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海外情報(野菜情報 2016年9月号)


エクアドルのブロッコリーの生産および輸出動向(後編)

調査情報部


【要約】

 通年生産が可能であり、その大部分が輸出用として栽培されているエクアドルのブロッコリーについて、前月号(2016年8月号)では生産状況を中心に報告した。引き続き今号では、サプライチェーンや、日本向けも含めた輸出の動向について報告する。

3 業界の構図

(1)サプライチェーン

エクアドルのブロッコリーのサプライチェーンは、大きくつの工程(育苗、栽培、加工、流通、輸送および消費)に分かれる(図)。この中で、加工業者は国内の工程で主導的な役割を担っている。



苗の生産は主にNintanga社、Pilvicsa社、Asvegetal社の社が行っており、それぞれが提携関係にある。加工業者の栽培計画に沿って苗の生産を行っている。加工業者は自社または傘下企業で生産し、不足分を中規模または小規模生産者から契約栽培などにより調達している。

国内のブロッコリー市場は月120トンと小さく、生産の95以上は輸出に向けられる。前述の大手加工・輸出業者であるProvefrut社、Ecofroz社、Nova社の社は、いずれも海外市場向けにブロッコリーの冷凍・加工を行い、国内向けにはNintanga社や小規模生産者らが生鮮の状態で卸している。国内向けのブロッコリーは輸出向けと同品種で、かつ、生育過程も同じであるが、通常、輸出向けの要件(色、外見など)を満たさなかった商品が国内市場に回される。国内では冷凍ブロッコリーの需要がほとんどなく、生鮮が主要な販売方法であり、茎は食されないため、茎が短くカットされている場合が多い(写真6)



輸出について、加工・輸出業者は、海外の輸入業者またはブローカーと取引している場合が多い。主な輸出市場は北半球であるため、輸送方法は海上輸送が多く、主な輸出港はグアヤス県に位置するグアヤキル港である。同港はエクアドル最大の港であり、荷役作業コストが近年高騰している。また、エクアドルは太平洋側に面しているため、米国の東海岸または欧州市場向けはパナマ運河を通過しなければならず、同運河の通航料金上昇により輸送費が高くなる傾向がある。これらの費用が、輸出の課題となっている。

なお、本文中の為替レートは、米ドル105円(2016年月末日TTS相場105.42円)を使用した。

(2)業界団体

野菜輸出業者を束ねる団体として、2004年に設立されたAPROFEL(エクアドル青果豆類生産者協会があり、野菜の大手生産者と大手加工・輸出業者が加入している。APROFELは、その取扱量の大きさから、ブロッコリー生産者の存在感が大きい。

業界としては、今後、最新技術の導入を通じた生産コストの削減を目指している。特に人件費の削減を主要な課題と位置付けており、 人材開発にも取り組むとしている。また、現在発生している干ばつに対応するため、ブロッコリー生産者に対し、より節水効果の高いかんがい設備や貯水池の整備への投資を促している。

4 輸出動向

(1)輸出拡大の背景

世界的なブロッコリー需要の高まりと、北半球と季節が逆転していることはエクアドルのブロッコリー産業に発展をもたらした。ブロッコリーは、栄養価が高い点が先進国を中心に評価されている。エクアドル産ブロッコリーの最初の輸出は、1990年のProvefrut社によるドイツ向け輸出であった。90年代はヨーロッパが主要な輸出先であったが、2002年以降は、米国が最大の輸出相手国となっている。また、同時期に日本向け輸出も増加した(日本市場についてはで詳述)。1997年から2007年の10年間で、ブロッコリーの輸出量は年率17の成長を遂げてきた。

生産地から加工場、そして港までのインフラが整備されていること、さらに米国を中心とする先進国への貿易アクセスが自由化されていた点も有利に働いてきた。具体的な例として、米国のアンデス貿易振興麻薬撲滅法(ATPDEAAndean Trade Promotion and Drug Eradication Act)が挙げられる。米国は1991年から続いていたアンデス諸国関税優遇法(ATPA)の後、2002年にATPDEAを結び、無関税で米国市場にブロッコリーを含む作物を輸出することが可能となった。EUとの貿易でもEUの一般特恵関税制度(GSP:Generalized System of Preferences)により、1991年から農水産物の関税がほぼ撤廃された形での輸出が可能となっていた。

しかし、米国からの優遇措置であったATPDEAは2013年月31日に失効し、更新されなかったことから、2013年後半以降、エクアドル産ブロッコリーに対して14.9の関税が課されている。このため、2013年の米国向け輸出量は、前年に比べて22.7減少した(図)。こうした事態を受けてエクアドル政府は、輸出業者の損失を軽減するため、米国の輸入関税(14.9)に相当する金額のてんを輸出業者に適用し、米国向け輸出を後押ししている。つまり、無税で米国市場に入っているメキシコやグアテマラ産ブロッコリーに価格面で不利にならないように1000米ドル分のブロッコリーを輸出すると、エクアドル政府は関税相当額(149米ドル)を輸出業者に補塡している。なお、2014年11月以降、補塡率は10に引き下げられている。



EUへの輸出については、ペルーとコロンビアがEUと自由貿易協定を締結したことを踏まえ、エクアドル政府はEUとの自由貿易協定の交渉に乗り出した。交渉はすでに2014年7月に終了しており、2016年中には発効すると見込まれている。これにより、これまで享受していたEUGSPは2016年末で終了するとの決定がなされた。毎年更新が必要であったGSPと異なり、自由貿易協定の下で恒久的に無税になることから、輸出に安定をもたらすとみられている。

また、ブロッコリー業界は、米国のATPDEA終了を契機に中東諸国やロシアなど新規輸出先の開拓に動いており、2014年には、UAEのドバイを本拠とするエミレーツ航空の機内食に採用されたほか、UAE向けの輸出が開始された。

過去年の輸出量を見ると、2013年を除き堅調に推移しており、2015年は6万トンを超えた。2013年に輸出が減少したのは、ATPDEA終了の影響に加え、欧州の経済低迷も背景にある。2014年以降に回復した要因としては、日本市場で評価が高まっていることに加え、米国と欧州市場の緩やかな経済回復が挙げられる。また、エクアドル政府が実施している米国向けの関税相当額の補塡対策も、一定の好影響を与えているとみられる。2015年の最大の輸出先は、米国向けで全体の33を占める。次いで、第位の日本向けが30、第位のドイツ向けが13を占めている。ドイツにはProvefrut社の提携企業があり、ドイツ経由で近隣国に供給されている。欧米市場では、特に有機ブロッコリーの輸出が増えている。

また、近年、ロシア向け輸出も増加しているが、これはウクライナ問題を発端にロシアが欧米からの農畜産物の禁輸措置を講じている影響で、エクアドル産などに代替需要が生じていることによる。輸出金額および輸出単価は、近年の世界的な需要増に呼応して上昇傾向にある(表)。



主要な輸出先である米国向けは、米国産の供給が少ない年末年始(11月月)に最需要期となることから、これにあわせて輸出できるよう栽培される。このため、エクアドル産ブロッコリーの月別輸出推移を見ると、8~11月にもっとも多い(図)。輸出企業は、輸出先の需要期に合わせて生産・輸出計画を作成している。



(2)輸出形態

米国向けのエクアドル産ブロッコリーは冷凍品であり、主に業務用に向けられる。輸出先の市場のニーズに応える形で加工して輸出される。例えば、米国で好まれるブロッコリーは茎が長く、細長いフローレット(小花蕾)である一方で、欧州では茎を短くカットする小ぶりなフローレットが好まれる。このような対応は補完的であり、カット次第で両市場に合わせた加工が可能とされる。そのほか、ブロッコリーを刻んだ形態や花蕾と茎を含めた細かいカットなどもある。

ブロッコリーは、通常8~10キログラム程度の箱に詰められて輸出される。輸出されるブロッコリーの梱包には買い手側のロゴが付けられ、エクアドル企業のロゴが付されることはない。傷みやすく、生鮮のままでは3~5日程度しか持たないことから、収穫から冷凍までの所要時間は最大でも12時間とスピーディな加工が行われている。なお、IQF(個別急速冷凍)により5560日間の保存が可能で、IQF後の工程および輸送は全てリーファーコンテナで行われる。

輸出条件は、輸出企業と輸出先により異なる。最大手であるProvefrut社は、日本を除き基本的にはEX-Works(工場渡し)条件で輸出しており、日本への輸出はFOB(本船渡し)である(表)。



米国には複数の輸出先企業がある一方で、ドイツでは提携している業者を通じて近隣国に配送するというスタイルを取っている。日本に対しては商社を通じて輸出している。

(3)価格・コスト動向

エクアドル農牧水産省の国家農業情報システム(SINAGAP)は、10アル当たりの生産コストとその内訳を公表している(表10)。2014年の10アール当たりの生産コストは210.9米ドル(万2145円)である。これらのデータは主要な品種であるAvenger種およびLegacy種を基に算出されている。SINAGAPによれば、これらの品種の平均密植度合いは10アール当たり5400株である。生産コストの中で最も大きな割合を占めるのは、施肥作業であり、これは、ブロッコリーの生育に多くのカリウムを必要とするためである。定植作業には苗の購入費用と従業員の労働賃金も含まれており、施肥に次ぐ大きな割合を占めている。病害虫対策には輸入の農薬が用いられており、生産コストの主要変動要因となっている。



編で述べた通り、ブロッコリー生産の多くの作業は手作業で行われているため、人件費が生産コストに占める割合が高くなっている。SINAGAPによれば、10アール当たりの収穫作業に必要な労働者数は5.5人であり、ほかの作物に比べて多くなっている。

他方、ブロッコリーの生産から加工までの生産コストに関する調査報告もある。これによれば、生産・加工過程は大きく育苗、栽培、加工のステージに分かれる。育苗するステージでは、種子のほかに投入育苗ハウスといったコストも発生する。エクアドル商工会議所が公表しているデータによれば、育苗ステージのコストのうち、種子は60、投入物は15、育苗ハウス、かんがいなどのインフラは残りの25を占める。

投入物についても輸入品が多い。インフラのうち、かんがいについては、乾季が中心となるものの、年間を通じてメンテナンスが必要であることから、生産コストの割を占めている。また、インフラには、育苗ハウスからほ場へ、そしてほ場から加工場への輸送コストも含まれる。

加工ステージでの項目別のコスト割合は、表11の通りである。原料は生産されるブロッコリー、梱包材は各買い手が指定する梱包材を指している。加工業者は顧客の要望に合わせて梱包材を調達しているため、梱包材は多岐にわたる。エクアドルにはバナナやコーヒーといった輸出向け商品が多くあり、これらに資材を供給する梱包業者が多数存在しているため、梱包材のほとんどは国内調達が可能である。急速冷凍機などの機材は輸入品であり、国内での部品調達が難しいことから、コストの増加要因となっている。



5 日本市場でのエクアドル産ブロッコリー

対日輸出は、過去10年、順調に増加している。2011年以降の輸出量は万トンを超え、2015年には万8335トンを記録した(図)。現在では大加工・輸出業者のうち社が、日本の企業と取引を行っている。

収穫されたブロッコリーは、生鮮のまま加工場に運ばれ、冷凍加工した後、冷凍コンテナでグアヤキル港から出荷される。エクアドル産ブロッコリーの特徴としては、①鮮やかな緑色、②トレーサビリティが可能、③害虫が少ない、④繊維質が少なく一房ずつハンドカットされている、などが挙げられる。

日本向け輸出額の推移は、表12の通りである。エクアドル産ブロッコリーの平均輸出単価より2~3割程度高い。この要因として、日本向けは規格や加工面で他国向けよりもコストがかかるため、割高となっていると考えられる。エクアドル産ブロッコリーは、日本国内で、小売用(冷凍品)として量販店やコンビニエンスストアで売られているほか、加工業務用として外食においても利用が広がっている。エクアドル産は品質、生産量が安定していることから、日本の冷凍企業との取引が増え、対日輸出量が増加している。

なお、世界的な価格の上昇に伴い、日本向け単価も上昇傾向を示している。





6 おわりに

1990年代から本格化したエクアドルのブロッコリー生産および輸出は大きな成長を遂げ、現在では同国の主要輸出品目の一つとなっている。この目覚ましい成長の背景には、南半球に位置するエクアドルの地理的条件と並び、ブロッコリーの生育に適する肥沃な土地が挙げられる。年を通して生産が可能のため、北半球の需要期に合わせて栽培計画が立てられている。また、大手加工・輸出業者社では、生産から輸出まで行う垂直的な生産体制が整っている点も高い競争力の要因の一つである。

主要輸出先である米国向けは現在、エクアドル政府による財政支援を得て輸出競争力を維持している状況にある。

また、2000年代から本格化した日本向け輸出は順調に拡大している。エクアドル政府や業界は、今後のさらなる輸出拡大を目指しており、ブロッコリーの輸出は今後も引き続き拡大するとみられている。



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