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海外情報(野菜情報 2015年5月号)


中国産しいたけ菌床の輸出の現況と今後の見通し

中国社会科学院農村発展研究所
研究員 曹斌


【要約】

 広葉樹のおがくずを主成分とするしいたけの生産培地、すなわち、「しいたけ菌床」(以下、「菌床」という。)の中国からの輸出量は、近年、急増している(注1)。2013年には2万8140トンに達し、うち日本向けは8918トンであった。これを生しいたけに換算(注2)すると、2140トンとなり、2013年の日本の生しいたけ輸入量(3831トン)と比較すると約6割に匹敵する。この背景には、日本を含む海外での需要増加のほか、中国産菌床の価格優位性などがあり、今後、さらに増加する見通しである。

 

注1:中国における菌床の輸出現況と今後の展望について推察した。なお、輸出動向を分析する際には中国のHSコード06029010「きのこ菌糸」の大半が「しいたけ菌床」であることから、本稿では、この輸出量を「しいたけ菌床」とする。

注2:生しいたけの換算方法は、完熟菌床重量×0.4(おがくず、ふすまなど原料重量の総重量に対する比率)×0.6(原料重量に対する生しいたけの収穫率)

 

1 菌床製造技術の発展

 中国のしいたけ栽培は数百年前にさかのぼるが、近代までは全て原木栽培であった。

 1956年に、上海農業試験場が初めて、おがくずによるしいたけ種菌の培養実験に成功し、1964年に「木屑代料栽培法」と呼ばれる菌床栽培法を開発した。しかし、文化大革命などの影響で、この菌床栽培技術はすぐには普及に至らなかった。その後、改革開放政策が導入されてから、上海農業科学院食用菌研究所は上海市嘉定かてい県、川沙せんさ県で菌床栽培の実験を行い、技術普及を開始した。当時の実験では、500キログラム(注3)のおがくずを使用した菌床で生産した場合、平均300~400キログラムの生しいたけを収穫でき、原木栽培より非常に高い収穫量を上げた。これによって、菌床しいたけ栽培法は中国で定着した。

 菌床栽培は温湿度などの自然環境に影響されやすく、各地の気象状況に適合する種菌の馴化じゅんか(注4)、栽培方法の開発が必要である。1987年、福建省古田県こでんけんでは白きくらげの菌床栽培法にならい、ビニール袋に培地を入れて菌床とした栽培方法が開発された。この栽培法は、低い生産コスト、簡単な収穫管理に加え、1ムー(注5)当たりの農地に1万~1万5000本程度の菌床を並べられたことから、菌床1本当たり1元ほどの純収入で、「万元戸」(注6)が誕生した。この研究により、しいたけ生産は単純化され、多くの生産者の参入が可能となり、しいたけの菌床栽培が中国全土に広がった。

 なお、原稿中の為替レートは、1元=19.66円、1米ドル121円(2015年3月末日 TTS相場:1元19.66円、1米ドル121.17円)を使用した。

注3:水分抜きの計算による。

注4:気候の異なった土地において、その環境に適応するように変わること。

注5:中国面積計量単位。1ムー=666平方メートル、1ヘクタール=15ムー。

注6:1980年代、中国で年収1万元(約20万円)以上の農民や個人商工業経営者などの大金持ちを指した言葉。中国では1978年から生産責任制を導入し、各農家は政府から一定量の生産を請け負い、それ以上に生産された農作物は各農家が自由に販売できるようになった。これによって、都市周辺の農家の中には大きな所得を上げるものが現われた。1980年頃の中国の平均年収が約400元(7864円)であることを考えると、「万元戸」はかなりの高額所得者となる。

2 菌床輸出の概況

(1)菌床輸出量の推移

 中国の菌床輸出は、1980年代後半から始まったが、税関貿易統計に正式に取り入れられるようになったのは1992年からである。

 「中国海関統計年鑑」によると、1992年にイタリア(25トン)、ドイツ(21トン)、米国(7トン)、韓国(6トン)、日本(0.3トン)の5カ国に、合計60トンの菌床が輸出されている。その後、輸出量は増加し続け、2001年に3075トンに増えた。その後、残留農薬問題が頻発したことにより、中国からの生しいたけの対日輸出が落ち込み、代わりに日本および韓国の国内生産が増加した。このような生産構造の変化に対応するため、日韓両国を中心に中国産輸入菌床に対する需要が高まり、輸出量は急増、2006年に1万トン、2012年に2万トンを突破し、2013年には2万8140トンに達した(図1)。

 中国産菌床の主要輸出国は、韓国、日本、米国の3カ国であり、2013年には、韓国向けは1万3670トン(中国の菌床輸出量の48.6%)、日本向け8918トン(同31.7
%)、米国向け3705トン(同13.2%)と、これら3カ国で総輸出量の9割以上を占めている。

(2)輸出価格の変化

 中国産菌床の1キログラム当たりの輸出単価は、1992年には3.98ドル(482円)で
あったが、元安や輸出量の増加などに従い低下し、1997年には0.18ドル(22円)とな
った。その後、製造コストの上昇や2008年のリーマンショックの影響によるドル安などによって輸出価格は上昇し、2013年には0.67ドル(81円)となっている(図2)。

(3)対日輸出の動向

 日本は、かつて世界一のしいたけ生産、輸出大国であったが、生産農家の減少、高齢化などにより生産量は減少し、現在は世界最大のしいたけ輸入国となっている。

 中国産菌床の対日輸出は1992年に始まり、0.3トンを輸出した。その後、輸出量は徐々に増加しており、特に近年、生しいたけの対日輸出が不振であることから、多くの貿易会社は、菌床製造企業と提携して菌床輸出に力を入れている。

 日本には異なる菌床栽培技術、厳格な種苗法(注7)などがあるため、中国では、韓国、米国市場に比べて日本市場への菌床輸出は難しいと言われているにも関わらず、中国産菌床の対日輸出量は、近年、年間1000トンのペースで増加し、2013年には8918トンに達した。

 2013年には中国企業26社が日本に菌床を輸出しているが、このうち、吉林省の菌床製造企業が最も多く、全体の20.9%を占め、1863トン輸出している。また、市場集中度を見ると、CR4(注8)は69.1%と非常に高く、寡占化が進んでいる。

注7:日本の「種苗法」では、種菌登録、種菌の拡大培養に対して厳格に制限しており、また、取り締まりや罰則なども厳格である。

注8:輸出量上位4社による累積集中度。

(4)輸出量増加の要因

 中国産菌床の輸出が増加した要因は、輸出相手国の消費需要の変化と、その価格優位性である。

 消費需要の変化については、昔はしいたけを食する習慣がなく、栽培技術も持っていなかった欧米諸国で主に見られる要因である。1980年代以降、東アジア系移民の増加に従い、しいたけへの需要が高まったが、当初は、中国から乾しいたけを輸入していた。しかし、その後、福建省出身の移民が、ドイツ、フランスなどに農場を開設して中華料理向けの生しいたけを生産し始めた。ところが、それらの国では、菌床製造に必要な資材や機材などの入手が難しく、中国から菌床を輸入する方がはるかに安価であることから、菌床の輸入が始まった。このように、輸出相手国内における生しいたけの消費増が、中国産菌床の輸入増を招くこととなった。

 価格優位性に関しては、特に日本の場合に当てはまる。日本は、高度な菌床製造技術を有するが、完熟菌床の製造費用が中国産に比べ高いことから、中国からの輸出が開始された。河北省の企業を例に見ると、菌床1本では約500グラムの生しいたけを収穫でき、輸出価格は2013年に1本当たり約6元(118円)のため、生しいたけ1キログラム当たりの生産コストは12元(236円)になる(表1)。一方、日本産の菌床では、同18.4元(362円)、韓国の場合同20.0元(393円)になる。なお、韓国では培養センター式の菌床販売がないため、農家は自ら培養室を建設しなければならず、実際は同50元(983円)ぐらいになると推計される。

3 輸出用菌床の製造諸要素の変化

 次に、その価格優位性により、輸出量を大きく伸ばしてきた中国産菌床について、生産コストを構成する主要な要素別に、取り巻く状況を分析する。

(1)種菌たねきん

 種菌(注9)は、しいたけ収益量、品質を大きく左右する最も重要な要素である。

 2014年の国内調査によると、多くの菌床輸出会社はL808菌種を使用している。L808種菌は、2007年に浙江省麗水れいすい市大山菇業こぎょう(注10)研究開発有限会社より開発された中高温種菌であり、翌年、中国食用菌種菌認定委員会の第二次大会で認可され、中国全国で販売され始めた。

 この種菌の特徴としては、第一に、中国の南部から北部にかけての広い地域の気象状況に適合することが挙げられる。L808種菌の菌糸生長温度は5~33度、菌糸最適温度は25度、子実体(注11)生長温度は12~25度、最適出荷温度は15~22度であり、中国東北地方、華北地方の夏場生産、福建省、浙江省の冬場生産にも適合できるため、日本、韓国の気象状況にも適合することができる。国や地域によって異なるが、これまでの試験栽培では、収量、品質は最も良いものであった。

 第二の特徴として、培養期間が短く、品質が良いことが挙げられる。菌糸のまん延速度が速く、実験時、45日間でまん延できたこともある。そして、生長期間が短いわりに、かさが大きくて厚肉であり、かさ部の平均直径は4.5~7.0センチメートル、平均の厚みは1.2~2.2センチメートルとなる。2014年7月、この種菌より生産された生しいたけの北京市場における卸売価格は、キログラムあたり14元(275円)であり、他の種菌のものより4元(79円)高く販売されている。

 菌床製造企業は、種菌の母菌(注12)を研究所から購入するが、拡大培養は他社に任せた場合のリスクが高いことから、自ら行っている。現在、ほとんどの菌床製造企業は、技術部を設け実験用温室を整備し、毎年、種菌の馴化実験や選抜実験を行っている。これにより、収量などが最も良い種菌を菌床生産に用い、安定的な完熟菌床の提供に努めている。

注 9:しいたけ栽培で使用する培養菌糸や胞子の塊。

注10:菇業とは、中国語で「きのこ(生産)業」を意味する。

注11:菌類が胞子をつくる際に形成する菌糸の集合体。この大型のものが、いわゆる「きのこ」となる。

注12:元になる菌。

(2)おがくず

 しいたけは、木材腐朽ふきゅう菌類(注13)の一種であり、倒れた広葉樹の樹幹に付き、養分を吸収して子実体を生長させる。従って、広葉樹の確保は、菌床製造にとって極めて重要となる。

 2013年の中国の森林率は21.6%、森林面積は2億768万ヘクタールであり、そのうち、広葉樹は主に福建省、浙江省、河南省および東北地方に分布しているが、自由に伐採できる地域は限られている。1990年代以降、南部地域においてはしいたけ、きくらげなどのきのこ生産が急速に増加したため、一部の地域で原木資源が急減し、地方政府はしいたけ生産を制限したという経緯がある。そのため、産地はその後、東北地方や河南省、河北省など原木資源が比較的豊かな地域に移り、今日、菌床輸出会社は、ほとんどこれらの地域に存在している。

 おがくずの入手方法は、直接購入と間接購入の2種類に分けられる。

①直接購入

 購入先は家具製造会社や営林所の木材工場となる。山東省東部、遼寧省南部、上海市などには、東南アジア、ロシア、北米から木材を輸入し、家具の製造を行う多くの家具加工団地がある。これらの地域では、毎日、大量のおがくずが出るため、菌床製造企業はこれらの企業と口頭契約し、無料あるいは安価でおがくずを購入している。また、東北地方には大規模な営林所があり、ここからも直接購入している。

②間接購入

 1990年代後期以降、中国政府は環境保護のために、森林伐採を厳格に制限したことから、広葉樹の伐採が非常に困難になったが、山村に住む住民には、燃料用、家具製造用、間伐用などとして一定の伐採枠が与えられている。しかし、近年、山村の過疎化が急速に進んだことから、農家は与えられた枠を使い切れず、残った伐採枠を販売するようになった。他には、山東省や陝西省などの果物の主要産地において、毎年、果樹を剪定せんていした枝や、一定期間が経って入れ替えのため伐採された樹木が、木材として販売されている。

 ところが、これらの原木資源は小規模で零細な農家の元にあり、菌床製造企業は、その農家の状況などを把握することが難しいため、買い付けは、農家の状況に精通している地元仲買人に依頼している。以前は、手間と運賃を考え、仲買人に粉砕作業までしてもらい、おがくずになった状態で購入したこともあったが、乾燥度や粒の大きさが一定せず、針葉樹の混入なども起こり、しいたけ生産に悪影響を及ぼしたため、近年、大規模な菌床製造企業は、木材の状態で運搬してもらい、自ら粉砕作業を行うようになった。これにより、コストは若干高くなったが、菌床の品質を自らコントロールできるようになった。

 地域や入手方法によって異なるが、2014年のおがくずの仕入れ価格は、菌床1本当たり約0.6~0.8元(12~16円)であり、前年に比較して約3%値を上げた。

注13:木材を腐食させる腐生菌のうち、特に、木材に含まれる難分解性のセルロースなどを分解する能力を持つもの。

(3)ふすま

 小麦製粉時の副産物であるふすま(注14)は、菌床の重要な栄養剤である。小麦産地は華北地方が中心であることから、菌床用のふすま生産も、河南省、河北省、山東省に集中している。

 小麦生産農家は、収穫した小麦を周辺の小麦加工会社に持ち込み小麦粉に製粉してもらい、副産物のふすまは、以前は持ち帰って家畜の飼料として利用していた。しかし、都市化が進行し、飼養家畜が少なくなってきたため、現在、多くの農家にとって、ふすまは不要となっている。このようなふすまを小麦加工会社が集め、原料として飼料会社や菌床製造企業に販売している。

 しかし、農家は小麦粉を必要とする時のみ加工会社に小麦を持ち込み、また、大規模な小麦加工会社では保存性を考え、注文が入ってから小麦を製粉するため、ふすまの供給時期は非常に不安定である。このため、ふすまの確保を行うには、事前に必要量を予約することが不可欠である。

 ふすまの仕入れ価格は、2014年は山東省産の場合、1トン当たり約1600~1900元(3万1457~3万7354円)であり、前年に比較して1トン当たり50~100元(978~1966円)値を上げた。山東省東部の企業を例にすれば、ふすまを菌床1本当たり、0.2キログラム用いると計算すると、2013年は1本当たり0.37元(7.3円)であったが、2014年は2.7%高の0.38元(7.5円)となった。

注14:小麦粒の表皮部分。食物繊維、鉄分、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、銅などの栄養成分を含む。

(4)ビニール袋

 菌床製造の際には、基材をビニール袋に入れてから、直ちに約100度の滅菌釜に長時間入れて殺菌作業を行う必要があるため、菌床用ビニール袋は、通常のものより強い耐熱、耐圧性が必要となる。また、近年、人件費の上昇に従い、多くの企業は機械を導入して袋詰め作業を行うようになっており、機械の力に耐え得る高い張力も必要となる。

 今日、中国国内でよく使用されているビニール袋はポリエチレン製(PE)、ポリプロピレン製(PP)であり、両方とも100度以上の高温に耐え得る性質を持っていることから、各企業は自社の事情に合わせ購入している。

 輸出用ビニール袋の大きさは、18センチメートル×60センチメートル、もしくは15センチメートル×40センチメートルのものが多く使用されている。容量が大きい18センチメートル×60センチメートルのビニール袋の場合、菌糸のまん延速度は遅いが、約2キログラムの培地を入れられ収量が多いことから人気がある。福建省製のビニール袋の場合、2014年の仕入れ価格は1枚当たり0.20元(3.9円)で、前年より8.7%値を上げた。

 容量の小さい15センチメートル×40センチメートルのビニール袋の場合、菌糸のまん延が早いため、韓国、米国で人気がある。浙江省製の例を見ると、2014年には1枚当たり0.20元(3.9円)であり、前年より11.1%値を上げた。

(5)労働力

 菌床製造に当たっては、袋詰め、運搬などの工程において多くの労働力が必要となる。1日1万2000本の菌床を製造する企業の場合、少なくても57名が必要となる(表2)。

 通常、生産技術員としては、福建省、浙江省など南部の伝統的なしいたけ産地出身の農家や経験者を雇用する。人件費は、地域によって異なるが、河北省の企業の場合、生産技術員は宿泊、食事別で月当たり約2000~3000元(3万9320~5万8980円)となる。米国など海外に技術指導員として派遣されると、現地の宿泊費、食事代は別で、手当てを入れて5000元(9万8300円)以上となる。

 一般作業員は地元の住民を雇用するが、近年、急速に展開した都市化、工業化に従い、農村部の若手労働者が急速に減少し、残った雇用対象者は老人、女性のみとなっている。2014年の調査によると、山東省東部の企業において、男性作業員は50代、女性作業員は40代が多数を占めていた。なお、女性は家庭の主婦が主であり、ほとんどがアルバイトであった。一般作業員の人件費については、長期雇用者は月給2700元(5万3082円)(前年比300元高)、アルバイトは日給90元(1769円)(同10元高)であった。なお、山東省の企業では、菌床1本当たりの人件費は、2014年は約0.6元(11.8円)(同0.1元高)であった。

 近年、輸出産業の不振により、輸出の盛んな地域においては、中小企業の倒産が増え、地域の労働力供給の増加傾向が見られているが、都市部の給料の上昇を受け、人件費の低下にはつながっていない。

4 菌床輸出

(1)輸出の流れ

 しいたけ菌床の完熟までの培養期間は、通常90日間前後かかるため、海外の輸入業者は大体、生産計画を立てて数ヵ月前に発注する。菌床が完熟に近づくと、菌床製造企業は輸出先に連絡し、以下の手順で輸出作業を行う。

① 袋外し作業

 冷蔵コンテナの到着数日前から、作業員はビニール袋をカッターで破り、菌床を抜き出す。この袋を外す作業は手作業のため、海外で行うとコスト高となり、また、工業廃棄物として処理しなければならないビニール袋も多量となり顧客が嫌がるため、中国国内で行っている。

②箱詰め作業

 菌床の包装作業は企業によって異なるが、山東省の企業の例では、冷蔵コンテナの到着前日から、袋が外された菌床が12本ずつ段ボール箱に入れられる。段ボール箱を重ねることから、崩れないように、頑丈な5層段ボールを使っている。段ボール価格は、1箱当たり約1.5元(29円)である。

③コンテナ詰め作業

 冷蔵コンテナ到着後、菌床入りの段ボール箱をコンテナに搬入する。コンテナの冷蔵温度はマイナス5度に設定され、子実体が発生しないように低温抑制する。コンテナ内の低温を均衡に維持するために、段ボール箱にいくつかの穴を開け、換気できるようにしているが、温度を均一に維持することは難しく、冷風機に近い場所は温度が低く、冷風機から離れドアに近い場所は温度が高くなる。このため、輸出先国に到着後、高温帯に置かれていた菌床は先に芽が出てしまい、低温帯に置かれた菌床と時間差が生じる。しかし、これは逆に、農家にとって毎日継続して収穫できるため好都合であるとの意見もある。

④国内陸送

 菌床の輸出手続きは貿易会社に委託され、貿易会社が菌床の入った冷蔵コンテナを港に運搬する。国内陸送費は輸出港までの距離によって異なる。

 河北省張家口市の企業の場合は、輸出港である天津港まで片道5時間かかるため、陸運費用として1コンテナ当たり1万元(19万6600円)が必要となり、国内陸送費は、菌床1本当たり0.67元(13.2円)であった。

 山東省の企業の場合、青島港まで100キロメートルしか離れていないので、2014年の国内陸送費は菌床1本当たり0.10元(2円)、前年に比べ11.1%値を上げた(表3)。

⑤通関、海上運送

 冷蔵コンテナは港に到着後、税関、検疫局より検査を行う。問題がなければ、船に引き上げ、輸出となる。この場合、必要な経費は、港利用料、検疫料、海上運送料の3つに分類されるが、山東省の企業の場合、2014年の輸出経費は菌床1本当たり0.34元(7円)で、前年に比べ0.6%値を上げた。

(2)輸出類型

 近年の中国の菌床輸出は、輸出主体および輸出先との関わりによって、大きく以下の4つの類型に分けられる。

①輸出企業主導型

 菌床製造企業自らが、輸出相手国の貿易会社あるいはしいたけ栽培農家に直接販売する形式で、最も古い輸出類型である。

 企業は、菌床輸出後にしいたけの不発生や奇形などの問題が発生した場合でも責任を持つことがなく、農家は利益の確保ができないため、近年、この類型の輸出は減少した。

②販売・技術指導型

 菌床製造企業は、菌床を輸出してしいたけ栽培農家に販売した後、生産技術員を派遣して取引先の農家に発生管理や施設改善を指導する形式である。2000年以降これまで、輸出先国の気象状況に適合しないために起こる問題を解決することを目的に実施されている。この類型は、輸出の拡大と安定化に一定の効果をもたらしたが、生産技術員の往復航空代金、滞在費が高額となることから、大規模な取引先のみを対象に行われている。

③現地企業提携型

 菌床製造企業は菌床、技術を提供し、輸出先国の農業会社は生産場所と全量販売の責任を担い、収益を一定の割合で分ける協力方式である。

 2000年代後半、中国の菌床製造企業は、海外市場をさらに拡大するために、輸出先国の同業者あるいは輸出先国の国籍を有する現地に帰化した中国人や、昔からの取引先会社と提携するようになった。この方法は介在する貿易会社にとって投資が少なく経営リスクも低いことから、最近、増加している。

④現地法人主導型

 菌床製造企業が、海外に現地法人を設立し、生産技術員および一部の作業員は中国から派遣し、発生管理については、多くは現地でアルバイトを雇用する方式。メリットは中国式の発生管理技術が行われ、短時間で菌床輸出の規模を拡大できる。また、軌道に乗った後は、農場周辺の農家へも技術研修を行うことで、さらなる市場拡大を図ることができる。今日、輸出量トップ企業は全て米国、韓国、日本に支社を設立している。特に、この2年間は円安元高で、日本への進出が加速している。

 このように、上記の①~④の輸出類型から、近年、中国の菌床製造企業の対日本、韓国への輸出戦略が、従来の菌床のみの輸出から、菌床の発生管理技術を含む輸出に転換していることが理解できる。

5 菌床輸出の課題と対策

 これまで順調に発展してきた菌床製造および輸出企業であるが、菌床製造を取り巻く中国国内の状況の変化や海外市場の変化により、今後の課題および対策として、以下の点が考えられる。

(1)種菌の使用問題

 輸出用菌床製造企業は種菌センターを持ち、自ら種菌の順化、選抜を行っているが、種菌の開発技術は持っていない。このままでは種菌の劣化が避けられず、長期的、継続的に菌床を輸出することが難しくなる恐れがある。また、これらの種菌は自社で拡大培養し、ほぼ無償で使用しているが、実は中国の「食用菌種菌管理弁法」に違反しているため、今後、規模拡大を続けていくと、無償での使用は難しくなる可能性も考えられる。

(2)原木資源の確保問題

 近年、中国では、環境保護意識の向上により森林伐採の審査が厳格化され、広葉樹を伐採しておがくずを確保することが難しくなってきている。2015年2月には、中国共産党中央委員会は「国有営林場改革方案」を公表し、天然林の重要性を強調した。また、同年3月17日には、中国副総理大臣の汪洋氏により、重要な国有天然林の商業的伐採の全面的禁止が宣言された。

 そこで、中国の原木不足の問題解決の糸口になり得ると考えられているのが、木材輸出国への現地法人の設立である。特に、ロシアのシベリア地域では、木材輸出関税の引き上げと家具製造会社の誘致によって木材加工業が盛んになり、大量の工業おがくずが廃材として発生することが見込まれている。

(3)機械化による雑菌率の低減と人件費の削減

 菌床製造での袋詰めおよび接種の工程は、機械化率が低いことから、外部環境との接触が多く、雑菌の感染を受けやすくなる。また、近年の中国経済の成長によって、菌床の製造コストの3分の1を占める人件費が上昇しつつあり、菌床の輸出価格の上昇を招いている。従って、技術の安定性、人件費の削減という視点から、今後、袋詰めおよび接種の機械化を図ることが必要である。

(4)海外での直営農場の増設

 日本市場における日本産生しいたけの平均価格は、1キログラム当たり約800円、一方、中国産はその半額ほどでしかなく、日本で生産して販売する方が収益が高い。加えて、しいたけ生産の過程で問題が生じた場合、技術的な問題なのか、菌床の品質が問題なのか、直営農場があると明確に判断しやすい。これらを踏まえれば、今後、主要な輸出先国において、しいたけ生産のための直営農場を増設することも、展開方向として十分考えられる戦略である。

 特に、リーマンショック以降、日本円、米ドル、韓国ウォンが全面的に安くなったことから、元が高い現在、海外に出資する好機と考えられている。

6 菌床輸出の今後の見通し

 残留農薬問題の影響などで、中国産農産物の輸出はしばしば困難に見舞われており、中国産農産物に懸念を持つ日本の消費者は少なくない。

 このような中、中国で製造した完熟菌床を輸出し、日本をはじめとした輸出先国で発生、収穫されたしいたけを輸出先国産として販売できることは、消費者の低価格ニーズを満たす以外にも、非常に重要なポイントである。

 生産コストの高騰や環境との調和など、中国の菌床製造企業の抱える課題も複雑化しているが、今後も、機械化、技術改良によりその価格優位性を保つことで、中国産菌床に対する需要は増加すると予想される。



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