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海外情報(野菜情報 2015年7月号)


米国のセルリー(セロリ)生産および対日輸出状況

調査情報部


【要約】

 米国産生鮮セルリー(セロリ)は、日本の生鮮セルリー(セロリ)輸入量のほぼ全量、国内供給量の約2割を占め、特に浅漬け、野菜ジュース、中華料理など業務用需要を満たしている。しかし、主要産地であるカリフォルニア州での干ばつや2013年の凍霜害の影響などにより、輸出価格は上昇している。

1 はじめに

 米国産生鮮セルリー(セロリ)(以下「セルリー」という)は、日本の生鮮セルリー輸入量のほぼ全量を占め、国内供給量全体の約2割に達しており、今後とも生鮮セルリーの主要輸入先国は米国が中心であるとみられている。

 以下では、主産地であるカリフォルニア州を中心に、米国のセルリー生産および輸出の動向、価格、生産コストなどを取りまとめる。
なお、本稿中の為替レートは、1米ドル=125円(2015年5月末日TTS相場:124.73円)を使用した。

2 生産状況

(1)面積、収穫量など

 米国のセルリー収穫面積の80%以上はカリフォルニア州に集中しており、第2位のミシガン州で同5%弱にすぎない。米国農務省(USDA)が公表した「2012 Census of Agriculture:2012年農業センサス」によれば、その他の産地としてはアリゾナ州、オレゴン州、ニューヨーク州、ワシントン州、ペンシルベニア州、ハワイ州などが挙げられる(図1)。

 全米でセルリーを栽培している農場数は増加傾向にあり、2002年の303(収穫面積1万1428ヘクタール)から、2012年には488(同1万3183ヘクタール)となった(表1)。このうちカリフォルニア州では、農場数は201(2012年)と全米の4割程度であるが、大規模生産が展開され、収穫面積は1万942ヘクタールと全米の8割強を占める。同州の1農場当たりの平均収穫面積は54ヘクタールとなっている。第2位のミシガン州は、カリフォルニア州とは対照的に農場数29、収穫面積621ヘクタールであり、農場数および収穫面積ともに減少している。これは、セルリーの収益性が低く、トウモロコシや大豆など他の作物への作付転換が起きていることが原因とみられるが、他作物への転換は一段落したことで、今後のセルリー収穫面積は、横ばいで推移することが予想されている。

 USDAによれば、カリフォルニア州の生産量は近年、おおむね80万トン台で推移していたが、2013年は、天候に恵まれて生育が順調であったところに、突然の寒波による凍霜害により品質が低下し、生産量の減少を招いた。この結果、同年のセルリー価格は高騰し、カリフォルニア州の生産額は4億4000万米ドル(550億円)と過去最高を記録した(図2)。

 2014年の生産量は、約79万トンとやや回復しているが、2012年以前の水準には回復していない。一方、ミシガン州では、2012年から2014年の間に生産量は約5000トン減少し、生産額も2200万米ドル(27億5千万円)強から1890万米ドル(23億6250万円)に減少した。

 米国では、10アール当たり5000~6000株と日本の1.5~1.7倍程度に密植するため、単収は10アール当たり7~8トンと日本(同5.6トン)に比べて多い。セルリーは生育時に水分を多く必要とする野菜であるため、カリフォルニア州の単収は干ばつの影響により、2010年は10アール当たり8.1トンであったものが、2013年には同7トンにまで減少しており、2014年も同7.1トンにとどまっている(図3)。

(2)栽培、収穫方法など

 セルリーは他の野菜と比べ栽培期間が長く、生育期には冷涼な気候と豊富な水が必要となる。また、セルリーの種は小さく、発芽が難しいことから直まき栽培は行わず、施設で10週間程度育苗した後、約36センチメートル(畝間)×22.5センチメートル(株間)の密度でほ場に定植される(写真1)。カリフォルニア州のセルリー生産ではかんがい設備が重要であり、スプリンクラー、点滴かんがい、またはそれらが併用される。併用の場合、定植までにスプリンクラーシステムが設置され、セルリーが活着した後は、代わって点滴かんがいが導入され、収穫までこれが使用される。点滴かんがいは、生育の最盛期に、他のかんがい方法に比べ水分を絶え間なく、かつ、均一に散水することができるため、近年普及している。また米国では、水分を多く含み、多肉質で軟らかい茎のセルリーが好まれる傾向があることから、収穫の1~2週間前にスプリンクラーによるかんがいを行い、十分なかん水を行うことがある。

 定植後、約75~90日で収穫時期を迎える(写真2)。生育スピードが比較的揃っていることから、一斉収穫が行われている。農場労働者による手作業での収穫が一般的であるが、加工用セルリーでは、自動収穫機を利用することがある。

 日本向けセルリーについては、日本のポジティブリスト制度(注1)に対応するため、セルリーで認められていない農薬の土壌への残留を防ぐ目的で、前年にセルリーで認められていない農薬を使用した作物を生産していたほ場への作付けを禁止するなどの工夫もなされている。

 生鮮セルリーは、コスト削減のため、ほ場で収穫しながら箱詰め(袋詰め)まで行う「フィールドパック」法が行われている(写真3)。ほ場で根と葉が切断され、サイズ別に段ボール箱に詰められ、1箱50ポンド(約22.7キログラム)または60ポンド(約27.2キログラム)で出荷される。出荷されたセルリーは、流通センターで一度強制通風またはハイドロクーリング(注2)により予冷が行われ、0~2度を保った冷蔵室で出荷まで保管される。

注1:全ての「農薬など」の残留を原則禁止した上で、残留が認められるものをリスト化した制度。

注2:予冷前に冷水を作物にかけ、予冷庫内で蒸散熱を利用して短期間に冷却する方法。

 

 

(3)品種と規格

 米国で生産されるセルリーの主な品種は、フザリウム菌(注3)に抵抗性を有するコマンド(Command)、ミッション(Mission)、チャレンジャー(Challenger)である。また、これらに次いで栽培の多いのはコンキスタドール(Conquistador)、ソノラ(Sonora)、マタドール(Matador)であるが、この3種に関しては抵抗性が弱いため、フザリウム菌による被害が少ない土壌での生産が推奨されている。

注3:萎黄いおう病(葉が黄化、萎凋して枯死する病害)を引き起こす糸状菌(カビ)。

 

 セルリーの規格は、USDAの基準では表2に示す3つの等級があり、芯から茎の外側までの半径により分類されている。また、さまざまな形態で出荷されており、内部の軟らかい茎と芯から成る「celery heart」、1株にまとまっているが根や葉を落とした茎のみの「celery rib」(写真4)、さらに茎をスティック状に分割した「celery stick」、角切りにされた「diced celery」(角切りにされたにんじんやたまねぎと混ぜてあることが多い)などがある。セルリーの多くは生鮮で販売されるが、スープ、ジュース、冷凍食品などの加工食品にも使用される。2012年の実績を見ると、生鮮用セルリーは収穫面積の94%であったのに対し、加工用は6%であった。

 

(4)カリフォルニア州の状況

ア 生産状況

 カリフォルニア州の生産状況を見ると、ベンチュラ郡、モントレー郡、サンタバーバラ郡が主産地である(図4、表3)。セルリーは日本と同様に、育苗後に定植して栽培される。ベンチュラ郡およびサンタバーバラ郡では8月から翌4月にかけ定植され、11月から7月中旬に収穫される。一方、モントレー郡では3月から9月にかけ定植され、6月後半から12月後半まで収穫される。このため、カリフォルニア州では周年でセルリー生産が可能となっている(図5)。

 

 

イ 生産面の課題

 近年、カリフォルニア州では、野菜や果物の収穫時の人手不足が問題となっている。2005年から2007年にかけて行われた調査によれば、カリフォルニア州の農場労働者の7割以上はメキシコ移民であり、そのうちの半分の農場労働者が、無許可で働いていたとされている。しかし、不法入国者に対する取り締まりが強化される中で、重労働であるセルリーの収穫労働者の確保は年々難しくなりつつある。一部の大規模生産者は自動収穫機の導入を検討しているが、1台約25万米ドル(3125万円)と大きな投資になるため、機械化は進んでいない(写真5)。

 

3 輸出の動向

 米国は、年間12万トン程度の生鮮セルリーを輸出しており、そのうち7~8割はカナダ向けである。残りは多い順に日本、台湾、香港などである(図6)。セルリーの輸出額は、カナダを除けば毎年1000万米ドル(12億5000万円)以下であり、大きな変動は見られない(図7)。2012年の日本向け輸出額は622万米ドル(7億7750万円)、2014年は同479万米ドル(5億9875万円)であるが、これはカナダ向け輸出額の1割にも満たない状況である。

 米国産セルリーの対日輸出は、その大半がカリフォルニア州のオークランド港やロングビーチ港から冷蔵コンテナで出荷される。日本に到着した翌日、植物検疫、通関を経て、到着3日目までには出荷される。なお、収穫から日本の到着までには、船便での輸送日数を含め約2~3週間を要する。

 

 

4 価格、コストの動向

 セルリーの生産は、基本的に労働集約型である。生産コストは産地により異なるものの、特に収穫および収穫後の作業に人員を要するため、他の野菜に比べコストの掛かる作物となっている。

 カリフォルニア州立大学農業普及センターが実施した、カリフォルニア州ベンチュラ郡オックスナード地区の調査では、セルリーの生産コストは、10アール当たりおよそ3000米ドル(37万5千円)と推定されている。そのうち56%を占めるのは、収穫および収穫後の作業に係るコストである。セルリーの栽培管理作業に係るコストは28%で、これには整地、定植、施肥、農薬散布、かんがいなどが含まれる。残りの16%が地代、農場マネジャー賃金、かんがい、機械設備などの固定費となる(図8)。生産量を10アール当たり8トンとした場合、1トン当たりの生産コストはおよそ375米ドル(4万6875円)となる。なお、セルリーの栽培および収穫作業(手作業)の平均時給は11~12米ドル(1375~1500円)で、これはカリフォルニア州の最低賃金である同9米ドル(1125円)を上回るが、同州の事務職の一般的な平均時給(約15米ドル:1875円)との比較では、それほど高い水準ではない。

 一方、セルリーの生産者価格は、図9に示すように変動が激しいが、2014年の平均は、1トン当たりおよそ400米ドル(5万円)であった。

5 日本市場での米国産セルリー

 日本でポジティブリスト制度が導入された影響などにより、2007年から2009年にかけて、米国産セルリーの対日輸出量は減少した。その後、2010年から2012年にかけて、為替相場が円高ドル安傾向で推移した影響もあり、再び増加した。2013年以降再び減少に転じたが、2011年以前に比べてポジティブリスト制度への対応が進んだことから、輸出量は高い水準を維持している(図10)。

 

 対日輸出価格は、2009年以降、上昇基調にある(表4)。特に2013年は、カリフォルニア州における凍霜害の影響からの米国国内の供給減による価格上昇が原因で、前年比46%高と高騰した。

 日本が輸入する生鮮セルリーは、2013年まで全て米国産であったが、2014年にはタイ産が少量輸入された。これはタイ料理に使用される別種のセルリーと思われるが、品質や価格の優位性から、今後も生鮮セルリーの輸入は米国産が主体となる可能性が高い。

 米国産セルリーは、国産のものに比べ香りが強く、色も濃く、食感が硬いのが特徴である。セルリーは、業務用で常に一定の需要があるため、周年で輸入されており、関西地方の卸売市場では、通年で米国産の取り扱いがある。東京都中央卸売市場では、夏から秋にかけて米国産セルリーの取り扱いが目立ち、冬から春にかけては国内産のものが多く取り扱われている。米国産セルリーの大半は加工・業務用であり、スープや浅漬け、野菜ジュース、中華料理の炒め物などに使用される。これらは、日本の2L、3Lサイズ並みに大きい。

 一方、日本の多くの量販店は、輸入セルリーを1束98~100円で販売する傾向があるため、量販店用は小株のものが利用される(表5)。

6 今後の見通し

 日本では、従来、セルリーは独特の香りで敬遠されがちであったが、スムージー(注4)ブームなどにより、注目されている野菜の一つとなっており、今後の消費は伸びる可能性がある。

 一方、主要産地であるカリフォルニア州での干ばつは深刻化しており、生育のため多くの水を必要とするセルリー生産の回復が遅れれば、輸出量の減少や対日輸出価格の高止まりにつながる可能性がある。

 日本では、セルリーに対して加工・業務用として一定の需要があり、今後も消費の伸びが期待される中で、米国産セルリーの需要も高まると見られており、米国の主産地であるカリフォルニア州の生産状況が注目されている。

注4:凍らせた果物や野菜をミキサーでジュースにした飲料。

 



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