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海外情報(野菜情報 2016年1月号)


豪州産たまねぎの生産および輸出動向

調査情報部


【要約】

 豪州のたまねぎ生産量は、近年は年間25~35万トンと減少傾向で推移している。生産されたたまねぎのうち、輸出に仕向けられているのは20%程度であるが、生産量の80%以上を輸出に仕向けている州もある。輸出は、EU各国向けが中心だが、日本はドイツに次ぐ第2位の輸出先国である。
 豪州は、プレミアム感や安全性といったブランドイメージを生かして、農産物の輸出拡大を推進している。日本のたまねぎ輸入量に占める豪州産の割合は1~2%と非常に少ないものの、豪州政府は、日豪経済連携協定による関税撤廃を追い風に、日本向け輸出を増やしたいとしている。

1 はじめに

 豪州におけるたまねぎの生産量は、ばれいしょ、トマトに次ぐ第3位に位置しており、野菜生産量の1割程度を占めている。

 日本の生鮮たまねぎ輸入量に占める豪州産の割合は小さいものの、豪州にとって日本はドイツに次ぐ第2位の生鮮たまねぎ輸出先国である。日本とは逆の季節を生かして、国産の端境期に当たる春先の輸入が多い豪州産のたまねぎについて、生産および輸出動向を紹介する。

 なお、本稿中の為替レートについては、1豪ドル=90円(2015年11月末日TTS相場=90.12円)を使用した。

2 生産状況

(1)生産量

 たまねぎの生産量は、近年は年間25~35万トンで推移しているが、2013年度(豪州の年度は7月~翌6月)は26万トンと、2011年度以降、減少傾向で推移している(図1)。州別に見ると、ビクトリア州では栽培面積の増加に伴って増加傾向にある一方、ニューサウスウェールズ州では塩分を含む地下水位の上昇や水資源の制約などにより減少傾向にある。

 豪州におけるたまねぎの主産地は、南オーストラリア州やタスマニア州、ビクトリア州といった豪州南部で、これら3州の合計は、豪州全体の7割を占めている。

 豪州最北端のたまねぎ生産地に当たるクイーンズランド州では、南東に位置するロッキャーバレー、セントジョージ、ダーリングダウンズおよびファッシファーンバレーで主に栽培されている。ニューサウスウェールズ州ではリヴェリナ、ビクトリア州ではギプスランド周辺の南部地域、南オーストラリア州ではアデレード・プレインズを含む南東地域、西オーストラリア州では南西に位置するマンジマップやペンバートンで多く生産されている。タスマニア州では島の北部から中部にかけて生産されている(図2)。

(2)栽培面積など

 たまねぎの栽培面積は、生産量と同様に近年減少傾向にある。2010年度は約6100ヘクタールであったが、2013年度は約4900ヘクタールと、3年で2割近く減少している。これは、クイーンズランド州やニューサウスウェールズ州、西オーストラリア州など、主産地以外における栽培面積が減少したことによる。

 たまねぎの生産者数についても、近年は減少傾向にある。2010年度には425戸であったが、2013年度には266戸と、3年間で37%減少している。2013年度の州別内訳を見ると、表1のとおり、南オーストラリア州は、たまねぎ生産者数は23戸と、豪州全体の1割にも満たないが、栽培面積は約1500ヘクタールとなっており、豪州全体の3割強を占めている。1戸当たりの平均栽培面積も約67ヘクタールと群を抜いており、大規模な生産が展開されている。これとは対照的に、栽培面積が南オーストラリア州とほぼ同じであるタスマニア州は生産者数が南オーストラリア州の4倍以上であるが、1戸当たりの平均栽培面積は約14ヘクタールにとどまっている。このように、1戸当たりの生産規模は、州によってかなり異なっている。

 単収については、豪州全体の平均では10アール当たり5.2トンと、北海道(同5.1トン)をわずかに上回っている。州によっては同7トンを上回るところもあるが、主産地ではおおむね5~6トン前後となっている。

(3)品種

 たまねぎの主な品種は、黄たまねぎのクリームゴールドやムレーブラウン、赤たまねぎのレッドシャイン、レッドエンペラー、レッドウィング、白たまねぎのビアンカ、グラダランホワイト、ホワイトスパニッシュである。品種別の生産量を見ると、日本と同様、黄たまねぎが多く、全生産量の約85%を占めており、赤たまねぎは10%、白たまねぎは5%程度である(写真1)。

 たまねぎの生育は、日照時間に大きく影響を受けるため、産地の日照時間に応じて品種が選定されることが多い。例えば、日照時間の長い豪州南部では晩生種のクリームゴールドが栽培されているが、クイーンズランド州などでは、早生種のグラダランホワイトやロッキャーゴールドなどが栽培されている。

(4)栽培方法

 一般的なたまねぎの作型は、図3に示したとおりである。は種と収穫の時期は、地域や品種により大きく異なっている。代表的な晩生種であるクリームゴールドは、豪州では、5月以降のは種、翌1月以降の収穫となり、約240日の生育期間である。たまねぎの鱗茎形成は、日照時間と気温に大きく影響されるため、地域に応じた品種とは種時期の選択が重要である。

 一般的に、30センチメートル間隔の畝に、7.5センチメートルの株間では種を行い、10アール当たり約4万5000株の生産を行っている(写真2)。土壌温度にもよるが、発芽には10日から28日程度を要する。たまねぎは窒素やカリウムを特に多く要する作物であり、鱗茎が肥大する前の生育初期段階にこれらの肥料を施す必要がある。また、たまねぎは浅根性作物(注1)であるため、水ストレスに対しての感受性が高いことから、スプリンクラーや点滴灌漑(注2)が推奨されている。

注1:細い根が横方向に広がる性質。

注2:ほ場に張り巡らせた穴の開いたチューブに水を流し、チューブの穴を通して水を土壌に滴下するもので、効率的な水分給与が可能になる。

(5)収穫、乾燥、貯蔵

 収穫については、早い地域・品種では9月ごろから始まり、1月から2月にピークを迎え、遅い地域・品種でも5月ごろには終了する。収穫方法は、収穫機による機械収穫が一般的であるが、主産地以外ではいまだ手収穫が主流となっている地域もある(写真3)。

 収穫したたまねぎは、乾燥させたのち貯蔵を行う。タスマニア州やビクトリア州では屋外で乾燥することが一般的だが、熱波が発生しやすいニューサウスウェールズ州では、屋内でファンにより強制通風することが多い。豪州全体としては、収穫後の病害の発生を防止するため、人工的に乾燥する事例が増えている。

(6)生産コスト

 生産コストは、平均では1トン当たり331豪ドル(3万円)程度と推定されているが、州ごとの差が大きい。最も生産コストが高いクイーンズランド州と、比較的低いタスマニア州やニューサウスウェールズ州では、労働コストの地域差もあって、500豪ドル(4万5000円)以上の差があるとされている(表2)。

 生産者の手取りは、平均では1トン当たり454豪ドル(4万1000円)程度と推定されているが、これも生産コスト同様、州ごとの差が大きく、最も高いクイーンズランド州では同901豪ドル(8万1000円)と、豪州全体の平均を2倍近い(表2)。これは、同州の収穫時期が、主産地である豪州南部やニュージーランドよりも早いので、市場出回り量が少なく、出荷価格が高いためである。一方、タスマニア州は同116豪ドル(1万円)と最も安く、豪州全体の平均の3割にも満たない。これは、同州の生鮮市場の規模が小さく、輸出向けや加工・業務用への仕向け割合が高いためである。

(7)業界団体の役割

 たまねぎの生産や加工、販売や品種開発を一元的に管理する組織として、オニオンズ・オーストラリア(Onions Australia(以下「OA」という))が1966年に設立された。OAは、豪州施設園芸研究所(Horticulture Innovation Australia。豪州の園芸作物の研究開発を所管し、毎年1億豪ドル(90億円)以上の研究開発およびマーケティング事業を運営)と共に、たまねぎ業界の戦略的投資5カ年計画を策定、実行している。

 現行の5カ年計画(2012~2017年)では、①消費者ニーズへの対応、②需要促進による生産者利益の増加、③業界の発展に必要な資金やノウハウの確保の3つを目標として掲げている。OA は、研究開発も支援しており、2013年度の予算額、約94万豪ドル(8460万円)のもと、たまねぎ萎縮病(注3)やアイリスイエロースポットウイルス(注4)など、たまねぎの病害に関する研究を含む24のプロジェクトが実施された。
なお、OAの研究開発予算の財源は、商業用に栽培されているたまねぎ1トン当たり4豪ドル(360円)の賦課金となっている。

注3:アブラムシの吸汁により感染するウイルス病。発症すると株が委縮して地上部の生育が停止し、鱗茎の肥大が悪化する。

注4:ネギアザミウマの吸汁により感染するウイルス病。葉身に淡褐色のえそ斑が発生し、その後、葉が萎凋して枯死。多発すると鱗茎の肥大が抑制される。

3 流通動向

(1)国内流通

 国内におけるたまねぎの流通量はおおよそ20~30万トンと推測できる(表3)。なお、国産品は、卸売業者を経由して、飲食・加工業者や中小流通業者へと流通している(図4)。

(2)輸出

 世界の生鮮たまねぎの輸出規模はおおむね700万トン前後で推移しており、オランダやインド、中国からの輸出量がそのうちの半分近くを占めている。年間4~6万トン程度(豪州のたまねぎ生産量のおよそ20%)で推移している豪州産の輸出量は、世界の輸出規模からみれば、そのうちの1%にも満たない。

 輸出向けたまねぎは、主にタスマニア州で生産されており、同州産のたまねぎの85%は輸出向けである。同州産のたまねぎは、同州からも近く、豪州最大の港湾でもあるビクトリア州のメルボルン港を経由して輸出される。

 生鮮たまねぎの大半は、EU各国に輸出されている(図5)。2014年には約4割弱がドイツへ輸出され、残りの6割は多い順に日本(1割強)、イタリア、マレーシア、アラブ首長国連邦、オランダ、ベルギーなどとなっている。

 豪州政府はこれまで、豪州産農産物の持つプレミアム感や安全性といったブランドイメージを生かして、輸出拡大を推進してきた。

 日本向けについては、2015年1月に発効された日豪経済連携協定(日豪EPA)によって5年間かけて関税が段階的に撤廃される。2014年現在、たまねぎの対日輸出額は、370万豪ドル(3億3300万円)であったが、豪州政府は今後EPAを追い風に、自国産農産物の持つブランドイメージによる比較優位性で、輸出先国市場での競争力を強め、輸出を増加していきたいとしている。

(3)輸入

 輸入については、自国産品が品薄となる端境期に、米国産が少量出回っている(図6)。生産統計と輸出統計で年度の取り方が異なるため単純な比較はできないものの、国内流通量のおおむね3%程度が米国からの輸入品と推測できる。

 米国産たまねぎについては、従来出回り時期が短く、国内市場をほぼ独占している大手スーパーマーケット2社も国産品しか取り扱っていなかったことから、国産品との競合は発生しなかった。しかし近年は、輸入量の増加により米国産たまねぎの競争力が高まり、国産品の価格に下落圧力がかかりつつある。また、地域によっては、米国産を国産と表示する個人経営のスーパーマーケットもある。米国産との低価格競争から保護するため、業界団体のOAは、国内産の作況や価格について小売業者に情報提供するとともに、小売業者に対しても国産品の取扱量を増やすように要請している。

4 日本市場での豪州産たまねぎ

 日本のたまねぎ輸入量は年間30万トン程度(国内流通量の2割程度)で推移しているが、このうち8割以上は中国産で、豪州産の占める割合は1~2%と非常に小さい。

 豪州からの輸入量は、2009年以降、低温や日照不足で国内産たまねぎの供給が不足したため増加し、2013年には7800トンとなった。その後は、国内産のたまねぎが豊作傾向となったため、豪州産は減少傾向で推移している。

 豪州産たまねぎの日本市場における価格競争力は、2013年以降、円安で推移する為替レートを背景に弱まっており、中国産に劣っている(図7)。2014年の東京都中央卸売市場における卸売価格の推移を見ると、中国産の価格が年間を通じて安定して低い水準にある。

 主要な輸入先国である中国産や米国産は、年間を通して一定量の輸入がみられるが、豪州産については、輸入時期が1月から5月にかけてピークを迎え、日本の収穫の端境期に合わせて3月から5月に多く出回っている。輸出用たまねぎの主産地であるタスマニア州産のたまねぎは、冷涼な気候で育ち、病害虫の被害も少ないことから、安心でおいしいと日本では評判が高い。

 輸入された豪州産たまねぎは、加工・業務用(カレーライス、焼売、肉まん、炒め物など)として国内で流通していることが多いが、大手小売業者の中には、産地リレーの中に組み込まれている事例もある。

5 今後の見通し

 豪州のたまねぎの生産は、干ばつに伴う取水の制限などにより、今後減少が見込まれている。また、2015年については、タスマニア州での不作の影響を受け、豪州全体で減少が見込まれている。輸出についても、減産に伴い、2012年以降減少傾向にある。

 その一方で、豪州政府としては、対日輸出の拡大を目指し、日豪EPAによる関税引き下げや、豪州産の持つ安全・安心なブランドイメージを活用し、豪州産農産物の輸出促進を図っているとしており、豪州産たまねぎの今後の輸出動向が注目される。



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