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海外情報(野菜情報 2015年11月号)


主要国の野菜の生産動向等

調査情報部


1 中国

 日本が輸入するながいもの8割以上を中国産が占めていることから、今号では、ながいもの生産動向等を紹介する。

ながいもの生産・価格・輸出動向

(1)生産動向

 中国におけるながいもの生産に関しては、公式な統計がなく、専門家によってさまざまな意見が述べられている。

 栽培面積については、25万ヘクタールとの意見もあれば、現在は50万ヘクタールだが5年以内に70万ヘクタールまでの増加が見込まれると述べる専門家もおり、実態は不明である。また、ながいもの生育は、品種や気候、土壌条件によって大きく異なるため、地域による収量のばらつきが大きく、10アール当たり1.5~3トンと推計されている。

 チベットを除くほとんどの省で栽培されているが、主産地は、河北省、山東省、河南省、江蘇省、広西省であり、特に山東省濰坊いぼう市、河南省焦作しょうさく市、河北省れい県などのエリアで集中的に栽培されている(図1)。

 また、近年では、浙江省、江西こうせい省、湖南省、寧夏れいか回族自治区、陝西せいせい省、新疆ウイグル自治区にも産地が形成されている。

 栽培および収穫作業では、機械化はほとんど進んでおらず、大規模栽培を行っている企業で収穫の際にプラウの使用がわずかに見られる程度である。

 主に露地栽培が行われており、主産地である山東省では、4月中旬には種され、9月下旬から翌年の4月まで長い期間収穫が行われている(図2)。

 ながいもは、中国では「山薬」と呼ばれ、野菜として食するほか、品種によっては漢方薬の原料として用いられている。約30種類の国内品種があり、主な品種としては、懐山薬、鉄棍山薬などがある。また、日本への輸出用として日本大和長芋が山東省を中心に栽培されている。

(2)価格動向

 卸売価格については、収穫が始まる9月に下落するが、収穫期間が長いため、年間を通じてほぼ安定して推移している。2014年の夏期には著しい上昇が見られたが、これは、EUなどからの農産品の輸入禁止措置を講じたロシア向けや干ばつに見舞われたインド向けの輸出需要が増加したことに加え、2013年末からのしょうがの価格高騰により、しょうがへの転作が増加し、ながいもの生産量が減少したためといわれている。この転作により、山東省のながいもの栽培面積は約3割減少したと見られており、2015年も引き続き高水準で推移している(図3)。

(3)輸出動向

 輸出用ながいもは、冷蔵および冷凍があるが、その正確な割合は不明である(注)。香港、シンガポール、米国、日本、カナダなどのほか、韓国、ロシア、EUなどにも冷凍品が輸出されている。日本向けには、「とろろ芋」としてすりおろされた冷凍業務用などが多く輸出されているが、最近は円安元高の為替の影響から、輸出量は伸び悩んでいる(図4、写真1~3)。

(注)中国産冷凍ながいもは、HS70143000(ながいも)とHS07108090(その他の冷凍野菜)の両方のコードを用いて輸出されているため、正確な輸出量の把握が困難となっている。

 

2 米国

 日本への輸出が多いブロッコリー、レタス、セルリー(セロリ)(以下「セルリー」という)について、それらの主産地であるカリフォルニア州を中心とした生産動向等とともに、エルニーニョ現象が米国の干ばつおよび対象品目の作況に与える影響について紹介する。

(1)ブロッコリー、レタス、およびセルリーの生産動向

ア ブロッコリー

(ア)作況および作付面積

 8月中旬、モントレー郡ではブロッコリーの3回目のは種が行われた。同郡ではブロッコリーの収穫が続いている中で、8月末から9月中旬にかけ平年より高温であったため、生育不良、花蕾の変色、茎の空洞化などの品質低下が発生している。また、摂氏40度以上となった日には午後の作業が打ち切られるなど、収穫量も減少した。

 エルニーニョ現象により、カリフォルニア州では平年に比べ多雨となることが予測されている。降雨が続く場合、今期の栽培が途中で打ち切られるとともに、次のは種が遅れる可能性がある。

(イ)生産者価格

 2015年7月のブロッコリー生産者価格は、輸出向けの需要の増加などにより、1キログラム当たり84セント(102円)となった(表1)。現地報告では、9月初旬から中旬にかけて出荷量の減少や新学期開始による給食用需要により、同時期のブロッコリーの価格(気配値。以下同じ)は1カートン(14個。約10.4キログラム)当たり約13米ドル(1キログラム当たり151円)から約15米ドル(同175円)に上昇した。10月から出荷量はやや回復する見込みであるが、平年より低い水準で推移すると見込まれている。価格も出荷量の増加に伴っていったん落ち着くものの、11月の感謝祭前に上昇すると予想されている。

 なお、本稿中の為替レートは1米ドル=121円(2015年9月末日TTS相場:120.96円)を使用した。

(ウ)対日輸出動向

 2015年7月には、前年同月比31%減の2313トンのブロッコリーが日本向けに輸出された。輸出単価は今年の最高値となり、1キログラム当たり約1.3米ドル(同157円)であった(表2)。

(エ)東京都中央卸市場の入荷量および価格

 2015年7月、東京都中央卸売市場では172トンの米国産ブロッコリーが入荷された。平均価格は1キログラム当たり342円(前年同月比16%高)であった(表3)。7月に同市場で最も入荷量が多かったブロッコリーは北海道産(1,056トン)であり、平均価格は米国産を上回る397円であった。

イ レタス

(ア)作況、作付面積

 8月中旬より主としてモントレー郡で栽培・収穫が行われている。ブロッコリー同様、高温の影響によりしなびや芯の空洞化などの品質低下が見られ、中でも結球レタスは品質不良により出荷量が減少している。今後の供給量は、天候に大きく左右され、見通しを立てるのは難しいものの、生産量がやや回復するとする生産者もいる。

 近年、干ばつの影響により秋にサンホアキン・バレーに位置するフレズノ郡ヒューロン市でレタスを栽培する生産者の数が減っている。ヒューロンでの栽培を中止した生産者は、夏のサリナスバレーでの生産を延長すると同時に、砂漠地帯であるリバーサイド郡コーチェラやインペリアル郡での冬の生産開始時期を早めるなどして秋期の生産減を補っている。

(イ)生産者価格

 2015年7月の結球レタスの生産者価格は、出荷前倒しの影響もあり、1キログラム当たり41セント(50円)と前月に比べ39%下落した(表4)。現地報告によれば、品質悪化に伴う供給量の減少により8月のレタスの価格は高騰し、9月初旬の時点では1カートン(約22.7キログラム)当たり結球レタスは20米ドル(1キログラム当たり107円)以上、ロメインレタスは約12米ドル(同64円)、グリーンリーフレタスは約9米ドル(同48円)で推移している。また、高温により収穫が前倒しされたため、秋には品薄感が強まっており、価格が下落するには時間がかかる見込みである。

(ウ)対日輸出動向

 2015年7月には411トンの結球レタスと約9トンのその他レタスが日本向けに輸出された。前月に比べて輸入量が増加した要因の一つとして、日本での生育期の天候不順や夏季の高温による価格高が挙げられる。輸出単価は結球レタスが1キログラム当たり1.2米ドル(同145円)、その他レタスは1.7米ドル(同206円)といずれも前月に比べ下落した(表5、表6)。

(エ)東京都中央卸市場の入荷量および価格

 2015年7月、東京都中央卸売市場では結球レタス以外の米国産レタス(ロメインレタス、フリルレタスなど)が約200キログラム入荷された。卸売価格は1キログラム当たり410円と、今年に入ってから最も高かったが、これは前年同月と同価格であった(表7)。

ウ セルリー

(ア)作況および作付面積

 9月初旬の時点では、モントレー郡サリナスおよびサンタバーバラ郡サンタマリアのセルリーの出荷量はやや減少傾向にあり、特に大きいサイズの品薄感が強かった。病害が主な要因と考えられている。なお、出荷されたセルリーの品質は概ね良好であった。

(イ)生産者価格

 2015年7月のセルリーの価格は1キログラム当たり38セント(48円)と前月とほぼ同じ価格となった(表8)。サリナスから出荷されているセルリーの9月初旬の価格は、1カートン(24茎、約27.2キログラム)当たり約14米ドル(1キログラム当たり62円)で推移している。8月中旬の価格とほぼ同じ水準であるが、今後品薄が続くようであれば価格は上昇する可能性がある。

(ウ)対日輸出動向

 2015年7月には413トンのセルリーが日本向けに輸出された。輸出単価は1キロ当たり約70セント(同85円)であった(表9)。

(エ)東京都中央卸市場の入荷量および価格

 2015年7月、東京都中央卸売市場では38トンの米国産セルリーが入荷された(表10)。7月時点で、同市場で最も入荷量が多かったセルリーは前月同様、長野産(843トン)であり、平均価格は米国産を上回る263円であった。

(2)トピックス

 ~エルニーニョ現象が干ばつおよび対象品目の作況に与える影響~

 アメリカ海洋大気庁(NOAA)の予測によれば、2015年末から2016年初めにかけての冬にエルニーニョ現象が北半球で強まる確率は95%とされている。まとまった降雨が予想されるため、2012年からカリフォルニア州を中心とした西海岸で継続している干ばつの解消につながるという期待感がある半面、同州南部を中心に洪水などの発生も懸念されている。

ア 今期のエルニーニョ現象の特徴と予測

 NOAAによれば、今冬から来春にかけてエルニーニョ現象が発生する確率は95%であり、また、2015年6~8月期の太平洋赤道域の日付変更線付近から南米のペルー沿岸にかけての海域での海面気温は、平常時より摂氏1.2度高いことから、今冬は1997年以来の強いエルニーニョ現象が発生するとしている。

 NOAAが発表した2015年9月中旬から12月中旬までの3カ月予報によれば、米国の多くの地域で暖冬となり、南部を中心に降雨量が平年より多くなる可能性が高いとしている。また、エルニーニョ現象が最も強く現れるのは冬の終わり頃であり、その後、春にかけて次第に弱まっていくとしている。

イ カリフォルニア州の干ばつに与える影響

 4年連続で干ばつが続いているカリフォルニア州では、水不足が深刻な問題となっている。ブラウン州知事は2014年に緊急事態を宣言し、今年4月以降に強制的な節水対策を実施している。しかし、干ばつの影響が続いており、カリフォルニア大学デービス校の試算では、2015年の干ばつによる経済損失額は前年の22億米ドル(同2662億円)を上回る27億米ドル(同3267億円)に達するとしている。

 カリフォルニア州では、冬は雨季に当たり、中部から北部に縦に延びるシエラネバダ山脈での積雪が、乾季に雪解け水として川や貯水池などに流れ込み、生活用水や農業用水の主な水源となっている。そのため、エルニーニョ現象で増加が見込まれる降雨量は、シエラネバダ山脈での積雪とならない限り、貯水池の水位が回復せずに乾季に再び水が不足する事態になりかねない。

 また、過去のエルニーニョ現象と降雨量には相関関係が認められないとの指摘もあり、NOAAでは、干ばつは来年も続く可能性があることを示唆しており、引き続き節水の取り組みを呼びかけている。

ウ 調査対象品目に与える影響

 ブロッコリー、レタスおよびセルリーの主要生産地は、カリフォルニア州中南部の沿岸に位置するサリナスバレーのモントレー郡である。同郡は、主な水源がシエラネバダ山脈の雪解け水ではなく、豊富な地下水であるため、サン・ホアキンバレーに比べ、干ばつの影響が比較的少ない。むしろ、今後、予想されるエルニーニョ現象に対しては、洪水などの災害に対する懸念が高まっている。強いエルニーニョ現象が発生した1997/98年の冬に、同郡では豪雨による洪水、地滑りや土石流が起きた。当時のエルニーニョ現象による郡の経済損失は3800万米ドル(46億円)に達し、そのうち700万米ドル(8億5000万円)は農業部門となり、2万9000エーカー(1万1700ヘクタール)が被害を受けたと記録されている。降雨量だけでなく、降雨のタイミングについても懸念を示している生産者がいる。予報通りに雨季が9月末に始まれば、生産者は途中で収穫を打ち切らなければならず、また、降雨が冬の終わり頃から春先にかけてピークを迎えれば、は種の時期を先延ばしにしなければならないといった事態が発生する。

 このように、地下水の水位回復という好ましい影響が予想される一方で、降雨の状況によっては、今回のエルニーニョ現象がブロッコリーやレタス、セルリーの作況に悪影響を与えかねないとみられている。




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