調査情報部
1 はじめに
エクアドルのブロッコリー生産量は、2012年に7万トンに達した。これは世界の生産量の0.3%程度にすぎないが、輸出量では世界第7位となる5%(約6万トン)を占めている。エクアドルは、スペイン語で「赤道」を意味するが、その名の通り赤道直下の国であり、中央をアンデス山脈が縦断し、標高の高い地域が多い。このため、ブロッコリーの生育に適した冷涼な気候であり、1年を通じて栽培が可能である(図1)。同国では、企業による大規模経営の進展および品質により輸出競争力を獲得しており、近年、日本の冷凍ブロッコリー市場においても存在感を増している(図2)。
2 生産状況
(1)作付面積・生産量
エクアドルは外貨獲得手段として農産物輸出が盛んであり、従来からコーヒー、砂糖、バナナを中心に米国などに出荷してきた。1990年代に入り、輸出農産物の多様化が推進された中で、ブロッコリーは花き類のバラとともに新たな輸出品目として台頭し、生産も増加傾向にある。過去10年の推移を見ると、収穫面積は3430ヘクタール(2003年)から3666ヘクタール(2013年)に6.9%増加した。また、収穫量も、同期間に4万519トンから6万8858トンへ69.9%増加している(表1)。この背景には、先進国を中心とした世界的なブロッコリー需要の拡大が挙げられる。エクアドルのブロッコリー生産は、当初より輸出志向型であり、生産量の95%以上が輸出向けとして冷凍加工され、残りの5%未満が生鮮野菜として国内に出荷されている。
南半球に位置するエクアドルは、主要なブロッコリー生産・消費国である北半球の国々とは生産サイクルが異なるため、これらの国々の端境期に輸出が可能であり、世界的な需要の拡大に応える形で生産量は増加傾向にある。
(2)主要産地
エクアドル農牧水産省の国家農業情報システム(SINAGAP)によると、同国のブロッコリー生産は、国内24県のうち主に4県で行われている(図3)。中でも、内陸部で標高2700~3200メートルのアンデス山脈に位置するコトパクシ県およびピチンチャ県の2県で全収穫面積の82%、生産量の91%を占めている。これらの地域は標高が高いため病害虫の発生が少なく、日照量が多いほか、湿度は70~80%ながらも年間の平均気温は13~15度と冷涼な気候である。このため、ブロッコリーの生育に適し、1年を通じて栽培が可能である。
最大の生産県であるコトパクシ県は、収穫面積で50%、生産量で73%のシェアを誇る(表2、3)。収穫面積に比べて、生産量が多い要因としては、大規模経営を主体とした単収の高さが挙げられる。2012年の同県の10アール当たり収量は、2.82トンと全国平均の1.92トンを大幅に上回った。大手の加工業者が拠点を構えており、輸出港であるグアヤキル港から比較的近距離にあるため、大規模生産者が多く集まっていることや、土地が肥沃であり、優良種子が普及していることなども単収の引き上げを後押ししている。同県は、トウモロコシ、ばれいしょ、カカオ、花き類などの主産地でもあり、酪農を含め、エクアドルの主要な農業県に位置づけられているが、県内には活火山のコトパクシ山があり、2015年8月の噴火時は火山灰被害が一部で報告され、現在も警戒レベルが引き上げられている。政府は、コトパクシ山の噴火などの自然災害による農業への被害に対処するため、中小生産者向けの農業保険を用意している。
生産量第2位のピチンチャ県は、首都キト市を抱えるエクアドルで2番目に人口の多い県である。ブロッコリー生産はキト市郊外で行われており、トウモロコシ、ばれいしょ、トマトなどの野菜生産のほか酪農も盛んである。また、消費地が近いことから、多くの食品関連加工業者がある。
(3)経営体数
直近の2000年農業センサスによれば、ブロッコリーの経営体数は645戸であった(表4)。このうち約半数は1ヘクタール未満の零細生産者であるが、作付面積ベースで見ると、100ヘクタール以上の大規模生産者が67%を占めている。主要生産地であるコトパクシ県では、20ヘクタール未満の生産者は少数であり、100ヘクタール以上の大規模生産者は作付面積ベースで74%を占める。2000年以降のデータは公表されていないことから現状は不明であるが、より大規模化が進んでいるとみられている。
ブロッコリー生産は、通常、定植時には販売先が決まっており、また、買取価格もあらかじめ設定されていることから、生産者は一定の収入が確保できる。代金決済は手形取引が一般的なため、販売から45日後まで現金化されないというデメリットはあるものの、日々の価格変動が激しい国内市場向けに比べてリスクが少ない。このため、生産拡大に向けて酪農用の放牧地をブロッコリー畑に転換する動きも進んでおり、今後もこの傾向は進むとみられている。
また、ブロッコリー生産は、国内の雇用にも少なからず寄与している。エクアドル青果豆類生産者協会(APROFEL)によれば、ブロッコリーの生産と冷凍などの加工部門で1万1500人の雇用を生み出しており、約4000世帯が恩恵を受けているとのことである(表5)。また、加工部門では、人件費が安いことからカット作業などは手作業で行われており、手先が器用な女性が多く従事している。
(4)単収
ブロッコリー生産が近年、飛躍的に成長を遂げている理由の一つに単収の増加が挙げられる。1990年には10アール当たり0.60トンであった単収は、2010年には同2.14トンまで増加し、中でもコトパクシ県は2012年には2.82トンに達している(表6)。この背景には、生産から加工までの統合化(インテグレーション)の進展がある。これにより、土地の改良や優良品種の導入、生産者への技術指導による生産のバラツキの大幅な低減がなされた。
(5)生産品種
2014年に農牧水産省が行った農業面積生産アンケート(ESPAC)によれば、作付面積ベースでは認証種子と改良種子の使用割合はそれぞれ72%と19%、また、ハイブリッド種子は1%と、優良品種が普及していることがうかがえる。エクアドルで用いられる種子の98%は輸入であり、大半は米国産だが、ブラジルなどからも輸入されている。苗はキト近郊の工場で栽培されるが、統合化が進んでいることから、生産者はあらかじめ加工会社と品種などを取りきめ、それを基に苗を購入する。
最も多く栽培される品種はAvenger種とLegacy種であり、そのほかにCoronado種、Marathon種、Shogum種、Domar種、Fantastico種なども栽培されている。Avenger種はブラジルのサカタのタネ系列から主に輸入され、Legacy種、Domar種、Fantastico種はSeminis社のもので、米国やチリから輸入される。そのほかの品種は主に米国産である。なお、種子の輸入には関税は課されない。また、ブロッコリーの苗を育苗する大手企業は3社あり、それぞれが特定の大手加工業者と契約する生産者向けに供給している(表7)。
エクアドルの地理的・気候的な特徴を反映して、高山かつ日照量の多い土地で育つブロッコリーは、一般的に濃い緑色であり、また、花蕾が凝縮され、形がコンパクトで均一性のある点が海外市場で人気を博している(写真1、2)。
(6)生育ステージ
エクアドルでは、海外市場からの需要に応えるため、栽培と収穫の時期をずらしながら、1年を通してブロッコリー生産が行われている。通年栽培が可能である点は、同国の大きな強みと言える。ただし、地力低下を防ぐ目的でばれいしょなどほかの作物との輪作が行われている。また、コトパクシ県とピチンチャ県では、インテグレーションが進展しており、生産者は加工業者の指導を受けながら栽培し、輸出市場の需要に合わせた生産を行っている。
この2県では、かんがい率と施肥率は、ほぼ100%である。通常のかんがい設備はスプリンクラーによるものであるが、大規模生産者の場合は点滴かんがいも行われ、効率的な水の使用が意識されている。
ブロッコリーの生育ステージは、通常、12~14週となる。日照量によって生育期間は変動するが、コトパクシ県などの主要生産地では定植してから2週間後に活着して生育が始まり、12週目以降に収穫期を迎える(図4)。主な定植の時期は2月、6月、10月であり、収穫は3カ月後目安の1月、5月、9月から行われる。収穫の最盛期は、コトパクシ県が8~10月、ピチンチャ県が1~3月となる。
収穫はブロッコリーが傷まないように主に手作業で行われており、収穫後、加工場へ運ばれて選別される(写真3~5)。輸送は加工業者との契約内容によって異なるが、運送会社が行う場合と生産者自らが行う場合がある。加工場では、個別急速冷凍(IQF)などで冷凍処理される場合がほとんどであるが、ブロッコリーは劣化しやすいため、国内に出荷される場合も冷蔵処理が必要となる。
エクアドルのブロッコリー生産は、栽培環境が良いため、病害虫の発生は少ないとされるが、一部では発生が確認されるケースもある。2013年は降雨量が平均より多かったこともあり、同年10月に根こぶ病、黒斑病、灰色かび病などの病害が発生した。さらに、同年1、5、10月および12月にはコナガ、タマヤナガ、ダイコンアブラムシなどの害虫被害が確認された。これら病害虫の発生時は、大手加工業者の主導で各種対策が行われている。
(7)大手加工・輸出業者
ブロッコリー加工・輸出は、大手3社でほぼ全てを担っている。輸出の割合で見ると、Provefrut社が59%、Ecofroz社が30.5%、Nova社が10.5%であった(2007年)。
これらの3社は、関連会社などを通じて自社農場を所有しているほか、周辺の大・中規模農家との間で契約栽培を行い、大部分(95%)を輸出している。一方、国内向けの生産は、インバブラ県・チンボラソ県の小規模・零細規模農家が担っている。
ア Provefrut社
Provefrut社は、1989年に創業した最も古いブロッコリーの加工・輸出企業である。本社はピチンチャ県、加工場はコトパクシ県に位置している。2014年現在、従業員は979人、3万5541トンの冷凍ブロッコリーを生産し、同社製品の100%が輸出向けであり、売上高は4462万米ドルに上る。カリフラワーやロマネスコなどの冷凍野菜も輸出しているが、ブロッコリー関連が輸出の96%を占める最大の品目となっている。IQFのほかに、通常冷凍、wet-pack(ウェットパック)の形態での輸出も行っており、有機ブロッコリーも扱っている。
同社は、エクアドルで初めてブロッコリーの栽培方法と冷凍技術を導入したと言われており、最初に導入された品種はCoronado種であった。1998年から日本の商社と連携し日本向け輸出に取り組んでいる。
Provefrut社はグループ企業にNintanga社とAgrofarming社を持ち、ブロッコリーの生産から輸出までの一貫経営を行っている。Nintanga社が苗の育苗およびブロッコリーの生産を行い、Provefrut社が野菜の冷凍、加工および輸出を行う分業体制となっている。Nintanga社はコトパクシ県に850ヘクタール(2013年)の農場を持つエクアドル最大のブロッコリー生産者であるとともに、周辺農家への苗の供給や教育なども担当し、Provefrut社が加工するブロッコリーの約85%を供給している。
輸出の約25%は、自社傘下の商社であるAgrofarming社を通じて行っている。
イ Ecofroz社
Ecofroz社は1996年に創業し、ピチンチャ県に本社と加工場を置いている。冷凍野菜の加工・輸出企業であり、ブロッコリーが最大の輸出品目となっている。2011年現在、従業員は1506人、1万9493トンの冷凍ブロッコリーを生産した。同社はIQF技術を用いて、冷凍ブロッコリーを米国、日本および欧州に輸出している。
傘下企業に育苗生産を行うAsvegetal社がある。Provefrut社と同様、需要に対応するためAsvegetal社以外の生産者からブロッコリーを調達している。調達先の内訳は、大規模生産者が25.6%、中規模生産者が65.1%、小規模生産者が9.3%である。
ウ Nova社
Nova社は3社の中では、最新で最小の企業である。2009年に創立され、従業員は363人、その多くは女性である。冷凍ブロッコリーの輸出量は4800トン、加工場はコトパクシ県にある。原料ブロッコリーの3割は自社農場で調達し、残りの7割を契約栽培者から買い付けている。現在では、日本のほか4カ国(米国、英国、ドイツ、チリ)にIQFブロッコリーを輸出している。
以上、本稿ではエクアドルのブロッコリーの生産状況を中心に報告した。次号では、同国におけるブロッコリーの流通・輸出動向について報告することとする。