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海外情報(野菜情報 2015年4月号)


中国産トマト加工品の製造および輸入動向

調査情報部


【要約】

 中国は、わが国のトマト加工品輸入量の13%を供給する世界最大のトマト生産国である。
 中国産トマト加工品の輸出の多くはトマトペーストで、ロシア、イタリア、日本向けが減少する一方、西アフリカ向けが伸びている。わが国は、トマト加工品の多くを輸入に頼っていることから、今後も安定した供給が望まれる。

1 はじめに

 国際連合食糧農業機関(FAO)によると、2012年における中国のトマト生産量は、世界第1位の5000万トンで、全世界で生産される31%を占める(図1)。しかし、同年の輸出量に関して国際貿易センター(注1)(ITC)のデータを見ると、生鮮トマト(注2)に関しては、世界第10位の17万7317トンと、世界全体の輸出量の2%しかない(図2)。

注1:開発途上国の輸出振興策の技術的援助を行う組織。1964年5月に発足した「GATT貿易センター」を前身とし、1995年の世界貿易機関(WTO)発足後に現在の名称に変更。

注2:生鮮トマトは、生食および家庭などでの加熱用を含む。

 一方、トマト加工品の輸出に目を向けると、中国は世界第2位の107万6416トンであり、世界全体の24%を占める(図3)。

 本稿では、わが国のトマト加工品輸入において、イタリア、米国に次ぐシェアを占める中国の動向について紹介する。

2 トマト加工品の製造状況

(1)原料の生産

 中国では、生鮮用トマトは消費地やその周辺で生産されるが、加工用トマトは、新疆しんきょうウイグル自治区(以下、「新疆」という。)、内モンゴルウイグル自治区(以下、「内モンゴル」という。)および甘粛省に集中している。加工用トマトのうち、新疆が全体の75%を占め、次いで内モンゴルが20%を占める(図4)。

 中国での加工用トマト生産およびトマト加工品製造は、1950年代に広東省、福建省、江蘇省といった沿岸地域を中心に産地開発が進められたことに始まる。1980年代以降は、産地および製造拠点が四川省などの内陸部に移った。新疆では、1980年に最初の製造ラインが建設されたことにより、産地開発が始まった。新疆は砂漠気候で、長日照、乾燥条件により、病害虫の発生が抑えられてトマト栽培に適した地域であったため、1985年以降、国内のさまざまなトマトに関する賞を受賞するなど品質評価が高まり、国内最大の産地および製造拠点に成長した。特に、2000年から2009年にかけては、海外からの需要が伸びたため、著しい成長となった。新疆における加工用トマト生産およびトマト加工品製造は、現在、世界三大綿のひとつである新疆綿生産と並ぶ重要産業となっている。

 新疆産加工用トマトは、砂漠気候特有の乾燥条件により樹の水分吸収が抑制されるため、他のトマト主要生産国に比べてリコピン(注3)の含有量が高い(図5)。新疆産トマト加工品は、大部分が輸出されるが、健康志向の高まりとともに、国内の消費者からも高い支持を得ており、トマトペーストやケチャップなどのほかに、栄養補助食品として、リコピンカプセルなどの製品も国内向けに製造されている。

注3:トマトなどの赤色を構成するカロテノイドで、近年、美容や健康への効能についてさまざまな研究が行われている。

 

 新疆の動向を見ると、2012年の作付面積は、国際市場におけるトマト加工品の供給過剰により、原料となる加工用トマトの買付価格が低落し、生産者の栽培意欲が減少した。このため、北部の主産地である石河子市および奎屯市で半減し、南部の主産地である巴音郭楞蒙古自治州も約3割減少するなど、前年の7万ヘクタールから2万6000ヘクタールも減少した(図6)。また、同年の生産量は、同年に北部の一部地域で初夏に深刻な干ばつに見舞われて単収が落ち、大幅な減少となった。しかし、2013年からは、低落した輸出価格が回復したことで作付面積は増加傾向にあり、2014年には6万5333ヘクタールまで回復した。

 一方、内モンゴルの作付面積は、2012年に新疆同様の理由により減少したのに続き、2013年も洪水の影響で減少した。
なお、2014年の10アール当たり収量は、新疆が8.3トンであり、内モンゴルは新疆よりやや低く、7.5トンであった。

(2)トマト加工品の製造

 中国で生産されるトマト加工品は、トマトペースト、固形トマト(注4)、トマトジュース、トマトソースなどがあるが、主な加工品はトマトペーストである。トマト加工品の製造拠点は、新疆、内モンゴルおよび甘粛省といった産地に集中しており、うち新疆が全製造量の約9割を占める(図7)。また、輸出されるトマトペーストの7割は、新疆で製造されている。

注4:皮むき後、全形のまま充てん液に漬けて加熱殺菌したもの。

 2013年は、トマト加工品の国際市況の下落に伴う生産意欲減退と干ばつにより、新疆産トマトペーストの製造量は減少した。しかし、トマトペースト価格が上昇したため、加工用トマトの作付面積が回復し、かつ豊作だったことから、トマトペースト製造量は増加に転じている。なお、トマト加工業者によると、トマトペースト1トン当たりの加工用トマト使用量は7.1トンとのことである。

 トマトペーストは、貿易統計上5キログラム以上のトマトペースト缶に分類される大包装タイプと、5キログラム未満の小包装タイプに大別される。また、固形含有量により、28~30%と36~38%の2種類に分けられる。

(3)トマト加工業者の状況

 中国のトマト加工業者は110社(年間製造能力計200万トン)あり、その80%が新疆に集中している。2014年は、トマトペースト製造量の87%を上位7者が占めている(表1)。このうち、最大手の中糧屯河ちゅうりょうとんがは、欧米および日本のトマト加工品製造業者の協力工場として、主に大包装トマトペーストを各企業の仕様で製造している。

 トマト加工品製造における課題としては、原料の調達や製造施設が需要の変動に対応できていないことや、加工技術が未熟であることから、トマト加工品の品質が安定しないことが挙げられる。

3 トマト加工品の輸出

 中国で製造されるトマト加工品の多くは輸出されており、特にトマトペーストは、ほとんどが輸出されている。2014年のトマト加工品輸出量は112万トンで、このうちトマトペーストは86万8000トンと、全体の77.5%を占めた。2012年以降、国際市場におけるトマト加工品が供給過剰になっているため、トマトペースト輸出量は減少傾向にある。

 トマトペースト輸出量の内訳を見ると、主に食品加工業で使用される5キログラム以上のトマトペースト缶は、2011年の76万7253トン(トマトペースト輸出量に占める割合67.3%)から、2014年の43万9967トン(同50.6%)に減少した。これに対して、飲食店や家庭で使用される5キログラム未満のトマトペースト缶は、2011年の36万8351トン(同32.7%)から、2014年の42万8703トン(同49.4%)と、5キログラム以上の輸出量とほぼ同じ水準まで増加している(図8)。

(1)5キログラム以上のトマトペースト缶

 5キログラム以上のトマトペースト缶は、従来からロシア、日本、イタリア向けを中心に輸出されてきた(図9)。輸出量が減少したのは、イタリアなど西ヨーロッパの国々を中心に、輸出量が大きく減少していることによる。

 以下、主要輸出先国の概要を述べる。

①ロシア

 ロシアは、野菜については輸入国となっており、トマトペースト缶についてはイタリア向け輸出量の減少により、2012年以降、最大の仕向け先となっている。

②日本

 日本向け輸出量は、2011年以降約5万トンと安定して推移していたが、米国産の増加を受け、2014年は3万1553トンに減少した。中国のトマト加工業者は、米国産に対抗するため、一層のコスト削減、品質および安全性の向上による信頼確保が求められている。

③イタリア

 イタリアは、トマト加工品の主要輸出国であるが、最終加工品の原料として国内産より安価なトマトペーストを中国から輸入している。イタリアは、2011年まで中国産トマトペーストの最大の仕向け先であったが、2012年は中国産加工トマトの収量が減少したことに対し、イタリア産加工トマトは収量が増加したことから輸出先国第2位になった。2013年は、米国からのトマトペースト輸入量の増加により、同第3位となった。

(2)5キログラム未満のトマトペースト缶

 5キログラム未満のトマトペースト缶は、西アフリカ向けの伸びにより輸出量が増加している。輸出先上位3カ国である、ナイジェリア、ガーナおよびトーゴは全て西アフリカの国々であり、2014年はこれら3カ国向けで53.0%を占めた(図10)。トマトは、大航海時代にポルトガルなどにより伝来したことで西アフリカに浸透し、現在も消費の多い野菜である。

 輸出先国第1位のナイジェリアは、以前はトマトペーストの主要輸出国であったが、内戦(1967~1970)や、主要な原油産出国に成長したことで農業生産が停滞し、主要なトマトペースト輸入国となった。ナイジェリアは経済成長が著しく、2000年代に入り中間層が増加するなど購買力が増している。加えて、開発輸出などにより、中国企業との販売ネットワークがあることから将来的にも有望な市場である。

 現在、5キログラム未満のトマトペースト缶は西アフリカ中心の輸出となっているが、業界関係者の間では、より収益性の高いロシア、日本、EUなどへの販路の拡大が望まれている。


 
日本の食品加工業者における中国産トマトペーストの輸入をめぐる情勢
 
 わが国の加工トマト栽培面積および生産量は減少傾向にあり、農林水産省の生産出荷統計で加工用トマトの統計が始まった1989年と比較して、2012年は62.5%減の480ヘクタールと、約3分の1に減少している。
 2012年における加工用トマトの生産量(果実重量ベース)は、同年のトマトジュース製造量の23.4%(注5)にすぎない(図11)。このため、わが国はトマトジュース原料としての輸入トマト加工品をイタリア、米国、中国などから輸入している(図12)。

注5:トマトジュースの歩留まり率は約75%であるため、加工用トマトを製品ベースで
   見ると、トマトジュース製造量の17.5%となる。





 こうした中、大手食品製造業者は、新疆などのトマト加工業者と提携し、トマトペーストの安定的な調達を図っている。
 ある大手食品製造業者の例を見ると、日本人社員を現地に派遣し、日本側の品質管理基準に基づく栽培確認やトマトペーストの残留農薬検査などを実施し、合格したものを輸入している。輸入した後も、国内工場での残留農薬検査に合格したものを最終加工品製造の原料にするなど、中国での加工用トマト生産から日本国内での最終加工品出荷まで、トレーサビリティを確保している。中国産トマトペーストの使用については、「世界的な大産地であり、良質な原料が確保できるため」としている。なお、この業者は、健康志向の高まりにより中国のトマト消費が今後伸びるとの判断から、最近、中国の生鮮トマト生産企業と合弁企業を立ち上げ、宅配などによる生鮮トマトの小売事業に参入した。
 一方で、中国産トマトペーストの使用をやめた大手食品製造業者もいる。この業者は、2007年に発生した中国産冷凍ほうれんそうの残留農薬検出以降、中国産原料に対する消費者からの問い合わせが多かったことから、他国産に切り替えている。
 食の洋風化や近年のトマトブームなどにより、トマトジュースなどのトマト加工品は安定した需要が見込まれる。最終加工品の周年供給のため、わが国の食品加工業者は、今後も加工用トマトおよびトマト加工品について、世界中から安定的に確保することが求められている。

4 さいごに

 国際市場におけるトマト製品の供給過剰などにより、中国産トマト加工品の製造量および輸出量は減少したが、トマト製品の輸出価格を安定させるため、主産地である新疆政府による生産制限政策により、その製造量および輸出量は回復傾向となった。

 世界最大のトマト生産国で、かつ世界第2位のトマト加工品輸出国である中国にとって、トマト加工品は重要な輸出産業であるが、対日輸出量は、わが国の米国産トマト加工品の輸入が伸びたことで減少している。

 わが国はトマト加工品の多くを輸入に頼っていることから、品質と安全性が確保されれば、中国産トマト加工品に対する需要は、今後も一定程度見込まれるであろう。


参考資料
・新疆科技情報研究所「新疆番茄資源与産業化」
・独立行政法人日本貿易振興機構ラゴス事務所「ナイジェリアの産業政策と参入の問題」
・S Thornsbury「Economic Research Service-Tomatoes」(USDA)
・熊本県立農業大学校「野菜加工実習資料(トマトジュース)」



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