調査情報部
ブロッコリーの生産・輸出動向
(1)生産動向
中国におけるブロッコリーの生産に関しては、公式な統計がないため正確な数値は不明だが、関係者によると、栽培面積は約2.7万ヘクタール、生産量は年間約40万トン、単収は10アール当たり1.5トンと推定される。
主産地は、浙江省、江蘇省、山東省、河南省、陝西省、山西省などがある。このうち浙江省が栽培面積の過半を占めており、中でも同省の地級市(注1)である台州市は、市内に県級市(注2)の温嶺市、臨海市といった大産地を抱えることから、合計で約1万ヘクタールと中国におけるブロッコリー栽培の中核をなしている(図1)。
注1:省級と県級の中間の行政単位で、市内に市轄区や県級市を有する。
注2:県級に相当する行政単位。
ブロッコリー栽培は、春作と秋作の2作型となっており、日本の高冷地で行われる夏作や、ハウスどりの冬作などは行われていない。主産地のうち、輸出向け栽培が盛んな浙江省および山東省を見ると、浙江省では秋作のみ、山東省では春作と秋作の両作型による栽培が行われている(図2)。
このうち、厳寒期のは種となる春作は、生育停滞とボトニング(注3)防止のため、雨よけハウスなど保温のできる環境で育苗し、は種後30~40日程度(本葉5~6枚)で本ぽに定植を行う。定植本数は10アール当たり4050~4500本と、日本同様となっており、生育初期の低温による生育遅延などの防止、本葉数の確保および花芽形成の促進のため、4月下旬まではトンネル被覆が行われている。トンネル除去後は、気温が高くなるために生育が早まり、5月には収穫となる。この作型は、生育初期が低温で、出蕾期以降は高温で推移するため、早生種が栽培される。
夏から初秋にかけては種する秋作は、冬期が低温乾燥となる山東省では、7月下旬から8月上旬にかけては種が行われ、は種後30~35日程度(本葉5~6枚)で本ぽに定植を行う。定植本数は10アール当たり3000~3800本と、日本よりもやや少ない。同省は11月下旬以降、気温が大幅に低下することから、収穫期間は11月上旬までとなっている。
これに対し、浙江省は主産地の台州市が南部に位置し比較的温暖なことから、は種および定植は、山東省より15~30日程度遅く、収穫は11月下旬まで行われる。この作型は、10月中旬の収穫のものは早生種が、10月中旬以降のものは中早生種、中生種が栽培される。
両作型とも、1株当たりの収穫目標重量は300グラム(茎部(ステム)を含む)と、日本同様となっており、冷凍加工向けなどは、頂花蕾だけでなく、側花蕾も利用される。
注3:幼苗時に、低温に遭遇することで発生する異常出蕾。
(3)輸出動向
中国から輸出されるブロッコリーは、小花蕾ごとにカットされた冷凍品が主であるが、中国貿易統計上「その他の冷凍野菜」に含まれており、その正確な輸出量は不明である。
中国産冷凍ブロッコリーの最大の輸出市場である日本では、家庭向けを中心とした生鮮品は、量販店などでは国産品と輸入品の併売が行われているが、外食・中食で多く利用される冷凍品は輸入品が大部分を占めている。また、冷凍品は、外食・中食など業務用需要が堅調に増加していることに加え、食の簡便化により、家庭用でも多く利用されるようになっていることから、増加傾向で推移している。
近年は、中国、エクアドルからの輸入が増えており、特に中国産は、全体のおよそ6割を占めている。2015年は、人件費の上昇や為替の影響があったものの、他国産よりも規格や品質の均一化、低価格により、前年比1.3%増の2万2056トンとなった(図3、図4)。
中国における人件費の上昇は今後も継続するとみられているが、中国産冷凍ブロッコリーは、長年の加工経験により日本の実需者のニーズに即した規格などで他国産よりも品質評価が高いことから、大きな為替変動がない限り、今後も安定した輸出が見込まれている。
(1)ブロッコリー、レタスおよびセルリーの生産動向
ア ブロッコリー
(ア)作況および作付面積
2016年5月初旬、カリフォルニア州のブロッコリー収穫は、スタニスラウス郡に拡大している(図1)。同地域では、今期のサリナスバレーと同様、例年に比べて収穫期が1~2週間前倒しされており、同年4月下旬の時点の報告では、品質および収量にばらつきが発生している。なお、内陸部に近いこの地域で収穫されたブロッコリーの茎は、カット野菜向け用途は少なく、牛などの家畜向け飼料などに利用されている。
同年5月10日に公表されたサンルイスオビスポ郡の2015年農作物レポート(2015 Crop Report)によると、主産地の一つである同郡の2015年のブロッコリー収穫面積は2994ヘクタール(前年比25.1%減)、生産量は3万7878トン(同39.6%減)と、いずれも前年を大幅に下回った。
なお、本稿中の為替レートは、1米ドル
=112円(2016年5月末日TTS相場:111.94円)を使用した。
(イ)生産者価格
2016年3月のブロッコリーの生産者価格は、品薄感が漂ったことを受けて前月からかなり大きく上昇したものの、前年同月比35.2%安の1キログラム当たり0.68米ドル(76円)となった(表1)。その後も出荷量が不安定であったことから、4月中旬以降、価格は上昇傾向で推移し、5月の2週目の時点では、サリナスバレーおよびサンタバーバラ郡サンタマリアの出荷価格は1カートン(14個)当たり9米ドル(1キログラム当たり97円)であった。現地報道によると、ブロッコリー価格はその後も上昇を続け、5月末時点では、サリナスバレー産が同16米ドル(同172円)、サンタマリア産が同14米ドル(同151円)であった。
(ウ)対日輸出動向
2016年3月のブロッコリーの対日輸出量は、前年同月比146%増の2562トンとなった。前年同月からの増加幅が大きくなった要因としては、前年の輸出量が米国西海岸の労使交渉問題により平年以下の水準に落ち込んでいたことが挙げられる。
輸出単価は1キログラム当たり1.16米ドル(130円)と、前年同月と同水準であった(表2)。
(エ)東京都中央卸売市場の入荷量および価格
2016年3月の東京都中央卸売市場の米国産ブロッコリーの入荷量は、前年同月比76.2%増の178トンであった。平均価格は1キログラム当たり314円(前年同月比19.1%安)と、前月と比べやや低下した(表3)。過去2年間に同市場に入荷した米国産以外の外国産ブロッコリーは、中国産、オーストラリア産およびメキシコ産となったが、3月にはチリ産もわずかに入荷された。なお、3月に同市場で最も入荷量が多かったブロッコリーは愛知産(629トン)であり、価格は米国産を大幅に上回る1キログラム当たり398円であった。
イ レタス
(ア)作況および作付面積
主産地の一つであるサリナスバレーでは、2016年3月から4月中旬にかけて気温が平年より12~15度高く、収穫期がやや早まったことで、供給過多による価格下落や、収穫が間に合わない状況などから、一部のほ場ではレタスが廃棄処分された。
また、モントレー郡では、4月下旬から5月初旬にかけての暖かい気温と降雨により、一部のレタスに病害が発生しており、昨年に比べ害虫被害も多いと報告されている。5月初旬から中旬にかけてレタスの収穫が最盛期を迎えているが、大手野菜生産出荷業者によれば、不安定な天候状況が続いており、35度に達する高温の日や、一転して寒波による霜の被害の発生などが報告され、リーフレタスでは、強風による被害も懸念されている。
なお、同年5月10日に発行されたサンルイスオビスポ郡の農作物レポートによれば、2015年、同郡の結球レタス収穫面積は1321ヘクタール、生産量は4万8807トンと、いずれも前年からかなり減少した。一方、リーフレタスは、収穫面積が749ヘクタール、生産量が2万4882トンと、いずれも前年の2倍以上であった。
(イ)生産者価格
2016年3月の結球レタスの生産者価格は、供給過剰を受けて1キログラム当たり0.34米ドル(38円)と、前年同月を19%下回った(表4)。同4月も供給過多により価格は下落したが、5月に入り供給が不安定となり上昇に転じた。天候不順によりサリナスバレーのレタスは小玉が多く、低収量を見越す加工業者や外食産業者による需要増も価格上昇に拍車をかけている。5月初旬には、結球レタス、ロメインレタス、グリーンリーフレタスの全てが、1カートン当たり22米ドル(1キログラム当たり109円)で取り引きされた。現時点では、レタス価格の変動は6月上旬まで続くと予測されているが、夏に向けて気温が上昇するにつれ、レタスの需要は伸びるため、引き続き価格は上昇するとの見方も出ている。
(ウ)対日輸出動向
2016年3月の結球レタスの対日輸出量は、前年同月の24倍となる144トンであり、輸出単価は1キログラム当たり1.41米ドル(158円)であった(表5)。また、その他レタスも、輸出量は前年同月の12倍となる24トンであり、輸出単価は1キログラム当たり3.57米ドル(400円)であった(表6)。これらの要因としては、前年の同時期の輸出量が、米国西海岸の労使交渉問題の影響を受けて例年を大幅に下回る水準であったことが挙げられる。
(エ)東京都中央卸売市場の入荷量および価格
2016年3月の東京都中央卸売市場の結球レタス以外の米国産レタス(ロメインレタス、フリルレタスなど)の入荷量は0.48トン(前年同月比34.2%減)、卸売価格は1キログラム当たり518円(前年同月比77.4%高)であった(表7)。一方、同月は結球レタスが20キログラム入荷され、卸売価格は1キログラム当たり162円と、過去1年間で最も高い水準となった。
ウ セルリー
(ア)作況および作付面積
今年のベンチュラ郡オックスナード産セルリーの収穫期は、不安定な天候の影響で平年より約2週間程度遅れており、サリナスバレーからの出荷は6月中旬から始まる見込みである。収穫量に関しては前年並みまたは前年以上が期待されており、現在、出荷されているセルリーの品質は良好である。
なお、同年5月10日に公表されたサンルイスオビスポ郡の農作物レポートによれば、同郡の2015年のセルリー収穫面積は334ヘクタール、生産量は1万9685トンであった。
(イ)生産者価格
2016年3月のセルリーの価格は、需要が落ち着きを見せる中で供給量が増加したことから、1キログラム当たり0.41米ドル(46円、前年同月比32.3%高)と、同年2月以降、2カ月連続で下落した(表8)。しかし、現地報道によると、価格は4月以降上昇し、5月に入ってからも安定した需要を背景に堅調に推移し、今後も上昇傾向で推移すると見込まれている。
(ウ)対日輸出動向
2016年3月のセルリーの対日輸出量は、前年同月比13.9%減の788トンであった。また、輸出単価は1キログラム当たり0.84米ドル(94円、前年同月比25.4%高)となり、今年に入ってからの最安値を更新した(表9)。
(エ)東京都中央卸売市場の入荷量および価格
2016年3月の東京都中央卸売市場の米国産セルリーの入荷量は、前年同月比15%増の23トンとなった。一方、価格は1キログラム当たり228円と、前年同月を14%上回ったものの直近2カ月と比べ大幅に低下した(表10)。なお、同月に同市場で最も入荷量が多かったセルリーは静岡産(86トン)であり、価格は米国産を46.9%上回る1キログラム当たり335円であった。
(2)トピックス ~パック詰めサラダによる食中毒問題への取り組み
ア パック詰めサラダを原因とするリステリア食中毒の発生
2015年の中旬から2016年の年初にかけて、米国9州およびカナダ5州で計33件発生(うち1人が死亡)したリステリア食中毒の原因は、大手野菜メーカーが製造したパック詰めサラダであった(図2)。
食中毒が発生した当時、オハイオ州の工場で製造されたパック詰めサラダは、さまざまなブランド名で米国およびカナダ両国で販売されていた。このメーカーの商品がリステリア菌(注)に汚染されていたことは同州政府食品局の検査によって確認され、その後、より詳細な分析の結果、感染者から検出された菌と非常に近いと判明した。これを受けて、対象工場の稼働を停止するとともに、既に流通していた商品を全て回収している。米国疾病予防管理センター(CDC)によると、2016年3月末現在、感染は終息しているとのことである。
注:リステリア属に属する真正細菌の総称。リステリア属には10種が含まれるが、このうち、基準種であるリステリア・モノサイトゲネスには、ヒトに対する病原性があり、河川水など、環境中に広く分布する。健康な成人であれば、非常に多くの菌を摂取しなければ発症せず、発症しても軽症で自然に治るが、妊婦や高齢者は注意が必要とされている。重症化すると悪寒、発熱のほか敗血症を引き起こす場合もあり、致死率も高いとされている。低温(4度以下) での増殖が可能、耐塩性(6%以上の食塩に抵抗性がある)などの特徴がある。
2016年に入ってからは、他社のワシントン州の工場で生産された冷凍野菜からのリステリア菌を原因とした食中毒も既に2件発生しており、この製造企業は、2014年5月にさかのぼって製造した冷凍野菜商品の自主回収を行った。この工場からは、大手食品加工業者にも原料が供給されていたため、これらの食品加工業者も商品の自主回収を行うなど、事態は大規模なリコール騒動へと発展した。
このように、近年では、冷凍または冷蔵された野菜やパック詰めサラダによる食中毒が度々発生しており、特にリステリア食中毒の発生が多く報告されている。
CDCによれば、米国では毎年約1600件のリステリア菌による食中毒が発生し、そのうち約260人程度が死亡している。リステリア菌は加熱していない食品を通じて感染することが多く、4度以下の低温でも増殖可能である。したがって、食品の低温流通が進んだ現在では、長期間保存が可能な冷蔵食品を媒介した感染が多く、特に最近は、パック詰めサラダによる感染事例が目立っており、2010年にもパック詰めサラダからリステリア菌が検出され、製造業者が商品を自主回収する事件が起きている。
イ パック詰めサラダの市場規模
米国では、消費者にとって便利なパック詰めサラダ市場は拡大傾向にある。米国青果物販売協会(Produce Marketing Association)によると、米国のカット青果物の小売市場規模(販売額)は2014年に110億米ドル(1兆2320億円)に達し、そのうち61%(67億ドル、7504億円)はパック詰めサラダであった。さらに、パック詰め商品に関する調査を実施しているPackaged Factsによれば、ブランド名の付いたパック詰め商品の市場規模は2013年に56億米ドル(6272億円)に達しており、その後も年率4.6%で成長し、2018年には70億米ドル(7840億円)に達するとみられている。
なお、ブランド名の付いた冷蔵カットサラダ市場は大手2社で40%のシェアを占め、40%をプライベートブランドが占めている。
また、現地誌による購入動向調査報告書では、パック詰め青果物を購入する世帯の割合は84%と非常に高く、そのうち47%は前年に比べ購入量が増えていると回答している。
ウ 感染を防ぐ技術の開発
パック詰めサラダ市場が順調に拡大を続けると同時に、消費者がリステリア菌などに感染する事例が頻発している背景には、冷蔵保存に対する消費者側の過信もあるが、加工業者が抱える問題が存在する。例えば、野菜を加工しパック詰めを行う加工工場に対しては、不適切な排水や換気が病原体の繁殖を招く可能性が指摘されており、こうした問題にどのように対応するかが課題となっている。
一方、米国農務省(USDA)は、より生産現場に近いところから感染を防ぐ技術の開発を進めている。
一般的に野菜の腐敗は収穫直後から始まり、内部から進行することが多いため、外見上は正常に見えていてもパックに詰められた段階で人の健康を損なうレベルに腐敗が進んでいることがある。この点に関して、2016年4月に米国農務省農業研究局(USDA/ARS)は、レタスの腐敗を早期に感知できる装置を開発したと発表した。
ARSによると、この装置により、レタスをカットしても、より長く鮮度が保持できる品種や育種系統を選定することが可能となるほか、葉の損傷が腐敗によるものか、または、そのほかの病原体に起因するものかを判別することができるようになるという。具体的には、ハイパースペクトル画像とクロロフィル蛍光画像の2つの画像を用いており、これらの画像では、商品を傷つけることなく目視では捉えることができないレタスの腐敗の進行や、低温による損傷の特定ができることから、97%という高い精度で感知が可能としている。ARSによれば、この技術は商品を傷つけることがないため、今後パック詰めサラダなどの商用スキャン装置の開発につながる可能性があるとしている。
また、ARSは、カリフォルニア州の作物改良・予防研究ユニットを通じ、リステリア菌や腸管出血性大腸菌(O157)などの細菌に対して耐性の強いレタスの品種開発に成功している。ARSで開発される技術や品種は、既に米国の生産者などに公開されており、特に品種の場合は、種子開発業者にサンプルを提供することで、業者による商用種子開発への貢献を目指している。