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海外情報(野菜情報 2015年12月号)


主要国の野菜の生産動向等

調査情報部


1 中国

 日本が輸入するねぎのほぼ全量を中国産が占めていることから、今号では、ねぎの生産動向等を紹介する。

ねぎの生産・価格・輸出動向

(1)生産動向

 中国のねぎの主産地は山東省であり、中部の安丘あんきゅう市、西部の章丘しょうきゅう市は、同省のねぎ作付面積の約半分を占める省内の2大産地である(図1)。

 同省の栽培面積、収穫量および10アール当たり収量の推移を見ると、2011年は輸出価格が安値であったことから、いずれも減少したが、2012、13年と気象災害による不作傾向から高値で推移したため、2014年の栽培面積は3万ヘクタールに増加した。また、単収も5.5トンと豊作基調となったため、収穫量は165万トンと3年ぶりに160万トンを超えた(表1)。なお、山東省では、定植本数は日本同様もしくはやや少ないものの、1本重が300グラム以上で収穫するため、単収は日本より多くなる。

 対日輸出されるねぎの約7割は山東省産であり、その多くは安丘市産である。安丘市は、明が中国を統治した1500年代からねぎの産地として名高い地域であり、日当たりの良い丘陵地を中心に露地栽培が行われている(写真1)。また、同市の平地部では、パイプハウスを利用した無加温施設栽培も行われている(写真2)。

 対日輸出向け栽培は、地域内の農地を集約した代表者が、輸出企業などと出荷契約を結ぶことで、野菜栽培輸出基地(以下「基地」という)を形成する。基地では、集約された各農地の権利を持つ農家や内陸部からの出稼ぎ労働者が作業員として農作業に従事し、輸出企業の植保員(注)の指導を受け、輸出先の農薬使用基準などに基づき栽培する。

 安丘市で栽培されるねぎの品種は日本向けとして幅広い気温条件に対応でき、耐病性のあるF1品種の「天光一本」「元蔵」などがあり、栽培品種は輸出企業が決定するため、基地が独自に品種を決定することはない(写真3)。

注:企業に属する農業技師で、企業の指示に基づいて労働者(栽培者)に対して、施肥設計および施肥指導、病害虫防除計画の策定および農薬散布の指導などを実施。

 安丘市と並ぶ大産地の章丘市は、主に国内市場向けの産地であり、同市産のねぎは、国内市場で「ねぎの王様」と言われるほど高い評価を得ている。主な品種は、耐病性が劣るものの食味が良い「大梧桐だいごとう」などである。

 山東省では、仕向け先を問わず、省内で栽培されるねぎの約9割が露地栽培となっている(図2)。同省産ねぎの生育ステージを見ると、露地栽培は、9月下旬に露地の苗床なえどこには種し、約250日間の長期間育苗を行い、翌6月上旬から同下旬に定植して9月上旬から収穫となる。一方、無加温施設栽培は、日光温室で育苗するため、露地栽培よりも育苗期間が50~70日と短く、収穫期間は長い。

(2)価格動向

 卸売価格は、無加温施設栽培の収穫期である3~4月と、露地栽培の収穫期である9~10月に下降する傾向にある。しかし、ここ数年は、この傾向に一致しておらず、2013年は、夏期に多雨による湿害で不作傾向となったことから、9月に上昇に転じた。後半が高値になったことで2014年の栽培面積は増加し、同年は需要を上回る市場入荷量となったため、価格は低迷した。2015年は、前年の価格低迷による生産者の栽培意欲減少により、栽培面積が大きく減少したため、6月以降高値で推移している(図3)。

(3)輸出動向

 中国のねぎ輸出は主産地の山東省の生産量に合わせて増減している。主な輸出先は日本であり、対日輸出量は全輸出量の増減にかかわらず、4万トン台で推移している。このため、2014年は、全輸出量が前年比12.2%減の4万6582トンであったが、日本向けは4万3008トンとほぼ前年並みであり、全輸出量に占める日本向け比率は92.3%と、対日輸出依存が高くなった(図4)。

 これに対して、韓国など日本以外の輸出先には、対日輸出量である4万トン台を超えた部分が充てられており、生産量に合わせて大きく増減する。これは、輸出用ねぎのほとんどが日本向けに栽培されており、日本の輸出先企業との契約量よりも10~15%多めに栽培して契約量を確保し、契約量以上のねぎは、他の国に輸出するためである。また、為替変動により収益性が低下した場合、国内市場に出荷されることもある。なお、現地の外資系量販店によると、対日輸出用ねぎは、日本語が表記されたテープで結束されており、この表記が消費者にとって食の安全をイメージさせることから、外資系など、上位中所得者層以上の顧客を持つ量販店では評価が高いとのことである。


2 米国

 米国からは、日本への輸出が多いブロッコリー、レタス、セルリー(セロリ)(以下「セルリー」という)について、それらの主産地であるカリフォルニア州を中心とした生産動向とともに、干ばつの影響と今後の見通しを紹介する。

(1)ブロッコリー、レタス、セルリーおよびたまねぎの生産動向

ア ブロッコリー

(ア)作況および作付面積

 8月末から9月中旬にかけて猛暑が続いたことで、生育不良や品質低下が発生していたが、9月下旬に猛暑が和らいだことからブロッコリー出荷量は増加している。主産地であるモントレー郡サリナスバレー地区(図1)では、天候が安定していることで11月初旬までは品質が良好なブロッコリーの安定供給を見込んでいる。なお、モントレー郡農業委員会によると、2015年の収穫量は平年並みに推移している。

(イ)生産者価格

 ブロッコリーの需要は7月以降、輸出向けを中心に高まっており、8月のブロッコリー価格は上昇し、1キログラム当たり1.1米ドル(134円)となった(表1)。また、新学期開始に伴う給食需要により、9月中旬から10月初旬にかけて価格は上昇し、10月5日時点で1カートン(14個、約10.4キログラム)当たり15米ドル(気配値。1キログラム当たり176円)となった。なお、11月下旬の感謝祭に向けて需要はさらに高まる見込みであり、これに伴う価格上昇が予測されている。

 なお、本稿中の為替レートは、1米ドル=122円(2015年10月末日TTS相場:121.90円)を使用した。

(ウ)対日輸出動向

 2015年8月には、1961トンのブロッコリーが日本向けに輸出された。これは前年同月実績(2642トン)比で26%減となる。なお、輸出単価は1キログラム当たり1.32米ドル(161円)となり、前月から引き続き今年最高値を維持した(表2)。

(エ)東京都中央卸売市場の入荷量および平均卸売価格

 2015年8月、東京都中央卸売市場では159トンの米国産ブロッコリーが入荷された。平均価格は1キロ当たり351円(前年同月比23%高)となり、前月の価格をわずかに上回った(表3)。8月に同市場で最も入荷量が多かったブロッコリーは北海道産(950トン)であり、平均価格は米国産を大幅に上回る453円であった。

イ レタス

(ア)作況および作付面積

 9月中旬から10月中旬にかけて、モントレー郡では引き続きレタスの収穫が行われた。今夏は猛暑により、結球レタスで抽台が発生し、単収が一時減少していた。同郡サリナスバレーの収穫期は平年よりもやや早めに終了し、ベンチュラ郡やフレズノ郡での生産に移行し始めている。また、11月末からはインペリアル郡でも収穫が開始するとみられている。

(イ)生産者価格

 猛暑に伴う品質劣化に起因した供給量の減少により、8月の結球レタスの価格は高騰し、1キログラム当たり79セント(96円)となった(表4)。その後、猛暑が和らぎ出荷が増加したことで、10月初旬には供給が需要を大きく上回ったことから、結球レタスおよびロメインレタスは1カートン(約22.7キログラム)当たり15米ドル(気配値。1キログラム当たり81円)、と値を下げた。しかし、10月中旬にモントレー郡での収穫期が終了したことで供給量が減少する一方、感謝祭に向け需要が高まりつつあるため、今後は上昇傾向に転じるとみられている。

(ウ)対日輸出動向

 2015年8月には、308トンの結球レタスと14トンのその他レタスが日本向けに輸出された。結球レタス輸出量は前月の411トンから減少したものの、依然として高水準で推移している。この背景として、日本でのレタスの品薄感があるとみられている。また、結球レタスの輸出単価は1キログラム当たり1.25ドル(153円)で推移しているのに対し、その他レタスの輸出単価は同1.55ドル(189円)と、今年に入ってから最も安値となった(表5、6)。

(エ)東京都中央卸売市場の入荷量および平均卸売価格

 2015年8月、東京都中央卸売市場では、米国産レタス(ロメインレタス、フリルレタスなど)の入荷量は、今年最低の30キログラムとなった。卸売価格は1キログラム当たり410円と、前月同様に高い水準となった(表7)。

ウ セルリー

(ア)作況および作付面積

 10月初旬の時点でサンタバーバラ郡サンタマリアから出荷されているセルリーの品質はおおむね良好であったが、モントレー郡サリナスバレー産は害虫被害により品質にばらつきがあったとされ、今年の収穫時期は平年よりも数週間早く終了の見込みである。また、ベンチュラ郡オックスナードの収穫は、平年よりもやや遅れて11月中旬から開始の見込みである。

(イ)生産者価格

 8月のセルリーの価格は、1キログラム当たり52セント(63円)となり、品薄感を反映して前月から大幅に上昇した(表8)。なお、9月中旬から価格は低下しており、10月初旬には1カートン(24茎、約27.2キログラム)当たり11米ドル程度(気配値。1キログラム当たり49円)で推移している。9月初旬の時点では、サリナスバレーのセルリー価格はサンタマリアよりも1カートン当たり約1~2米ドル(1キログラム当たり4~9円)上回ったが、9月の下旬以降はほぼ同水準となっている。

(ウ)対日輸出動向

 2015年8月には、501トンのセルリーが日本向けに輸出された。輸出単価は1キログラム当たり62セント(76円)と、前月から値を下げた(表9)。

(エ)東京都中央卸売市場の入荷量および平均卸売価格

 2015年8月、東京都中央卸売市場では前月同の38トンの米国産セルリーが入荷されたが、価格は1キログラム当たり194円とやや上昇した(表10)。8月に同市場で最も入荷量が多かったセルリーは長野産(748トン)であり、平均価格は米国産を上回る同280円であった。

(2)トピックス

~2015年の干ばつの影響と今後の見通し~

 今年で4年目となるカリフォルニア州の干ばつは、同州の経済活動に影響を及ぼしており、特にシエラネバダ山脈の雪解け水を水源とするセントラルバレーでの被害が大きいとされる。この事態を重く見たカリフォルニア州政府は、すでに多くの対策を講じているが、干ばつは来年も続くとの見方が強い。経済的な損失は今後も拡大すると予測される中で、カリフォルニア大学および米国農務省(USDA)による干ばつが与える農業の経済損失に関する報告について紹介する。

ア カリフォルニア大学

 2015年8月、カリフォルニア大学デービス校はカリフォルニア州の農業に対する2015年の干ばつの経済的被害額に関する報告を公表した。同報告では、2015年の干ばつの影響について以下のとおり示している。

① 地表水の減少は872万エーカーフィート(107億3129万立方メートル)に及ぶが、このうち約7割に当たる602万エーカーフィート(74億89万立方メートル)は地下水の引き上げにより相殺することができる(表11)。なお、水不足の被害地域はセントラルバレーに集中している。

② 270万エーカーフィート(33億3040万立方メートル)の水分が不足することで約54万2000エーカー(21万6800ヘクタール)が遊休地となり、2014年よりも約11万4000エーカー(4万5600ヘクタール)増加する。なお、このほとんどがセントラルバレー南部のトゥーレア盆地に集中するとみられる。

③ 干ばつの農業への直接的な経済損失は18.4億米ドル(2244億8000万円)に及び、1万100人の直接雇用が失われる。また、農業分野の経済損失の波及により、州全体の経済損失額は27.4億米ドル(3342億8000万円)に達し、全体で2万1000人の雇用が失われる見込みである。

④ 2017年まで干ばつが続く場合、2015年に比べ、その損失額は6%拡大し、毎年280~290万エーカーフィート(34億5375万~35億7710万立方メートル)の水分が不足する。また、地下水引き上げによるコストが上昇する。

⑤ 地下水の引き上げが増えると、地下水の貯水量が減少し、さらにコストがかさむ。貯水量の減少を防ぐため、政府は地下水の使用に関する規制を行うことが必要である。規制を実施した場合、短期的に遊休地が増加するが、カリフォルニア州の地下水を維持可能な水準に保つことが可能となる。


イ 米国農務省(USDA)

 また、USDAが10月に更新した干ばつによる農作物への影響に関するレポートでは、セントラルバレーに生産が集中している果実および落花生などの生産量が減少し、全米の生産量減少の要因となったとしている。特に、カリフォルニア州での生産が大半を占めるレモン、ブドウ、オリーブ、アーモンドなどは生産量の減少率が大きい。一方、野菜は品目により異なるものの、同州の野菜栽培地はかんがいが整備されているため、干ばつの影響は軽減されているとしている。

 また、地下水の少ないサンホアキンバレーでのレタスなど、栽培期間の短い野菜の生産が減少傾向にあると指摘している。

 野菜の国内需給動向については、生産コストの上昇が小売価格に影響を与えるには数カ月かかると指摘しつつも、原油価格、労働費、輸入量なども小売価格に影響するため、干ばつの影響を特定することは困難だとしている。

 2015年の青果物の小売価格は、強い米ドルおよび廉価な石油価格などの要因と相まって、生鮮果実は前年比1%安、生鮮野菜は同1%高となり、全体的な消費者物価指数よりも低い上昇率にとどまることが予想されている。特に、メキシコなどからの輸入が多いため、カリフォルニア州の干ばつが青果物の小売価格に与える影響は限定的であるとみられている。

 2016年には、生鮮果実は同2.5~3.0%高、生鮮野菜は同2.0~3.0%高の価格上昇が予測されているが、過去20年間の物価指数上昇率の平均と大きく違わないことから、現時点の干ばつの影響は大きいものではないとしている。



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