[本文へジャンプ]

文字サイズ
  • 標準
  • 大きく
お問い合わせ

海外情報(野菜情報 2014年12月号)


メキシコ産トマト生産および対日輸出状況について

調査情報部


【要約】

世界最大のトマト輸出国であるメキシコのトマト生産量は年々増加しており、また、近年、温室栽培の技術の広まりとともに、生産効率が向上している。メキシコは米国市場に依存し、対日輸出量は少ないものの、関係者が連携して市場開拓に取り組んでいることもあり、一定量を輸入しているわが国にとって、今後の動向が注目される。

1 はじめに

 世界のトマト生産量は、国際連合食糧農業機関(FAO)によると、2012年で、約1億6179万トン、そのうち、メキシコは、343万トンと、全体の約2%となっている(図1)。また、世界のトマト輸出量は、国際貿易センター(ITC)によると、2012年で、708万トン、そのうち、メキシコは、全体の21%に当たる147万トンで、世界最大のトマト輸出国である(図2)。
メキシコ産トマトの対日輸出は、2008年以降、生鮮トマトを中心に輸入量が安定的に推移している。

 本稿では、成長を遂げるメキシコのトマト生産および輸出動向について紹介する。
なお、本稿中の為替レートは、1米ドル=110円、1ペソ=9.14円(10月末TTS相場:1米ドル:110.34円)を使用した。

2 生産状況

(1)栽培状況

 トマトの栽培面積は、2000年に7万4600ヘクタールであったが、2013年には4万7000ヘクタールと、およそ35%減少した。一方、2000年に、10アール当たり約2.7トンであった単収は、2013年に同5.7トンに増加したことにより、生産量は増加している。生産されるトマトの9割以上は、生鮮市場向けであり、加工用トマトの栽培、収穫動向は、生鮮トマトの国内・海外(特に米国)市場、トマトペーストの国際価格に大きく左右される。

 トマトの栽培は、メキシコのほぼ全土で可能であるが、太平洋岸のシナロア(Sinaloa)州が、国内生産量の約40%を占めている(図3、4)。

 トマトの栽培時期は、地域により異なる。生鮮トマトは、冬期(10~5月)には、シナロア州をはじめ、ミチョアカン(Michoacán)州、バハ・カリフォルニア・スル(Baja California Sur)州において多く栽培される。一方、夏期(5~10月)には、主にバハ・カリフォルニア州での栽培となり、その他、ミチョアカン州やモレロス(Morelos)州などでも栽培されている(図5)。

 メキシコでは、主に露地栽培が行われていたが(写真1)、1990年代後半以降、施設栽培の導入が進み、より安定的、効率的に高付加価値のトマトを生産できるようになった(写真2)。また、メキシコでは、特にトマトを対象にして、このような施設栽培を中心とする施設農業技術を、農村部や貧困地域の社会開発の一環として推進しれている。

 メキシコでは、人件費が安く、気候条件が良い点が価格競争で有利に働いており、生産効率も改善している。しかし、米国では、露地栽培によるトマトの収穫量が10アール当たり4.5トンであるのに対し、メキシコでは同3.9トン、施設栽培では米国が順調な時期で45トンであるのに対し、メキシコでは通常15~20トンと、米国の水準には達していないのが現状である。

 地域や経営規模による差もみられる。

 バハ・カリフォルニア州およびシナロア州では、施設栽培が普及し、害虫などの管理体制が比較的整っているため、通常他州より高い平均単収となっている。また、一般的な5~12ヘクタールの面積で12~13人が共同で働く小規模生産組合(エヒード)に比べ、これらの州において、15ヘクタール以上の面積でビジネスを展開する大規模農家は、より高度な技術を用いた栽培を行う傾向がある。

(2)生産形態

 生産形態に目を向けると、政府補助金の削減などを背景に、トマト生産の集約および寡占化が進み、同一企業が生産、パック、輸送のすべてを担う縦割り構造となっている事例が見受けられる(写真3、4)。また、シナロア州などでは、合併事業、資本参加などの形で、米国資本が入っており、米国企業と連携してビジネスを行う企業も存在し、農村で多くの雇用を生み出している(表1)。

(3)生産品種と価格

 メキシコで主に生産されている品種は、丸玉トマト、チェリートマト、ローマトマト(写真5)である。ローマトマトは、イタリアントマトやイタリアンプラムトマト、ローマ・サラデット(Saladette)などの名前でも知られ、種が少なく、果肉が厚く、香りが強いなどの特徴から、サラダなど生食用にも供されるが、トマトソースや缶詰など加工用に適しており、主にサルサソースの材料に使われている。最も多く生産されているのはローマトマトで、全生産量の5~6割と丸玉トマトの需要を上回っている。なお、ローマトマトは、生鮮市場にも多く出回っているが、これは、トマトペースト業者が生鮮市場からもトマトを買い付けていることによる。

  生産コストは、近年、種子、農薬、肥料などの価格上昇が影響し、高止まりしている。輸出契約を結んでいる農家は、米国の契約先企業から必要経費の補助を受けられることもあるが、こうした立場になく、銀行から融資を受けられない状況下にある生産者は、コストを価格に反映せざるを得ない。このため、近年の生鮮トマトの価格は高騰し、輸入品が優位な状態となっている。

 国内消費向けの生鮮トマトは、輸入品も含め、その太宗が卸売市場を経由して、大規模のスーパーマーケットや小売店に流通する。

 2013年のメキシコシティにおける国産トマトの卸売価格は、丸玉トマトが1キログラム当たり13.69ペソ(125円)、ローマトマトが同9.84ペソ(90円)であった。国産トマトは、3~5月はシナロア州から、6~8月はバハ・カリフォルニア州からの輸出が増え、国内向け供給量が減るため、価格が高騰する傾向にある。

 2013年10月から2014年9月の生鮮トマトの国内消費量は、冬期の順調な供給や輸出量が低調に推移したことなどを背景に、前年同期より10万トン多い、60万トン以上と見込まれる。

3 輸出入の動向

 世界のトマトの輸出規模は徐々に拡大しており、ITCによると、2013年には生鮮トマトが747万トン、加工トマト、ケチャップ・トマトソース(トマトジュースを除く)が578万トンであった。メキシコは、世界最大のトマト輸出国であるが、トマトの輸出量はさらに増加傾向にある(図6、7、8)。ただし、主要生産国は、輸送費や関税などを理由に、隣国へ輸出する傾向にあり、メキシコもほぼ全量が米国に輸出される。なお、米国に輸出されたメキシコ産トマトは主に米国西部で出回る。

(1)輸出

ア 米国向け

 対米輸出は、両国間の鉄道の開通をきっかけに、1960年代以降拡大した。当初は、米国内で露地栽培が難しい冬期の輸出が中心であったが、その後、メキシコにおける施設栽培の普及に伴い、特に2003年の北米自由貿易協定(NAFTA)の完全自由化後、年間を通した輸出が行われるようになった。2010年のメキシコ産トマトの平均輸出価格は、1キログラム当たり1.06ドル(116円)であり、米国の1.67ドル(183円)、カナダの2.14ドル(235円)と比較して安価であった。しかしながら、安価なメキシコ産トマトの流入が、フロリダ州の生産者らの反発を招き、数回にわたる協議の末、2013年、米国で流通するメキシコ産生鮮トマトに基準価格(表2)が設定された。これにより、夏期、冬期それぞれ基準価格より高値で取引を行うことが義務付けられた(トマト協定)。この価格帯は、製品によっては、現状のメキシコ産トマトの倍近い。

 トマト協定の初年度に当たる2013年は、先行きの不透明さから対米輸出が減少すると予測されたが、米国の需要は強く、輸出量は増加した。このように、特に米国の生産、市場動向により、メキシコ産トマトの需要や価格が変動する傾向にある。

イ 日本向け

 生鮮トマトの対日輸出は、タバコべと病菌のトマトへの寄生の可能性が指摘されていたため、輸入が禁止されていたが、2006年4月21日に、わが国の植物防疫法施行規則の一部が改正されたことにより解禁された。2008年以降、日本はメキシコ産生鮮トマトを主にミチョアカン州から輸入しているが、輸入数量全体に占めるシェアは、2010年を除き数%にとどまっており、2013年にはわずか127トンであった。メキシコ産生鮮トマトの日本の輸入価格は、他国産品に比べて高く、2013年には全体の平均価格より約150円の差があった(図9)。この要因としては、輸入品種の違いなどが考えられる。業界関係者によると、メキシコ産が高値にもかかわらず取引が続いている背景について、品質の高さや鮮度の良さが評価されていることがあげられる。なお、加工トマトの対日輸出量は少なく、2013年はピューレ等関割以外40トン、トマトケチャップ7トン、その他のトマト加工品29トンのみであった(図10)。

ウ 品種

 米国に輸出されるトマトは、主にローマトマトであり、このほか、丸玉トマト、チェリートマトやグレープトマトも輸出されている。また、1999年より、米国の輸入区分に「温室トマト(Greenhouse tomatoes)」が追加され、その輸入量は2003年以降著しく増加している。一方、日本に輸出されるのはチェリートマトが多いが、最近その割合は減少し、その他の品種が9割を占めている。なお、日・メキシコ経済連携協定(EPA)により、パスタ・トマトピューレ、無糖のトマトジュース、ケチャップ、その他トマトソースなど、加工トマトに対する特恵関税割当が設けられたが、2014年前期時点では活用されていない。

エ 物流網

 農産物輸送のためのメキシコ国内の物流網は比較的整っているが、これは、同国最大の貿易相手国である米国への貨物輸送を念頭に置いたものとなっている。特に、トマトは保存可能期間が短いため、インフラ整備が重要である。メキシコ国内の貨物輸送形態は、道路輸送が約50%、船舶輸送が約30%、鉄道輸送が約10%、航空輸送が約1%であり、国内には117の港湾と76の空港(うち64が国際空港)が存在する。主要幹線道路の舗装状態に問題はないが、渋滞や高い物流コストなどが指摘されており、現在メキシコ政府は、港湾の処理能力の増強などを目的としたインフラ開発計画を推進している。

 日本に到着するまでは、メキシコ国内の陸送、通関手続きなどを含め、航空では約5日、海上では約1カ月を要する。生鮮トマトは、全量がメキシコシティ国際空港から空輸され、羽田もしくは成田空港に到着する。一方、トマト加工品の大半は海輸され、主に太平洋岸中部のコリマ(Colima)州マンサニージョ(Manzanillo)港が使用される。

(2)輸入

 メキシコにおいては、生鮮トマトの全量が、加工トマトは85~90%が米国からの輸入であり、その他に、チリ、イタリア、スペインなどからも輸入されている(図11)。輸入されるトマトの大半は、ヌエボ・レオン(Nuevo León)州、ソノラ州、バハ・カリフォルニア州、チフアフア(Chihuahua)州など米国国境沿いの地域で流通する。

4 今後の動向

 メキシコの食品・農業分野は、国内総生産(GDP)の1割前後を占め、雇用人口が多い。中でもトマトは、トウモロコシ、小麦、ソルガムに次ぎ、GDPに大きく貢献しており、農村部で多くの雇用を創出している。こうしたことから、メキシコ政府は、同分野のさらなる活性化のため、多国間・二国間の経済連携を推進している。

 米国との関係でいえば、NAFTAの締結当初は、自国農業に与える打撃を懸念した農民によるデモが頻発していたが、現在は経済関係を深化させるべく、トマトなどの競合品に関する取り決めや、国境を往復するトラック輸送を含む国境貿易の自由化について、協議が続けられている。2003年以降、両国間ではトマトの関税が撤廃されたため、米国企業がメキシコと国境沿いのアリゾナ州ノガレスに拠点を置くなどの事例もみられる。

 これに対し、日本市場に関しては、日本・メキシコ両国の企業はあまり活発ではないようである。日本側は、米国などメキシコ以外からの輸入トマトによって基本的に需要を満たしており、取引価格が高い傾向にあるメキシコ産品を積極的に扱うインセンティブが低いと思われる。過去にメキシコ産生鮮トマトにタバコべと病菌やサルモネラ菌の付着の可能性が指摘され、輸入が禁止されていたことも、影響している可能性がある。こうしたことから、日本では、米国フロリダでの干ばつの影響により十分な量のトマトが確保できなかった際の代替や、外食産業での販促の企画などのスポット需要が中心である。

 上述の通り、2014年前期の時点では、メキシコ産の加工トマトに対する特別関税割当は活用されていない。日本の業界関係者は、加工トマトに関して、今後メキシコ産品の取り扱いが伸びるという見通しは有していない。そもそも、メキシコは、加工トマトの輸入国とのイメージを抱いており、米国、中国、イタリア、ポルトガル、チリなどに比して、その動向について特に注目していないという。他方、生鮮トマトに関しては、日本向けについては、品質と鮮度の良さから、輸入されているが、メキシコ側も、長い貿易の歴史をもち、地理的にも関税面でも有利な米国市場を優先する姿勢がいまだに強い。

 メキシコ産農産物の貿易を支援している団体としては、アリゾナ州ノガレスを拠点とし、モンサント社を含む100社以上の会員企業を有する米州生鮮品協会(The Fresh Produce Association of the Americas)が、メキシコ産の野菜や果物の関税など貿易障壁を取り除くべく、政府関係者らに働きかけを行っている。また、ソノラ州温室野菜栽培者協会(Sonora Greenhouse Vegetable Growers Association/ ASPHINS)は近年、新たに「Tekitoma」というトマトブランドづくりに成功した。ASPHINSは、トマトなどの農産物の生産企業約100社を会員に持ち、適切な品物管理などを要求する海外市場に対して、価格や生産数量などを保証する役割を担っている。

 このほか、持続的農村開発審議会(Mexican Council for Sustainable Rural Development/ CMDRS)の下で、生産者間の連携、研究機関や政府による研修などが行われている。また、メキシコ経済省は、メキシコ貿易投資促進機関(ProMéxico)を通じて、研修や市場調査、国際見本市への参加などの支援をしている。ProMéxicoは日本を含む世界各国に拠点を置き、貿易や投資促進のための情報共有などを行っている。業界関係者は、ProMéxicoやメキシコ政府に対して、農産物の輸出拡大に積極的であると、評価している。これらの支援の下、近年、香港市場に対して、メキシコ産トマトの販売促進が行われた。また、市場規模の大きいEUと協議が続けられているEPAの動向にも注目が集まっている。

 トマトについては、特にシナロア州などの生産、輸出業者が米国市場に依存してきたとされる中、リスク軽減の観点からだけでなく、メキシコにおける農業技術のさらなる発展に伴い、米国以外の国との貿易が拡大すると見込まれる。トマト関連ビジネスに従事する大企業だけでなく、中小企業もうまく取り込んだ形で、メキシコ政府関係機関が輸出促進を図っていくとみられる。

5 おわりに

 以上のように、メキシコはトマトを農産物の中でも重要な戦略品と位置付けており、生産能力の向上、輸出拡大に積極的である。今後は、米国以外の市場開拓を進めていくとみられ、品質の高さや鮮度の良さに加え、ProMéxicoが日本に拠点を置いていることなどからも、わが国としても、その動向を注視していく必要がある。



元のページへ戻る


このページのトップへ