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海外情報(野菜情報 2015年6月号)


米国のブロッコリー生産および対日輸出状況

調査情報部


【要約】

 米国産生鮮ブロッコリーは、日本の生鮮ブロッコリー輸入量の9割、国内供給量の2割を占め、国内産の出荷が減少する春から夏にかけて多く出荷されることから、周年供給を行う上で一定の役割を果たしている。しかし、主産地であるカリフォルニア州での干ばつや円安により、輸入価格は当面、上昇基調で推移すると見込まれる。

1 はじめに

 米国産生鮮ブロッコリーは、日本の生鮮ブロッコリー輸入量の9割を占め、国内供給量全体の2割以上に達している。米国の主産地であるカリフォルニア州での干ばつや、米ドルに対して円安で推移する為替相場などにより、ブロッコリーの輸入価格は上昇傾向にあるが、今後とも生鮮ブロッコリーの主要輸入相手先は同国が中心とみられている。

 以下では、カリフォルニア州を中心に、米国のブロッコリー生産および輸出の動向、価格、生産コストなどを取りまとめる。

 なお、本文中の為替レートは、1米ドル120円(2015年4月末日TTS相場:120.00円)を使用した。

2 生産状況

(1)米国の生産状況

 米国のブロッコリー収穫面積の80%はカリフォルニア州に集中しており、第2位のアリゾナ州でも8%弱にしかすぎない。米国農務省(以下、「USDA」という。)が公表した「2012 Census of Agriculture:2012年農業センサス」によれば、その他の生産地としてはオレゴン州、フロリダ州、ワシントン州、バージニア州、テキサス州、ニューヨーク州などが挙げられる。

 全米でブロッコリーを栽培している農場数は増加傾向にあるが、対照的に収穫面積は若干減少傾向で推移している。同農業センサスによれば、2002年には2493農場(収穫面積約5万7000ヘクタール)でブロッコリー栽培が行われていたが、2007年には3087農場(約5万3000ヘクタール)、2012年には3636農場(約5万2000ヘクタール)となった。最大生産州であるカリフォルニア州では、2012年の農場数が617農場と全米の2割にも満たないが、大規模生産が展開され収穫面積は約4万2000ヘクタールと全米の約8割を占める。同州の1農場当たり平均収穫面積は68ヘクタールとなっている。2007年と2012年を比較すると、第1位のカリフォルニア州と第2位のアリゾナ州の収穫面積は減少しているが、これらの州に比べて小規模な生産が行われているオレゴン州、ワシントン州、バージニア州、テキサス州では収穫面積がやや増加している(表1、図1)。

 USDAの生産統計によれば、カリフォルニア州の生産量は過去10年で約8万トン増加している。2004年の生産量は83万トンと全米の生産量の約92%を占めていたが、2014年には96%に当たる91万トンに達した。約6%の生産者が全米生産量の80%を産出しており、生産の集中化が進んでいる。この要因の一つとして挙げられるのが、袋入りのカット・ブロッコリー(注1)(写真1)やブロッコリー・スロー(注2)(写真2)を含む生鮮商品の増加である。

注1:花蕾の部分だけを一口サイズにカットして包装したもの。

注2:ブロッコリーの茎を細長くカットしたもの。

 周年でこれらを生産する加工場を効率的に稼働させるためには、原料となる野菜を大規模、かつ、安定的に生産することが求められるため、ブロッコリーについても他の加工野菜と同様に、生産者および加工者の集約化が目立つようになった。

 2013年、2大産地であるカリフォルニア州およびアリゾナ州では寒波に見舞われ、凍霜害による不作でブロッコリーが供給不足となった。このためブロッコリー価格は上昇し、同年のカリフォルニア州の生産額は8億米ドル(960億円)を突破した。また、アリゾナ州の生産額も前年に比べ20%増加し、5000万米ドル(60億円)を超えた(図2)。

 しかし、アリゾナ州では、生産量8万トンを記録した2006年以降、ブロッコリーの生産量は減少しており、2013年の生産額の増加は例外といえる。2014年の同州のブロッコリー生産量は3万6000トンと、2006年の半分以下まで減少している。

 米国では、10アール当たり約1万株と日本の2倍程度に密植するため、2014年の実績では単収は10アール当たり1.8トンと日本(同1トン)に比べて多い(図3)。カリフォルニア州の海岸地区では近年さらに密植する傾向があり、10アール当たり約1万4000株に達するケースもある。

(2)カリフォルニア州の生産状況

 カリフォルニア州の生産地を見ると、モントレー郡が最大の生産量を誇り、州全体の生産量の40%を占める。モントレー郡に次いで生産量が多いのはサンタバーバラ郡、インペリアル郡となる。また、サンルイスオビスポ郡やフレズノ郡でも多く栽培されている。モントレー郡やサンタバーバラ郡が位置するセントラルコーストでは、一年を通してブロッコリー栽培が行われており、年間を通じて収穫される。インペリアル郡では9月から12月の前半にかけ作付けされ、12月から翌3月中旬まで収穫される。なお、アリゾナ州では、南西部に位置するユマ郡で主に栽培されており、収穫期は11月から翌3月となっている(図4、5、表2)。

 ブロッコリーは冷涼な気候を好み、生育適温は平均気温で16~18度とされている。米国のブロッコリー生産は直まきで行われることが多く、定植の手間が省けることから移植栽培に比べコスト削減ができると推定される。ブロッコリーは、直まき栽培、移植栽培を問わず、畑に約30~35センチメートル(畝間)×13~15センチメートル(株間)の密度に植えられる。ブロッコリーを生産するには十分な土壌水分が必要となるが、過湿条件下では品質の悪化などが生じることもある。

 かんがいについては、スプリンクラーによるかんがいが一般的に行われているが、生育期に点滴かんがいシステムを導入している地域もある(写真3、4)。

 定植後、早生種(short-season)は60~90日、晩生種(long-season)は90~120日程で収穫可能な頂花蕾に生長する。ブロッコリーは手作業で収穫されるが、茎の長さは用途により異なる。冷凍用は茎が15センチメートルの長さになるようカットされ、コンテナで加工場に運ばれる。生鮮用は基本的に直径7.5~20センチメートル程度であり、茎の長さは20センチメートル程度にカットされる。近年普及しつつあるクラウンカットブロッコリーは、頂花蕾の直径が12.5~13.7センチメートル程度と比較的大きく、茎は12.5センチメートル程度と短い。生鮮用はほ場で箱詰めされるため、カット後ベルトコンベアに載せられ、ワックスコーティングされた段ボール内に約10キログラムごとに梱包される。ブロッコリーの入った段ボールは速やかに急速冷却されることで鮮度が保たれる。強制空冷(注3)が用いられることもあるが、運送時の厳密な温度管理が重要となる。

 カリフォルニア州で生産されているブロッコリーの品種は地域により異なる。セントラルコーストではコンコード(Con-cord)、グリーンベルト(Green-belt)、ヘリテージ(Heritage)、インペリアル(Imperial)、レガシー(Legacy)、マラソン(Marathon)、パトリオット(Patriot)、パトロン(Patron)などが栽培されている。インペリアル郡ではキャッスルドーム(Castle Dome)、デスティニー(Destiny)、エメラルドクラウン(Emerald Crown)、グリーンマジック(Green Magic)、リバティー(Liberty)などが栽培されている(写真5)。

注3:冷蔵室で冷却空気を吹き付けること。

(3)米国産ブロッコリーの規格

 近年、ブロッコリーがさまざまな加工形態で出荷されるようになったことから、USDAは2006年にブロッコリーの等級を改定し、頂花蕾および小花蕾に対する基準を設けた。ブロッコリーの消費量が増え始めた90年代半ばから、小花蕾にカットされた袋入りブロッコリーなど、調理が容易に行える形態での販売が増加している。

(4)東海岸での栽培

 前述の通り、ブロッコリーは主に西海岸沿いに位置するカリフォルニア州で栽培されているが、近年東海岸での栽培拡大の可能性が注目されている。現在、東海岸で消費されるブロッコリーの9割は、カリフォルニア州およびメキシコで生産されたものである。東海岸で生産量が増え、消費者が地元で生産されたブロッコリーをより多く購入できるようになれば、フードマイレージおよび温室効果ガス排出の削減にもつながるとして、一部の生産者が、東海岸での生産に取り組んでいる。

3 輸出の動向

 2014年の生鮮ブロッコリー(カリフラワーを含む)輸出量は、約12万トンで、そのうち約6割はカナダ向けとなった(図6)。残り4割は多い順に日本、台湾、メキシコ向けとなっている。輸出額では、2013年および2014年にカナダ向けが1億米ドル(120億円)を超えている(図7)。一方、日本向けは近年、2000万ドルから3000万米ドル(24億~36億円)程度で推移している。

 ブロッコリーの対日輸出は、主に西海岸のオークランド港やロングビーチ港から冷蔵コンテナで出荷される。ブロッコリーは氷詰めで出荷されており、輸出の際は氷を溶けにくくするため、パレットごとにビニールシートがかけられ、日本に到着した翌日、植物検疫、通関を経て入庫され、到着3日目までには倉庫から出荷される。なお、収穫から日本への到着までには、船便での輸送日数も含め約2~3週間程度を要する。

 なお、日本向けは米国国内向けより茎を短く収穫するのが特徴である。

4 価格・コストの動向

 ブロッコリーの生産は、基本的に労働集約型である。生産コストは産地により異なるものの、特に収穫期および収穫後の作業に人員を要するため、他の野菜に比べコストのかかる作物である(写真6)。

 カリフォルニア州立大学農業普及センターが実施した、カリフォルニア州セントラルコーストのサンルイスオビスポ郡の調査では、ブロッコリーの生産コストは10アール当たりおよそ1500米ドル(6069米ドル/1エーカー:10アール当たり18万円)と推定されている。そのうち52%を占めているのは、収穫および収穫後の出荷、調製作業にかかるコストである(図8)。栽培管理作業にかかるコストは30%で、これには整地、施肥、農薬散布、かんがいなどが含まれる。残りの18%が地代、農場マネージャー賃金、かんがい、機械設備などの固定費(オーバーヘッドコスト)となる。生産量を10アール当たり1.8トンとした場合、1トン当たりの生産コストはおよそ830米ドル(9万9600円)となる。なお、ブロッコリーの栽培および収穫作業(手作業)の平均時給は約13米ドル(1560円)で、これはカリフォルニア州の最低賃金である同9米ドル(1080円)の約1.4倍となる。しかし、同州の事務職の一般的な平均時給(約15米ドル:1800円)との比較では、それほど高い水準ではない。

 一方、2011年から2014年のブロッコリーの生産者価格は、図9に示すように変動が激しいが、2014年の平均は1トン当たりおよそ881米ドル(10万5720円)であった。

5 日本市場での米国産ブロッコリー

 近年、生鮮ブロッコリーの輸入量は減少傾向にある。2004年には年間7万トン以上の輸入実績があったが、2013年には約3万トンまで減少している。東京都中央卸売市場では、この10年でブロッコリーの入荷が2割増える一方、輸入品の占める割合は2割から1割弱へと大きく減少している。ブロッコリーは、2006年に施行された「食品中に残留する農薬などのポジティブリスト制度」(注4)の対象であることに加え、国内のブロッコリー消費量が順調に伸びたことも、国内生産を増加させる一方で、輸入量を減少させた要因となっている。
2014年まで日本が輸入していた生鮮ブロッコリーの約9割は米国産であり、残りの1割は主に中国産であった。米国産の対日輸出価格は2010年以降、徐々に上昇している。財務省貿易統計によれば、2010年の生鮮ブロッコリーの輸入価格は1キログラム当たり169円であったが、2014年には同214円まで上昇した。これは米国の干ばつに伴う現地価格の上昇と為替変動による(表4)。

注4:全ての「農薬など」の残留を原則禁止とした上で、残留が認められるものをリスト化した制度。

 国産ブロッコリーは、国内各地で生産されているため1年を通して市場入荷されるが、特に10月から翌3月にかけては入荷量が多い。このため、米国産ブロッコリーは周年で輸入されているものの、国内産の入荷量が減少する春から夏にかけての輸入量が多くなる。

 なお、冷凍ブロッコリーに関しては毎年3万トン以上が輸入されている。2014年実績を見ると中国産が55%、エクアドル産が38%とこの2カ国からの輸入で全体の9割以上を占めており、米国産の輸入量はわずかなものとなっている。

6 今後の見通し

 米国では現在、カリフォルニア州で記録的な干ばつが続いている。同州のブロッコリー栽培に関して、水不足からブロッコリーより少ない水で栽培できるいちごなどの作物に切り替える農家も出てきたとされるなど、ブロッコリー生産への影響が懸念されている。また、米ドルに対して円安で推移する為替相場も、ブロッコリーの輸入に影響を及ぼしているとみられ、米国産ブロッコリーの月間平均卸売価格は上昇基調で推移している(表5)。
こうしたことから、今後、輸入の大幅な伸びは考えにくい状況にあるとみられる。


 



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