[本文へジャンプ]

文字サイズ
  • 標準
  • 大きく
お問い合わせ

海外情報(野菜情報 2015年3月号)


米国産トマトの生産および対日輸出状況

調査情報部


【要約】

 米国のトマト生産量は、生鮮トマトよりも加工用トマトが圧倒的に多い。米国のトマト産業は、以前はトマトケチャップなど国内向けが中心であったが、近年、中国の需要増加などを受け、輸出志向を高めている。対日輸出は、生鮮、加工用トマトを使用したトマト加工品(以下、「トマト加工品」という。)ともに増加傾向にあり、今後の動きが注目される。

1 はじめに

 国際連合食糧農業機関(FAO)によると、2012年における米国のトマト生産量は、中国、インドに次ぐ世界第3位の1320万6950トン(占有率8%)で、世界有数のトマト生産国である(図1)。一方、同年の輸出量に関して国際貿易センター(注1)(ITC)のデータを見ると、同年における生鮮トマト(注2)に関しては、世界第9位の21万2453トン(同3%)と、生産より低い占有率となっている(図2)。

注1:国際貿易センターとは、1964年5月に開発途上国の輸出振興策の技術的援助を行う目的で発足したGATT貿易センターが、1995年の世界貿易機関(WTO)発足後に名称を変更した組織。

注2:生鮮トマトは、生食および家庭などでの加熱用を含む。

 しかし、トマト加工品の輸出に目を向けると、世界第3位の41万4195トン(同10%)であり、さらにトマトケチャップ・ソースの輸出では、世界第1位の2万5493トンとなっており、トマト加工品では、高い存在感を示している(図3、4)。

 生鮮、トマト加工品を含めた米国産トマトの対日輸出は、2011年頃より増加傾向を見せ、2013年には3万8918トンとなった。本稿では、生鮮トマトやトマトケチャップをわが国に最も多く輸出している、米国のトマトについて、生産および対日輸出の動向について紹介する。
なお、本稿中の為替レートは、1米ドル=119.25円(平成27年1月末TTS相場)を使用した。

2 生産および消費の状況

(1)栽培状況

 直近5年間の米国のトマトの生産状況を見ると、栽培面積は、2009年の18万ヘクタールから、2010年に1万9000ヘクタール減の16万1000ヘクタールに減少し、2011年以降は15万~15万5000ヘクタールで推移している(図5)。

 減少の要因としては、メキシコ産などの安価な生鮮トマトの輸入量が増加したことなどが挙げられる。

 また、生産量も、2009年の約1600万トンをピークに、その後は1400万トン前後で推移している(図6)。

 用途別の生産動向を見ると、生鮮トマトは、国内の約20州で生産されているが、大部分はフロリダ州とカリフォルニア州で生産され、テネシー州やノースカロライナ州が続いている(図7、8)。主要2州については、2011年以降、フロリダ州が伸びる中、カリフォルニア州は減少傾向となり、生鮮トマト産地であったカリフォルニア州は、2013年には、フロリダ州に次ぐ第2位の産地になっている。カリフォルニア州産の減少は、メキシコ産などの安価な輸入生鮮トマトの増加を受けて、加工用トマトの生産へシフトしたためとみられる。

 加工用トマトは、ほぼ全量がカリフォルニア州で生産されており、米国内だけでなく世界でも屈指の大産地となっている。生産量の動向を見ると、2009年以降は1200~1400万トンと、輸出需要に支えられて安定的に推移している(図9)。

 米国のトマト生産では、この10年ほどで点滴かんがいが急速に普及した。これにより、かん水量が生育ステージごとにコントロールされ、多かん水による生理障害などを抑制することが可能となったため、収量の増加につながった。現在、米国における加工用トマトの10アール当たり収量は10トンを超えており、中国やトルコなどの同7~8トンと比較してもかなり多い。さらに、かん水の作業のための労働力を収穫作業などに振り向けるなど、効率的な生産が可能となった。

 州別の収穫期を見ると、露地栽培では、カリフォルニア州が夏秋作型に当たる5~11月まで、温暖なフロリダ州が冬春作型に当たる10~翌6月までとなり、その他の州は7~9月となっている。施設栽培は生鮮トマトのみであり、消費地の近隣産地で行われている(図10)。なお、加工用トマトは全て露地栽培となっている(写真1)。

(2)生産構造

 生鮮トマトに関しては、一つの企業が生産から実需者などへの販売や輸出まで一貫して手掛ける業態となっていることが多い。加工用トマトについても同様の状況が見られたが、近年では分業体制が確立しており、農外のペースト加工専門業者や、トマト生産者傘下のペースト加工業者が加工を担っている。米国のトマト加工技術は先進的で、特に効率性は世界トップレベルである。トマトペーストの生産能力を例に見ると、2013年の1時間当たり製造量は約6500トンであり、この20年の間に、1.5倍強になった。

 収穫については、樹上完熟したトマトを機械収穫し、ほぼ24時間以内にペースト加工業者へ出荷される(写真2)。一次加工されたペーストはバルク容器に充てんされ、トマトソースやケチャップなどの加工業者へ出荷される。

 主なトマトの生産および加工業者を表1に挙げる。主要生産地のほか、比較的安価なトマトを入手できるメキシコとの国境沿いのアリゾナ州などに拠点を定めているケースが多い。また、米国と国境を接するカナダのブリティッシュコロンビア州に拠点を置き、両国で事業を展開する業者もある。

 このほか、主に自社製品用にペーストを製造している業者として、Campbell Soup Company、Con-Agra Foods(Hunt Foods)などの企業が挙げられる。

(3)生産品種と価格

 生鮮トマトは、丸型トマト、プラムトマト(ローマトマト)、グレープトマト、チェリートマトなどの品種が出回っている。加工用トマトは、高収量、高糖度で比較的一斉に収穫できるHally3155、Hypeel303などの専用品種が生産される。

 生産者価格のうち、加工用トマトは加工業者との契約に基づく生産のため、価格は安定しているが、生鮮トマトは、調製などの付帯経費がかかることなどから、加工用トマトに比較して高い。ただし、需要などの市場動向が不透明ため、価格変動も大きい。

 Morning Star Packing Companyによると、2012年におけるトマトペーストの製品出荷価格は、1キログラム当たり約73.86セント(88円)である。同年の原料トマト価格は48.66セント(58円)となっている(図11)。

(4)消費

 トマトは、ばれいしょ、レタス、たまねぎに続いて、米国内で多く消費されている生鮮野菜であり、健康志向の高まりとともに、サラダやサンドイッチなどの具材として日常的に消費されている。2000年代の1人当たりの生鮮トマトの消費量は、年間4キログラム前後で推移している。

 一方、トマト加工品に関しては、日本同様、生鮮トマトを大きく上回っており、2000年代の1人当たりのトマト加工品消費量は、年間30キログラム程度で推移している。ピザやパスタ、サルサなどが人気であることから、消費形態としてはトマトソースが多い。次いで、トマトペースト、缶入りホールトマト、トマトケチャップ、トマトジュースなどとなっている。

3 輸出入の動向

(1)輸出

ア 概況

 生鮮トマトに関しては、生産量の約15%が輸出されており、2013年の輸出量は約21万トン、輸出金額は3億4000万ドル(405億4500万円)であった(図12)。主な輸出先は北米自由貿易協定(以下、「NAFTA」という。)を締結しているカナダおよびメキシコであり、このうちカナダ向けは、2013年に18.8万トンと全体の9割近くに及ぶ。

 

 米国農務省は、「市場アクセスプログラム」(注3)(以下、「MAP」という。)を通じて、米国農産品の海外輸出を促進しており、カリフォルニアトマト生産者団体(California Tomato Growers Association)は、フロリダトマト生産者委員会(Florida Tomato Committee)とともにMAPを活用し、海外で米国産生鮮トマトのプロモーションを行っている。

 トマト加工品の輸出割合は生鮮トマトより高く、2013年には生産量の約26%に当たる約327万トンが輸出された(図13)。主な輸出先は、カナダ、メキシコ、日本、韓国、イタリアであり、特にカナダのシェアは輸出全体の約半分を占めた。このうち、トマトペーストの輸出は、2008年の31万1059トンから2014年は44万9488トンに増加した。輸出量が増加した背景として、国内外の需要が増加する中、米国国内の加工業者が高い効率性を武器に、海外への工場移転を行わず、米国内での増産で対応していることなどが挙げられる(図14)。

注3:市場アクセスプログラムとは、品目別輸出促進団体がマーケティングおよびプロモーション活動を積極的に行えるよう、1978年に創設された資金提供プログラム。

イ 日本向けの状況

 日本における米国産生鮮トマトの輸入価格を見ると、2007年までは他国産を上回っていたが、2010~2011年の間は、これより低くなっていた。その後、2012年以降は上昇傾向にある(図15)。

 トマト加工品の対日輸出は、2013年のトマト加工品輸出量を見ると、その他のトマト調整品が約4600トン、トマトピューレ・トマトペーストが約2万4170トンとなっている。また、生鮮トマトは3800トン程度だが、2012年から増加傾向にある(図16)。

 米国から日本に輸出される生鮮トマトの多くは、露地栽培の丸型トマトであり、割合としては少ないものの、チェリートマトやローマトマトも輸出されている。

 なお、丸型トマトは、果実が硬く、ゼリー質が少ないため加工特性が高く、ハンバーガーやサンドイッチなどの具材に適していることから、大手ファストフード企業などが使用している。米国農務省は、日本は世界有数のファストフード市場を有すると分析しており、ハンバーガーなどの用途に適した丸型トマトの輸出拡大の可能性に期待している。

 なお、米国からのトマトの輸入のうち、生鮮トマトの約99%が空輸であったが、トマト加工品のほぼ全量は、空輸より低コストな海輸となっている。

(5) 関連団体および研究機関

 表2は、主なトマトの関連団体および研究機関である。米国では、業界団体と大学をはじめとした研究機関との連携が進んでおり、トマトについても、専門に研究する組織がある。

(2)輸入

 生鮮トマトについては、2003年のNAFTAの完全自由化後は、広大な国土ゆえに、産地から遠く離れた国境付近の消費地では、メキシコやカナダからの輸入ものが出回っている。また、低所得者向けなど、より安価な商品を求めるニーズに応えるため、一定量が年間を通して輸入されている。生鮮トマト輸入量は2010年に国内生産量を上回り、2013年には160万トンと、米国内で供給される生鮮トマトの約55%を占めるようになった(図17)。輸入生鮮トマトの大半が、メキシコおよびカナダ産である。特に、国産ものより安価なメキシコ産が増加しており、2013年には生鮮トマト輸入量の9割近くがメキシコ産であった。

 輸入生鮮トマトの品種は、ローマトマトが比較的多い。また、特に作型別では施設栽培ものが2008年以降増加し、2013年には全体の5割を占めた。特に、メキシコ産は、2013年の輸入量の6割程度が施設栽培ものであった。

 輸入生鮮トマトの流通時期については、カリフォルニア産の端境期にあたる冬期には、メキシコ産が西部に多く出回るが、前述の通り、NAFTAの完全自由化後は年間を通して出回るようになった。安価なメキシコ産トマトの流入が、フロリダ州の生産者らの反発を招き、数回にわたる政府間協議の末、2013年、米国で流通するメキシコ産生鮮トマトに基準価格が設定されることとなった(表3)。これにより、夏期、冬期それぞれ基準価格以上で取引を行うことが義務付けられた(トマト協定)。

 一方、米国内で消費されるトマト加工品の輸入比率は6%と少ない。カナダが最大の輸入先であり、ケチャップを中心に4割以上のシェアを占める。これは、カナダ国内に製造拠点を置き、原料となる加工用トマトを米国から調達し、カナダで製造したトマト加工品を米国に輸出する米国系加工業者が存在するためである。そのほか、イタリア、メキシコ、中国などからもトマト加工品を輸入している。

4 今後の見通し

 今後の見通しは、生鮮トマトと加工用トマトでは異なる状況となっている。生鮮トマトは、NAFTA発効による完全自由化後、安価なメキシコ産の輸入が急増し、国内の作付面積が減少しているため、ここ数年、生産量は減少傾向で推移し、輸出量も低迷している。

 一方、トマト加工品は、一大輸出国である中国が、関連企業の経営悪化や悪天候などにより、2009年から生産調整を実施して以来、国内志向であった業界は、輸出をビジネスチャンスと捉え、関心を強めつつある。

 カリフォルニア州のトマト加工品製造企業などが輸出先として特に関心を向けているのは、マーケットが大きいEUや、ビジネスのリスクが比較的小さい中東の新興国(アラブ首長国連邦など)が中心となっている。米・EU間では2013年より、農産品の市場アクセスの改善などを目指す包括的な貿易投資パートナーシップ(以下、「TTIP」という。)に係る協議が行われている。TTIPが合意された際には、トマト加工品の貿易が活発になると見込まれる。

 日本へは、健康志向の高まりなどを背景に、トマトの缶詰やパスタソースなどの原料となるピューレやペーストの輸入が増加しており、米国企業は日本市場に多くのトマト加工品を輸出されている。また、生鮮トマトも、加工特性の高い丸型トマトがファストフード向けに輸出されている。表2には記載していないが、露地栽培トマトの普及に力を入れるカリフォルニア州の生産者団体であるカリフォルニアトマト生産者組合(California Tomato Farmers)は2011年、カナダ、メキシコに次ぐ3番目の海外事務所を日本に開設し、米国農務省のMAPにより、日本市場におけるカリフォルニア産露地栽培トマトの普及、販売促進活動を行っている。米国産トマトの輸出動向、特に日本市場をターゲットとする動きについては、中国の減産などを背景にシェア拡大を目指していることから、今後も注視する必要がある。



元のページへ戻る


このページのトップへ