[本文へジャンプ]

文字サイズ
  • 標準
  • 大きく
お問い合わせ

〔特集〕加工・業務用野菜の生産拡大に向けた取り組み


米国のカット野菜などの生産・消費動向と契約取引状況

調査情報部 平石 康久、野田 圭介


【要約】

 米国の野菜生産は集約化が進み、生産が集中するカリフォルニア州は、地理上の利点や移民の活用により、周年的に大規模な野菜生産が行われている。
 一方、米国の野菜消費は20年前と比較して大きく変化しており、伝統的な加工・業務用野菜である冷凍野菜や缶詰野菜の消費量が減少する一方、カット野菜のような加工された生鮮野菜の消費が増加している。
 安定した取引が重要なカット野菜の取引においては、大規模化した出荷者と需要者との間でさまざまな契約取引が行われている。

はじめに

 日本において、世帯構成やライフスタイルの変化により、「食」の外部化が進み、加工・業務用野菜のニーズが高まっているが、輸入品との価格差や国内産地における食品事業者等のニーズへの対応の遅れなどにより、加工・業務用の国産原材料のシェアは低い状況にある。一方米国において、従来の冷凍、缶詰野菜だけでなく、カット野菜のような加工済生鮮野菜の生産・消費が伸びている。

 このため、カット野菜の販売および消費状況や契約取引の実態を調査するため、2015年6月に米国のカリフォルニア州のサリナス近辺の生産・出荷業者を訪問するとともに、イリノイ州シカゴで開催された全米の青果物生産、流通の関係者が集まる展示会に参加し、ワシントンDCに事務所を持つ青果物関連団体と面談する機会を得たことから、同国の野菜生産、野菜消費及び取引の実態について、報告を行う。

 なお、本文中の為替レートは、1米ドル125円(2015年7月末日TTS相場:125.04円)を使用した。

1 野菜生産の概況

(1)野菜生産農家、収穫面積、産出額

 米国農務省全国農業統計局(USDA/NASS)が2014年5月に公表した「2012 Census of Agriculture(2012農業センサス)」によると、2012年の全国の野菜収穫農家数は7万2045戸で、収穫面積は181万7883ヘクタールであった(表1)。2007年時と比べると、農家数は4%増加したものの、収穫面積は4%減少した。なお、農家1戸当たり平均野菜収穫面積は25.2ヘクタールであり、日本の約19倍に相当する。

 日本の野菜の産出額は、2兆2485億円と農業総産出額の26.6%を占め、主要品目である米(21.0%)を上回るのに対し、穀物や畜産生産が盛んな米国では、同4.3%(146億8306万米ドル:1兆8354億円)にとどまっている。これは、10年前と比べ2.1ポイント減少しており、飼料需要に後押しされた大豆やトウモロコシなどの穀物の産出額の増加が、野菜生産を上回って推移していることが主な要因とみられる。

(2)米国の品目別野菜収穫量

 米国では、生鮮向け野菜の収穫量は近年減少傾向にあり、2014年は前年比1.2%減の1874万840トンであったが、品目別では例年と同様にたまねぎ、結球レタス、すいかの順に多かった(表2)。また、後述するパックドサラダなどの需要増に伴い、リーフレタスやブロッコリーなどの収穫量は近年増加傾向にある。なお、加工向け野菜の収穫量は、2014年は1741万1950トン(前年比11.8%増)となり、トマト、スイートコーン、さやえんどうの上位3品目が加工向け野菜全体の収穫量の92%を占めている。

(3)米国における野菜生産の分布

 米国の野菜生産は、輸送技術の発展や経営の大規模化に伴い、生産現場の遠隔地化や集約化が進んだため、現在では、条件に恵まれた一部の州に産地が集中している(図1)。このため、2014年の国内収穫量のうち、生鮮向けで7割、加工向けで約9割が上位5州で占められた(表3)。

(4)カリフォルニア州の野菜生産の特徴

ア 概要

 カリフォルニア州は、全米の収穫量のうち生鮮向けの5割、加工向けの7割を占める最大の野菜生産州であり、表4の通り生鮮向けのレタスやブロッコリー、加工用トマト生産などでは圧倒的なシェアを誇っている(表4)。

イ 野菜の産地リレー

 2012農業センサスによると、カリフォルニア州の農業総産出額のうち野菜が占める割合は、全米平均を大きく上回る14.8%となっている。この背景には、同州では地理上の利点を生かした産地リレーにより、周年で野菜生産が行われていることが挙げられる。

 同州は、冷涼な中部海岸地帯から暖かいメキシコ国境地帯まで、気象条件の異なる複数の産地を有している。主要産地であるモントレー郡サリナスやサンタバーバラ郡サンタマリアは、サンフランシスコの南部からロサンゼルスの北部までの海岸地帯に開けた奥行き160キロ、幅15キロほどの細長い谷に位置しており、海流の影響で夏は涼しく、冬は暖かいため、春から秋にかけてレタス、ブロッコリー、カリフラワー、セルリー、いちごなどの主産地となっている。一方、メキシコ国境のインペリアル郡では、コロラド川の水を利用したかんがい農法が広く行われており、冬から初春にかけてレタス、ブロッコリーなどが生産されるほか、にんじん、たまねぎ、アスパラガス、メロンなどの産地としても有名である(図2)。

 このため、レタスやブロッコリーなどは、季節によって場所を変えた産地リレーが行われている。ブロッコリーの収穫を例にすると、春から秋まではサリナスやサンタマリアが中心となり、冬はインペリアル郡(他州ではアリゾナ州のユマ郡)に移り、端境期の秋作はセントラルバレーなどで行われる。いずれの産地も4月から10月までは乾燥するため、かんがい比率はほぼ100%であり、需要に応じた計画的、安定的な栽培、出荷が可能となっている。また、大手の生産者や販売企業は、これらの産地の間で季節によって人員、機械を移動させるなど、年間を通して安定した出荷を行う体制を整備している。

 今回調査を行ったサリナスは、夏は周囲を囲む山脈により霧が立ち込めて高温を防ぐ一方、冬は沿岸を流れる暖流の影響を受けて比較的温暖湿潤な気候である(図3)。また、沖積土と粘土質からなる肥沃な土壌に覆われているなど、野菜の生産に適した自然条件を有している。同地域を含むモントレー郡は、リレーされる産地の中でも中心的な役割を有しており、2012年農業センサスでは、モントレー郡の野菜生産額は州全体の27%(16億7705万米ドル:2096億円)を占めた。「米国のサラダボウル」と呼ばれるサリナスの野菜は、ブロッコリー、レタス、セルリー、いちごなどを中心に米国内のみならず世界中に輸出され、日本も重要な輸出先の一つとなっている。

 また、モントレー郡サリナスには野菜生産者のみならず、大手の青果類販売企業や加工企業、種苗企業、農薬、肥料企業、各種農業機械、冷却装置の製造開発メーカーなどのアグリビジネスや農業関係の研究機関などが拠点を構えている。最新の科学技術を活用した多くの野菜関連企業も集積しており、近年では、生鮮野菜のインターネット通販企業なども進出しているとされる。

ウ 移民労働者の活用

 企業的な野菜生産が展開されているカリフォルニア州では、農地の借り入れから耕起、は種、防除、間引きなどの栽培管理および収穫調製に要する労力の確保に至るまでが合理的に行われている。また、ほとんどの農場では、ダム貯水の水源から運河を通じて供給される農業用水や、伏流水などの地下水をかんがいに利用しているが、水量に限りがあることやコストの関係などから、水利組合の管理のもとに配水システムが整備されている(写真1)。さらに、は種機、移植機、防除機、収穫機などの農業機械がほ場で効率的に作業できるよう、畦幅はなど間隔に統一されている(写真2)。しかし、生産量の多いレタスやブロッコリーなどの収穫作業は、多くの人手で規格に適したものを選択する必要があり、賃金の安い移民の季節労働者によって賄われている。

 図4に示す通り、同州の農業労働者に占める移民の割合は2008年時点で5割を超えており、移民は重要な労働力となっている。今回訪れたサリナスのレタス農場でも、多くのメキシコ人作業員が収穫作業を行っていた。

 同農場では、アイスバーグベイビーと呼ばれる外食向けの特殊なソフトボール大の小玉の結球レタスを生産している。収穫作業は、パッケージ作業台と荷台が一体となった収穫機がほ場内をゆっくり前進するのに合わせて、手作業により、収穫・洗浄・包装・箱詰めが一度に行われる(写真3、4)。フィールド・パッキングと呼ばれるこの収穫方法は作業効率が高く、農場責任者によると、38人の作業員と1台の収穫機で、1日当たり3エーカー(1.2ヘクタール)の収穫が可能となる。袋詰めされた野菜が納められた箱はその後パレットに載せられ、最終的にパレットごとトラックに積み込まれてほ場を後にする(写真5)。なお、顧客の要望に応じて箱のサイズが複数用意されており、アイスバーグベイビーの場合、20個詰めと40個詰めの2種類が使い分けられていた。

 また、同農場ではトレーサビリティへの配慮から、野菜の箱に張られた鮮やかなピンク色のシールに、収穫日や収穫に携わった責任者の氏名、生産者番号、ほ場番号を記載している。さらに、衛生管理も徹底され、収穫物に直接触れるナイフや洗浄水は消毒されたものを用い、異物混入防止の観点から、作業員による時計やイヤリングの持ち込みは禁止となっている。ほ場では、ヘアキャップおよびマスクの着用が義務付けられ、トイレ利用時には服を着替えるなどの規則も設けている。なお、現場での意思疎通はスペイン語であるため、機材への注意書きなどは、必ず英語とスペイン語が併記されている(写真6、7)。

2 米国の野菜消費に影響を与えているカット野菜

 米国で加工・業務用野菜といえば、冷凍、缶詰野菜が代表的なものであったが、この20年の間、統計上は生鮮野菜の中に含まれながらも、消費段階での調理が不要な、カット野菜の消費が大きく伸びている。パックドサラダ(後述)に代表されるカット野菜が、調理時間の短縮を望む消費者ニーズに対応する形で消費が増加してきた。

(1)家計消費の変化

 米国の青果物消費は、この20年で大きく変化した。米国の家庭内1人当たり年間支出金額について、直近の2013年と、10年前の2003年、20年前の1993年のデータを比較すると、次のような傾向が見られる(表5)。

ア 食料支出額

 食料支出額の伸びは、年間支出合計金額の伸びと比較して小さい。米国農務省経済調査局(USDA/ERS)の分析では、一般に食料品は所得弾力性が低いことから、所得が上昇している局面では、一般的な消費の伸びに比べ伸び率が小さくなるとしている。

イ 家庭外食料支出額

 家庭外食料支出額(外食)は、食料支出額よりも伸びが大きいが、最近では伸びは鈍化している。これは、一時期までは家庭内消費から家庭外消費へのシフトが生じていたが、外食より安価で食事の手間が省略できるホームミールリプレイスメントと呼ばれる中食への転換が起きたためとみられている。米国食品マーケティング協会(FMI)によれば、小売店の年間売上成長率は平均2~3%程度であるのに対し、レストランなど外食産業は同4~5%、スーパーでの調理済み生鮮食品の売り上げは同7~8%に達していると報告されている。

ウ 食料支出額に占める青果物支出

 家庭の消費に占める青果物の支出額の伸びは、支出額全体の伸びよりもわずかに大きなものとなっている。これは、特に生鮮野菜の消費額が伸びていることが要因である。このため、青果物の支出額が食料支出額に占める割合も上昇傾向にある。

 USDAが公表した生鮮野菜、冷凍野菜、缶詰野菜の消費量によれば、野菜全体の消費量は減少に転じているが、内訳を見ると、生鮮野菜が増加する一方、冷凍野菜や缶詰野菜は減少している。これは、伝統的にステーキの副食などに利用されていた冷凍や缶詰などの加工野菜消費が減少傾向であるのに対し、生鮮野菜を利用するサラダやサンドイッチの需要が増加傾向にあるためとみられる。

 品目別の1人当たり野菜消費量の変化を見ると、カット野菜製品の原料として多く利用されるブロッコリー、ピーマン、アスパラガスなどの消費が増加する一方、冷凍や缶詰、漬物に多く利用されるキャベツ、にんじん、スイートコーン、グリーンピースなどの消費が減少している。レタスの消費については、結球レタスは減少傾向にあるが、ロメインレタスやリーフレタスは、カット野菜製品需要の増加により増加している(表6)。

(2)カット野菜の種類について

 米国生鮮青果物協会はカット野菜について、パックドサラダ(Packed Salad)のほか、サイドディッシュ(Side Dish)、トレイ(Trays)、スナック(Snacking)、調理済み(Meal Prepared)と分類している。

(ア)パックドサラダ

 最初に市場に投入されたのが、1988年~1989年頃といわれており、ここ25年で大きく消費が伸びている。パックドサラダは、産地に近い工場、もしくは消費地に近い工場で生鮮野菜をカットし、鮮度が保たれるような処理を行なって出荷される。袋入りのものや、容器に盛り付けられそのままサラダとして食べるものなど、消費者にとって利便性の高い商品である(写真8)。

(イ)サイドディッシュ

 生鮮野菜を洗浄、カットしたもののうち、特に肉料理などの副食用にパックされた商品であり、袋詰めされたカット済みのブロッコリーやカリフラワーなどをそのまま電子レンジで加熱してメインディッシュに添える。家族による利用を想定していることから、パックドサラダに比べて大型商品が多い(写真9)。

(ウ)トレイ

 カット、洗浄した生鮮野菜がトレイに乗せられ状態で販売されている商品であり、ソースやドレッシングが添付されることもある。家族や友人が間食として食べることを想定している(写真10)。

(エ)スナック

 カット、洗浄した生鮮野菜を、1人分の間食用として小分けにパックしたものである。セルリースティックやにんじんスティックのように、パックから取り出してそのまま食べ、商品によってはソースやドレッシングも添付されている(写真11)。

(オ)調理済み野菜

 調理されていて温めるだけで食事ができるようになっていたり、各種のレシピ(野菜炒めなど)に沿った材料が1つのパックに詰められているもの(写真12、13)。

(カ)流行しているカット野菜製品(2015年前半)

 最近では、消費者の健康志向などを背景に、スムージーと呼ばれる野菜をそのまま破砕してジュースにした飲料の消費が拡大しており、この原料となるケールやビーツなどの販売が好調となっている。また、1つのカップにさまざまな野菜を彩りよく詰めたジャーサラダと呼ばれる商品も人気がある。

(3)カット野菜の市場規模について

 米国でカット野菜独自のデータは存在しないが、青果物販売協会(PMA)の資料によると、野菜と果実を合計したカット青果物の市場規模としては2014年の販売額ベースで270億米ドル(3兆3750億円)に達すると推計されている。その41%が小売店で販売され、小売店で販売される61%がパックドサラダである。小売店で販売されるパックドサラダ以外のカット青果物は、カット青果物の市場規模(270億米ドル)のうち16%を占めている(表7)。

 パックドサラダを除くと、カット野菜として販売される野菜で最大のものはにんじんであり、その多くはベビーキャロットやにんじんスティックとされる(表8)。

 一方で、食品産業向けの供給は、その多くがバルク形態でのカット野菜やカット果実とみられる。

3 カット野菜などの野菜取引の状況

 野菜は貯蔵性がなく、作況によって価格が大きく上下する性質を持つことから、米国でも日本と同様に日別や週別を単位とした短期間での取引が多い。

 一方、小売業者やフードサービスなどの需要者にとっては、カット野菜など野菜の安定的な供給が重要である。需要者および出荷者の大規模化が進むとともに、生産・出荷業者や加工業者と、小売業者やフードサービスなどとの需要者との間で直接取引が行われるようになった結果、両者により事前に取引条件を定めて行う契約取引が重要な取引手段となっている。

(1)米国の野菜取引の概況

 米国では、野菜が生産されてから消費者の元に届くまでの主要な流通ルートは、図5のとおりである。

 米国の野菜流通の特徴としては、次の点が挙げられる。

① 生産・出荷業者(加工まで行うことも多い。以下同じ)と呼ばれる企業が、自ら野菜を生産しつつ、他農家からも野菜を集荷し出荷を担っている。生産者と取引を行い、専ら出荷を専門とする出荷業者もある。

② 出荷者(生産・出荷業者や加工業者など)と需要者である小売業者やフードサービス等との間には、日本にあるような卸売市場が存在せず、代わりに仲介業者が、販売・調達、品質評価、商品補充や輸送手段の手配、再包装などの役割を果たしている。

③ 大規模な取引や長期間の取引では、仲介業者を利用せず、出荷業者と需要者が直接取引を行なう傾向がある。その他にも生産者と消費者との間でファーマーズマーケットや、ネットを通じた取引も増加している。

④ 輸出にも相当規模が向けられている。

(2)小売業の大規模化に対応した取引の変化と出荷者の大型化

 米国においても小売店の大規模化が進展している。小売店全体の販売額に占める大手小売チェーン上位4社(Wal-Mart社, Kroger社, Safeway社, Publix Super Market社)の割合は、1993年には16.8%であったものが、2013年には36.4%に拡大しており、さらに上位20社で見るとその割合は39.2%から63.8%に拡大している(図6)。

 大型化した需要者(小売業者やフードサービスなど)は、多様かつ大量の野菜を安定的に供給することを出荷者に要求するようになる。

 このような需要者の要求に応えるために、出荷者も大型化している。特にカット野菜の取引は、商品の製造設備などへの投資が必要であり、出荷者の大規模化が起こりやすい。このようなことから、需要者の大規模化に対応した形で出荷者の大型化も進んだといわれている。

 一方、大型化する需要者への要求に応えられない生産者は、大規模な生産・出荷業者へ販売を委託するほか、製品の差別化やネット販売などの取り組み、仲介業者へ販売を特化するなど、出荷先の変更などにより対応しているとの話も聞かれた。

(3)米国の野菜契約取引

 野菜は貯蔵性がなく、作況によって価格が大きく上下する性質を持つことから、米国でも日本と同じく日別や週別を単位とした短期間での取引が多い。

 一方、特にカット野菜について、上記のように需要者および出荷者の大規模化が進むとともに、両者の間で直接取引が行われるようになり、品目によっては事前に取引条件を定めて行う契約取引が重要な取引手段となっている。

 契約取引については、需要者が強く希望する場合が多く、その要望に出荷者が対応できる限り対応するという形で、契約取引が発展してきたとされる。

ア 契約取引の背景

 特に需要者から契約取引の希望が出される背景には、次のような理由があるとされている。

① 自社が要求する品質を満たす大量の野菜を安定的に手当てする必要がある。

② 年間を通して総合的に利益を確保するため、収益を計算しやすい形式で取引を希望する。

③ 数週間前に販売促進活動計画を決定することから、事前に数量の確保や価格決定を行うことが必要となる。ただし、需要者は価格変動に備え、契約条件の全てを契約時に完全に確定させない傾向がある。具体的には、価格高騰時には事前決定した価格で購入できるが、価格低落時には実勢価格で購入できるようなオプションを付けるなどの方法により、需要者の自由度を高めている。

 一方、出荷者にも契約取引に取り組む動機が存在する。出荷者は、安定した販売先を確保できること、契約取引に応じることによって購入者との関係を維持、発展させることが期待できること、価格を安定化させることができるといった利点がある。

イ 契約取引の期間や契約取引が行われやすい品目

 各種資料や聞き取り結果によれば、短期の契約は3カ月、6カ月、9カ月を期間とするものが多いが、長期の契約では1~3年というものもある。

 今回訪問したある共同仕入会社(注1)では、1年以上の契約を契約取引とし、それに満たない期間については、契約取引に類似した短期的な取引としていた。同社ではカット野菜は契約取引の占める割合が高く、1~2年の契約取引とし価格を固定している。同社が1年以上の契約取引により調達している野菜として多いのは、にんじん、カット野菜、ばれいしょ、マッシュルーム、トマトなどである(表9)。カット野菜のみならず、にんじんもベビーキャロットやスティックといった加工済での販売が多いことから、加工が可能な出荷者が大規模化し、契約取引に対応できる能力を備えたことが、契約取引が多い要因であると考えられる。

注1:複数の小売やフードサービスが扱う商品や原料の仕入を共同して行う会社

ウ 契約取引の形態

 出荷者と需要者の契約の形態には、次のような方法が取られるとされている。

(ア)価格を固定した取引

 契約期間中の全部、または契約期間をシーズンごとに分け、その間の取引価格を固定する方法。数量についても固定した数量を契約で定めることもあるが、多くの場合は需要者で最低購入数量を定め、それ以上の数量については価格調整を経た上で、需要者が引き取ることが多い。

(イ)FOB(出荷時点)価格で価格に幅を持たせた取引

 契約価格としてUSDAが発表する「Market News」などの出荷地点でのFOB価格に、一定の幅を持たせた価格帯を設定する方法。数量については(ア)と同様に最低購入数量を定める方法が多い。ただし、聞き取りでは、USDAの公表するFOB価格の精度は高くないとし、独自に近隣の取引価格を参照するとの話も聞かれた。

(ウ)価格、数量の取り決めがなく、出荷先と品目だけが決まっている取引

(エ)付帯サービス

 上記に加えて、契約の条件として一定のサービスを提供できることが求められることが多い。例えば、サプライチェーン・マネージメントの一環として、小売から販売に関する即時の情報提供を受ける代わりに、品切れのないよう自動的に商品補充を提供するサービス、第三者からの安全性の認証、需要者固有の包装や安全性基準、品質といった要件を満たすことが求められる。

 聞き取りでも、(ア)の方法に付帯サービスが求められる事例がよく聞かれた。例えば、顧客からカリフォルニア州のマーケティングアグリーメント(注2)であるCalifornia Leafy Greens Marketing Agreementへの参加が求められた事例や、GAPの認証を受けない限り大口需要者に出荷ができないとした小規模農家の事例があった。

注2:協定の参加者にのみ強制力を発揮する取り決めを政府が制度化したもの。例えばレタスの収穫から出荷に至るまで生産・出荷業者や出荷者が守らなければならない衛生に関連する手続きが定められている。

エ 契約取引の形態(生産者と生産・出荷業者)

 生産・出荷業者と需要者の契約だけでなく、生産者と生産・出荷業者との間でも契約が結ばれることも多い。一般的にどのような契約が行われているかは企業情報であるため詳細は把握できないが、聞き取りによれば、下記のような方法がとられている。

(ア)面積契約

 生産・出荷業者に納入する面積を契約時に決定し、1エーカー当たりの金額、あるいは数量当たりの単価を固定する。そこでの栽培方法なども契約により取り決められ、指示通りに生産することが求められるが、契約時に定められた面積から収穫された野菜は、すべて生産・出荷業者が引き取る。

(イ)数量契約方式

 生産・出荷業者が納入する数量(ケース)を契約で定める。余剰分については生産・出荷業者を通じて需要者に異なる価格で引き取ってもらうほか、生産者が仲介業者に引き取ってもらうなどの方法がある。

(ウ)利益分配方式

 販売金額から生産・出荷業者が提供する収穫機や各種施設の利用コストを差し引いた額を、生産者と生産・出荷業者が折半する方法。

(エ)生産者主導型方式

 生産者が栽培を行い、販売金額から生産・出荷業者が提供する収穫機などの利用コストを差し引き、収益を受け取る方法。リスクはすべて生産者が負う。

 カリフォルニア州で生鮮野菜を出荷している生産・出荷業者からの聞き取りでは、農家に人気がある方法としては、(ア)の面積契約とのことであり、価格変動により大きく収入が左右されるよりも、安定的な収益を期待できる取引を好む傾向にあるとのことである。

オ 契約取引の遂行に当たっての工夫

 米国の生産・出荷業者も期間を通じて安定供給を行なうため、栽培時期をずらしたり、産地を分散させたりするなどの工夫を行なっているが、契約で定めた数量を確保できない場合や、逆に大きく契約数量を上回る生産がされるケースが発生する。

 聞き取りによると、契約数量を満たせない(最低出荷数量が確保できない)場合の対応としてよく行われる方法は、出荷者は前進出荷や他の仕向先を想定して生産していた野菜を転用するなどの努力を行うとともに、需要者に早めの連絡を行い、対象出荷期間の出荷数量を減らしてもらうなどである。需要者は、上記のような工夫を生産者で行っても、なお、数量に満たないときは同業者に依頼するか、仲介業者に依頼して数量を確保する。

 逆に生産が大きく契約数量を上回るような場合で多く聞かれたのは、契約相手先と交渉を行い、上回った数量について契約価格より安い価格で引き取ってもらう、あるいは仲介業者に販売するといった対応をしているケースがある。

5 おわりに

 米国では生鮮野菜需要が増加している。野菜を調理し消費することが多い日本に比べ、野菜をサラダやサンドウィッチのように生鮮で消費する傾向の強い米国の消費者にとって、さまざまな加工を行ったカット野菜の利便性は高く、同野菜の消費の拡大につながっている。

 野菜取引については、特にカット野菜について大規模化した需要者と生産・出荷業者が直接取引を行う傾向が強くなり、それぞれが工夫を凝らしながら契約取引に取り組んでいる。また、契約取引の場合、過剰時には需要者が過剰分を引き取るほか、仲介業者を利用した需給調整が行われていること、不足時などには生産・出荷者と需要者が相談の上、可能な限り取引量を絞るとともに、同業者との間で融通を行っている。

 これらの工夫は日本の関係者も同様に行っているものと思われるが、米国では資金面で余裕のある大規模な生産・出荷業者が当事者になりリスクを負担しているのに対し、日本においてはそこまで規模が大きくない農家がリスクを負担することは容易でなく、現在実施されている契約野菜に関する施策の重要性を改めて実感した。


参考資料

◦ 野菜供給安定基金(1996)「米国におけるブロッコリー・アスパラガスの産地動向」

◦ 日本施設園芸協会・野菜供給安定基金(1999)「米国における野菜の産地動向 -米国のいちご、トマト、カットレタスを中心として-」

◦ Linda Calvinほか(2001)”U. S. Fresh Fruit and Vegetable Marketing: Emerging Trade Practices, Trends, and Issues” AER-795, USDA ERS

◦ Linda Calvinほか(2001)“Marketing Winter Vegetables From Mexico” Journal of Food Distribution Research

◦ Roberta Cook(2001)“Tracking Demographics and U. S. Fruit and Vegetable Consumption Patterns” University of California, Davis

◦ Roberta Cook(2014)“A Fresh Look at Produce Production and Marketing: Dish on Today’s Global Trends” プレゼンテーション資料

◦ Roberta Cook(2015)”The Dynamic US Fresh Produce Industry” プレゼンテーション資料

◦ Roberta Cook (2015)”Trends in the Marketing of Fresh Produce and Fresh-Cut/ Value-added Produce” プレゼンテーション資料

◦ Carolyn Dimitriほか(2003)“U. S. Fresh Produce Markets: Marketing Channels, Trade Practices, and Retail Pricing Behavior” AER-825, USDA ERS

◦ Food Marketing Institute, 2015年6月8日~11日開催 “FMI Connect” 会議発表内容

◦ Renée Johnson(2014)”The U. S. Trade Situation for Fruit and Vegetable Products” RL34468 Congressional Research Service

◦ Montana, Department of Agriculture “The Role of Distributors and Brokers”
http://agr.mt.gov/agr/_downloadGallery/Selling_to_Grocery_Stores_Manual_Attachments/The_Role_of_Distributors_and_Brokers.pdf(2015年7月29日閲覧)

◦ Ontario, Ministry of Agriculture, Food and Rural Affairs (2009) “Food Broker - Distributor Information Sheet” http://www. omafra. gov. on. ca/english/new/food-broker-dist. htm (2015年7月29日閲覧)

◦ Produce Marketing Association (2014)”Fresh-Cut Fruits and Vegetables Market & Consumer Information” プレゼンテーション資料

◦ United Fresh Produce Association(2014)“FreshFacts on Retail, 2013 Year in Review”

◦ United Fresh Produce Association(2015)”Value-Added Fruits & Vegetables, Total Year 2014”

◦ United Fresh Produce Association, 2015年6月8日~10日開催 “United Fresh 2015” 会議発表内容

◦ USDA ERS(2011)“International Evidence on Food Consumption Patterns: An Update Using 2005 International Comparison Program Data”

◦ USDA ERS(2015)“Retailing & Wholesaling, Retail Trends” http://www. ers. usda. gov/topics/food-markets-prices/retailing-wholesaling/retail-trends. aspx (2015年7月14日閲覧)

◦ USDA ERS(2015)”Trends in U. S. Local and Regional Food Systems: A Report to Congress”

◦ USDA ERS “Organic Market Overview”
 http://www. ers. usda. gov/topics/natural-resources-environment/organic-agriculture/organic-market-overview. aspx (2015年7月21日閲覧)

◦ USDA NASS “Vegetables and Pulses Yearbook”

◦ USDC Census Bureau “The Foreign-Born Population in the US”

◦ USDL Bureau of Labor Statistics “The Consumer Expenditure Survey”

 


元のページへ戻る


このページのトップへ