調査情報部
にんにくの生産・価格・輸出動向
(1)生産動向
ア 主産地の概要
中国のにんにくの主産地は、山東省、河南省、江蘇省などであり、中でも山東省は、全国のにんにく作付面積の過半を占める最大の生産地である(図1)。作型は秋植えのみであり、9月ごろに植え付け、翌6月ごろに収穫する。また、通常、マルチ栽培であり、品種は「金蒜3号」や「金蒜4号」など現地の品種が一般的である(図2)。
なお、本稿中の為替レートは1元=16円(2016年7月末日TTS相場:15.98円)を使用した。
山東省におけるにんにくの作付面積は15万3000ヘクタール(2015年)である(表1)。中でも、南部の済寧市金郷県と臨沂市蘭陵県(旧蒼山県)が主産地となっており(図3)、金郷県は4万5000ヘクタール、蘭陵県は2万4000ヘクタールをそれぞれ占めている。
ここ数年、山東省のにんにくの作付面積および収穫量は、減少傾向にある。生産コストの上昇などに伴い収益性が悪化していることや、2015年の秋と2016年の春に、平年に比べ気温が低かったことが、影響している(表1、写真1)。
イ 栽培コスト
2015年の10アール当たりの栽培コストについて、臨沂市蘭陵県の動向を見ると、5685元(9万960円、前年比14.8%)と、土地代、種苗費、農機具費、人件費を中心に前年よりも上昇している。特に、人件費は、繁忙期の労働力不足や、より質の高い労働力を求める傾向などから、上昇傾向となっている。また、農機具費は、収穫機の普及に伴い上昇している(表2)。
ウ 加工コスト
2015年の生鮮にんにく1トン当たりの1次加工(産地からの集荷、選別、出荷調製までの一連の工程)コストについて、済寧市金郷県の動向を見ると、賃金の上昇による人件費の上昇と、それに伴う管理費の上昇により、2013年を上回っている。なお、他の項目については、近年、大きな変化は見られない(表3)。
(2)価格動向
山東省のにんにくの卸売価格を見ると、収穫期前の1~3月は高く、収穫期が始まる5月前後に下落し、その後、供給量の減少に連れて、上昇している(図4)。2015年から2016年にかけては、平年に比べ低温となった影響により収穫量が減少したため、価格が上昇し、さらには、価格の上昇により、今後のさらなる相場上昇を期待した農家が出荷を見合わせたことから、2015年8月ごろから、高騰した。その後、2016年の収穫期を迎え、ピーク時に比べ下落している。
(3)国内向け出荷・輸出動向
中国で収穫されたにんにくは、市場出荷、加工輸出企業による買い付け、商社による買い付けがそれぞれ3分の1程度となって流通している。また、国内仕向けと輸出の割合は、ほぼ半々となっている(図5)。
ア 国内向け
国内仕向けは、半分弱が近隣の大都市である北京や天津向けとなり、約3割が山東省向け、残りが他の地域向けとなっている。近年は、収穫量の減少と、それに伴う価格上昇による需要減退の影響から、国内仕向けは減少傾向となっている。
イ 輸出向け
近年のにんにくの輸出量は、国際的な需要の高まりを受け、堅調に推移している。輸出仕向けは、さまざまな形態で行われるが、生鮮(冷蔵)の割合が約9割であり、その他、冷凍、乾燥、酢漬けなどがある(表4)。形態別・国別に見ると、生鮮(冷蔵)は、東南アジア諸国向けが主体であり、日本は第6番目の輸出先である。このため、日本にとって、中国は最大の輸入先国であるものの、中国の輸出量全体から見れば、日本は、特別大きな市場ではないことがわかる。一方、冷凍は、ほぼ全量が日本向けとなっており、乾燥は米国向け、塩水漬けは日本向け、酢漬けは韓国向けが中心である。
(1)ブロッコリー、レタス、セルリーおよびたまねぎの生産動向
ア ブロッコリー
(ア)作況および作付面積
ブロッコリーの収穫は産地が北上し、6月下旬にはスタニスラウス郡で行われていた(図1)。また、出荷量は、7月中旬時点では、生育条件が良好であることから安定しつつある。大手野菜生産出荷業者によれば、サンホアキンバレーでは水不足対策の一環として、今期はレタスの栽培面積を縮小し、代わりにブロッコリーやニンジンなどの栽培面積を拡大する傾向がみられているという。
野菜の主産地であるモントレー郡が6月末に公表した「2015 Crop Report」によると、2015年の同郡のブロッコリーの作付面積は2万4968ヘクタールと、前年に比べ2.9%減少した。また、生産量は生鮮向けが32万7000トン(前年比6.6%減)となった一方、加工・業務用は11万7000トン(同2.6%増)となった。
なお、本稿中の為替レートは、1米ドル=105円(2016年7月末日TTS相場:105.42円)を使用した。
(イ)生産者価格
2016年5月のブロッコリーの生産者価格は、品質および収量にバラツキが発生し、出荷量が不安定であったため4月に比べ上昇し、前年同月比11.7%安の1キログラム当たり1.06米ドル(111円)となった(表1)。6月中旬から7月初旬にかけては出荷量の安定などに伴い、価格はやや落ち着きを見せ、サリナスバレーでの7月最終週時点の価格は1カートン(14個)当たり約7.5米ドル(1キログラム当たり0.72米ドル:約76円)で出荷されていた。
なお、前述のモントレー郡のレポートによれば、昨年、同郡のブロッコリーの総生産額は前年比2.7%増の4億2300万6000米ドル(444億1563万円)であり、2014年同様、リーフレタス、いちご、結球レタスに次ぐ4位であった。
(ウ)対日輸出動向
2016年5月のブロッコリーの対日輸出量は、前年同月比10.1%減の2117トンであった。輸出単価は前年同月並みの1キログラム当たり1.17米ドル(123円)と、今年に入ってから安定して推移している(表2)。
2015年、モントレー郡のブロッコリーの輸出量は3万7759トンとなり、同郡の青果輸出量の12.2%を占めたものの前年に比べ10.1%減少した。この要因として、米国西海岸の湾岸労働者のストライキや、生鮮ブロッコリーの収穫面積や単収、および収穫量の減少などが挙げられる。
(エ)東京都中央卸売市場の入荷量および価格
2016年5月の東京都中央卸売市場の米国産ブロッコリーの入荷量は、前年同月比17.8%減の143トンであった。平均価格は1キログラム当たり323円(前年同月比9.3%安)と、前月に比べやや下落した(表3)。5月に同市場で最も入荷量が多かったブロッコリーは香川産(676トン)であり、価格は米国産を大幅に上回る1キログラム当たり519円であった。
イ レタス
(ア)作況および作付面積
7月初旬、モントレー郡では結球レタスの収穫が行われていた。6月中旬から下旬にかけて、産地は猛暑に見舞われ、レタスの単収は低く、品質も不良と報告されていた。7月から天候は一転し、平年より涼しい日が続いたため、単収はさらに減少した。しかし、7月中旬からは好天により、レタスの単収および品質は回復しつつあると報告されている。
前述のモントレー郡のレポートによれば、2015年の同郡におけるレタス類の作付面積は、結球レタスが1万7321ヘクタール(前年比3.2%減)で、リーフレタス(ロメインレタス等を含む)が、2万6231ヘクタール(同0.2%減)であった。また、生産量は、結球レタスが4289万8000カートン(同3.0%減)、リーフレタス(ロメインレタス等を含む)は6928万8000カートン(同1.9%増)であった。
(イ)生産者価格
2016年5月の結球レタスの生産者価格は、廃棄処分や病害が多かったことから前月に比べ上昇し、前年同月比30.9%高の1キログラム当たり0.72米ドル(76円)となった(表4)。
例年通りであれば、7月には米国の各地域でレタスが収穫されるため、カリフォルニア産レタスの需要が減少し、出荷量も減少する。しかし、今年はカリフォルニア産レタスの需要は比較的高い水準で推移しており、激しい気候変動により単収も7月初旬まで減少傾向にあったため、結球レタスの価格は高騰した。7月2週目の時点では結球レタスは1カートン当たり約17米ドル(1キログラム当たり約79円)、ロメインレタスは約11米ドル(1キログラム当たり約51円)、グリーンリーフレタスは約7米ドル(1キログラム当たり約32円)で取引されていた。なお、ロメインレタスおよびグリーンリーフレタスの価格が下落した要因としては、カナダ産および米国北東部産の出荷が始まったことが挙げられる。
前述のモントレー郡のレポートによれば、2015年の同郡のリーフレタス(ロメインレタス等を含む)総生産額は、前年に引き続き青果物生産額の中で最も多く、前年比12.1%増の8億6944万7000米ドル(912億9193万5000円)であった。この要因としては、リーフレタスの単収および単価上昇が挙げられる。一方、結球レタスの生産額は2.2%減少し、6億3710万4000米ドル(668億9592万円)で、3位であった。
(ウ)対日輸出動向
2016年5月の結球レタスの対日輸出量は前年同月比18.3%減の197トンであり、輸出単価は1キログラム当たり1.13米ドル(119円)であった(表5)。一方、その他のレタスは、対日輸出量は前年同月比575%増の27トンであり、輸出単価は1.07米ドル(112円)と、今年に入ってからの最安値を更新した(表6)。
なお、前述のモントレー郡のレポートによると、2015年の同郡のレタス輸出量は16万9400トンとなり、前年と比べ9.9%減少したものの、同郡の青果物輸出量の54.6%を占めた。
(エ)東京都中央卸売市場の入荷量および価格
2016年5月の東京都中央卸売市場の結球レタス以外の米国産レタス(ロメインレタス、フリルレタスなど)の入荷量は、前年同月比78.2%減の0.24トンで、卸売価格は同57.0%高の1キログラム当たり518円であった(表7)。一方、米国産結球レタスは、4月に引き続き5月も入荷されなかった。
ウ セルリー
(ア)作況および作付面積
セルリーの収穫は、7月上旬にはサリナスバレーで行われていた。同産地の天候は不安定であったものの、セルリーの品質はさほど影響されず、良好と報告されている。また、大手野菜生産出荷業者数社によれば、収量も安定しているという。
前述のモントレー郡のレポートによれば、2015年のセルリーの作付面積は4896ヘクタール(前年比4.0%減)で、生産量は、生鮮向けが36万3000トン(前年比9.9%減)、加工・業務用は3万1600トン(同9.7%減)であった。
(イ)生産者価格
2016年5月のセルリーの価格は、収穫期のずれなどを受けて上昇し、前年同月比1.7%安の1キログラム当たり0.58米ドル(61円)となった(表8)。6月中旬から7月初旬にかけて、セルリーの価格は比較的強い需要を背景に上昇傾向にあった。独立記念日の7月4日以降、価格はやや落ち着き、サリナスバレーの7月最終週時点の価格は1カートン(24茎)当たり約8米ドル(1キログラム当たり0.20米ドル:約31円)で取引されていた。ある大手野菜生産出荷業者は、今年の夏、セルリーは同約10~12米ドル(1050円~1260円)の価格帯で推移すると予測している。
前述のモントレー郡のレポートによれば、2015年の同郡のセルリーの総生産額は前年比25.0%増の2億2578万9000米ドル(237億784万5000円)であり、リーフレタス、結球レタス、ブロッコリーなどに次ぐ7位と、前年から順位を一つ上げた。この要因としては、生鮮セルリーの単価が約4割上昇したことが挙げられる。
(ウ)対日輸出動向
2016年5月のセルリーの対日輸出量は、前年同月比40.7%減の607トンであった。また、輸出単価は前月からやや上昇し、前年同月比35.4%高の1キログラム当たり0.88米ドル(92円)であった(表9)。
前述のモントレー郡のレポートによれば、2015年の同郡のセルリーの輸出量は前年比23.7%減の1万9393トンと、同郡の青果物輸出量の6.2%を占めた。なお、同郡のセルリー輸出量は、2013年に同8.6%減、2014年に同23.8%減と、3年連続で減少している。
(エ)東京都中央卸売市場の入荷量および価格
2016年5月の東京都中央卸売市場の米国産セルリーの入荷量は、前年同月比28.6%減の25トンとなった。一方、卸売価格は、前年同月比24.0%高の1キログラム当たり222円であった(表10)。なお、同月に最も入荷量が多かったセルリーは長野産(252トン)であり、価格は米国産を79.7%上回る1キログラム当たり399円であった。また、同月は、少量のオランダ産およびニュージーランド産の入荷もみられた。
エ たまねぎ
(ア)作況および作付面積
米国農務省が2016年2月に公表したレポートによれば、2015年のワシントン州のたまねぎの作付面積は、貯蔵用夏たまねぎが8094ヘクタール、非貯蔵夏たまねぎが809ヘクタールと、それぞれ前年と同水準であった。貯蔵用夏たまねぎの収穫面積は作付面積をやや下回ったが、単収は前年に比べ6%増加した。一方、非貯蔵夏たまねぎの収穫面積は作付面積と同じであったものの、単収は前年に比べ5%減少した。
また、同州を含む米国北西部における2016年のたまねぎ作付面積は前年並み、またはやや拡大と予測されている 。
作況としては、同州では5月初旬の時点で76%の作付が完了し、3割弱は既に土から球の一部が出ていた。6月末にはほぼ全て(99%)のほ場で玉の一部が土から出ており、7月中旬の報告によれば今年は、8割強は品質良好となっているが、強風や害虫などによる被害も報告されている。同州の主要なたまねぎの産地は、ワラワラ郡である(図2)。
なお、同州におけるたまねぎの定植および収穫時期は、図3の通りである。
(イ)生産者価格
2016年5月のたまねぎの価格は、前年同月比32.6%高の1キログラム当たり0.57米ドル(59.9円)であった。6月中旬、ワシントン州ワラワラ郡は今年初の出荷を迎え、1カートン(約18キログラム)当たりコロッサルが18米ドル(1キログラム当たり1米ドル:約105円)、ジャンボが16米ドル(同0.89米ドル:93円)、ミディアムが14米ドル(同0.78米ドル:82円)であった(注)。収穫が本格化し出荷量が増えるにつれ、価格は若干落ち着く可能性があるが、7月2週目の時点ではコロッサルが17米ドル(同99円)、ジャンボが16米ドル(同93円)、ミディアムが14米ドル(同82円)と、初出荷時とほぼ同じ水準で推移した。
(注)たまねぎの大きさの規格。全米たまねぎ協会によると、コロッサル(9.5センチメートル以上)、ジャンボ(7.6センチメートル以上)、ミディアム(5.1~8.3センチメートル)が最も一般的な大きさとされている。
(ウ)対日輸出動向
2016年5月のたまねぎの対日輸出量は、前年同月比35.7%増の38トンであった。また、輸出単価は同27.5%安の1キログラム当たり1.24米ドル(130円)となった。また、同月の乾燥たまねぎは、対日輸出量が373トン(前年同月比78.5%増)、輸出単価は前年同月比7.1%安の2.48米ドル(260円)であった。
(エ)東京都中央卸売市場の入荷量および価格
2016年5月の東京都中央卸売市場の米国産たまねぎの入荷量は、前年同月比98.1%減の0.3トンと大幅に減少した。これは、国産品に不足感が生じなかったことや、米国産の卸売価格が前年同月比9.7倍の1キログラム当たり1074円と、高かったことに起因しているとみられる。なお、5月に同市場で最も入荷量が多かったたまねぎは佐賀産(5300トン)であり、平均価格は米国産を92.9%下回る1キログラム当たり76円であった。
(2)トピックス
~遺伝子組み換え食品に関する情報公開が法制化される~
遺伝子組み換え(GMO)食品に関する情報公開法は2016年6月に米連邦上院を通過し、続いて7月14日に下院で可決された後、7月29日にオバマ大統領が署名したことで正式に成立した。GMOの表示に関する議論は、米国では約20年前から行われ、近年では州が独自の州法を制定するなどの混乱が生じていた。今回の法制化により、GMOに関する情報の公開義務が全米で適用されることになり、こうした混乱が防げるとの見方がある。他方、成立した法律の内容に関する批判もあり、今後の動きが注目される。
ア GMOの表示義務をめぐる州レベルの動き
GMO食品が米国市場に流通するようになってから約20年が経過するが、これまで多くの市民団体がGMOの表示義務化を主張してきた。しかし、業界団体の反対もあり、連邦政府はGMOの安全性は通常の食品と同等であるとして、表示の義務を不要としてきた。近年では、表示の義務化に関する論争はカリフォルニア州を皮切りに、州レベルに移り、多くの混乱を招いている。同州では、GMOが人間および環境にとって潜在的な危険をもたらし、多くの国で表示の義務化が定められている現実を鑑みて、同州でも消費者に情報を提供すべきであるとの消費者団体等の主張と、表示の義務化が価格の値上げを招くとする食品業界の主張が対立し、表示義務の是非が州民投票で決められることになった。双方の激しいキャンペーンの結果、2012年11月にカリフォルニアの州民投票でGMO表示の義務化が否決された。
GMO表示の義務化をめぐる論争はその後ワシントン州、オレゴン州、メーン州、コネチカット州などでも州民投票や議会投票で争われ、後者の2州では義務化が可決されたが、他州が義務化を定めた場合のみ施行するという条件が付いた。2014年時点では全米29州で表示義務化に関する法案が議論されており、表示の義務化を定める州とそうでない州が現れ、混乱が生じるとともに食品メーカーにとっても生産コスト高の恐れが指摘されていた。
イ 賛成および反対側の主張
消費者団体であるConsumers Unionやオーガニック食品消費者協会、自然食品スーパーのホールフーズなどが、消費者の知る権利や潜在的な危険性といった観点からGMO表示の義務化を主張している。これらの団体によれば、米国民10人中9人がGMOの表示義務を支持している。
他方、義務化に反対する主な団体や企業は食料品製造業者協会(Grocery Manufacturers Association, GMA)、モンサント社、クラフトフーズ、ゼネラルミルズ社、ケロッグ社などであり、各州で大々的な反対キャンペーンを繰り広げていた。反対派によれば、GMOの危険性は科学的に裏付けられておらず、表示の義務化が食品価格の上昇を招きかねない。米国ではトウモロコシ、大豆、菜種などの作物は遺伝子組み換えであることがほとんどで、GMAによれば、米国民が消費する食品の7~8割はGMOであり、非常に高い割合で普及している。GMO作物はまた、通常の作物に比べて水や農薬の使用量が少なく、収量が高いため、消費者にとって安く食品が手に入るといったメリットがある。GMOの表示が義務化されれば、GMOとそうでない食品の区別が必要となり、GMOだけでなく全ての食品の価格が上昇すると、反対派が警告を鳴らしている。
ウ 連邦政府の動き
連邦政府が表示の義務化に関する法案に取り組む直接的なきっかけとなったのはバーモント州議会の法案可決であった。同州では2014年4月に遺伝子工学(GE)の原料を用いた食品の表示義務を可決し、他州の義務化を条件とせず、2016年7月1日からの施行を定めた。表示義務だけでなく、GMOの「Natural」といった表示の禁止も含まれており、食品メーカーにとって厳しい内容となっている。
各州が独自に法律を作る動きが活発化したことを受け、連邦議会では全米で統一されたGMO表示に関する法案が検討され、2016年7月に上下院の可決を得た法案が可決された。
同法案では食用GMOに関する情報の公開が義務化された。また、同法を所管する米国農務省(USDA)は、今後2年以内に「全米バイオ工学食品情報公開基準(National Bioengineered Food Disclosure Standard)」の策定を行うことになった。GMOの表示方法は文面ラベル、QRコード、無料通話番号の3つが示され、QRコードなどの場合、遺伝子工学技術が使われたことを商品に直接記載する必要がない。
QRコードを用いた表示方法の効果についてはUSDAが同法施行1年後に評価することが定められている。同法の対象となるのは、小売向けの商品であり、レストランなどの外食産業や遺伝子組み換えの飼料で育った家畜は情報公開義務がない。零細企業もまた、公開義務を負わないことになっている。さらに、食肉や卵を主原料とする食品については、例えそれらの飼料にGMOのトウモロコシや大豆が使用されていたとしても、同法の適用対象外である。
この法案は州法によるGMO表示義務化を禁止しているため、7月1日に施行されたバーモント州の法律は、同法施行と同時に無効になる。
エ 業界団体及び市民団体の反応
GMAなどの食品業界や関連企業は自主的な表示をこれまで主張してきたが、多くの大手企業はバーモント州の法制化に伴い、一部の商品について遺伝子工学技術の使用に関する表示を行ってきた。業界団体はさらなる混乱を避けるため、全米を網羅する法律の制定を求めた経緯がある。
今回の法案では、GMOの安全性に対する一定の理解が示されただけでなく、QRコードといった公開方法が認められたため、GMOに対する消費者の誤解を招かないと、業界団体は見ている。
今回の法案通過についてGMAは「消費者が遺伝子工学に関する情報を得ることができるとともに、州ごとに異なる法律が乱立することが避けられ、そして製造業者が単一の表示形式で商品を作ることが可能になる」として、これを歓迎している。さらに、QRコードや無料通話番号の表示が許可され、文面での直接表記が義務とされなかった点についても、「安全な技術に汚名を着せることなく、消費者の求める情報を提供できる正しい選択である」として評価している。
他方、GMOの表示義務を主張している市民団体「Consumers Union」は法案を「ごまかし」と呼び非難している。同団体によれば、法案が施行されると各州のGMO関連法が無効となるため、USDAが公開基準を定めるまで空白期間が生じ、複数の企業が既に行っていたGMOの表示を再びしなくなる可能性があると指摘している。また、USDAの定める公開基準の水準によっては、遺伝子組み換え原料を使った商品であっても、情報公開の義務を負わない恐れがある。さらに、食肉を主原料とする商品は対象外となり、同商品の中に遺伝子組み換え原料があっても情報公開の義務がないことを問題視している。
QRコードを用いた表示方法についても同団体は懸念を示しており、情報へアクセスできない消費者がいること、QRコードは既に多くの食品パッケージで普及しているため、コードの表記だけではその商品がGMOであるかどうかを判別することができないと主張している。
この法案は、「GMOの安全性」ではなく、「消費者の知る権利の保障」に論点が置かれた点が、民主・共和両党の合意を得ることができた要因であると言われている。事実、同法案に対しては、GMOの安全性が通常の食品と同等である旨が確認されている一方で、情報公開を義務化することにより、消費者の知る権利が保障されたとの評価がある。