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海外情報(野菜情報 2015年10月号)


主要国の野菜の生産動向等

調査情報部


1 中国

 日本が輸入する冷凍ブロッコリーの約6割を中国産が占めていることから、今号では、ブロッコリーの生産動向等を紹介する。

ブロッコリーの生産・価格・輸出動向

(1)生産動向

 中国におけるブロッコリーの生産に関しては、公式な統計がないため正確な数値は不明だが、関係者によると、栽培面積は約2.7万ヘクタール、生産量は年間約40万トン、単収は10アール当たり1.5トンと推定される。

 主産地は、浙江せっこう省、江蘇省、山東省、河南省、陝西せんせい省であり、このうち浙江省が栽培面積の過半を占め、特に同省の温嶺市と臨海市は、合計で約1万ヘクタールと中国におけるブロッコリー栽培の中核をなしている(図1)。

 中国でのブロッコリー栽培は、1970年代から始まったが、当初は高級ホテルへの供給が主であり、生産量はごくわずかであった。その後、「菜藍子さいらんし工程(買い物かごプロジェクト)(注)」の推進や輸出需要により、90年代以降生産量が増加したが、現在でも一般の食卓で日常的に食される野菜としてよりも、外食向けや輸出向けが大半を占めている。

 なお、近年は、ほ場の賃借料が上昇しブロッコリー生産の収益性が低下していることにより農家の栽培意欲の減退を招き、他の作物への転作が見られている。一部のほ場では、中国でのワインブームを受けてぶどうへの転作が行われたとの情報もある。

 ブロッコリーは春作と秋作の2作型に分かれるが、主産地の浙江省は主に露地栽培秋作型である。山東省などでは、春作型はビニールハウスの中で育苗し、ビニールトンネルを用いて定植した後、暖かくなるとビニールトンネルを解体して露地栽培する。秋作型は主に露地栽培で行われる(図2)。

(注)80年代後半に始まった国家プログラム。一年を通じて野菜をはじめとした新鮮な生鮮食料品を広く国民が入手できるように、供給体制の整備を図ることを目標とした。

 主な品種としては、緑雄りょくゆう耐寒優秀たいかんゆうしゅうなどがある。日本産品種は病害への抵抗性が高く、花蕾からいの形状が良く生産性も高いことから、日本産品種を輸入もしくは日本産品種を改良したものが多い。種子代は、10アール当たり350元(6650円)程度である。

 なお、本稿中の為替レートは、1元=19円(8月末日TTS相場:19.09円)を使用した。

(2)価格動向

 夏場の高温期はブロッコリー栽培に適さないことから、供給量が減少し価格が上昇する(図3)。なお、1月から2月に生鮮食品全般の値が上昇する、いわゆる新年や春節(旧正月)需要による高騰は見られない。

(3)輸出動向

 中国から輸出されるブロッコリーは、小花蕾ごとにカットされた冷凍品が主であるが、中国貿易統計上「その他の冷凍野菜」に含まれており、その正確な輸出量は不明である。

 中国産冷凍ブロッコリーの主要な輸出先である日本市場の動向を見ると、近年、冷凍ブロッコリーの輸入量は、堅調な業務用需要により増加傾向で推移しており、中国産は全体のおよそ6割を占め、毎年2万トン程度輸入されている。2015年上半期は、全体の冷凍ブロッコリーの輸入量が、前年同期比5.0%増加しているのに対し、中国からの輸入量は、円安元高の為替の影響から3.5%減となった。中国に代わってエクアドルからの輸入が増えており、今後の中国産の輸入については厳しい見通しがされている(図4)。

2 米国

 日本への輸出が多いブロッコリー、レタス、セルリー(セロリ)(以下「セルリー」という)について、それらの主産地であるカリフォルニア州を中心とした生産動向等とともに、米国の害虫対策の現状を紹介する。

(1)ブロッコリー、レタス、およびセルリーの生産動向

ア ブロッコリー

(ア)作況および作付面積

 8月に入り、主産地はモントレー郡からスタニスラウスに移行した(図1)。一般的に気温が上昇するこの時期は、ブロッコリーの生育適期でないとされており、天候により品質が左右されることがある。この時期に発生する品質の問題点としては、茎の空洞化、花蕾の変色などが挙げられる。現時点では、選択的な収穫・出荷が行われており、供給量への大きな影響はないとされている。

(イ)生産者価格

 2015年6月のブロッコリー生産者価格は、供給量の増加に伴い、1キログラム当たり76セント(93円)となった(表1)。現地報告によると、7月末からブロッコリー需要は高まっており、特に輸出需要が伸びている。これにより、ブロッコリー価格は上昇傾向にある。

 なお、本稿中の為替レートは、1米ドル=122円(8月末日TTS相場:122.18円を使用した)。

(ウ)対日輸出動向

 2015年6月の日本向け輸出量は、2270トンとなった。米国内の需要が高まっていることで輸出量は減少し、前年同月比では35%減となった(表2)。

(エ)東京都中央卸売市場の入荷量および平均卸売価格

 2015年6月の東京都中央卸売市場の米国産ブロッコリーの入荷量は、174トンとなった。平均価格は1キログラム当たり354円と、5月とほぼ同じ水準で推移した(表3)。6月に同市場で最も入荷量が多かったブロッコリーは長野産(457トン)であり、平均価格は米国産を大きく上回る同612円であった。

イ レタス

(ア)作況および作付面積

 8月初旬、モントレー郡では3回目のレタスのは種が行われた。同郡は降雨不足であるものの、温暖な天候で推移しており、レタスの生育は順調である。害虫の発生が平年より多いものの、収穫量は平年以上と報告されている 。ベンチュラ郡オックスナードでは、7月にセルリーのモラトリアム(一時的な栽培停止期間)を設けており、一部生産者はセルリーの生産をモントレー郡サリナスへ移行させる際、レタスの生産も同時に移行させている。そのため、7月から10月にかけて、サリナスでのレタス生産(特にオーガニックレタス)が目立っている。

 8月に公表されたサンタクルーズ郡の「2014 Crop Report」によれば、2014年の結球レタスの栽培面積は596ヘクタール(生産量2.7万トン)、リーフレタスは730ヘクタール(同2.6万トン)であった。前年に比べ、前者が40ヘクタール減少したのに対し、後者は60ヘクタール増加した。この要因の一つとして、リーフレタスの生産者価格が結球レタスより約4割高いことが挙げられる。なお、結球レタスの単収は10アール当たり4.5トン、リーフレタスは同3.6トンであった。

(イ)生産者価格

 6月中旬から結球レタスの取引が活発になったことから、2015年6月の結球レタスの生産者価格は、1キログラム当たり67セント(82円)と前月に比べ22%上昇した(表4)。その後、7月下旬から8月上旬にかけて、レタス価格は高騰し、1カートン(22.7キログラム)当たりの価格で見ると、結球レタスが7米ドル(854円)から20米ドル(2440円)に、ロメインレタスは7米ドルから13米ドル(1586円)、グリーンリーフレタスは7米ドル(854円)から8米ドル(976円)となった。これはカリフォルニア州以外の産地での不作による供給減などが起因しているとみられている。

(ウ)対日輸出動向

 2015年6月の日本向け輸出量は、結球レタスが195トン、その他レタスが4トン弱となった(表5、表6)。結球レタスの輸出単価は、依然として1キログラム当たり1.3米ドル(159円)で推移しているのに対し、その他レタスの輸出価格は1.8米ドル(220円)と、今年に入ってから最も低い価格となった。

 

(エ)東京都中央卸売市場の入荷量および平均卸売価格

 2015年6月の東京都中央卸売市場の米国産レタス(ロメインレタス、リーフレタス等)入荷量は、1.2トンとなった(表7)。卸売価格は1キログラム当たり338円と、今年に入ってから最も高く、前年同月を1割上回った。

ウ セルリー

(ア)作況および作付面積

 7月下旬から8月上旬にかけて、モントレー郡ではセルリーの収穫が続いていた。ベンチュラ郡オックスナードでは土壌ウィルスの拡散防止を目的とした栽培停止により生産されておらず、8月に出荷されているセルリーは主にモントレー郡サリナスで収穫されたものである。セルリーは十分なかん水を必要とするため、干ばつが続くカリフォルニア州では、今後セルリーの作付面積が減る可能性がある 。

(イ)生産者価格

 市場取引が落ち着いたことから、2015年6月のセルリーの価格は1キログラム当たり39セント(48円)となった(表8)。

 なお、現地報告によると、8月はセルリーが若干品薄状態であったため、生産者価格は上昇傾向にあった。8月10日時点では、サリナスとサンタマリアから出荷されているセルリーが1カートン(24茎、27.2キログラム)当たり約16米ドル(1952円)と、7月下旬の価格より3~4米ドル(366円~488円)高かった 。なお、両地域から出荷されているセルリーの品質は概ね良好である。

 

(ウ)対日輸出動向

 2015年6月の日本向け輸出量は、828トンとなった(表9)。輸出単価は1キログラム当たり60セント(73円)と、前月と同じ水準で推移している。

 

(エ)東京都中央卸売市場の入荷量および平均卸売価格

 2015年6月の東京都中央卸売市場の米国産セルリーの入荷量は、39トンとなり、今年に入って最も入荷量が多い月となった(表10)。6月時点で、同市場で最も入荷量が多かったセルリーは長野産(660トン)であり、平均価格は米国産を上回る330円であった。

(2)トピックス

~農産物の害虫対策の現状~

ア 米国の害虫対策体制

 米国で、植物の害虫対策を担っているのは米国農務省動植物検疫局(USDA/APHIS)の植物検疫部門(PPQ)である。PPQの主な業務は3つに分類され、害虫の侵入と発生の予防、既に発生した害虫の管理と撲滅、そして農産物の安全な輸出入の促進である(図2)。

 害虫の侵入と発生の予防対策では、PPQは米国国土安全保障省税関・国境取締局(CBP)と連携し、輸入貨物などの水際での検査とモニタリングを行っている。PPQはさらに、「害虫早期発見プログラム」を各州農務関係機関と共同で実施している。同プログラムは、CBPが行っている検査業務を補完するもので、米国政府が脅威とみなしている特定害虫について、APHISの予算を活用して、各州の農務関連機関または大学などの研究機関が実施主体となって検査、調査を実施している。既に発生した害虫への対策としてPPQは、各州政府の農業担当局、またはこれらで構成される非営利団体「全米植物ボード(NPB)」と連携し、「植物病害虫プログラム」を通じて、植物に害を与える病害虫の撲滅、制御、封じ込めなどを行っている。現在では、多くの作物に甚大な影響を与えかねないチチュウカイミバエやツヤハダゴマダラカミキリなどの15種類の昆虫やダニ、2種類の軟体動物のモニタリングや撲滅活動などを行っている。PPQはさらに、世界中の病害虫の発生動向を監視し、米国の農業に脅威となる可能性の高い害虫については、「優先順位の高い外来害虫リスト」を作成し、関係者に情報提供を行っている。

 農産物の安全な輸出入の促進分野では、PPQは諸外国・地域の植物検疫機関と協力して国際基準の制定に携わる一方、輸出入に係る植物検疫問題に対処し、農産品の輸出証明書の発行を行っている。

イ カリフォルニア州における害虫対策の現状

 カリフォルニア州食料農業局(CDFA)は、APHISと連携して同州の虫害対策に当たっている。特に農業の脅威となりうる害虫の防除、検出、モニタリングおよび撲滅などを行う。CDFAはまた、輸出される農産品に害虫がないことを証明する書類を発行している。水際対策については、CDFAは州内16カ所で州外からの害虫の侵入を防ぐ一方、州内農産物に対して、検疫措置のほか、家畜および農産物の移動に際する証明書を発行している。

 また、CDFAでは、カリフォルニアの農産物に大きな被害を与える害虫に関する評価も行っており、その重要度合により5段階評価(A、B、C、D、Q)に分けている。経済的に大きな打撃を与え、既に発生が確認されている害虫の場合は“A”評価とされ、州はその害虫の撲滅、検疫措置、封じ込めなどの措置を取ることになる。“B”評価の対象害虫に対しては、各郡の農務担当部署がその裁量により防除業務に当たることとされている。CDFAはこの害虫評価リストを公表し、一般市民等からの害虫発見の情報を受け付けている。

ウ 対象品目に影響与える害虫の動向

 前述の害虫リストの中には、「Bagreda Bug」とよばれるカメムシがある。これは、カメムシ目カメムシ科の害虫であり、キャベツ、ブロッコリーなどのアブラナ科の野菜やメロン、ばれいしょ、トウモロコシなどに寄生し、その幼虫が吸汁加害して植物の生長を阻害する。同害虫はアフリカ・インドを原産とし、米国では2008年にカリフォルニア州ロサンゼルス郡で初めて発見されて以降、その生息地域を広げている。現在は、同州の22郡、またアリゾナ州やニュー・メキシコ州などの近隣州でも発生が確認されており、ブロッコリー生産が盛んなモントレー、サンタバーバラ、インペリアル郡などにも生息している。2010~11年には、アリゾナ州ユマ郡およびカリフォルニア州インペリアル郡のブロッコリー栽培地の9割以上で確認され、直播されたブロッコリーの10%に被害があったと報告されている。

 CDFAは、このカメムシを“B”に分類する一方で、ブロッコリーの一大産地であるサリナスバレーに生息が拡大していることから、2014年に37万米ドル(4514万円)を投じて、その生態、被害の算出および対策に関する調査に乗り出した。

 2014年末から2015年の冬場は例年にない暖かさであり、春から夏場にかけて比較的低い温度で推移したことで、カメムシにとっては繁殖に適した気候となった。このため、秋から始まる栽培への影響を危惧する生産者も多い。生産者の多くは、ピレスロイド系(Pyrethroids)殺虫剤などの使用頻度を増やして駆除に当たっているのが現状である。しかし、使用頻度の増加が生産コストにも影響することから、より効果的な対策が求められている。

 他方で、オーガニック・ブロッコリーの生産者にとっても、カメムシ対策が大きな課題となっている。

 また、これ以外に発生が確認されている害虫として、カスミカメムシがあり、セルリーやレタスなどに寄生する。同害虫は茎葉などを吸汁し、植物に害を与えるが、現段階ではその被害は軽微であるとされている。

 なお、日本の植物防疫法では、これらの害虫が付着した野菜の輸入は禁止されている。




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