン・ホアキン・バレー):乳製品由来バイオメタンの商業化と輸送車向け給油施設の整備。
・ トラック輸送回廊向けの高度技術の導入(南カリフォルニア):幹線道路および高速道路などでの貨物輸送優先信号制御、交通情報システムおよび通信システムの導入。
・ 国境における高度技術回廊の導入(米墨国境):ブルートゥース(Bluetooth)またはGPSを利用した交通制御技術などの導入。
ウ まとめ
今回発表された行動計画では、これまであった「交通」、 「インフラ」、 「環境」といった分野ごとの政策を「貨物輸送」という横断的な枠組みの中で、整合性を保ちながら、2050年のビジョンに沿って網羅的にまとめている。さらに、目標を達成するための分野ごとの具体的な行動および2030年までの目標の設定が行動計画の中に設けられることにより、各分野の目標が確実に達成できるようになっている。資金源についても、連邦政府基金または既存の州政府基金を活用する点も注目に値する。
また、今回の計画では、これまでの分野別の計画や政策とは異なり、複数の部局を関わらせることで、より網羅的に取り組めるとの期待がある。その半面、目標はあくまでも目安と明記され、パイロットプログラムの予算も現段階では確保されていない点は、今回の計画の懸念事項と言える。カリフォルニア州は今後、業界関係者との協議を経て、ワーキンググループの設置、行動計画のより具体的な項目の策定の他に、予算確保のための法整備などの作業を進める予定である。2018年7月には計画の進捗状況に関する報告書をまとめることとなっている。
行動計画の作成に当たって、ワーキンググループに参加したカリフォルニアの農業関連団体は、網羅的な計画の内容を評価したものの、温室効果ガスの40%削減や排出ゼロ輸送車の導入などについて、これらの措置は結果的に農産物のコスト高を招く恐れがあると指摘している。